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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第20話 続・調査任務と、お話、そして強制終了

――sideギンガ――

 響から、エリオとキャロを渡される中で、崩落に巻き込まれていくのを見ているだけだった。
 その事に悔しさは有るけど、まずは2人を安全なところへ、ブリッツを起動して駆け抜けようとした。
 でも、足りない。崩落のほうが早いことを察して、直ぐに2人をスバルとティアナの方へ投げ渡した瞬間、足元から崩れ落ちる感覚に包まれた。

 どうするか、と。落ちながらさっきまで居た場所を睨めば。
 
「ミーティア。チェーンセット、限界まで!」

[あいよ。お嬢、迎撃しようと思ってんなら流石に無理でっせ。質量が大きすぎるのと、AMF圏外だ]

「最悪。わかった、ギンガさん。掴まって!」

 そんなやり取りを目の前で行うのは、会ってそうそう人を叩いて、あまりスバル達からは良い印象の無いシスターアーチェ。
 
 苦手だなとか、色々思うよりも先に。どうしようもないから頼るしか無いと、こちらに向かってくるシスターアーチェの左手を取った瞬間。
 
「ありがと。落ちるよミーティア!」

[あいよお嬢! その名のごとく! フレームオープン!]

 そう言うと、右手と両足首から鎖が伸びて、その先端に鉄球が生成され、
 
「シールド、オン!」

 鮮やかな琥珀色の魔力を煌めかせて――
   


――sideなのは――

「……待っていたって、流を?」

 自然とレイジングハートを持つ手に力が入る。見れば見るほど流と同じ顔、同じ瞳。違うとすれば雰囲気で男だというのが分かるって言う事。
 ……いや別に流が女の子っぽいとかそういうわけじゃないよ? 本当だよ?

『あぁ、待ってた。まぁ、こんなタイミングで来るとは思わなかったし、人数多いしで驚いてるけど』

「……はぁ」

 自然と深い溜め息が漏れた。もうなんか疲れた。聞ける範囲だけ聞こう……。

「……では、まずガジェットを出したのはなぜ?」

『俺が出した訳じゃない。あの丸っこいやつなら、だいぶ前から適当なタイミングでここに入ってきては、お仕置き部屋に拘束してって言うのを繰り返してたら……中から壊そうとしやがって。あの一瞬で拘束解けてしまったんだ、悪いな』

「アナタの意思ではない、と?」

『そうだ。大体あいつら放置してたら壊されるかもしれないから困る。だけど、今の俺にあいつらを壊す事が出来ない以上、ああするしか無かった。以上』

 ひらひらと手を振りながら話しているこの人物に、不信感しか沸かない。なんというか、違うことに誘導させようとしているような……。違う、今は情報を集めないと。

「では、ここ数日の間に、この遺跡から微弱ながら、何かの反応が出ています。それはあなたが言うあるモノ《・・》なんですか?」

『……反応? あぁ、だから君ら()ここに来たのか。なるほど。答えはNOだ。それとは違う』

 君ら、は……? さっきも、今日来るとは考えてなかったとも言っていた……。もしかして。

「今、この遺跡に居るのは私達10人と、貴方以外に誰か居ますか?」

『……その根拠は?』

「直感」

『なるほど。答えはYesだ。俺の古い友人がここに来ている。勿論下に居る』

 やっぱり、少し思ったことだけど。本当に居るんだ。だけど、現在戻る道は無いと言ったのに。

「……では、その人はどうやって戻ってくるつもり?」

『この場所をちゃんと知っているやつだからな、短距離瞬間移動(ショートジャンプ)を使って、決めた場所を移動している。だから下に降りれる』

 なるほど、座標移動だから出来る事だ。私のサーチャーを先行させることができれば、出来なくはない。下にいる誰かと連絡を取れれば救助も可能。だけど。

「その人が敵ではないという保証は?」

『無いって、言いたい』

 言いたいって……。なんだろう、今一話がわからないなぁ。

『まぁ、大丈夫だろう。あーいや、大丈夫だ。頼んでいたものも片方見つけて……。あん? え、興味があるって、お前……まぁ、うん、分かった』

 突然話し方が変わる、これは……。

「通信機能を使ってるわけじゃなさそうだけど、一体何を?」

『うん? あぁ、悪いな。こんな状態だからな、意識を分割して、もう一人に着いてたんだが、事情説明したら会ってみたいって言い出した』

「流に会って何をするつもり?」

『さぁ? あと、会うのは流じゃないよ。ただ誰かは知らん聞いても回答してくれないんだ。わからんよ』

 両腕を組みながら首を傾げている。どこまでが本当かわからないけれど……。今は判断出来ない。こればかりは下に居る皆に任せなきゃいけないかな……。その前に。

「では、貴方と流の関係を教えてください」

 視線の端にエリオの顔が見えた、顔色が悪い、おそらく予想がついてしまったから。自分と同じ人造魔導師なのかもしれないって考えてるかも知れない。私もその可能性があると思う。ホログラムとはいえ、流と同じ顔……何もない訳がない。

『関係……か。なんて言えばいいんだろうな。まず流は、作られた人格(・・)って訳ではないと思う。体も俺の体をそのまま使ってるから、後付ってわけでもないと思う』

「……貴方の話が本当だとして。なら貴方は体を取り戻そうという気持ちは無いんですか?」

『無い。あの体はもう流の物だ』

 少し寂しそうな表情でそう断言した。流の表情が大きく変わったのって、いつかの出張の時位しか見たこと無いから、少し驚く。だとしたら、ますますわからない。じゃあ流は一体……?

