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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第15話 距離を詰め直してみたり

 ――side震離――

 訓練のレポートや、訓練で使用したカートリッジの報告、加えて割り振られている仕事――書類整理や、単純な事務職等などやることは多い。
 でも、正直この時間は嫌いじゃない。何も考えずに処理出来るのは頭の整理に繋げられるし、気持ち的にも楽なところだ。
 
「……はー……見れば見るほど分からない……何このブーストシステム……なんでこんな……もう」

 近くでシャーリーさんが頭を抱えているのさえ無ければ。
 普段はデバイスルームでの作業なのだけれど、フェイトさんの補佐官でもある以上、そちらの仕事もしなければならない。
 
 でも。
 
 それ以上に昨日の響の使ったブースト……10年前に組まれたエクセリオンモードの試作の更に改良を施したシステムに頭を悩ませている。
 理由は単純、現在シャーリーさん達もエクセリオンモードの改良をしているが、それはミッド式ではなく、近代ベルカ式に合わせるための改良プラン。
 それを組み立てている最中だと言うのに、形は違うけれど既に存在するという衝撃と、その使用方法が本当に身体強化にのみ振られている事に頭を悩ませていた。
 それが唯の強化ですめばよかったけれど、あいにく、響のは心臓の強化、それに伴う血圧上昇に耐えれるだけの強化と、五感の強化に極振りされている。
 その上、オリジナルからかけ離れているからこそ、これをモデルにするわけにはいかない。
 しかし、基礎位なら使えるんじゃないかと思ったら全然使えない、むしろなんでここまで強化しているんだと余計に頭を抱えている。 

 理由はシンプル、なんでこんな無茶なシステムを組んだんだ、と。
 そしてそれは、割と結構な頻度で口から漏れてるので……。
 
「……そうしないと、あのバカは自力でそれをやりかねないから、システムという枷、セーフティを作ったんだよ」

「……え? えぇ?! なんでぇ!? だって、そうしないと戦えないから組んだんでしょう!?」

「シャーリーさん静かに。皆見てます」

 向かい側で叫ぶシャーリーさんを制しつつ、周りを見れば皆見てる。だけど、特に何事も無いように戻っていくあたり慣れているなぁと。
 というのも最初期の頃、事務の育成として、煌や時雨達が頑張っていたせいで慣れたらしい。
 まぁそれはさておき。

「だ、だって。切り札だから無茶してるシステムなんでしょう?」

「うん。無茶なことするから、だからそれ以上出来ないように、システムで制御するようにしたんだよ」

 ……この問題はちょっと根深いんだよね。
 
「もっと言えば……あのバカは。カートリッジさえあれば、手動でアレと同じことが出来る可能性があったから。その前にそれと同じで、それ以上強化されないものがあのシステム」 

「……あ。そういう……え、でも、普段使えないようになってたのは」

「私が預かってたからだよ。簡易カートリッジシステムの銃と一緒に、システムのベースは響のデバイスに、その起動データは私の所に仕込んでたし。
 ……それくらい厳重にしてたんだけどね」
 
 普通にやっては……手には届かないモノに、触れようとするための力。
 まぁ……。
 
「良くも悪くも最後だって決めてたから、あのタイミングで使ったんだろうけどね」

「……うん、本当に最初っから勝ちに来てたら、あれ使ってたよね」

「あはは、違うよ」

 思い返すのは、響が思い描く理想形。叶わない願いの事。
 
「使う気なんて無かったんだよ。申し込まれてから一日掛けて、フェイトさんに勝つシミュレーションしたけど。何しても勝てないって分かっちゃって。
 でも、切り札(ザンバー)を使われた時に、全部を使って勝ちたいって願っちゃったんだよ」
 
 あの日、朝一番に顔を合わせた時に言っていた。
 
 ――駄目だ、逆立ちしたって勝てないってわかった。だから使わないと思うよ多分。
 
 だから、カートリッジシステムを要らないと言ったけれど、あればきっと使うだろうと私が持たせた。 
 そして案の定、ザンバーからの一打をギリギリ躱して、でも掠って動けなくなった時点で発動させて……皆心配したけど。その時の響の顔で察してくれた。
 
