ある晴れた日に
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566部分:鬼め悪魔めその二
鬼め悪魔めその二
「このジュースとハムエッグは」
「そうなのよ。驚いた?」
「意外と美味しいじゃない」
兄の今も言葉は妹にとってはいささか失礼とも取れるものだった。
「何時の間にこんな料理を身に着けたんだよ」
「何時の間にって」
兄に言われて少し戸惑った顔になった咲だった。
「前からだけれど」
「前からだったのか」
「そうよ」
微笑んで兄にまた言うのだった。
「お兄ちゃんが知らなかっただけよ」
「そうだったのか」
「パパも知らなかったぞ」
ここでこんなことを言う父だった。
「本当に何時の間に」
「また未晴ちゃんに教えてもらったのか?」
「まあそれはね」
未晴の名前が出ると一瞬顔が曇ってしまった。
「そうだけれどね」
「やれやれ、未晴ちゃんにまたお世話になって」
「困ったことだな」
父と兄は苦笑いになって述べた。
「子供の頃からずっとだな」
「いい加減自分でも恩返ししろよ」
「そうよ、咲」
父と兄だけでなく母も彼女に言ってきた。
「何時までも未晴ちゃん頼りでなくてね」
「わかってるわよ、それはね」
それを言われると今は真剣な顔になる咲だった。
「それでだけれど」
ここで話を変えるのであった。
「ねえパパ」
「んっ、どうしたんだい?」
「聞きたいことがあるんだけれど」
こう前置きしてからの問いであった。
「いいかしら」
「どうしたんだい?」
「吉見さんって知ってる?」
昨日の竹山から聞いたあの男のことである。
「吉見兵衛さんって」
「何っ!?」
「咲、今何て」
父だけではなかった。兄の顔も一変してしまった。
「その名前、一体何処で」
「聞いたんだ!?」
「何処って」
二人が何時になく強張った顔になっているのでかえって驚いてしまった咲だった。
そして咄嗟に。こういうことにして言うのだった。
「ちょっとテレビで出ていて」
「そうか、テレビでか」
「そこで観たんだな」
「うん、そうだけれど」
二人の剣幕に内心戸惑いながらも答える。
「何かあったの?」
「あまり知らない方がいい名前なんだよ」
「そうなんだ」
今度は咲に言う二人だった。
そして父は。妻に顔を向けて言ってきたのであった。
「母さん」
「ええ」
「咲には話しておくか」
「そうね」
母も沈痛な顔になって夫の言葉に頷いた。
「何時か話さないといけなかったし」
「あの男のことはな」
「あの男って」
「いいかい、咲」
父は彼女に顔を戻してまた言ってきたのだった。
そしてその言葉は。
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