『……一つ昔話を。初めて流とあった時。俺は驚いた。同じ体がそこに居て、親しそうに俺の名前を呼んで。嬉しそうに噛みしめるように俺と戦って、最後に話をして……。
 その後、俺達がしたことは無駄じゃないってわかった。いや、教えてもらった。そして約束をしたんだ、次に会う時は、私は貴方を疑うだろうけど、もう一度色々教えてほしいって』

「……その約束が、今だと?」

『……さぁ、そうだと思うが……どうだろ。この前来た白いのは違うって言ってたけどな』

「……白いの? それはどういう人?」

『さぁ? 突然やって来て人の名前をズバリ言い当てるわ、俺たちしか知らないことをバラバラ言うわで不思議な子だったよ。
 シュレ……なんちゃらの如く、まだわからないって言ってたが』

 周囲に展開していたシューターを解除する。皆が心配そうに私の方を見るのが分かる。軽く息を吸って、吐いて……。

「わかりました。全てを信じることは出来ませんし、後で報告も行います。ですが助けて頂けるなら、なるべく要求に従いましょう」

 彼の目を見て言う。すると、私の前まで脚をすすめる。すると、片膝をついて跪く。

『礼を言う。約束しよう。必ず転送する事を約束しよう』

 そう言って、彼は消えていった……。少しの間が空く。果たしてこの判断が正しいのかどうか、まだわからない。だけど、ここまでの情報を聞いて、全てが嘘だとは思えない。

「なのはさん……あの」

「大丈夫。きっと下で色んなことがあるけど、きっと流の事情も分かると思う。もし酷い結果になってもエリオも居る、フェイトちゃんも居る。響も居るんだ。きっと大丈夫」

 皆が揃った時にもう一度話し合いをしないと、ね……。


――side震離――


 振動を感じた瞬間、調べようと屈んでいた流を抱きかかえる。同時に足元が崩れた、その連鎖でAMFが発動。そのせいで空を飛ぶという手段が無くなった。落ちていく中、周囲の壁が崩れ落ちる。

「叶望さん!? あの……!」

「舌噛むよ」

 崩落具合からみて、おそらく巻き込まれたのは私と流、少し離れた所に居た奏とフェイトさん。そして、響と……。いや、ここまでが巻き込まれたはず。響の事だ、ギンガさんに任せて、エリオとキャロは逃しただろうし。
 崩落の音の反響を聞いて、まだ下まで時間があるのを確認。魔力が廻る感覚が戻る。これでAMFの範囲は抜けた、が。
 次の問題だ。目の前には私達を押しつぶそうと瓦礫が迫ってきている。とりあえず、身体強化と、いつでも飛べる用意を施す。空中で落下する方向へ振り向く、音の反響具合からして、もう底が見え始めた。
 一気に加速し地面へ向けて急速落下。落下する途中に落ちようとしていた瓦礫を追い抜き、それより先に着地。衝撃が体を突き抜ける、だが問題ない。周囲を見渡す、左前方に扉を発見。加速、接近す。その間にも、頭上より瓦礫が降り注ぐ、神経を研ぎ澄ます、圧がない場所を、大きくかわさないで通れる道を探す。
 わずか数秒にも満たないかもしれない、途中顔のすぐ横を瓦礫が落ちるけど、当たらないなら無視。ひたすら移動と回避を繰り返して、そのまま、扉に射撃を撃ち、破壊する。
 咄嗟の事で手加減は出来ず、扉全体が砕け散る。そのまま扉を潜り抜けて、廊下に着地。間髪入れずに瓦礫が落ちる音と、振動が響く。それを確認して、ほっとする。さて。

「怪我はない?」

「え、あ、はい」

 やー、良かったー。危ねー。久しぶりに本気出したよ、本当に危なかったー。AMFがついてなければもう少し安心できたのになぁ。さて、抱えた流の表情を見ると……ああぁあ、なんかすっごく沈んでる。アレかな、余計な事したかな?

「叶望さん、あの、顔に……傷が」

「うん?」

 流をおろして、両手で顔を触る、そして右手にぬるりと嫌な感触。手を離して見ると、あら血だ。

「あー、別にいいよ。心配しなくて」

 あんまり痛くないし、これくらい問題ないしね。でも、それは私の問題であって、流の表情はどんどん暗くなる。不味い。あんまり口数が減ったら私も不味いんだけど……ここは年上として頑張ってみようかな!

「けど、自分(・・)のせいで……うぷっ」

「それ以上は聞かないよ」

 咄嗟に流の口に手を当て、それ以上言わせないようにする。

「今のは誰のせいでもないし、私が勝手にしたこと。でもさ、もし気にしてるんなら、自分なんて呼ばずに、もう少し気楽にしてよ、ね?」

 出来る限り明るく、出来る限り笑う様にする。イメージするのは響を、奏を、皆を。あの日笑いかけてくれた笑顔を。視線の先の流の表情が安らいだのを確認、ほっとする。

「……わかりました。叶望さん。ありがとうございます。また助けられましたね」

「うん、それでいいよ」

 相変わらず表情は硬いけれど、目に見えて雰囲気が和らいだ。さて、次は……。

「とりあえず、皆に通信が出来るか試そうか。流は響達を、私はなのはさん達に」

「はい」

 すぐに取り掛かる。可能な限りいろんな周波数で通信を飛ばすけど、中々つながらない。そもそも引っかかる気配もない。物理的な距離もあるとは言え、この遺跡思ってる以上に深い。上の礼拝堂っぽい場所を見た時、ただの昔の人の集会所というか、隠れて礼拝(ミサ)をしている場所だと思った。
 でも、今はどうだろう。とある大きな部屋に落ちて、そこから脱出、廊下のような通路へ出たけど、この時点で分かる。ここは多分……。