 だってさ。昔言ってた自分では絶対に叶わない、理想形そのものと全力で手合わせ出来るんだもん。そりゃ本気でやるよね。
 
「……あんな無茶なシステムを使ってるのを見て、私がやろうとしたのって間違いだったのかな」

「そんな事無いよ。シャーリーさんが皆を想ってやろうとしたの間違いではない。
 私もそれを知ってたら同じことしてたかもしれないし、今回の場合はあっちも思うところがあったんだしさ」

 あらら……何時も明るいシャーリーさんがわかりやすく落ち込んでるなぁ。
 そう言えば、私らが出てる間に響がなんか言ったらしいからそれでなんだろうなぁ。
 
 あの時のティアナは、強さを求めた。でもそれは今ある武器じゃなくて、わかりやすく付け焼き刃の強さを求めちゃった。
 まぁ、そこからそれを実践できるだけのスキルを即席で作って、まだ完全じゃないのにそれを実行して……空回っちゃった。

「……まぁ指揮を取る人ってちゃんと出来てるのかって自覚し辛いし、自分が味方の負担になってるんじゃないかって悩むし、このタイミングでティアナがそうなって、大丈夫なんだって自覚出来たのは良かったと思うよ」

 ……響だってそうなった時があったもんなぁ。
 だから、私達は――
 
「……震離が、なんか頭良さそうなこと言ってる……」

「あ、フィニーノさん、もう話しかけないでくださいね?」

「冗談だよぉおお! 待ってぇええ!」 

 失礼しちゃうわー。バカだと思うけど、決して阿呆なんかじゃないし。

 で。
 
「所でさぁ……なんで震離達は私のことさん付けで呼ぶの……同い年なのに……シャーリーさんって」

「そりゃ呼びやすいからだよ。しかたなし」

「……響からは名字だし……いろいろ話聞かないといけないのになぁ」

 まぁ、響はそのうち元に戻すだろうけど、いろいろ話をっていうのはなんだろう?
 そう言えば、なんで響のあのシステムを見ていたのかな?
 
 あ、もしかして……。
 
「響用にデバイス組んでたり……する?」

 今までこちらを見てたシャーリーさんが、ゆっくり自分の席について。

「……イヤ?」

「下手くそかな? まぁそれはいいとしても、あのシステム別に積まなくていいと思うよ。元々殆ど使ってなかったし、本人もしんどいからって封印してたような物だし」

「……だよね。でもなぁシグナムさん次第なんだよぉ……なかなか話が決まらないみたいで、難航してるし。ついにはフェイトさんとの試合データ持ってったし」

「……何してるんですか?」 

 まぁ、それはあっちの領分だから触らないで置こう。デバイスマイスターの資格は持ってないし、その上でシステムを組んだことを細かく問い詰められたら困るし。
 
「それにしても。連絡おっそいなぁ」

 そろそろ響から何か来る頃合いなのになー。
 
 
 ――sideティアナ――
 
「……え? 響があのブーストを作った理由?」

 スバルがなのはさんに質問をして、奏がエリオとキャロの面倒というか、仕事の手伝いを終えたタイミングで気になってた事を質問してみる。
 当人に聞いたら早いんだろうけど、多分躱されてしまう。それに、その事以外で話をしたいし。
 
「……へぇ」

 ニヤリと笑みを浮かべられた。やっぱり駄目かな? 

「まぁ、それは冗談としてさ……同じだよ。あの人もティアナと同じ様に悩んで、力がない事を悔やんで、望んだ場所には行けないって諦めたくないから、付け焼き刃を求めた」

 ……響も私と同じ様に。よく考えたらそうよね。震離とかいう、気がついたら魔法を真似てる人に、奏っていう近距離も戦える中距離職。その中で接近しか……あれ?
 
 役割がぜんぜん違うのに悩んだ? 幼馴染と比べてランクを上げれない事を恥じた? いや、そういうタイプに、Aーという事を不名誉だと考えてる?
 
