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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第10話 信じる理由



――side響――

「……はい? 怪我?」

「そう。あれだけ(・・・・)血を出してたら、響も辛いでしょう?」

「……いや、あの……え?」

 残骸調査中にヘリのカーゴで待機してるシャマル先生に呼び出されたかと思えば、開口一番、怪我をしたんならちゃんと治療をしないと! となんか怒られてる。
 
 確かに。怪我……というか、自傷というか……拳握ってたら血が出たのは事実だけど。
 ほんの少し……流とかに比べると無いようなもんだし。
 
「確かに怪我……は、まぁしてますが。そんな大したもんじゃないですし」

「嘘よ。だって、地下駐車場(・・・・・)に貴方の血があったのよ?」

「……はい? 地下駐車場なんて、最初に行ったっきり、行ってませんよ?」

「え?」

 シャマル先生と顔を見合わせて首を傾げる。
 アグスタに到着して、最初にエリオとキャロとで下見をした。どこに通路があって、逃走経路予想とか立てたりいろいろしたが……。
 
 地下に俺の血? なんで? は? それ以前に。
 
「なんで俺の血って……あぁ、簡易血液検査というかデータと一致したんですか?」

「……えぇまぁ。だけど……どうして? そこそこ出血量だったわよ?」

「そこそこ出血してたら、そもそも残骸調査になんか出ませんよ?」

「……そう、よねぇ」 
 
 えー……まぁ、アグスタ側の監視カメラのデータもらうか。適当に理由つけて……どストレートに、ホテル側に提出してたこちらの警備分布図が漏れたからとか理由つけるか。

 あ、そうだ。
 
「そういや、ロングアーチと、シグナムさんから聞いたんスけど。震離達を隔離してた結界割れた時、なんか変な反応があったって聞きましたけど」

「えっとぉ。2つあったの。1つはレリックに酷似した反応が一瞬全域に出ていたというのと、繰り返し起きてた転移反応。でもこれは――」

距離瞬間移動(ショートジャンプ)だったんですよね? アンノウンが使ってましたね」

「断続的に起きてたから、おそらくはーって。ただ、あの一瞬、結界が破壊した瞬間、監視カメラも何もかもが一瞬飛んだみたい」

「……へー」

 ……そういやマスクマンがなんか言ってたなぁ。目的は果たしたって。
 最悪、裏取引があったと考えて動くのもありかな。
 だが、それを狙って取引したっていうのは無理だろうなー。流も分かってて結界を壊したっていうならいざ知らず、タイミングが読めない以上無理だろ。
 
「とりあえずまぁ戻りますね」

「えぇ。私も気になることがあるから調べてみるわ」

「了解です。それでは」

 一礼してから、外に出た階段使って下りながら思うことは一つ。
 
 ……地下駐車場に俺の血? しかも決して少なくない量が? え、なにそれ怖いし。それ以上にさ。
 
 確実になんか疑われる……というか、少なからず思われるよね?
 
 なんて考えてると気がつきゃホテルのロビーまで来てて、ふと流されてたニュースが目に入って。
 
 ――あぁ、やっぱ何かがあったんだなぁと。
 
 目眩がするほど頭が痛くなりました。
 
 

――sideはやて――

「……そんなん。冗談じゃない!!!」

 本局の上層部から通信が来たかと思えば、とんでもない事を言い出しおった。
 
 ホテル・アグスタが襲撃された事件は、無人兵器を使用されたが、その場を警備していた機動六課の手により、無事に(・・・)鎮圧処理されたということにする、と。
 
「現に重体一人、重症一人を出しているんです! アンノウンはガジェットと共に出てきた以上それは!」

『……聞き分け給え八神君。それ以上に教会のガルサ氏は無事で、カレドヴルフ・テクニクス、ヴァンデイン・コーポレーション。無限書庫のスクライア司書長にも怪我がなく、他のゲストも無傷である以上……無事に(・・・)鎮圧処理されたで良いではないか』