「流」

「えぇ、何か……居ます」

 手を止めて即座に応戦出来るように整える。少し離れた所の扉が少し開いている。

「……あそこ、だよね?」

 そう言うと、無言で頷く。あそこに何かが居るのは分かるが、どうにも変な感じだ。まるで敵意が無いような、戦う気はないと言っているようでなんか変だ。自然と脚がそこへ向かう。最大限の警戒をして、いつでも動ける様にして。扉を開け放つ。同時に、杖を、銃を中へ向ける。
 人の気配は無い。代わりに、中には少しホコリを被った大きな机と、ボロボロになった椅子が4脚。どれも年季が入って座れそうにない。壁際には本の入っていない本棚が敷き詰められている。机の奥には、管理局で使われるような転移ポートとそれを操作するであろうコンソールがホコリを被っている。

「なんだろう、ここ?」

「さぁ、あの機械を調べてみます」

「うん、お願いね?」

 そう言ってコンソールに近づく。ふと、ホコリで見えにくいが机の上に何か小さな物が置いてあるが分かった。それに手を伸ばす。

『よぉ、待ってたよ』

 瞬間、デバイスを構え、入ってきた扉の方へ向ける。先程まで居なかった、だが気がつけばそこにフードを被った人が立っている。フードで見えにくいが、口元は何やら笑みを浮かべてるようだ。

「何者?」

 スフィアを展開し、その人物の周りを包囲する。私の後ろに居る流も、いつでも動けるように剣を構えてる。

『いつかここに来るって聞いてたけど、今日は大人数だな。初めまして流、そして震離。歓迎するよ』

 そう言って、目の前の人物はフードを上げる。徐々に露わになる顔は、よく見知った顔で、強いて違う点が髪を立たせてる具合。そして、何より雰囲気が違う。

『待ってたよ』

 流と同じ顔がそこに居たんだ。

「……ぇ、ぁ」

 後ろで何かが落ちる音が聞こえる。だが、それ以上になぜ、この人は私と流の名前を知っている? 

『ただ、こんなに大人数で来るとは思わなかった。上にいる面子を含めたら12人、驚いたよ』

「止まれ」

 一瞬コチラに近づこうとする目の前の人を止める。それを見て、困ったように苦笑を浮かべてる。

『まぁ、突然現れて信じろ、は難しいよな。さて、流? 質問だ、君はどこからどこまで覚えてる?』

 一瞬コチラを見たと思ったら、直ぐに視線を流へ戻す。眼中に無いというわけじゃなさそうだけど、なんだろうこの人。敵意が無いのに、隙がない。

「……どこから、どこ……まで?」

 声が震えてるのが分かる。振り返って大丈夫だと言ってあげたい、けど、目の前のこいつがどう動くかわからない以上、下手な事は出来ない。

『……ウィンドベル夫婦は分かるか?』

「……ッ、なぜ、その名を……あれは、私の……まさか、私は、いや、私も人造――」

『それは違う』

 瞬間、その場から消えた。振り返ると膝をついて呆然とする流の前に、その人が跪いていた。一瞬そいつの手が流の頭に伸びたけど、寸の所で止まり、また戻る。

『震離。机の上にある物を流に』

 杖をこいつに向けながら、机の埃を払う、そこには小さなロザリオが置いてあり、それを手にとって、側に行き流の手の上に置く。

『流、ゆっくりでいい。お前が覚えてることを教えてくれ。大丈夫、ここには俺と震離しか居ない』

 自然とこいつと目が合う、ふと、懐かしい様な、安心するような気持ちになる。この目を私は知ってる。だけど、これは。

「な、にが……待っていた……、その……名は……その人達は」

『……流、おい?』

 流を中心に風が吹き荒れる。赤黒い魔力の奔流が辺りを包む。

「私を捨てた(・・・)人達だあああああ!!!!!!」

『チィッ!』

 瞬間、足元から浮き上がる感覚に襲われる。場面が切り替わる、狭い部屋ではなく、広い大きな部屋へ。

「なぜ、今になって……その名を出す! あの人達は私を失敗作だと断じて捨てた人達だ!!!!!!」

 部屋の中心で、魔力が渦を巻いている。同時に、声が震えている、飛ばされる直前、あの子は泣いていた。

「へい、そこのコンパチ?」

『コンパチっていうな。どうした?』

 気がつくと、隣に立っているこいつに声を掛ける、色々言いたいことはあるけど、とりあえず。

「これも予想通りなの?」

 腕を組み、首を傾げている。

『いや、予想外。ウィンドベル夫婦に託したんだが、そんなことしたのかっていう状況。聞いてた話だと、流を逃したっていうのは聞いてたんだが、どうも食い違ってる』

 苦々しい表情で流を見る。敵意ではなく、心配する目で……。

「一つ。私が、流を止めたら。全部話してくれる? なんで私を知っているのか、そういうことも全部」

『……全部は無理だ。だが、流を知ってるって言うことくらいなら話すよ。信じるかどうかは別として、な』

「もう一つ。……戦える?」

 そう質問すると、にやりと笑う。同時に、魔力の奔流が止まる。

『……今は無理だ、頼めるか?』

「……知ってたよ!」

 瞬間、弾丸の様に流がアイツ目掛けて突っ込んで来たのを、割り込むように私も行く。
 

――sideギンガ――

 地下……と、言うより、遺跡の底というべき場所に、シスターアーチェと二人っきりで居ます。
 
 でも。
 
「……はぁー……最悪。あんまり壊すなーって言われてたんだけどぬー」

[お嬢、シスターというメッキが外れますよ。あと変に語尾を伸ばさないで下さい]