「フフ、ティアナが思ってるのは多分違うかなー。別に私らと比べてって訳じゃないよ。シンプルに求めた。
 響は……ううん、響も欲しがった、全てをねじ伏せるシンプルな強さが欲しいって」
 
 どことなく寂しそうに、悲しそうに言う。
 
 確かに……私もそう在りたいと思ったことは有る。
 
「でもね。あのプロトタイプと言うか、それを使っても……響は基準を満たすことが出来なかった。
 デメリットアタッカーでも、身体強化の延長線だもの。
 だけど、それでも諦めきれなくて、全てを賭けても……ある程度の相手、六課だと……よくてキャロを正面から倒せるかどうかってレベルだからねぇ」
 
 は?
 
「ま、待って。それは話が通らないわ。だってアイツは」

「それはまだ響の弱点に気づいてないからだよ。まぁ、味方だから使わない手段があるけど。響はとある事をされたら間違いなく詰むよ。
 言ったでしょ、防御が大分固くなってるから歯がたたないと思うって」
 
 ……そこまで言われて気づいた。いやハッキリわかった。
 
「……ただ、硬い防御を維持した上で戦えるなら、それだけで勝てる……?」

 寂しそうに少し笑って。
 
「そう。どこまで言っても火力は上げられない以上、響は今が限界値。特別なことをしなくても響に負けない戦闘なんて沢山あるもの。だから、諦めて指揮の方向を磨くようになった」  

 ……そう、なんだ。
 
「ま、完全に敵と認識して、殺すつもりなら話は変わってくるけど……模擬戦でそれはないしね」

「……あ、確かアンノウンに一撃食らわせたあれ?」

 あの映像見せてもらった時、震離も流も凄かった。でもダメージどころか顔色も変えることが出来なかったのに、響が打ち込んでようやくダメージを与えてた。
 スバル曰く、衝撃を打ち込んだと思うって言ってたけど。そう言えばあれを模擬戦でやってる所を見たことがなかった。 
 
「うん。しかも響の場合は特に痛いから尚の事ね」 

「そうなんだ……あれ?」

 場合はって事は、奏も震離も使える……? 

「ま、ティアナは……皆はちゃんとなのはさんから聞いたんでしょ? 将来の完成形というか到達点はこうだよーって」

「……うん。クロスレンジはもう少ししたら教えようってしてて、でも出動は今すぐあるかもしれないから、今あるものを磨いて、確実になったらって」

「うん。響や震離はどう捉えてるかは知らないけど。私はティアナを見てて素直に思ったのは……なのはさんの後継者だなーって」

「……えっ?」

 まって奏。後継者? 私が? なのはさんの? え……。
 
「……何の冗談?」 

「いやいや。ティアナは知らない? なのはさんって、センターガード志望の子にいろいろ教えるけど、今みたいに徹底して動くな(・・・)とは教えてないんだよね。
 視野を広く持ち、咄嗟の判断で正確な弾丸をぶつけるのが重要って、私には出来ないし」
 
 ……やばい。いろいろこみ上げて来る。
 いや、でも待って。
 
「奏だって、いろいろ教わってるじゃない」

「うん。速射出来る直射型と、単発のバレットを中心にね。あんまり展開して誘導制御は得意じゃないし……命中率も高くないしね。だから数撃って当てるタイプ。しかもカートリッジを使った高威力の一撃を早打ち乱射かな。
 もっと言えば、私達側にはセンター出来る人が居ないから私が代理してるけど、どっちかって言うと志望はウィングバックだしね」

「えー……じゃあ、チョット待って。もしかして前の部隊じゃ三人で作戦ってあんまり……?」

「うん。良くしてたのは震離と私とで前後張るって言うのが多かったかな。響は後方指揮みたいなことしてたし」

 ……うーわー……少し前の私なら絶対信じなかったけど、今なら分かる。それがベストなんだって。
 今は指揮を取れる人間がいるから、一応前に出てるだけで。本来は本当に下がる事しか出来なかったんだ。
 ということは、私達と初めて会ったあの時は、模擬戦の監修をしてたから単騎で動かざるを得なかったんだ。

