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英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

作者:sorano
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第27話


~グランセル城・謁見の間~


「――お初にお目にかかります。クロスベル帝国ヴァイスハイト皇帝が第一側妃、ユーディット・ド・カイエンと申します。このような形での突然の訪問、どうかお許しください。」
「――エレボニア帝国貴族連合軍の”総主宰”並びに”エレボニア側のカイエン公爵家暫定当主”のミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンと申します。エレボニア帝国で内乱を引き起こした愚かな反逆者の集団の”主”の座を叔父クロワールより引き継いだ身であるこの私がこの場に同席する事、どうかお許しください。」
「――メンフィル帝国大使リウイ・マーシルンの側妃の一人、シルフィエッタ・ルアシアと申します。――――お久しぶりですね、クローディア王太女殿下、ユリア准佐、それにオリヴァルト殿下も。」
ユーディット達はそれぞれ一歩前に出てアリシア女王達に自己紹介をし
「クローディアとユリアさんはシルフィエッタ殿の事をご存知なのですか?」
「オリヴァルト殿下ともお知り合いのようですが…………一体どのような経緯でシルフィエッタ殿とお知り合いになられたのでしょうか?」
シルフィエッタの自己紹介を聞いたアリシア女王は目を丸くし、カシウスは戸惑いの表情で訊ねた。

「シルフィエッタさんとは”影の国”事件で出会ったのです。”影の国”から帰還後、リウイ陛下の側妃として迎えられた事は話には聞いていましたが…………」
「ちなみにシルフィエッタ殿はセオビット殿にとって母君にあたる御方です。」
「セオビット殿の…………確かにお二人はまるで姉妹のように、顔立ちが似ていますな。」
クローディア王太女とユリア准佐の話を聞いたカシウスはシルフィエッタとセオビットを見比べて感想を口にし
「フフ、母は生粋のエルフで私自身は闇夜の眷属とエルフのハーフの為、普通に考えれば血縁関係に見えない私と母が親子や姉妹のように見られる事は光栄ですわ。」
(自然と精霊と共に生きる”森人”とも呼ばれる”エルフ”…………まさに伝承通りの姿ね。)
(そうね…………ラウラさん?どうかされたのですか?)
セオビットの答えを聞いてシルフィエッタの種族を知って呟いたセリーヌの小声に頷いたエマだったが、信じられない表情を浮かべているラウラが気になり、訊ねた。

(ありえないのだ………貴族連合軍の”総主宰”と名乗る人物の護衛にあの方がついている事に…………!)
(ラウラがそこまで驚くなんて一体何者なの?)
信じられない表情で呟いたラウラの答えが気になったフィーはラウラに訊ね
(………ミルディーヌ公女の護衛と思われる蒼灰色の髪の女性の名前はオリエ・ヴァンダール。”風御前”とも呼ばれているヴァンダール子爵家”の当主であられるマテウス・ヴァンダール卿の伴侶にして、ヴァンダール流の師範代も務める人物だ…………!)
(な――――――)
「”ヴァンダール”だって!?何で”ヴァンダール”の関係者が貴族連合軍についているんだ!?」
ラウラの答えを聞いた仲間達がそれぞれ血相を変えている中サラは思わず絶句し、マキアスは信じられない表情で声を上げた。

「え…………」
(おい…………っ!貴様の気持ちもわからなくはないが、今がどういう状況なのかを考えろ…………!)
「ハッ!?す、すみません!すみません!」
マキアスの言葉を聞いたクローディア王太女が呆けている中ユーシスに睨まれて注意されたマキアスは我に返った後何度も頭を下げて謝罪し
「いや、正直な所私達もマキアス君のように声を上げたり、”彼女達”から事情を色々と聞きたいくらいだから、気にしないでくれ。」
「…………久方ぶりです、オリエ夫人。それにクルトも。お二人とも無事で何よりです。」
「ええ…………子爵閣下もご壮健そうで何よりです。」
「…………お久しぶりです、子爵閣下。それにオリヴァルト殿下も。」
マキアスの謝罪に対してオリヴァルト皇子が静かな表情で答え、アルゼイド子爵に話しかけられた女性と少年はそれぞれ会釈をした。

「あの…………ミルディーヌ公女殿の護衛のお二人はミュラーさんとどのような関係なのでしょうか…………?」
「先程そちらの方が貴方方の事を”ヴァンダールの関係者”と仰っていましたが…………」
クローディア王太女は戸惑いの表情で、アリシア女王は真剣な表情で女性と少年に問いかけ
「フフ…………私達の事は気にせず、アリシア女王陛下達にご挨拶をして頂いて構いませんわよ。」
ミルディーヌ公女は驚愕の表情で女性と少年に視線を向ける周囲の様子に苦笑した後女性と少年に自己紹介を促し
「そうですか…………でしたらお言葉に甘えさせて頂きます。――――――”ヴァンダール子爵家”当主マテウス・ヴァンダールが後添い、オリエ・ヴァンダールと申します。どうぞ、お見知りおきを。」
「マテウスとオリエの息子のクルト・ヴァンダールと申します。兄ミュラーとは腹違いの兄弟の関係になります。以後お見知りおき願います。」
自己紹介を促された女性と少年――――――オリエ・ヴァンダールとクルト・ヴァンダールはそれぞれ自己紹介をした。