 ……気まずい、というよりも。なんだか聞いてたイメージと全然違うことに拍子抜けをしています。
 スバル曰く、奏の顔を見た瞬間無言で近づいて殴ったって言っていたのに、今いるシスターアーチェは、年頃の女の子のようなラフさだ。
 ただ、同時進行で、瓦礫に押しつぶされないようにデバイスにシールドを纏わせているのはさすが騎士の二つ名持ちだと思う。
 しかも……珍しい形のデバイス。両手足首に繋がられた鉄球を扱って、今みたいに身を護る盾にするなんて初めて見た。
 
「ごめんねギンガさん。本当はなんとかして帰りたいんだけど、しばらく私と2人になっちゃって」

「いえ、その……大丈夫です」

 ほんっとうに調子が狂っちゃう。朝見かけた時の響達を睨みつけていた人にはとてもじゃないけれど見えない。

 聞いてみようかな?
 
「その、シスターアーチェ?」

「んぁ? シスターなんて堅苦しいので止めてくださいな。アーチェでも、ノヴァクでも何方でも良いですよ」

 ニパッと笑ってくれるけれど、本当にイメージと全然違いすぎて戸惑うくらいだ。
 コホンと咳をして、整えて。

「どうして、ひ……あの人達と仲が悪いの?」

「……はぁ?」

 その質問をした瞬間、今度は正反対の……刺すような視線を向けられる。
 でも、直ぐに視線を逸して、何か考え込むように目を閉じたと思ったら眉間に皺が寄った。
 
「……こんなところにまで目は来るわけない、かな。それに……ギンガさんって今日外から……出向で来たんですよね?」 

「へ? あ、うん。今日から暫く六課になるかな」

 今度はうんうんと唸りながら、悩んでいるようにも見える。
 パッと顔を上げたと思えば、やっぱりまだ仏頂面で……正直見てて面白い。
 
「リュウキっていう、私、の幼馴染が、居たんですよ。昔。あ、私達孤児院出身の親なしでして」

「ど、どうしたの? すごくなんかたどたどしいよ?」

「ごめんなさい。何にも考えないで喋ったら駄目だこれ。うん。
 まぁ、そのリュウキと響達って昔小隊組んでて色々任務をこなしてたんですが」
 
 ……それを聞いて、しまったと後悔が半分。そして――
 
「とある1件で死んじゃったんです。リュウキ。だから私はあの人達が嫌いで、」 

 そうなんだ、と。見る目が少し変わった。

 同時に思う、そんな重いモノを背負っているんだ、と。


-

――side震離――

 小さい頃、魔法なんてあるわけ無いと思っていた。いや、今使う魔法とはまた違うと思う。
 ミッドチルダ式、近代ベルカ式、古代ベルカ式。おそらくきっと、もっといろんな魔法式があるのだろう。

 ベルカ式を取り入れたのは、ただの興味。身体強化という点で優れていたし、偶然か、必然か、名前の由来の通り「雷」の魔力変換を持っていた。
 何より私が興味を持ったのは、ミッド式の数式に私は興味をいだいた。

 10年前、たしかに声は聞いた。だけど、空耳だろうと流したし、相談したら頭が変になったんじゃないかって心配されそうだったし。
 だけど、ある時。響達3人が私に黙って別の特訓をやり始めた。それまでは体運びとかを重点的に行なっていたのに。だけど気にはしなかった。お父さんに相談したら、男は隠れて強くなりたがるって言われて、その時はそうなんだとしか思わなかった。
 そして、2年後。奏達と出会ってようやく私はその意味に気づいた。いつも私達が集まる山の中の広場で、響達男3人。奏達女の子3人で、言い争いが始まった。初めは何を話しているんだろうと思っていたけれど。6人の口から出てきた言葉を聞いて、その後の言葉で、私は驚いた。

 空を飛ぶには魔力コントロールか、魔力量か、と。数式はミッドのほうが細かい、と。

 それが私が、魔法と出会った切っ掛けだ。

 ま、その当時はなにそれとしか思わなくて、本当に出会ったのはもう少し後だけどね。









 ――いけない。そんなこと考えてる場合じゃないのに。

 目の前で泣きながら剣と、銃……いや、()を振る少年を見据える。そう言えばいつか響が言ってた。流のスタイルは理想論で出来てるよなーと。
 確かに、剣も、槍も、銃も、体術もやろうとしている。いや、それをなぞっている(・・・・・・)。でも、その完成度は高いし、流も依存している。だけど、ね。

 眼前に銃口が、いや槍先が迫る。それを難なく回避。

 驚く流の顔が見えた。きっと、目の前でこんなこと考えてる私は最低なんだろうけどね。かれこれ5分ほどクロスレンジで攻撃を捌いている。初めの方こそ攻撃を受けたり流したりしていた。だけど、法則を見つけてしまえば後は避けれる。

 同時に身体強化の派生を維持する。瞳に強化を継続。これをしておくと流の動きが手に取るように分かる。

 ――ロレンチーニ。鮫が保有する感覚器。100万分の1ボルトという極わずかな電位差を感知することが出来る器官のこと。

 だけど、生憎私たちは人。筋肉が発する微弱な電流を感知することは出来ない、代わりに瞳を強化すると見える。おそらく電気系統の魔力変換を持っている子なら出来ると思う。ただし、強化しすぎると一時的に目が見えなくなったりするけれど。ひどい場合は魔力が暴発、失明とかもあり得るんじゃないかな?
 