 頭痛くなってくる。でもそうよね。そうなるわと納得できる。

「……きっとDSAAにでも出たら、少しはマシなんだろうけど、私達って参加資格は取れないからね」

「え? でもそれはデバイスの問題で……」

「ううん。そもそもとして管理外世界出身だからね。だから出られないし」

「あ……」

 なんというか、聞けば聞くほど申し訳なくなってくる。
 でも……ならなんで。
 
「どうして、この世界に来ることを選んだの?」

 なのはさん達は、程度は違えど魔法と出会ったからこの世界に来ることを選んだ。でも、奏達は……。
 
「え? ()空を飛ぶのに魅せられたから」 

 あ、はい。
 そんなまっすぐに言われたらどうしようも出来ない。
 
「まぁ。こっちの世界に籍移す時、うちの親を説得するのが大変だったなぁ」

「そりゃそうでしょ。籍を移すって結構なことじゃない。奏達は普通に両親がいるんでしょ?」

「うんまぁ……私のところが一番普通の家だから、だからこそ魔法の存在とそれに伴う守秘義務とかで手間取ったなぁ」

 あまり想像は出来ないけれど、大変だったんだろうなーと。私は一人で親戚もあまり強くは反対しなかったし、スバルはワガママというか、空港火災で助けられてから一気に学んで訓練校に入ったって言ってたし。
 エリオとキャロは……まぁ、私が言えることじゃない。
 
 ……あれ? そうすると、事務の4人はどうだ? 奏の言い方だと……皆に含まれるのは響と震離以外も居る筈。それがあの4人? でも前にシグナムさんと戦ってた優夜さんだっけ? あの人はあまり魔力が無いって。
 
 ……まだ何か有る? でも、それを隠す理由って何?
 
『おーい、皆どこに居るんでーすかー?』

「ん? あ、響だ。もっと早くに連絡来ると思ってたのに。はいはいこちら奏、どーぞー」

 ……軽いなー。響の声から察するにちゃんと断ってきたと思う。サウンドオンリーだから表情は分からないけど。
 
『や、訓練してるんだろーなーと思ったら誰も居ねーって、で連絡入れた』

「今日は午前だけで、午後から事務整理。あ、明日から流復帰だってよ」

『早くねぇー? まぁいいかー。あ、誰かいる?』

 誰かって曖昧ね。
 
「え? あぁ、フェイトさん外回り、シグナムさんとヴィータさんが、他の部隊からの要請で外出てて……なのはさんとはやてさんなら居るはずよ」

 それで分かるんかい!
 
『あー、はやてさんに渡せばまぁいいかー。すまんがティアナ達にさー声かけて休憩室に来てって伝えてくれるかー? いろいろあってアイスもらってきたんだわ。
 あ、でも地球産だけど食うかね?』
 
 確認を取るように私の顔を覗き込む奏に、首を縦に振る。
 
「問題ないって」

『了解。一応択としては、食うか食わないか、もしくは二種類食べるか。さぁどれだって聞いておいて』

「へー、ちなみに何味?」

『チョコチップとチョコミント、帰りあんまり暑いから一本食べたけど美味かったよ』

 へー、そう言えば他の世界のアイスなんてあんまり食べたこと無いわね。
 
「へーまぁいいや。了解、そっち行くよ。そんなに無いでしょ?」

『や、箱でもらったから、FW組に配ったら事務に投げようかと。FWだけよ、二種類食えるかどうかって選択肢あるの』

 え、箱!?
 
「箱!? ま、まぁ……うん、とりあえず行くよ。じゃ、また」

『あい、また』 

 ……おかしい。ただ断りに行ったはずなのに、なんでアイスを……しかも箱で貰うって、何してんのよ。
 
「じゃ、いこっかティアナ?」

 グーッと背伸びして、私の方を見る。
 
 本当に不思議だなと思う。
 階級は上で、歳上なのにあまりそれを感じさせないようにしてるし。グイグイと来るスバルや、ギンガさんとはまた違うタイプの人。
 
「ティアで良いわよ。さ、行きましょ」

 ……言ってて恥ずかしくなってきた。
 奏の横を通った時、一瞬驚いたような顔をしてて、
 
「うん。私チョコチップ食べるけど、ティアはどうするの?」  
 
「んー……私はチョコミント食べようかなって」

「どっちも食べたいけど、カロリーがねぇ……」

「気にしないでも良いんじゃない? 十分細いでしょ?」

 こんな会話……本当に久しぶりだな。
 
「……や、食べたら身になるタイプで……特にお腹とかに」

「あぁ……何をどうしたら胸に行くとかわからないわよね」

「……ホントよ。私の周りには、なんか胸に行く魔人と、鍛え抜かれてスレンダーで最強な人と、バランスに振ってんのかなって言う子が居るのよね……辛いわぁ」

 ふふふと、黒い影をまとう奏を横目に、言われた人を思い返す。バランスに振ってる子は、震離だろうけど……先の二人は誰だろうって。
 
 胸に行く魔人……は、多分事務の幼馴染だって言う時雨さんと、スレンダーなのは紗雪さん……? あまり話したこと無いのよね。 
 
 ……今度話を聞いてみようかな?
 
