ある晴れた日に
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585部分:誰も寝てはならぬその三
誰も寝てはならぬその三
「そうかも。本当に」
「私だったらいじめられかけたりしたらすぐに殴り返してやったわよ」
「殴ったの」
「そうよ。やられたらやり返せよ」
確かに随分と強気な言葉であった。
「もうね。その前にね」
「やり返すの」
「相手が何人でも。何人もいたら」
「どうするの?」
「急所を攻撃したり武器を使ったり」
これまた実に過激な言葉だった。話すその目も本気だった。
「そうしてやったらいいのよ」
「そんなことって」
「静華ちゃんだって言ってるじゃない。それこそ耳を引っ張ったり髪の毛掴んで振り回したり間接を狙ったりして」
随分と具体的な言葉だった。だがそれだけに本気なのがわかる。
「そうやって徹底的にやればいいのよ」
「徹底的に、なのね」
「そうよ」
まさにそれだというのであった。
「実際にやってきたし」
「実際に、って」
「あんたはそういうの無理よね」
少し溜息と共にまた娘に告げたのだった。
「やっぱり」
「そんなの無理よ」
その通りだった。今の奈々瀬の声は震えていた。それを隠すこともできなかった。
「とても」
「あんた喧嘩もしたことないわよね」
「全然」
怯えた顔で首を横に振る。
「そんなの怖くて」
「本当に未晴ちゃん達がいてこそね」
彼女達の有り難さは母親から見てもなのだった。
「あんたって娘は」
「そりゃ確かに喧嘩はできないけれど」
俯いて応える娘だった。
「私だってやっぱり」
「未晴ちゃん達に迷惑かけないようにね」
「わかってるわ」
言葉は少しだけ上向いたものになった。
「それはね」
「じゃあいいけれど。それでだけれど」
「何?」
「早く身支度しなさい」
そのことをまた言うのだった。
「わかったわね」
「わかったわ。じゃあシャワー浴びてね」
「すっきりさせて気持ちよく言ったらいいわ」
今度は優しい言葉だった。
「いいわね」
「うん、じゃあ」
「とにかく奇麗にして誰にも迷惑はかけない」
この二つをまた娘に告げた。
「そしてできたら強くね」
「ええ、じゃあ」
最後の言葉には今一つ満足に頷けなかった。だが奈々瀬は朝食を食べ終えシャワーを浴び身支度も整えて学校に向かった。そうして自転車に乗るのだった。
自転車に乗ったままそのまま先に進む。するといつも通っている公園で。
「あれっ!?」
何かいつもと違う雰囲気に気付いたのだ。それで中を覗く。
するとそこにいたのは。まさに異形の者だった。
「えっ・・・・・・」
若い男がいた。彼は何か鋭い刃物を持っていた。
それで公園の中に咲いている花を次々に切っていた。
それを見てだった。奈々瀬はすぐに悟った。
「まさか・・・・・・」
その顔を見た。それは。
横顔だったが見えた。一見整ってはいる。しかし何かえも言われぬどす黒いものがそこにはあった。それを咄嗟に感じてしまったのである。
男はそのまま花を切り裂き続けている。身体からは尋常なものではないまでの妖気を放っていた。それを感じて足がすくんでしまった。
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