 ま、慣れてるし平気なんだけど、今の私は流の内に走る電流の動きを読んで、戦闘を、いや、回避を組み立てている。

 だけど、それくらいしないと、きっと私は――

「どいて下さい!!」

 いつの間にか流の目から涙が溢れている。話をしないといけないと思ってた。同じ分隊として、同じ日に入った人として。今は少ないけれどこの先2人でタッグを組む時もあるだろう。六課が解散したら組むことは無いかもしれないけど、数少ない出会いなんだから。

「話を聞こう?」

「必要ない!!」

 槍と大剣のコンビネーション。槍で体制を崩し、大剣で仕留める。一人で完結する良いコンビネーション。だけど。大剣を振り始め(・・・・)に止めてしまえばいい。
 槍の間合いに踏み込み、バインドで剣を固定する。すると、一瞬流の体ががら空きになる。



――side響――



 小さい頃の夢を見た。まだ、あいつらに合う前の夢を。母さんと爺ちゃんが居る時の夢を。望月爺ちゃん……家に居た爺ちゃんの名前だ。その人も5歳になる頃には亡くなったけれど。名前と国籍違うじゃんと思ったのは内緒だ。間違いなく日本人じゃなかったけれど、良い爺ちゃんだった。母さんも凄く嬉しそうにしてたし……今となっては別の意味があったのかなと、思えてしまうけど。

 だけど、ある時。赤髪? 金髪? どっちかよくわからない髪で、凄く白い肌の人が家を訪ねてきた。昔過ぎて覚えていないけど、とにかく母さんと爺ちゃんが凄く驚いてた。襖を小さく開けて覗いた先では母さんが泣いて抱きついてたのを酷く覚えてる。

 結局誰だかわからなかったけれど、覗いてたなんて、ばれたら怒られるから、聞かなかった。

 でも、なんでこんな夢を……

「――」

 目が開く、けど眩しい……。

「――? ――――?」

 遠くで声が聞こえる、なんかやかましいけど、なんだろうか? 意識がはっきりしてくる。

「いやいや、ここは私が」

「いえいえ、幼馴染の私が」

 何だこの会話? ゆっくり目を開ける。そして、

 人の頭の上で言い争いしてる2人。奏とフェイトさんだ。まぁいい、無視だ無視。体を、上半身を起こす。

「「あ、起きた」」

 残念そうな声を上げてるけれど、何だよ? 起きたはいいけど、まだ、考えが纏まらない。
 ふと、気づく。なんか脱出した場所と違う気がする。なんだ? それよりも。

「無事だったんですね。良かった」

「うん…‥っていいたいけど、私達もさっき転送されたの」

 転送……うん? 転送?

「転送?」

「「うん」」

 二人して頷く。どういうことだ? 確か、俺は…… 

「あ、うん。私達、瓦礫の中に居たんだけど、突然ここに転送されて、そしたら、そこに響が壁に寄りかかって(・・・・・・・・)気絶してたの。なんかに襲われた?」

 壁に寄りかかって気絶……? はて、俺脱出した時、突っ込んだ勢いのまま頭をぶつけて、無様に気絶したもんだと思ったけど。

『主も転移されたのですが、その直後不可解なジャマーを探知、暫く状況がわかりませんでした』

 俺の疑問に応えるように花霞が教えてくれる。ということは、その間に何かあった……? というか。

「瓦礫の中って、大丈夫かよ?」

「え、まぁ、うん」

「ちょっと話をしただけ」
 
 一瞬顔を赤くするフェイトさんと、ニコニコとしてる奏。なんとなく怖いと思ったのは気のせいかな? 無事ならいいんだけど、あまり突っ込まないようにしよう。うん、そうしよう……。

「……流と震離は?」

 静かにそう質問を投げると、2人して首を横に振る。あの一瞬で、震離が助けたのは見えたけど、奏達でさえ瓦礫に飲まれたのなら、2人が心配になる。

「2人にも、上にも通信が繋がらない。多分ここには通信を妨害出来るようなもので出来てると思う」

「そう、ですか」

 少し目を伏せながらいうフェイトさん。多分、上に居るに居るエリオ達の事も心配なんだろうな。とても大切にしてる2人だから尚の事。
 ふいにフェイトさんから手を伸ばさる。その手を取ってゆっくりと立ち上がる。

「ありがとうございます。さて、どうしましょう?」

 この場の一番の上官はフェイトさんだ。指示を仰ぐ。だけど、答えは勿論。

「うん、2人を探そう」

「「はい!」」

 すぐに行動に移る。ふと、迷いなく進む2人に疑問が。大丈夫かな、方向音痴じゃないよね?


――side震離――

 がら空きになった流に正面から抱きつく。勿論全力で抵抗される。私と流を縛るようにバインドをもう一度発動する。

「離して下さい!」

「それは出来ないよ」

 ちょうどいい身長差なのか、私の胸の辺りに流の顔がある。本気で抵抗するなら、拘束から逃れようとするのなら、きっと私に攻撃するはずなのに……。

「だって、流さ。こうしていても私を殴らないじゃない」

「……それ、は……それは!」

 信頼……って思いたい、だけど、これはきっと。あの日私の代わりに戦って負けたことを今も悔やんでるからだと思う。思った通り、この子は優しい人だ。きっと普通なら流側について行動すべきなんだろうけど、私にはそれは出来ない理由がある。