 
 
 ――sideなのは――
 
「……え!? 閣下と……会った……? なんで?」

「さぁ? 正直クビが飛ぶかと思いました。本局の空気なんか最悪でしたし、そんな中で閣下と面会、死んだなと思いましたし」

 ……だよねぇ。
 私も閣下とは何度かお会いしたこと有るけど、未だに勝てる気がしない。
 閣下からは儂を超えたなってお言葉を頂いたけれど、それは瞬間的な出力とかの話だと思う。経験値で言えば、まだ足元にも及ばないもの。
 
 それにしても……わざわざ響と会うなんて……やる気がないとは言え、スパイと言うことが割れた? いや、はやてちゃんも警戒はしているけどそれを上に報告はしてないはず。
 強いていえば、密告してきたアヤさんという線も有るけど……その線も薄いと思いたい。
 
 その上。
 
「そして、地球産のアイスを箱で頂けるなんて……恐れ多いなぁ」

「もう気にしないで食べて下さい。少なくとも自分は食べました。暑かったし、お土産って言うならもう好きに食べようって」

 ……まぁ、深く考えたら食べれなくなるもんね。
 
「あ、この事皆に伏せてね?」

「えぇもちろん」  
 
 それにしても……よくよく考えれば本当に不思議な子だなと思う。
 響からスパイだと聞いた後で、シグナムさんから話を聞けば、私が止めに入った時にそれを知らされたらしい。
 ただし、あの時の響は警戒してたし、何より本人もそれを理解してる上で、シグナムさんから問われてそれに応じたとのこと。
 その上で言われたと、これを言えば間違いなく疑うでしょう、そんな筈は無いと言うでしょうと何度も伝えた上で、自身も闇の書事件の被害者の一人だと伝えたって。
 響いわく、自分という灰色に成ってしまった上に、それを信用させるだけの手札が無いと加えて言われたと。
 実際シグナムさんにとって見れば、響が恨んでいないと言っても、完全に信用は出来ない。加えてシグナムさんが響から魔力を……リンカーコアを抜いた以上、恨まれて仕方ないと考えた。
 それが原因で、魔力容量は大きいのに、回復とその限界値が低くなってしまったと考えられても仕方がないと。
 
 でも、シグナムさんの言う通り、手合わせをして、少しでも信用を得られるのであれば喜んでやりましょうとお互いに了承。ほんの短い手合わせでも、もし見つかった時のために響から挑んだようにしますと言われて、あの暴言に繋がったらしい。
 しかも、よくよく聞けば全ての暴言を反転させると、響が言っていたのは唯一つ。あの時、ザフィーラさんとシグナムさんが抑えてくれたお陰で、大分被害が少なくなりましたと言われてて少し照れたらしい。
 
 だけど、思ってた以上に私が早く来てしまったことで手合わせは中断。シグナムさんは、責任を被った響に借りが出来たと笑ってた。
 私も……シグナムさんが誰かと戦ってるって整備の子たちが報告したのを聞いて慌てて行っただけだしなぁ。
 
 それにしても、改めて考えると……響とシグナムさんの邂逅って不思議なところが多い。一つは響が記憶してたことに対して、シグナムさんは朧げにしか憶えていないこと。
 あの事件のとき、きちんと謝罪して回っていたのに響の所だけには行かなかったのはおかしい。加えて当時の響はまだ7歳で、行かない理由が無い。おそらく記憶操作魔法を使われたんじゃないかと……シグナムさんも響も考えているって。
 しかも最後にあったと思われるのが響のお母さん。こっちもこっちで分からないんだよね……フェイトちゃんがこっそり調べてるらしいけど素性すら掴めないって困ってた。
 何より、響以外の2人が魔力を持っていると管理局に確認されたのが7年前というのも違和感が有る。突然魔力を持ったというのなら、分からなくもないけれど、その可能性は少ない。
 でも、確かに7年前まで確認が取れなかったという事実は有る。それも海鳴からあまり往来は無いけれど山を挟んで向こう側。しかもミッド地球支部があるにも関わらずだ。
 