「な――――――」
「ええっ!?”ヴァンダール”――――――それもミュラーさんの…………!?」
「まさかこのような形でかの”風御前”とお会いする事になるとは…………”アルノール家の懐刀”とも呼ばれている”ヴァンダール”のご夫人とご子息の一人が貴族連合軍側についている事には何やら深い事情がおありと思われますが…………」
オリエとクルトの事を知ったユリア准佐は絶句し、クローディア王太女は驚きの声を上げ、カシウスは真剣な表情でオリエとクルトを見つめた。
「フフ、お二人の事情については後に説明させて頂きますので、まずは我々が本日こちらにご挨拶に参った要件を済まさせていただいても構わないでしょうか?」
「…………わかりました。それで本日はお三方が揃って私達に何の御用でしょうか?」
ミルディーヌ公女の話を聞いて頷いたアリシア女王はユーディット達に要件を訊ねた。


「既に女王陛下達も予想はされていると思いますが、メンフィル・クロスベル連合にリベール王国にも加わって頂くご提案をする為に本日ご訪問をさせて頂きました。」
「昨夜に起こった”アルスター襲撃”や、エレボニア帝国がかつての”ハーメルの惨劇”のように碌な調査もせずに”アルスター襲撃”の犯人を貴国であると断定した情報を掴んでおります。そして近日中にエレボニア帝国が12年前の”百日戦役”のように”アルスター襲撃”の報復並びに賠償として、貴国に理不尽な要求又は宣戦布告を行うと思われ――――――いえ、既に行った可能性も考え、メンフィル帝国は貴国と同盟を結んでいる国として、何か御力になれないかと思い、こちらに参った所存です。」
「クロスベル帝国としても、クロスベルがまだ自治州だった頃にリベール王国には”不戦条約”の件でお世話になったご恩もありますので、メンフィル帝国共々かつての”百日戦役”のように再びエレボニア帝国によって国家存亡の危機に陥っている貴国の御力になりたいと思い、メンフィル帝国と相談した結果、貴国にもメンフィル・クロスベル連合による”エレボニア帝国征伐”にも協力して頂くことを提案すべきだという結論に至りました。」
「………………………………」
「二国のお心遣いはとても心強く、ありがたい話だとは思っております。――――――ですが、それは”不戦条約”を掲げた我が国が”戦争”に加担すると思っての行動なのでしょうか?」
ユーディットとシルフィエッタの話を聞いたクローディア王太女が辛そうな表情で黙り込んでいる中、アリシア女王は静かな表情で答えた後目を細めて二人に問いかけた。
「勿論、ゼムリア大陸から”戦争”を無くす為の一手として貴国が”不戦条約”を掲げた事は存じています。――――――ですがリベール王国が”戦争”の”当事者”になってしまった今の状況では、”話し合いで戦争を回避する事は不可能”だとメンフィル・クロスベル連合は判断したのです。」
「ましてやリベール王国と戦争勃発寸前に陥っている国はかつての”百日戦役”のように”第二のハーメル”といっても過言ではない”アルスター襲撃”という冤罪を貴国に押し付けたエレボニア帝国。”百日戦役”の件を考えると、エレボニア帝国が貴国の主張に耳を貸すとはとても思えません。」
「そ、それは…………いえ、”百日戦役”の時と違い、エレボニア帝国の皇家の一員であられるオリヴァルト殿下も”アルスター襲撃”はリベール王国によるものではなく、リベール以外の何者かによる謀であると信じて頂いています!ですから、、”話し合いで戦争を回避する事は不可能”だと判断しているメンフィル・クロスベル連合の判断は早計かと思われます…………!」
「王太女殿下も仰ったように、”アルスター襲撃”による今回のエレボニア帝国の行動…………かつての”百日戦役”のように一部の過激派による暴走だと私は判断している。リベールとエレボニアの戦争が勃発する前に”アルスター襲撃”に関する真実や証拠を直ちに集め、それらを帝国政府に提示して戦争を中止、そしてリベール王国に謝罪してもらうつもりだ。」
ユーディットとシルフィエッタの指摘に辛そうな表情で答えを濁した後すぐに反論したクローディア王太女に続くようにオリヴァルト皇子は決意の表情で答えた。

