ある晴れた日に
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564部分:もう道化師じゃないその十五
もう道化師じゃないその十五
「警察だし」
「そんなことは」
「いや、それがね」
ここでまた皆に話す竹山だった。彼の言葉は今は発せられる度に皆を絶望させる。しかしそれを聞かずに入られない状況でもあった。
「物凄い集中的な抗議をするんだよ」
「そんなに?」
「そんなに凄いんだ」
「うん、何百人単位で二十四時間電話やFAXで抗議してね」
そうするというのである。
「それで仕事もできない状況にするから」
「それでどうしようもなくなってかよ」
「動けないのね」
「そうなんだ。だから実質やりたい放題なんだよ」
「とんでもない話だな」
「そうね」
皆こう言うしかなかった。
「そんな奴がいるのかよ」
「許せない話だけれど」
「それだけじゃなくてね」
竹山のその絶望させる言葉がまた続いた。
「洒落にならないことだけれど」
「洒落にならないこと?」
「まだあるの」
「うん、その彼の息子だけれど」
彼に息子がいるというのである。
「大学生らしいけれどこれがね」
「ワルかよ」
「そうなのね」
「不良とかそういうのじゃなくてね」
竹山は言いながら首を横に振る。そうしながら話すのだった。
「色々とよくないことをしているらしくて」
「よくないことって」
「具体的には?」
「それはまだはっきりわかってないんだ」
これについては今は言うことができなかったのだった。
「けれどね、相当とんでもない人間らしくて」
「親もそんなので」
「息子もまた」
「うん、そうらしいんだ」
また言うのだった。
「はっきりわからないけれど」
「何かはっきりしないことばかりじゃねえか」
春華がここまで話を聞いていて遂にたまりかねた。
「それもわかってることはどれもこれも暗いことばかりでよ」
「それも多分」
恵美も今は俯いていた。俯いて暗い顔での言葉だった。
「今ここではっきりしないことも」
「だろうな」
自分でもそれは察している春華だった。声が忌々しげなものになる。
「碌なものじゃねえだろうな」
「あの、若しかして」
咲が言ってきた。
「まさかよ、まさかだけれど」
「ええ」
「どうしたの?」
「その息子って何か事件に関わっているのかしら」
こう言うのだった。
「ほら、最近公園が荒らされたり学校の動物が殺されたりしてるじゃない」
「それ?」
「春から噂になってるそれ?」
「あと。その虐待の話とか」
咲はさらに話していく。
「まさかと思うけれどそいつがってことは」
「いや、それは」
「やっぱりないんじゃ」
「そうだよな」
「幾ら何でもな」
皆咲の今の話は咄嗟に否定した。むしろ否定しようとしたのだった。
「ないって」
「そうだよ、考え過ぎだよ」
「そうだよな」
こう話してだった。今は彼等は否定するばかりだった。しかし竹山は今は黙ってだった。そのうえで最後に口を開いた。
「調べておくよ」
「その息子のことも?」
「それも?」
「うん」
また皆に答えてみせた。
「調べてみるからね」
「じゃあ何かわかったら」
「また教えてくれよ」
「うん、そうさせてもらうよ」
あらためて話すのだった。
「またすぐに何かわかったら言うから」
「頼むな」
「じゃあそこも」
「うん、何かが絶対にわかるよ」
竹山の声は彼にしては珍しく強いものだった。
「これからね」
「いいことじゃなくてもだね」
今言ったのは桐生だった。
「そうでなくても」
「いいとは限らない」
春華の顔が強張った。
「だよな。それはわかるよ」
「けれど。それでもいいよね」
「ああ」
「いいわ」
春華だけでなく他の四人も竹山の言葉に応えた。
「それじゃあ」
「わかったら教えて」
「吉見兵衛ね」
そして咲はあることを考えていた。
「ひょっとしたら」
彼女もまたあることを考えているのだった。そしてそのうえで言う。
「パパやお兄ちゃんなら」
「あれっ、咲」
「何かあったの?」
「パパやお兄ちゃんって?」
静華に凛、奈々瀬が彼女の今の言葉に気付いたのだ。
「深刻な言葉だったし」
「どうしたのよ」
「いきなり言い出して」
「あっ、何でもないわ」
こう言って今はその言葉を隠したのだった。
「気にしないで」
「まあそういうのならいいけれど」
「あんたがそういうのならね」
彼女達もそれ以上は突っ込まなかった。彼女に気を使ってである。
「とにかくな。明日もな」
「行くか」
男組が話す。
「一日一日コツコツやってればきっとな」
「希望も見えてくるさ」
こう話してそのうえでまた明日のことを考えるのだった。しかしその明日にどういった嵐が待っているのかまではわからないのだった。
もう道化師じゃない 完
2009・11・11
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