デート・ア・ライブ~Hakenkreuz~
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第五話「対話の翌日」
-Heil Hitler! Heil Hitler! Heil Hitler!
遠くの方から叫び声が聞こえてくる。それと同時に懐かしい音楽も聞こえる。
これは…夢だろうか?メインストリートを行進する軍隊に歩道に集まった人たちが右手を上げて叫んでいる。
ああ、この光景全てが懐かしい。でも、何故だろうか?どの光景も懐かしいと思えるのに何で記憶にないの?
嫌だ、忘れたくない。忘れたら、私じゃなくなっちゃう!やめろ!嫌だ!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!!!!
「…はっ!!!!」
天宮市のビルの屋上の上で彼女は飛び起きた。体中を冷や汗で濡らした彼女は額に張り付いた前髪を払い息を整える。しかし、心臓は全く落ち着かず未だに早く脈動している。
「…くっ!」
全く落ち着かない心臓に業を煮やし近くに置いてあるペットボトルに入った水を飲む。ぬるくなった水が喉を通り彼女の体に潤いを与えていく。心臓も漸く落ち着きを取り戻しゆっくりと元の脈に戻っていく。
「…一体、何だったのだ…?」
何を見たのかは覚えていない。とても懐かしい気持ちになったが今となっては全く分からない。
精霊になってから失った記憶をこういう形で見るのは不快でしかなかった。あれを見る度にこうなっていたのでは体がもたない。
「…体を洗わないとな」
彼女は着ていた軍服を消失させ代わりに黒いワンピース姿になる。精霊である彼女にとってこの位造作もないが汗が張り付く不快感だけはどうしようも無かった。
彼女は素早く荷物を纏めると人に見られないように注意を払いつつビルから飛び降りる。幸い近くに人はおらず彼女は重力を感じさせない動きをふわりと地面に降り立つ。そしてそのまま通い慣れつつある近くの銭湯に入っていく。当初は慣れなかった日本の習慣にも天宮市に来てから半年(・・)も経てばある程度は慣れると言うもの。
「あら、アンナちゃん。おはよう」
「おはようございます。米さん」
番台にいる女性、米が彼女に声をかけてくる。彼女はお金を渡しながら返事をする。彼女に名はない。あったのかもしれないが今(・)の彼女にはない。故にここに来るときはヨーロッパから留学してきたアンナと名乗っている。
女と日本語で書かれている暖簾をくぐる。朝早い事もあり中には人はおらず銭湯特有の蒸し暑さが彼女の体を包み込む。
着ていた服を消滅させタオルを持って風呂へと向かって行く。同性ですら見惚れるであろう美貌を包み隠さず晒すその姿には神秘的な魅力さえあった。誰も空間震を起こすたびにASTを蹴散らし時には死者すら出す精霊とは思えないだろう。
「(ナイトメアがここにやってきた。そして精霊の力を封印できるという五河士道…。ここも面白くなりそうね)」
ここに来てから初めて起こした空間震の後に出会った一人の少年。精霊の力を封印できるという彼に警戒こそ抱けど好意を持つ事は絶対にない。自らの目的の為にも精霊の力を封印されるわけにはいかない。いや、精霊の力を封印されれば取り返しのつかない事になりかねない。根拠は無かったが彼女は自分の脳内に浮かんだこの思いを否定する事は出来なかった。
「(…五河士道、貴方は私の目的を知った時どうするのかな?敵対?それとも…)ふ、ふふ、アハハハハハハハハハハッ!」
彼女はあり得るかもしれない未来を想像し不敵に笑うのであった。
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