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ヘルウェルティア魔術学院物語

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第一章【ヘルウェルティア魔術学院編】
  第一話「無能で優秀なエルナン」

「これよりテストを開始する!まずは受験番号50番、前へ!」

巨大な室内演習場に一人の男性の声が響いた。十人の少年少女と二人の大人がいるここは大陸一魔術が発達しているヘルウェルティア魔術学院国である。小国である学院は領土全てが学園の敷地でそれぞれ様々な魔術の研究をしていた。

「よし、早速始めろ!」

「はい!」

男、学院教師の言葉に受験番号50の少年は元気に返事をして魔力を練っていく。自身が発動したい魔術を思い浮かべそれに見合った魔力量をコントロールし、集める事で発動できる魔術は魔術師なら誰もが出来て当然の行動だ。現に50番の少年は自分の顔と同等の火球を生み出すと演習場の端に置かれた的に向かって放った。

しかし、魔力量が低いのか、それとも術者の練度が低いのか火球は近づくにつれて小さくなっていき的に命中する前に完全に消失した。少年は悔しそうな顔をして肩を下げる。この試験で行われる最低限の事である的に命中させることが出来なかったからだ。中には補助魔術を得意とする者もいるがそう言った者は別の試験内容が与えられておりそもそもここにはいるはずがなかった。

「試験番号50番失格!次!51番!」

「は、はい!」

入れ替わるように次の番号の人が前へ出る。先程とは違い51番の放った魔術は見事に的に命中し傷をつける。それを見て自信がなくなったのか?二名程顔を青くしていた。

「よし!51番合格!次!52番!」

「はい」

声の大きい教師の声に返事をしたのは一人の青年であった。赤や黄色等の色を編み込んだ服を着た青年の姿はこの辺では見られない衣装で目立っていた。

「あれって南の公国の服じゃ…」

「あ、本当だ。あの国にも魔術師はいるんだな」

「いや、だからここに来ているんじゃないか?でも、受かるほどの実力があるのかは分からないけど…」

「こらぁ!試験中だぞ!私語は慎め!」

受験生たちは青年の服装から国について話し出す。しかし、直ぐに教師の怒声で黙らせられる。そんな様子に青年は全く動じた様子を見せず魔術を発動する。

「…ん?」

教師の男は青年の魔力コントロールに違和感を持った。青年が今使用している魔力はかなり大きく、教師が試験で見てきた中では多い部類に入る。しかし、それに反して青年が発動しようとしている魔術は下級のファイアボールだった。

別に魔力を多く注いでも発動する事は出来る。しかし、使用した魔力量に反して作り上げられた魔術は貧相な物であった。明らかに青年が使用した魔力の十分の一以下で発動できる程度のものだった。

それでも生み出された火球は寸分の狂いなく、そして速度を一定に保ち的の中央付近に命中する。威力は前の人より低いが速度、コントロールは明らかに今の青年の方が上であった。先程の違和感さえなければ特級クラスに入れるくらいには。

「よし!52番合格!次!53番!」

青年に対する疑問を持ちながらも今は試験中と言う事で教師は試験を進めていくのであった。





☆★☆★☆
「…ふう」

試験から一月後青年、エルナン・ハルフテルの姿は学院国首都ベルン郊外の宿屋にあった。試験結果が発表されるのは今日でありそれまでは実家に帰るのもこの国に滞在するのも自由であったがエルナンはここに残る事にしていた。

別に彼の実家の公国に帰れない距離ではないが彼が実家に戻ったところで居場所などなかった。

エルナンはヘルウェルティア魔術学院国を囲むように存在する三つの大国の一つ、共和国の南部に位置する公国の貴族の出であった。幼いころから大量の魔力とそれを制御できる才能を有し魔術先進国の魔術学院国や帝国、合衆国なら偉大なる賢者としての道を歩めていたかもしれない。

しかし、彼が生まれた公国は魔術後進国であり魔術を卑しい物として扱われていた。その為魔術の才を持つエルナンを彼の家族は疎み腫物の様に扱っていた。それでも魔術の世界に魅入られたエルナンは例え周りから蔑まれようとも魔術にのめり込んでいった。

『エルナン!貴様はまたその様なくだらない事を行っているのか!その様な物に時間をつぎ込むくらいなら将来兄の手足となれるようにしっかりと勉強しろ!』

『何でなの?何でそんな事に手を出すの?エルナン、お願いだから母の言う事を聞いてよ!』

『エルナン…。俺は親父やお袋の様に頭ごなしに否定はしない。魔術はとても素晴らしい物だと分かっているからな。だが、この国で魔術師がやっていく事は出来ない。それどころか生きていく事すら出来ないだろう。来年、魔術学院国の試験を受けろ。そうすればお前は魔術を好きなだけ学ぶことが出来る。旅費は渡してやる』

エルナンは兄から渡された貨幣が入った袋を片手に魔術学院に入るためにここまで来ていた。それは事実上の勘当でありエルナンは公国貴族から一般平民に落ちた事を意味していた。無論魔術学院は平民でも試験をクリアすれば入学自体は可能であり魔術学院は他国のからの入学者は全て国内の寮に入る事が義務付けられていた。魔術学院は学院でありながら国でもあるので他国から通学されるわけにはいかなかったからだ。

「取り合えず一月の間は日雇いの倍とでも探して金を稼がないとな。なんかいい感じのバイトがあるといいんだが」

エルナンは泊まっている宿屋を出て街を歩きだす。ベルンは魔術学院国の首都だけあって活気があった。エルナンが見た限りでは彼の故郷のエデタニアや公都マドリード、更にはベルンに向かう途中で立ち寄った共和国領のルグドゥヌムよりも賑わっている。

「(まあ、四年前に訪れたマドリードよりも大国とはいえ地方の都市以下の繁栄しかない祖国に哀れすら覚えるけどな)」

この事実を知っている公国人は少ないだろう。公国は出入りに厳しく公国貴族の紹介でもない限り一日から三日は足止めを食らう。その為公国に出入りする人間は少なく大陸の国々の中でも異色な国だった。

「とは言えもう公国に帰る事も無いだろうしこれからは好きなだけ魔術の勉強が出来ると考えただけですごく楽しみだな!」

エルナンは内から湧き出てくる知識欲に身を震わせながら大通りを歩いていく。

「おじさん、串焼きを一本下さい」

「おう!それなら1スランになるぞ!」

「はい」

エルナンは途中で見つけた露天商で串焼きを一つ購入する。スランは魔術学院国で使用されている通貨でここでは基本このスランでのみ売買できる。エルナンは到着した日に国境の町で公国のペセタを全てスランに変えていた。二度と戻るつもりのない祖国の通貨を持っていても意味がないからだ。

「ところでこの辺で日雇いのバイトとか募集しているところってないですか?結果が分かるまで一月もあるので…」

「お、それなら俺の所で働けばいいぞ。丁度よく前に働いていてくれた奴が辞めちまったからな。内容は店の手伝いで昼前から夕方までで35スランでどうだ?」

「えっと、1スランが100ペセタだから…。分かりました。お願いします」

「おう!なら早速頼めるか?この荷物をあっちに…」

「はい、えっと…」

こうしてエルナンは何とかバイトを見つけ働く事が出来た。そして、一月後。運命の試験発表がされる日を迎えるのであった。
 
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