「それにさ、流。私は一つわからないのがあるんだ」

 顔は見えない。だけど、振りほどこうとしている。

「……ウィンドベル夫婦。私は知ってるよ。2年前とある研究所に努めていた2人に私は会った事がある」

 流の体が固まる。それに伴って、動きが止まる。

「違法な研究をしてたのも後に公開されたけれど、あの2人は凄く優しい人だよ」

「……ちが、う」

 優しそうなおじさんとおばさんのような2人を思い出す。あの2人の主な研究は生物……もっと言えば、人を治すための研究。

「……とある事でその2人を調べていた。非人道的な研究の疑い、違法薬物、罪状はたくさんあった。だから、直接訪ねた」

「……」

 思い出すのは2年と少し前、これだけ疑いがある以上、直接訪ねたほうがいいと、当時の私は考えた。礼状を持って雪と氷に包まれた管理外世界に赴いた。

「確かに違法薬物は合った。でもそれは誰かが罪を被せるために。戦闘機人と呼ばれる人のデータも合った。誰かが送りつけたものだけど」

「……ッ」

 あの日、私は沢山調べた。大量のデータを、書籍を片っ端から全て。でも、調べれば調べるほどあの人達は。

「びっくりするくらい何もなかった。強いてあげれば、プロジェクトF。それの派生を作ろうとしていた。いや作らされようとしていたくらいだった」

 生命操作技術、プロジェクトF.A.T.E。だけど、人の体を作ることは出来ても、魂を作ることは出来ない。けど、その人達は。

「そのプロジェクトFをベースに何をしてたと思う? びっくりするよ。子供を作れないお母さんの為に不妊治療にあてるんだって」

 並外れた技術に、他の追随を許さない頭脳とまで言われていた2人。きっとその気になれば人を作り出せたかもしれないのに、その人達はしなかった。
 理由を聞いて驚いたなぁ。同一の人を作れるわけがない。心まで複製出来たらそれは神様だけだって。だから、私たちはそれを断り続ける。これからも、ずっと、と。

 もう一度最初から、この2人の経歴を調べ尽くした。するとどうだ? なんてことはない、同じ研究員からの嫉妬や妬み、優秀なのに、それ以上を目指せるのになぜしないんだって当てつけにされた。

 その日から私はこの夫婦と連絡を取り合うようになった。そして、ある日に聞いた話が、遺跡で子供がポッドに入っていた、それを救助したと、連絡が来た。

 だけど、コチラの事情でそれ以降連絡を取れなくなった。

 そして、1年前、2人を訪ねようと思って調べたけど――

「……もう居なくなっていた。私があの2人の無実を証明するはずだったのにおそすぎた。そして、気づかなかった私もバカだった」

 ウィンドベルと風鈴。こんなにわかりやすい言葉遊びに私は気づかなかった、あまりにも安直すぎるんだ、今更ながら違和感すら持たなかった自分に腹が立つ。

「だから、流。私にアナタの事を聞かせてほしい。私にはあの人達の無実を証明しなきゃいけない訳がある」

 完全に力が抜けたのを確認する。これで話し合いの体制は整えられたのかな。

 と言うか、後ろでガン見してるアイツは何一つ助け舟を出さなかったことに腹が立つ。流と同じ顔なのにこうも違うとは。
 
「……わ、たし……は」

 ポツリポツリとゆっくりと話し始める。さぁ、これが終わったら私のことも言わないと……一介の武装隊員がなぜそんなことを調べたのか、説明がつかないから――



――side流――

 物心……と言うより、最初に目が覚めた時。私は知らない所で眠っていた。ぼやけて見える天井と、暖かいベット。目だけで周りを見渡すけれど、ぼやけて何だかわからない。
 代わりに耳をすませば、パチパチと何かが弾ける音と、どこから香る良い匂い。心地よい音と香りを感じていると、自然と意識が遠のいていった。

 次に目を覚ました時、私は倒れていました。薄暗い場所で地に伏せていた。起き上がろうとするけれど体に激痛が奔る。至る所に痛みが、胸を中心に激痛が奔る。
 だけど、何処か穴が空いたようにも感じた。
 
 ボヤける視界で、情報を集める。そこは小さな洞窟で、私には何かが掛けられていた。息を吐くと白くなる。体を引きずりながら、洞窟の外を覗いてみると雪で染められていた。
 ふと、嫌な匂いが鼻につく。何かが焼けたような匂いが遠くから漂う。同時に奥から何かが近づく音が。

 ――離れなくては。
 
 そう考えても、体が言うことを聞かない。僅かな距離を移動しようにも、立つこともままならない。それよりもこの痛みはなんだ?

「やっと見つけたわ! 良かった!」

 洞窟の奥より誰かの声が響く、首だけでも振り返ると、そこには初老の女性が居た。手には杖を持ち、服には何か黒い液体がついてるように見えるけれど、暗くてよく見えない。
 倒れる私の側に駆け寄る女性。拒否をしようにも、口すらまともに動かせない。地に伏せてる私を仰向けにし、横抱きにして抱えられる。その際に奔った激痛が奔り、再び意識を落とした。

 
 そして、もう一度目が覚める。薄暗い部屋だった。前に目覚めた時と違って何も音もしない。代わりに体に奔っていた痛みが和らいでいた。辺りを見渡すと窓も何も無く、扉の様な物しか無い、独房のような部屋。
 ゆっくりとそこに近づく、取手も何も無く、近づいても反応がない。戻ってベットに腰をかける。これまでの情報を整理しようと思い返す……。