「――――――失礼を承知で申し上げますが、例え”アルスター襲撃”の”真実”や”証拠”を殿下達が集める事ができたとしても、リベール王国との戦争を中止すると本当にお思いなのでしょうか?――――――メンフィル・クロスベル連合との戦争という無謀な”賭け”に出た挙句、”帝国の至宝”の片翼にして帝位継承権もあり、”紅き翼”の旗印として内戦終結にも大きく貢献した姫様すらも見捨てたオズボーン宰相や宰相の判断を受け入れたユーゲント皇帝陛下が。」
「…………っ!ハハ…………中々痛いところを突いてくるね、ミルディーヌ君。その様子だと貴族連合軍はメンフィル・クロスベル連合に加わっていると思われるけど…………その理由はやはり、内戦の責任から逃れる為かい?」
意味ありげな笑みを浮かべたミルディーヌ公女の指摘に辛そうな表情で唇を噛み締めたオリヴァルト皇子は疲れた表情で呟いた後表情を引き締めてミルディーヌ公女に問いかけた。
「まあ、その理由がある事も否定はしませんが、それはあくまで”副産物”のようなものであり、本当の理由はメンフィル・クロスベル連合に敗戦したエレボニアの政治に貴族連合軍(私達)が介入できるようになる事でメンフィル・クロスベル連合との戦争で滅亡したエレボニアの多くの民達を苦しむ事になる事を防ぐ為――――――つまりは”貴族の義務(ノブレスオブリージュ)”ですわ。」
(ノ、”貴族の義務(ノブレスオブリージュ)”ってユーシスがいつも心掛けている………)
(貴族が弱き者――――――”民達を守る事”か…………)
「…………っ!オリヴァルト殿下、会談中の所横から口を挟んで申し訳ございませんが、ミルディーヌ殿やユーディット殿に対して発言をさせて頂いても構わないでしょうか…………?」
ミルディーヌ公女の答えにエリオットとガイウスが複雑そうな表情をしている中、怒りの表情で唇を噛み締めながら身体を震わせていたユーシスはオリヴァルト皇子に発言の許可を確認した。

「ああ、構わないよ。」
「ありがとうございます。――――――ふざけるのも大概にして頂きたい、ミルディーヌ殿!真に帝国を想う帝国貴族ならば、貴女達貴族連合軍もエレボニア帝国政府の暴走を止めようとするオリヴァルト殿下に協力するのがアルノール皇家に忠誠を捧げる帝国貴族の義務なのではないか!?それにユーディット殿も何故、帝国貴族の一員――――――それも”四大名門”のカイエン公爵家の一員でありながら、父であられるカイエン公のようにエレボニア皇家を裏切り、敵国となったクロスベルの皇帝に嫁いだのですか!?」
「ユーシス君…………」
オリヴァルト皇子の許可を取った後ユーディットとミルディーヌ公女を睨んで指摘したユーシスの主張にアンゼリカは辛そうな表情を浮かべた。
「――――――ラマールを含めたエレボニアの民の生活が平穏である事を保ち、民を守り続ける事……―――それが私と私の考えに賛同したキュアの”貴族”が果たすべき”義務”――――”貴族の義務(ノブレスオブリージュ)”です。その為ならば、”売国奴”と罵られる覚悟もクロスベル帝国からヴァイスハイト陛下との縁談を提案され、その縁談に承諾した時からできています。」
「ユーディット嬢…………」
静かな表情で答えたユーディットの答えにアルゼイド子爵は複雑そうな表情を浮かべた。
「クスクス、それとまさかメンフィル帝国との戦争を回避する為に1度目の”ユミル襲撃”の超本人であられる父君を”ユミル襲撃”の件を知ってすぐにアルバレア公をメンフィル帝国政府に突き出すか、もしくは処刑してアルバレア公の遺体をメンフィル帝国政府に渡さなかったユーシスさんにそれを言われるとは思いませんでしたわ。」
「…………っ!」
「ミュゼ君…………幾ら何でもそれは言葉に過ぎるんじゃないのかい?」
意味ありげな笑みを浮かべたミルディーヌ公女の指摘に反論できないユーシスが辛そうな表情で唇を噛み締めている中、アンゼリカは厳しい表情でミルディーヌ公女に指摘した。

「フフ、申し訳ございません、アンゼリカお姉様。」
(………何となく予想はしていたけど、もしかしてアンちゃんはミルディーヌ公女殿下と知り合いなの…………?ミルディーヌ公女殿下に対して愛称のような名前で呼んでいるし…………)
ミルディーヌ公女が謝罪するとミルディーヌ公女のアンゼリカへの呼び方が気になったトワがアンゼリカに訊ね
(ああ…………パーティーなどで知り合う機会があって数少ない四大名門の年が近い女子同士として個人的に親しくしていたんだ…………それと確か彼女は”アストライア女学院”に通っていて、エリス君やアルフィン殿下とも仲がよかったはずだ。)
「ええっ!?エリスさんやアルフィン殿下とっ!?って、ご、ごめんなさい、思わず声を上げてしまって…………!」
アンゼリカの答えを聞いて思わず驚きの声を上げたアリサはすぐに我に返って謝罪をした。

「フフ、エリス先輩や姫様にはお二人の後輩としてとても親しくして頂いておりますわ。――――――ですから当然貴方方”Ⅶ組”やエリス先輩ご自慢の”リィンお兄様”についてもよく存じておりますわ。このような形になりますが、噂の”Ⅶ組”の皆さんとお会いできて光栄です。――――――最も肝心の”リィンお兄様”が同席していない事は少々残念ですが。」
「そっちはメンフィル・クロスベル連合側なんだからリィンの事についてもある程度知っているだろうに、わたし達に対してよくそんな事が言えるね。」
「…………其方はリィンやエリス、それにアルフィン殿下の”事情”についてどこまで把握しているのだ?」
ミルディーヌ公女は意味ありげな笑みを浮かべてⅦ組の面々を見回し、フィーは厳しい表情でミルディーヌ公女を睨み、ラウラはミルディーヌ公女に問いかけた。
「今朝、オーレリア将軍に手配して頂いたリウイ陛下とヴァイスハイト陛下と会談の際、私達がメンフィル・クロスベル連合側に加わる事を認めて頂く話の流れで”全て知りましたわ。”リィン少佐が滅亡の危機に陥っているエレボニア帝国を何とか存続させる為に”エレボニア帝国征伐”で手柄を上げて昇進する事や、姫様がリィン少佐の使用人兼娼婦として仕える事になった上姫様もエリス先輩と共に戦争に参加してリィン少佐と共に戦う事を決められた事も。」
「…………やはり、オーレリアも”そちら側”か。」
「それと恐らくですがウォレス准将もメンフィル・クロスベル連合側でしょうね…………」
「りょ、”領邦軍の英雄”と称えられている”黄金の羅刹”と”黒旋風”までメンフィル・クロスベル連合側だなんて…………」
「それにその口ぶりだと、貴族連合軍の残党丸ごとがメンフィル・クロスベル連合側になったようね…………」
ミルディーヌ公女の説明を聞いて重々しい様子を纏って呟いたアルゼイド子爵とラウラの推測を聞いたエリオットは不安そうな表情を浮かべ、サラは厳しい表情を浮かべた。