 うーん、まだ隠してますっていうのが分かるけど、なんでだろうね。それに響を含めて7人も同じ場所から来たというのは何か有るはずだし、どうして事務の4人が、事務というか裏方に専念してるかも分からない。
 
「……はさん。なのはさん?」

「……え? あっ」

 気がついたら皆揃ってアイスを食べてた。滅多に……あまり異世界のお菓子を食べたことが無いみたいで、スバルはもちろん、ティアナも美味しいと食べてた。エリオとキャロはフェイトちゃん関係か、割と慣れてる様子。
 
「じゃあ、俺ロングアーチとか、事務の人らに配ってきますね」

「うん、ありがと。そのままはやてちゃんに報告?」

「えぇ。何もありませんでしたよーって」

 あははと苦笑いを浮かべてるけど、呼び出してきた人のこと言わないといけないから大変そう……。 
 スバル達に見えないようにエリオとキャロに追加で3本渡してるけど……あ、フェイトちゃんと一緒に食べてねっていう事ね。
 
 明日からやっと響と流も復帰、ただし響はともかく流は微妙な所。怪我は治ってはいるけど……私としてはまだ早いと考えてる。
 シャマル先生も治りが早すぎるって言ってたし、本人も昔からですって言ってはいたけど……まだ、武装の修復が間に合ってないんだよね。
 加えて、響のデバイスも基礎システムは完成してるけど、肝心の武装がまだ届いていない。
 シグナムさんが心当たりがあるって言ってたけど、なかなか上手く事が進まないらしい。
 後は……奏と震離のデバイスもなんとか工面してあげたくて、システムを組み始めてるけど……予算がなー、後二人分を引っ張り出そうとしたら結構無茶するんだよねーと。
 
 あぁ、このアイス美味しいなー。こういうの実はあんまり食べたこと無いもんなー。
 

 ――sideはやて――
 
「……なんやもー、驚きや無くてもー呆れてくるわー」

「そーですよーもー」

 シャキシャキと、ゴリゴリ君を噛じる中で、リインと響もアイスを食べてる。丁度アウトフレームを最大にしてて良かったわぁ。小さいと食べにくいし。
 
「それはそうと、なんか本局で動きってあったんですか? 大分空気悪かったですけど?」

「んー……特に私のところには連絡来てへんね。朝のニュースの大異動は知ってるんやけど、それ以上はまだや」

「そうなんですかー」 
 
 んー……深く考えすぎ……とは思わんけど、明らかに叩いたらホコリまみれの人たちがこぞって異動とかしてるから、なんか有るんだろうけど。私ん所には何の連絡も来てへんのよね。
 
 眼の前で普通にアイス食べてる響を見ながら思う。
 
「……ホンマに気にしてへんの?」

 くどいと言われそうやけど、それでも聞いてしまう。魔力を奪った事を。
 響の場合、リンカーコアがアンバランスということ、そしてそれは魔力を奪ったからという可能性もある。
 だからこそ、ずっと気にしているんや。 