 そして気づく、私は誰だろう、と。だけど何も思い出せない。代わりに何か抜け落ちたような、そんな気持ちで一杯になる。

 すると空気の抜ける音と共に、扉らしき物が開いた。視線をそこに向けると、洞窟で会った初老の女性がそこに居た。

「初めましてフロウ君。私はライザ。ここの責任者よ」

 ニコリと笑う女性を――ライザさんを見る。そして、何処か不信感をこの時持ってしまったけれど。何も覚えてないからだと思った。

 そして、説明を聞いて驚いた……と言うより、納得できた。

 生命操作技術、プロジェクトF.A.T.E。その素体になりそうだったと。その為に私の記憶を消したのだと。
 それを聞いても、私は何処か他人事の様に思えた。記憶がないと言われても、そうなんだとしか思えなかった。
 次に、私を素体にしようとした人達の名前はウィンドベル夫婦。男性はサイ・ウィンドベル。女性はキャシー・ウィンドベルだと。これについても、どちらかと言えばそうなんだと、名前を聞いたときには思った。
 この2人が私の記憶を奪い、尚且つ、自分たちの作品(・・)として、名前をつけられたと。そして、その名前はフロウ・ウィンドベル。それが私の名前だと。

 だが、素体としては不十分だったらしく、適当な場所へ捨てられた挙句、何らかの実験の影響で私の瞳が片方紅くなってしまったとのこと。

 ここまで聞いても、私としては何も思わなかった、けど、何か(・・)に触れたらしく、自然と涙が溢れていた。

 後になってこの時流した涙は、勝手に攫った私を捨てた事に対する怒りというか、悔しさというか、悲しいといった感情が混ざって流した物だと結論づけた。


 ――side震離――

 ゆっくりと言葉を紡いでいる、それに静かに耳を傾ける。
 
 さて、全てが事実だとして話を統括するとだ。

 まず流の体はこの遺跡のポッドに入っていましたが、それをウィンドベルさん家が回収しました。そして、それは流のそっくりさんの許可を得ていると。そこからウィンドベルさんは実は実験素体にするつもりで、何らかの事情で流を移動しました。おそらくのそのあたりで夫妻は……。で、流は前の部隊の隊長に拾われたけれど、ここで一つ疑問が。
 間違いなく普通の部隊長じゃない……じゃあ、普通の地上の部隊で保護した子を局員に登録は出来ない。嘱託魔導師として働いてその功績次第で管理局に正式に登録される。流ほどの実力ならば分からなくはない。でも、それでもだ。早すぎるし、こんなに低い階級な訳がない。最低でも准尉からスタートするはずだ。

 そして、何よりも流はわざとなのか部隊の情報を言っていない。これが一番不自然だ。こんな局面でまで誤魔化してるのか、はたまた……。

 ダメだ、やめだやめ。幸い名前は得た。顔も見て覚えた。ならやりようは幾らでもある。時間が掛かろうとも。私なら、出来るはずだ。

 次に、流が目を覚ました場所だ。おそらく最初に目覚めたのはウィンドベルさんの家……と言うか研究所。次に目が覚めた場所はおそらく外の何処か。そこで助けられて、前の部隊の場所であろう部屋で目を覚ました。
 
 おそらくこの間に何かあったんだろう。けど情報が圧倒的に足りない。だが、なぜライザさんは、そんな情報を流に伝えた? 重い事実なら隠せばいい、分かっていたなら時期を見て話せばいい。なのになぜ最初にそれを伝えた?

 だけど、こう考えたらどうだ? ライザさんは、流がそこに運ばれたことを知っていて、何らかの理由で必要となった。結果ウィンドベルさんの研究所が襲われている間に、流を救助、そのまま一緒に居た。
 だけど、そうするとライザさんは襲撃を知っていたということになる。ましては襲う理由も……あったのかもしれないけど、襲ってもメリットはない。

 私と関わってる時は仮面を被っていたとしたら一方的に話が終わる。だが、ライザさんも何か手を下したとしたら……。

 ダメだ。これではピースが足りない。結論を出すには……圧倒的に足りなさすぎる。
 
 でも。

「……流、いいよ。大丈夫」

 私の胸で泣く流を今一度抱きしめる。一瞬体が震えたけど、それを受け入れてくれた。顔には出さないけれど、自分が最低だなと思う。口では大丈夫と優しく嘯いてるくせに、お腹の中では誰が怪しいかって。
 胸の中で、私を見上げる流の表情が目に見えて変わった。そこでようやく気づいた。

 あぁ、この子は誰かに依存して生きてるんだ、と。

 その生き方を否定するつもりは無いし、権利もない。だって私もそうだから。私も皆に依存して生きてるから。
 胸の奥が、心がズキンと痛む。軋む音が聞こえる。そんな目をしないで流? 私は、そんな目を向けられるほど真っ当な人じゃないんだよ? 

『……すまない』

 ふいに後ろから声を掛けられる。表情は見えないけれど声のトーンが何処か沈んでいるのが分かる。

『上の面子には説明すると言ったが、間違いなく今、教えることじゃなかった』

「待った、上の面子……ということはなのはさん達に会ったの?」

 さらっと重要な事を言い出しやがったよこいつ。

『あぁ。それで言ってしまった。約束の時は今だと思うって』

「……間違いなく今ではないよ。誰のせいでこうなったと思うの?」

 おそらく流にとって触れられたくない部分、それを表に出して……こいつは一体何がしたかったんだ? 