「一つ訂正しておきますわ。メンフィル・クロスベル連合に協力する貴族連合軍は帝国西部の領邦軍――――――つまりラマール領邦軍とサザ―ラント領邦軍であって、ノルティア領邦軍とクロイツェン領邦軍はメンフィル・クロスベル連合側ではありませんわ。」
「という事はログナー侯爵までメンフィル・クロスベル連合側にはついていないようだね、アンちゃん…………!」
「ああ…………皇帝陛下への忠義が篤い父上までメンフィル・クロスベル連合側になる事はさすがにおかしいとは思っていたよ。」
ミルディーヌ公女の指摘を聞いて明るい表情を浮かべたトワの言葉にアンゼリカは苦笑しながら答えた。
「それとハイアームズ侯の名誉の為に言っておきますが、ハイアームズ侯は何もご自身の立場や命を護る為にメンフィル・クロスベル連合側につくことを決めた訳ではありません。ハイアームズ侯は内戦やメンフィル・クロスベル連合との戦争勃発に責任を感じており、戦争回避の為に責任を取ってメンフィル帝国の要求通りご自身の首をメンフィルに捧げる事も躊躇わないおつもりだったとの事です。」
「ハイアームズ侯が…………では何故、そのように考えていたハイアームズ侯までメンフィル・クロスベル連合側についたのだ?」
ミルディーヌ公女の説明を聞いて驚いたラウラは真剣な表情で訊ねた。

「それはハイアームズ侯も私と同じ考え――――――メンフィル・クロスベル連合に協力する事でメンフィル・クロスベル連合との戦争で敗戦したエレボニアの政治に介入できる権限を頂く事で、敗戦後のエレボニアの民達の生活を守る考えに賛同したからですわ。なのでハイアームズ侯は戦後エレボニアの状況がある程度落ち着けばハイアームズ侯爵家の当主の座から退いてメンフィル・クロスベル連合又はエレボニアが存続する事ができた場合は、エレボニアに仕える臣下の一人として民達の為の政治を行う事に一生を費やすことをご自身の”償い”とするとの事ですわ。」
「そこまで責任を感じるくらいだったら、何で貴族連合軍に協力していたのよ…………」
ミルディーヌ公女の話を聞いたサラは呆れた表情で溜息を吐いた。
「…………ミルディーヌ殿、先程メンフィル・クロスベル連合に協力している貴族連合軍はラマールとサザ―ラントの領邦軍だと仰っていたが、まさか今後残りの”四大名門”を説得してノルティアやクロイツェンの領邦軍も取り込むおつもりか?」
「フフ、そのつもりは一切ありませんわ。――――――ログナー侯はアンゼリカお姉様も仰ったように皇帝陛下への忠義が篤い方の為説得は最初から諦めていますし…………クロイツェン――――――アルバレア家に関しましてはもはや滅亡したも同然の家ですから、取り込むメリットがない所か、リスクしかありませんので。」
「ア、”アルバレア公爵家”が滅亡したも同然の家って………!」
カシウスの質問に対して静かな笑みを浮かべて答えたミルディーヌ公女の答えに仲間達と共に血相を変えたエリオットは信じられない表情でミルディーヌ公女を見つめた。