「……10年も前のことですし、何より魔法に出会う切欠でしたから。それに……」

 シャキシャキと残ったアイスを食べ終えて、 
 
「最初からおかしいって言われてましたから、あんまり気にしてないですよ。
 まぁ、一番落ち込んでた時期に出会ってたら多分恨み辛み言ってましたよ。時期が良かった」
 
 あっはっはと笑う響を見て、冷や汗が流れる。
 やっぱり一時期とは言えあったんやね。
 
「……響は……や、響のお母さんはもう?」
 
 知らないふりをして、あえて聞いてみる。何か情報を引き出せないかと。
 
「……えぇ、7年前に亡くなってます」

「やっぱり厳しかった?」   
 
「魔法と、戦う術を教えるときだけは。あなたは弱いんだから、この程度で泣くならばその道を選ぶのはやめなさいと。
 今思えば、行ってほしくなかったんでしょうね」
 
「へーちなみにどれくらい厳しかったん?」

 あれ? 空気が凍った? リインも気になるみたいやけど、それ以上にアイス食べて頭がキーンとなってるし。

「……怖かったですね……恐かったですね」
 
 ……二度言った。ホンマに恐かったんやな。心なしか若干震えてるみたいやし。
 
「まぁ、それは置いといてや……裏で糸引いてる人、教えては……貰えへん?」

「や、無理ですね。俺ら以外に何されるか分かったもんじゃないですし」

 ……うーん、やっぱり無理か。響達以外にって言うのは引っかかるけど、それ以上は聞かないでって事やろうし。
 
「ま、何にせよ。何か本局での事分かったら教えるよ」

「それは……まぁ、助かりますが。良いんですか? 空曹ですよ?」

「ええよ。だって、お互いに口は堅いやろ?」

 なるべく笑顔で言ってみると、豆鉄砲を食ったように目を丸くしてから。
 
「えぇ、まぁ。でも自分の口は軽いですよ」

「その辺の分別はついてるやろ?」

「……意地が悪いですね」

「……お互い様や」 
  
 いろいろと、な。
 あ、せやせや。
 
「響。ほんま申し訳ないと思うんやけど。明日明後日なー、ちょお行ってほしいところが有るんやけど?」

「出張ですか?」

「や、日帰りやから外回り扱いやね。手当はつけれへんのは申し訳ないんやけど」

 えーって顔してるんがちょっとおもしろい。ほんまは手当をつけて上げたかったんやけど、行ってもらうのは2つ理由があって。
 
「まぁお願いする内容は、とある人物にデバイスをアップデートしたのを渡してほしいのと、そのままそこでちょっと捜査のお手伝いやね」

「はぁ……まぁ、良いんですか? 懲罰房と自宅謹慎を計1週間食らった人間外に出して? 無いこと無いこと囁かれますよ?」

「平気やよ。だって行ってもらう所は私の師匠筋。なんか最近変な所でガジェット出てきてるらしいから、ちょっと手伝ってほしいんやって」

「あ、なるほど。フェイトさんが別件で動かせないからとか?」

「そうそう。あとは協力要請依頼してる所やからね、手伝える時は手伝おうって決めとるんよ」  
 もしかすると別視点を持ってる人なら、あっちの捜査も進展するかもしれへんしね。
 
「了解です。そしたら自分はこの辺りで。明日出発前にそのデバイスとか渡されるんですよね?」

「そや。響のメールに一応の概要送っとくから」

「わかりました。それでは失礼しました」

 退室する響を見送りながら、手元の――かつて響たちが卒業したという訓練校の資料を展開。
 
「はやてちゃん、それ……」

「うん、現時点での資料。響達三人は警邏隊へ、事務の四人はそれぞれ二人組に別れて行った」

 でも、もう一つ。ロッサに頼んで調べてもらった消されたデータを展開して。
 
「……七人、いや八人(・・)全員九ヶ月で途中中退。その後三ヶ月の短期プログラムを受講後消息不明、二年前に経歴が現在に書き換えられた、と」

「……なんでここまでしたのか分からないです。そして、短期プログラムを受けた後の三年はどこにいたんでしょう?」   
 
「何かトラブルに巻き込まれた、としか分からへん。この情報は一旦私とリインだけで預かるよ」

「……はいです」

 展開されたモニターには、全員Bランクだったのがそれぞれ消えていた。
 この情報も真偽は不明やとロッサは言うとった。管理局のデータベースやなくて、断片データを集めてようやく出てきた情報やと。
 唯の空曹や一士にする処置やないんやけど。それをされるだけの何かがあったか……。
 
「ま、もうちょっと様子見や。調べないとあかん事は山ほどあるし、明日は教会から一人お使いで来るみたいやし」

「あ、シスターシャッハの後輩さんなんですよね?」

「せや。そのシスターアーチェが明日来るんよ。カリムからの依頼を持って。もしかしたらレリックかもしれへんし、そうじゃなくても行かないといけへんし」
  
「そうですねー。やることは多いですぅ……」

「せやなぁ。頑張ろうなー」

 その任務を受けるまでに、流のデバイスの修復と、響のデバイスの完成が間に合ったらええんやけど……難しいやろなー。
    
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  
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