『俺の責任だ。そして、タイミングを見誤った。そして、間違いなく余計なことを言ってしまった。すまない』

 思わず殺気を放ってしまう。誰のせいでこうなったか自覚している事でも腹が立つ。

 だけど、なんだろうか。こいつを見てると何処かこう考えてしまう。敵ではない、と。根拠は無い、理屈もない、説得出来るほどの理由もない。

 それ以上に、この感じ。昔何処かであったんだけど……なんだろう。思い出せない。まぁ、それは置いておこう。

「で、責任とってくれんの?」

『ん、あぁ、じゃあこれをやろう』

 そう言うと、私の目の前……つまるところ、流の頭の上に光が集まって……一つの赤い結晶体が現れた。
 
「って、これレリックじゃん!」

『おぉ、そうだよー。それがあったら言い訳になるだろう。それから、流にはこれを』

 そう言うと、今度は流の左手に光が集まって、何かが現れる。それを持ち上げて……

「「……ロザリオ?」」

 黒地に、白く縁取りされ、十字の中心にワンポイントで赤いダイヤが埋め込まれている。

『あぁ。別に置いておいていいんだが、流には選択肢を与えておこうと思って』

 全てのバインドを解除して、流を庇うようにアイツを睨みつける。選択肢を与えるって。

『今回はここまでだ、余計なことをしてしまったからな』

 瞬間足元から浮き上がるような感覚に包まれる。何を?

『悪かった、今回は俺の不徳の致すところだ。最近よく人に会って舞い上がってしまった。だからこそ言おう。流、好きに生きろ。これが最後だとしてもそれに悔いは無い。だけど、もし、どうしようも無くなったらそれに祈れ。大丈夫だと思ったのならそれを捨てろ』

「ちょっと!?」「え、な!?」

 体が完全に浮き上がる、飛行魔法を使おうにもバランスが取れない。

『あぁ、後は……、これは全員に聞こえるだろう。この遺跡は今回を持って完全に閉鎖致しますので、ご了承下さいませ、それでは』

 目の前のアイツが手を合わせた瞬間、画面が切り替わった。次の瞬間にはヴァイスさんが待機している場所に転移されていた。周りを見渡すと上に居たなのはさんや、ティア達。下で逸れた響達5人。そして、私と流。
 すぐに視線を遺跡に向ける、同時に崩落が始まった。
 
 この後、流には念話を伝えた。私はウィンドベル夫婦についてのことは伏せてほしいと、と。その後は皆で遺跡の調査を行うも完全に崩落、内部はどうなってるかわからなくなっていた。
 流に渡されたロザリオも特に変わった機能はついておらず、そのまま流に持たせておくという判断が下る。そして、私に教えてくれた流の過去を皆が聞くことになった――。
 
 ただ、その前に。
 
「……騎士カリムになんてご報告したら……なん、こんな……最悪だ」

「まぁまぁ、今度何か奢るから、ね?」

 ……知らないうちにギンガさんと、アーチェの距離がすごく近づいていたのはちょっと面白いと思ってしまった。
 
 
 
――side?――

 轟音と共に入口が崩れていく。先程まで居た、白いお嬢さん方の場所も崩落した。流と会った場所に移動すれば、転送した人とは違う黒いシスター服の女性がそこに居た。閉じた傘を机に置いて、椅子に座り頬杖をついている。口元は隠れて見えないが、雰囲気で察する、笑っていることに。

『探し物、見つけてくれてありがと』

「いいえ、たまたま遊びに来たらまさかばれてるとは、ね。次からもう少し気をつけないと」

『そう言えば、会って話したのか?』

 気になってた事を質問する。するとクスクスと笑い、そして。

「ううん、気絶してたから移動しただけ」

 あぁ、結局気絶しっぱなしだったんだな、響は。

「でも、懐かしかった。小さい頃を見ただけだったからね」

『……それだよ。そんなことしたから今回イレギュラーに繋がったんじゃねーか?』

「流石に違うでしょ? でも、間違いないの。流が言ってたことって」

『……間違いないらしいが、どうも話がずれてる気がする。まぁ、もしなんかあったら祈るだろう』

 そう言うと複雑そうに唸る。

「で、謀反(・・)を起こした人に悲報ー。聖王様の完成品が出来てしまったっぽい」

『……そうか』

「もっと言うと、模造品……じゃないけれど、オリヴィエ(・・・・・)様以外にも遺伝子が持ち運ばれた、ヴィヴィアン(・・・・・・)様のが」

 それを聞いて、無い頭が痛くなる錯覚を覚える。

「……ゆりかごは押さえられてるし、どうする?」

『どうもしない。流次第だ。既に賽は投げられたんだ。俺達みたいな過去に、化物に頼る必要はないかもしれない。でも、もし必要になったら――』

 ゆっくりと彼女を見つめて

『その時は俺と流。これでも足りないからな、その時は、お前の力を借りるよ真祖の吸血鬼(ハイデライト・ウォーカー)

 はい、と、そう聞こえたときには、彼女はもう居なくなっていた。
 
 それにしても不思議なもんだ。本当に来たが、来るなら約束の日だろうって思い込んでた俺に非があったな。
 
 ――確実に今日ではないし、余計なことをすれば、悪い方向に確定するかも知れませんよ?
 
 つい先日ここを訪れたメイド服の女性を思い出す。突然この奥深くまでやって来たと思えば、色々言ってきたなーと。
 挙句の果てには俺とアイツの名前をピンポイントで言い当てるだけじゃなくて、面白い物を見せてきたし……。
 
 いや待てよ。アイツがアレを……レリックを体に仕込んでいたのを外に……俺に見せたから彼女らがここに来たんじゃないのか?
 
 ……やめよ。それはもうタラレバの話だ考えても意味がない。
 
 さ、次の訪問まで待つか。なぁに、待つのは慣れてるさ。

 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  
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