「皆さんもご存知のようにアルバレア公自身は既に捕えられ、その跡継ぎであられたルーファス卿は先のクロスベルでの迎撃戦によって戦死しましたのですが…………クロイツェン領邦軍の主力もその迎撃戦によって壊滅した事はご存知ですか?」
「ク、クロイツェン領邦軍の主力がクロスベル侵略の際の迎撃戦で壊滅したって…………!」
「今の話は本当なんですか、ユーシスさん?」
「ああ…………兄上が父上から奪ったクロイツェン領邦軍の主力は全てクロスベル侵略の為に投入されて壊滅し…………もはや今のクロイツェン州は正規軍に頼らなければ、治安維持すらも危うい状況なのだ…………」
「まさかクロイツェン州がそこまで追い詰められた状況だったとはね…………」
意味ありげな笑みを浮かべたミルディーヌ公女の説明にマキアスが信じられない表情をしている中、不安そうな表情を浮かべたエマの問いかけに重々しい様子を纏って答えたユーシスの答えを聞いたサラは厳しい表情で考え込んでいた。
「話を続けますが…………”アルバレア”はメンフィル帝国との戦争勃発の元凶の家でもあるのですから、メンフィル帝国との関係を良好に保つ為にも最初から”アルバレア公爵家”を取り込む事は考えていませんわ。――――――ましてやルーファス卿と違い、クロイツェン州の貴族達を纏める力があるかどうかすらも怪しいユーシスさんが今の状況で”アルバレア公爵家当主”を背負う事は厳しいと思われますもの。」
「い、幾ら何でもその言い方は酷くありませんか…………!?」
「あ、貴女…………!慕っていたお兄さんを亡くしたばかりのユーシスに対してよくもそんな事が言えるわね!?」
「――――――確かにミルディーヌ殿の言う通り、今の俺に内戦に敗戦し、クロイツェン領邦軍まで壊滅した事で”アルバレア公爵家”に対して不満や不安を抱えているクロイツェンの貴族達を纏める力は正直言って皆無に近いだろう。だが逆に聞くがミルディーヌ殿――――――俺よりも若く、特に実績もない貴女が貴族連合軍やラマールの貴族達を纏める力がある事について疑問が残るのだが?」
ミルディーヌ公女の指摘に仲間達と共に血相を変えたトワは悲痛そうな表情で反論し、アリサは怒りの表情でミルディーヌ公女を睨み、静かな表情で呟いたユーシスは目を細めてミルディーヌ公女に問いかけた。

「ええ、それについては否定しませんわ。現にその証拠としてカイエン公爵家当主を名乗る際は”暫定”を名乗っていますもの。――――――ですが、オーレリア将軍にはこんな小娘の私に忠誠を誓って頂けましたので、少なくてもこの戦争に決着がつくまで貴族連合軍の”総主宰”として貴族連合軍を纏める”力”がある事は自負しておりますわ。」
「あのオーレリア将軍閣下がミルディーヌ公女殿下に…………」
「…………なるほど。確かにミルディーヌ殿の仰る通り、ウォレス准将と双璧を為す”領邦軍の英雄”であるオーレリアが貴女に忠誠を誓った以上、貴族連合軍はまだ年若い貴女を”総主宰”として認めるでしょうね。」
「ハハ…………あの”黄金の羅刹”にどうやって忠誠を誓わせたのか教えてもらいたいくらいだよ…………そういえば忠誠の件を聞いて聞こうと思っていたのだが…………どうして貴女達まで貴族連合軍に協力しているんだい、オリエさん、クルト。」
ミルディーヌ公女の説明にラウラが複雑そうな表情を浮かべている中、重々しい様子を纏って呟いたアルゼイド子爵の推測を聞いて疲れた表情で呟いたオリヴァルト皇子は気を取り直してオリエとクルトに視線を向けて訊ね
「殿下達には私達がミルディーヌ殿に協力しているように見えると思われますが…………別に私達はミルディーヌ殿達――――――貴族連合軍に協力している訳ではありません。あくまで皇室専属護衛――――――”ヴァンダール”としての役割を果たす為に、ミルディーヌ殿と共にいるだけです。」
「自分と母は公女殿下より兄ミュラーがお世話になった女王陛下達にご挨拶をする機会を用意して頂いた為、そのご厚意に甘えてこの場に同席しただけです。」
オリヴァルト皇子の質問に対してオリエとクルトは静かな表情で答えた。

「え…………皇室専属護衛としての役割を果たす為に何故、貴族連合軍――――――いえ、メンフィル・クロスベル連合側に…………」
「!まさか…………先程のミルディーヌ公女殿の話に出てきたメンフィル・クロスベル連合にアルフィン皇女殿下が協力しているという件か…………!?」
「あ…………」
「――――――なるほどね。アルフィン皇女を守る事は確かに”アルノールの懐刀”とも呼ばれている”ヴァンダール”の役割ではあるわね。」
「…………オリエ夫人。まさかとは思いますがマテウス殿は――――――いえ、”ヴァンダール家”は今回のメンフィル・クロスベル連合との戦争、アルフィン殿下につく事に決められたのでしょうか?」
オリエの話の内容が気になったクローディア王太女が困惑している中、察しがついたカシウスの推測を聞いた仲間達が血相を変えている中エマは呆けた声を出し、セリーヌは静かな表情で呟き、アルゼイド子爵は重々しい様子を纏ってオリエに訊ねた。

「いいえ、今回の戦争でアルフィン殿下をお守りする役割についたのは私とクルトのみで、夫は皇帝陛下をお守りする為に今も帝都(ヘイムダル)に残っています。」
「…………実はアルフィン皇女殿下がメンフィル帝国の大使館に向かわれた翌日に公女殿下がヴァンダール家を訊ね…………公女殿下よりアルフィン皇女殿下はメンフィル・クロスベル連合側になった可能性が考えられる話が伝えられ、今回の戦争で”アルノール皇家”の血が途絶えることを防ぐ為にアルフィン殿下の護衛を出した方がよいという提案があり、公女殿下が正式にメンフィル・クロスベル連合との協力関係を取り付けた際に手に入れた情報――――――つまり、アルフィン皇女殿下がメンフィル・クロスベル連合に協力している情報を知らされた父上がヴァンダール家も二つに分かれた皇家やカイエン公爵家のように、エレボニアに残り続けるヴァンダールとアルフィン皇女殿下をお守りする為にメンフィル・クロスベル連合に協力するヴァンダールに分ける事を決め、自分と母が皇女殿下をお守りする為にメンフィル・クロスベル連合に協力する事になったのです。」
「皇女殿下をお守りする為にヴァンダール家を二つに分ける事を決められるとは…………」
「恐らくマテウス殿にとっても苦渋の判断だったのだろうな…………」
「ハハ…………規模は全然違うけど、これじゃあ”貴族派”と”革新派”の皇族版のようなものじゃないか…………そういえば先程カイエン公爵家も二つに分かれたと言っていたが、どういう意味だい?」
オリエとクルトの話を聞いたラウラとアルゼイド子爵は重々しい様子を纏って呟き、疲れた表情で呟いたオリヴァルト皇子はある事が気になり、ユーディットとミルディーヌ公女に訊ねた。

「そのままの意味です。ヴァイスハイト陛下の側妃になった私とクロスベルに帰属する私の考えに賛同した妹のキュアは今後クロスベル帝国貴族のカイエン公爵家――――――つまり、”親クロスベル派”のカイエン公爵家に、戦後もエレボニアの為に活動する為にメンフィル帝国との関係修復を最優先と判断しているミルディーヌは”親メンフィル派”のカイエン公爵家に分かれたのです。」
「カイエン公爵家まで二つに分かれるなんて…………」
「二つに分かれたといっても、その二つに分かれる原因となった二国はエレボニア帝国の敵として連合を組んでいるんだから、結局はカイエン公爵家自体がエレボニア帝国にとって”敵”になっている事は変わりないじゃない…………」
ユーディットの説明を聞いたエマは複雑そうな表情をし、セリーヌは呆れた表情で呟いた。
「…………ミルディーヌさんはあくまでエレボニアの為に活動する”カイエン公爵家”になるつもりとの事ですが、まさかミルディーヌさんは万が一エレボニア帝国が滅亡した場合、エレボニア帝国の領土の一部をメンフィル帝国を”宗主国”とした”自治州”にする事を目標にされているのでしょうか?」
「フフ、さすがは”賢王”と名高いアリシア女王陛下ですわね。万が一エレボニア帝国が存続できなくなった場合は、せめてエレボニアの”誇り”を残したいと思っておりますわ。」
「”エレボニアの誇り”…………”エレボニアの民達による自治”を残す為の”自治州”か…………」
「ハハ…………敗戦後のエレボニアの未来まで考えていたなんてね…………クルト、君はセドリック専属の護衛だったけど、アルフィンの護衛につく事になって本当によかったのかい?」
アリシア女王の推測に微笑みながら答えたミルディーヌ公女の話を聞いたカシウスは重々しい様子を纏って呟き、疲れた表情で呟いたオリヴァルト皇子は表情を引き締めてクルトに問いかけた。

「…………正直な所、思う所はあります。――――――ですが今回のメンフィル・クロスベル連合との戦争、戦争の知識について疎い自分でも内戦が終結したばかりであらゆる面が疲弊している状況のエレボニア帝国に勝ち目は全くない事は理解しています。そしてエレボニア帝国が敗戦すれば当然、エレボニア皇家の跡継ぎであられる皇太子殿下の身が危うくなる事は簡単に想像できます。」
「それは…………」
クルトの話を聞いたラウラは複雑そうな表情を浮かべ
「公女殿下がメンフィル・クロスベル連合との交渉の際に、先祖代々”ヴァンダール”の血筋を引く者達――――――つまり自分達の内の誰かがメンフィル・クロスベル連合に協力すればエレボニア敗戦後エレボニア帝国が滅亡する事になっても、皇帝陛下以外のアルノール皇家の方々の処遇の内容は滅亡した国の皇族として破格の待遇にする事と、皇帝陛下も皇帝陛下自身の命を奪う以外の”処分”にして頂くという内容にして頂いた為、例え祖国に刃を向ける事になってもそれが結果的に皇太子殿下をお守りする事になるのであれば…………と判断し、メンフィル・クロスベル連合に協力する事を決めたのです。…………それにどの道、帝国政府によって”ヴァンダール家”の使命であった皇族の守護職の任を解かれた今の自分には皇太子殿下のお傍でお守りする事もできませんので。」
「え…………」
「私達がエレボニアを留守にしている間に宰相殿は”ヴァンダール”にまで介入をしていたのか…………ハハ、という事は私の知らない内にミュラーも私の専属護衛から外されていたのか…………」
「ミュラー少佐…………」
”ヴァンダール家”がアルノール皇家の守護職から外された事も含めたクルトの説明を聞いたクローディア王太女は驚きのあまり呆けた声を出し、オリヴァルト皇子は重々しい様子を纏って呟いた後疲れた表情で肩を落とし、ユリア准佐は辛そうな表情を浮かべてミュラーの姿を思い浮かべた。
「今のクルトさんの話に出てきたメンフィル・クロスベル連合との交渉の件は本当なのでしょうか?」
「はい。代々アルノール皇家守護職の任を任されている”ヴァンダール家”もメンフィル・クロスベル連合に加勢しているという事実はメンフィル・クロスベル連合にとっても色々と都合がいい事実になる為、ミルディーヌと交渉したヴァイスハイト陛下並びにリウイ陛下が先程クルトさんが仰った条件を承諾しました。」
「ただ、ミルディーヌさんの話によるとメンフィル・クロスベル連合に協力するヴァンダール家の人物は当初クルトさんのみの予定だった為、オリエ夫人まで協力の申し出をした事は少々想定外だったとの事ですが…………」
アリシア女王の質問にユーディットと共に答えたシルフィエッタはオリエに視線を向けた。

「な…………」
「オリエ夫人、何故貴女まで自らメンフィル・クロスベル連合への協力を?」
シルフィエッタの話を聞いたオリヴァルト皇子は驚きのあまり絶句し、アルゼイド子爵は真剣な表情で訊ねた。
「幾らヴァンダールの血を引いているとはいえ、次男でそれも成人もしていないクルトだけではメンフィル・クロスベル連合に信用して頂けない可能性も考えられる上”皆伝”にも至っていないクルトだけでは皇女殿下をお守りする事は厳しいと思い、私もメンフィル・クロスベル連合に協力する事にしたのです。」
「…………ちなみに先程リウイ様に確認を取った所、オリエ夫人をメンフィル帝国軍の”客将”として迎えて少数精鋭で動く”鉄機隊”の加勢をさせる代わりにクルトさんをアルフィンさんも所属しているリィン隊に所属させるとの事です。」
「という事は君もリィンの”部下”に…………」
「しかもオリエ夫人は”神速”を含めた”鉄機隊”に加勢を…………」
アルゼイド子爵の質問にオリエが答えた後に説明を補足したシルフィエッタの話を聞いたマキアスとラウラは複雑そうな表情でクルトとオリエを見つめた。
「フフ、ちなみに私もクルトさんと一緒にリィン隊に所属する事になっていますわ♪」
「ええっ!?」
「ど、どうして貴族連合軍の”総主宰”までリィンの部隊に…………」
そしてミルディーヌ公女が口にした驚愕の事実にその場にいる多くの者達が驚いている中、アリサは驚きの声を上げ、エリオットは不安そうな表情でミルディーヌ公女を見つめた。

「色々と理由はありますが、一番の理由はメンフィル帝国に対する内戦の件でのカイエン公爵家が犯した”罪”を許して頂く一環としてエリス先輩ご自慢の”リィンお兄様”の側室の一人にして頂く為に、”リィンお兄様”直属の部隊に所属してリィン少佐との仲を深める為ですわ♪」
「……………………」
「ハアッ!?メンフィル帝国に許してもらう為に、何であんたがリィンの妻の座を狙っているのよ!?」
「それも”正室”ではなく、”側室”とはね。もしかして皇女殿下やエリス君に遠慮しているからかい?」
ミルディーヌ公女が口にした驚愕の事実に再びその場にいる多くの者達が驚いている中アリサは驚きのあまり口をパクパクさせ、サラとアンゼリカは困惑の表情で訊ねた。
「勿論それもありますが、内戦でクロワール叔父様がメンフィル帝国に対して犯した罪によって”カイエン公爵家”自体にも怒りを抱いているメンフィル帝国の溜飲を下げて頂く為ですわ。」
「メンフィル帝国の溜飲を下げる為にリィンの側室に…………?」
「増々意味がわかんないんだけど、一体どういう事?」
ミルディーヌ公女の答えにガイウスが不思議そうな表情を浮かべている中、フィーはジト目で指摘した。

「…………確かシュバルツァー男爵閣下はリィン少佐を養子にした件でエレボニア帝国の貴族達に随分と”色々と”言われて疎まれるようになった為、以後滅多にエレボニアの社交界に顔を出さなくなったそうですわね?そんなリィン少佐がエレボニア帝国貴族が誇る”尊き血”の中でもアルノール皇家に次ぐ”四大名門”の一人――――――それもエレボニア最大の貴族である”カイエン公爵家”の血を引く私を正室どころか、側室として迎えればリィン少佐やシュバルツァー男爵閣下に対して罵詈雑言を口にしたエレボニア帝国貴族もそうですけど、何よりもクロワール叔父様にとって最も屈辱的な事実でしょう?」
「なるほどね。確かに平民の存在をバカにしていたカイエン公にとっては自分の親戚が”尊き血”を引いていないリィンの正室どころか、側室として迎えられるなんて事実はこれ以上ない屈辱的な事実でしょうね。――――――ましてやリィンは自分の野望を打ち破った超本人でもあるのだから、それこそカイエン公にとっては処刑されるよりも辛すぎる出来事なんでしょうね。」
「そ、それは…………」
「あ、貴女…………!リィンがその件でずっと悩んでいた事も知らずに――――――いえ、エリスさんとも親しいんだったら知っていたかもしれないわね。リィンが自分の出生の件でずっと悩んでいる事を知っていながら、それを利用するなんて、そのあまりにも自分勝手な理由でリィンと結ばれようとするなんてリィンにもそうだけど、アルフィン皇女殿下やエリスさんに対して何も思わないの!?」
ミルディーヌ公女の説明に仲間達がそれぞれ血相を変えている中セリーヌの推測に反論できないエマは複雑そうな表情で答えを濁し、アリサは怒りの表情でミルディーヌ公女を睨みつけた。
「フフ、アリシア女王陛下達もいらっしゃるこの場で私的な理由による論争をするような、アリシア女王陛下達に対して失礼なことをするつもりはございませんわ。――――――それにしてもリィン少佐に対して随分と気があるように見える発言をしていましたが…………そのご様子からすると、貴女がエリス先輩や姫様の話にあったイリーナ会長のご息女の方ですか。フフッ、もしよろしければ、貴女もリィン少佐の部隊に配属できるように取り計らいますわよ?将来リィン少佐と結ばれる者の一人として、お互いリィン少佐を支える身として仲良くしたいですし♪」
「ミルディーヌ、貴女ね…………」
「余計なお世話よっ!!それにリィンは貴女みたいなあからさまな政略結婚目当てな女なんか相手にしないわよ!」
「やれやれ…………皇女殿下に続いてミュゼ君までとは、こんな時にもモテるとはさすがはリィン君というべきかな?」
「今はそんな事を気にしている場合じゃないよ、アンちゃん…………」
微笑みながらアリサに問いかけたミルディーヌ公女の言葉にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ユーディットは呆れた表情で頭を抱え、アリサは怒りの表情で反論し、疲れた表情で呟いたアンゼリカの言葉にトワは呆れていた。

「…………色々と話は逸れましたが、本日はメンフィル・クロスベル連合の協力のご提案をする為の挨拶に来ただけですので、この場で回答して頂く必要はございません。」
「――――――”不戦条約”を掲げた貴国が戦争に加担する事に対しての回答を決める事はすぐにできない事は私達も承知しております。ですので、私達は今後何度も日を改めて貴国を訪問する予定ですのでメンフィル・クロスベル連合への協力の回答については貴国が結論を出した際に答えて頂きたいと思っております。」
「勿論、メンフィル・クロスベル連合への協力を拒否されても、戦後メンフィル・クロスベル連合はリベール王国とは友好な関係を保ち続けるつもりとの事ですので、どうかご安心ください。」
そして気を取り直したシルフィエッタ、ユーディット、ミルディーヌ公女はアリシア女王に会釈をし
「…………我が国の為に色々と考えてくださり、心より感謝いたします。本日は多忙な所、はるばるリベールにまで足を運んで頂き、誠にありがとうございました。」
アリシア女王は三人の話に対して静かな表情で答えた。
「――――――それでは私達はこれで失礼致します…………っと、そういえばミレイユさん。確かギュランドロス陛下達からⅦ組に所属している人物の伝言を頼まれていると聞いていますが…………」
「あ、はい。――――――トールズ士官学院特科クラス”Ⅶ組”所属ガイウス・ウォーゼルさんはこの場にいるかしら?」
「ガイウスはオレだが…………ギュランドロスさん達は一体何をオレに伝えたのだろうか?」
ユーディットに促されたミレイユに名指しされたガイウスは一歩前に出て不思議そうな表情で訊ねた。

「ギュランドロス陛下、ルイーネ皇妃陛下、エルミナ皇妃陛下、そしてパティルナ将軍からそれぞれ貴方に向けての伝言よ。ギュランドロス陛下からは『オレサマの感では今回の戦争、ガイウス、お前は生き残る事ができるから安心していいぜ!』、ルイーネ皇妃陛下からは『もし”戦場”で相対する事になった時に、死なない程度に痛めつける事は許してね♪』、エルミナ皇妃陛下からは『ギュランドロス様の妄言を信じず、故郷に帰って家族や故郷の人々を守った方が貴方の為ですよ、ガイウス』、パティルナ将軍からは『”戦場”で相対する事があれば、トールズ士官学院で学んだガイウスの全てを遠慮せずあたしにぶつけてきな!』という内容が貴方への伝言よ。」
「な、何か一部とんでもなく物騒な伝言があるんだが…………」
「というかエルミナ皇妃だったかしら?皇妃が皇帝の言葉を”妄言”と言い切るなんて、意味不明よ…………」
ミレイユが口にしたギュランドロス達の伝言の内容にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいている中マキアスは表情を引き攣らせ、セリーヌは呆れた表情で呟き
「フフ、どれもあの人達らしい言葉だな。――――――ギュランドロスさん達の伝言、確かに受け取りました。それとギュランドロスさん達に『定住の地を見つけた事、おめでとうございます』と伝えておいてください。」
「ええ、必ず伝えておくわ。」
ガイウスは苦笑した後ミレイユに伝言を言づけ、ガイウスの言づけにミレイユは静かな笑みを浮かべて頷いた。

「では私からも一つ…………いえ、二つ程言い忘れた事がありますので、その二つを言っておきますわ。――――――メンフィル・クロスベル連合に協力する我が軍の名前は”貴族連合軍”ですと内戦の件で外聞が悪い事を考慮して、貴族連合軍改め”ヴァイスラント決起軍”と名乗っています。そして私の愛称はアンゼリカお姉様も先程口にされた”ミュゼ”ですので、次にお会いする事があれば、どうか私の事は”ミュゼ”と呼んでください♪」
ミルディーヌ公女は周囲を見回してウインクをし、ミルディーヌ公女がウインクをする際に口にした言葉にその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて脱力した。
「――――――それでは今度こそ失礼致します。」
そしてシルフィエッタが3人を代表して退室の言葉を口にした後護衛達と共に謁見の間から退出した――――――

 
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