「それは!」

『それとも。圧倒的な敵がおり、エース・オブ・エース(高町なのは)が所属する機動六課は辛くも勝利しこれを処理。とでもマスコミに流せば君は満足なのかい?』

「……ッ!?」

『それに君たちというカードがあったからこそ。敵はホテルまで来なかった。だから引き下がったと解釈することも出来る。違うかい?』

「それは結果論です! あの時、出撃出来ていれば……」

『とにかく。あまり世間に……ミッドに不安な情報を流したくないのだ。ただでさえゲイズ中将と仲が悪いのだから。
 この話はこれで終わりだ。失礼する』

 一方的に通信が切られ、個室には痛いほどの静寂が包まれる。
 
 本局の上層部が決めたこと。それは流と震離が敗北したという事実の隠蔽。
 オークション会場を襲撃こそされたが、何の問題もなく。管理局は強いという事実のみを全面に押し出すことにしたということ。

 意味は分かる。自身の固有戦力(・・)以外にも、教導隊の若きエース(なのは)若手執務官のエース(フェイト)が居る以上、そういう役割を背負わされると。
 
 そして、それは既に……管理局にいいように捩曲げられた捏造情報を公開されているという事を……二人は切り捨てたということを。
 
 分かっている。
 それが組織で、これが現状なのだと。既に決定は下され、もう覆らないと分かっていても。
 
「……あんまりやないかぁっ!」

 白いものでも黒と言えば、それは黒になる。それが組織であり、今の管理局である。
 
 本当は二人を出撃させてやりたかった。だが、お偉いさんが居る会場を空けてはいけないと、命令が来た時点で先手を打たれてしまった。
 だから、フルメンバーで出てきた。隠し札として置いているザフィーラも前に出したというのに。
 結果、二人……うち一人は嬲り者にされ重症に。教会御用達の病院で治療を受けたが、直ぐに六課に戻されるという事に。
 理由は単純、マスコミに嗅ぎ付かれる恐れがあるからと。本局から持っていった医療設備もあるだろうと。
 そんな理由で、完全な治療を受けさせる事も出来ないそんな自分が、たまらなく悔しく、情けない。
 
 そんな現状を変えたくて、だから機動六課(夢の部隊)を作ったというのに。 
 
 こんなのって……!
 
――side響――

「なるほど。途中からガジェットが強化ね……それでも抜かれなかったのは流石」

「……そんな事……ない」

「……ティアさんのフォロー出来なかった」

 なんとか時間を作って、残骸調査を終えて、エリオとキャロに話を聞いているけれど……まぁ、分かりやすくショックを受けてる。
 もちろんガジェットの対応が出来なかったこともあるが、それ以上に……。
 
 ――ティアナの事で完全に歯車が狂ってるな、と。
 
 本当は最初にティアナとスバルと接触しようと思っていたが、どうにも見つからない。奏なら見つけられると思うが、アグスタ内の治療室に居る震離に着いてもらってるからそれも出来ない。
 ま、結果的にエリオ達から話を聞けて良かった。まだ……まだ10歳なのに、ここまでへこませるなんて相当なことだし。
 
 ……ちょっと聞きたいこともあったが、今は無理だなー。そして、それが……予想通りだとしたら、結構不味いぜこの問題。
 
「……さて、ちょっと切り替えて行こうか。今回ぶっちゃけ俺ら戦術的敗北したけど。俺としてはエリオ達が踏ん張ってくれたから、完全敗北には繋がらなかったと思う」

「「……え?」」

「なんで? って思うかもしれないけど、一番ガジェットが……I型みたいな機動力で攻めてくるのが集中してたのは皆の所。もし、早い段階で抜かれたり瓦解してたら、それをフォローするために、俺もそこに行ってた。
 でも、その連絡が無かったから俺は震離達が居るであろう場所へ足を進めることが出来て……結果論になるけど、殺されるのを防ぐことが出来た」
 
 ポカンとする二人の頭を撫でながら続ける。
 
「……ぶっちゃけな。多分結界が割れたっていう事もあるけど……震離だけなら、おそらく負けてた。俺も相対したけど勝てる目は無かった。
 皆が頑張ってくれたから、俺はあの一瞬に割り込めて、震離が流連れて撤退出来て……結果流は死なずに済んだ。
 それだけって思うけど、人命護れたって大金星よ? ……まぁ、その金星貰ったの作戦上俺なんだけどゴメンな」
 
「そんな事無い! ……だってティアさん」

「震離さん達の反応が無くなってから余裕が……」

 ……おっと? そうすると、俺の考え間違ってたか? そうすると、無理したのはそれが原因? だから、自分も前に出てツートップにしたのかな?
 
 というか……。
 
「……そうだよなぁ。味方の反応途絶して冷静な奴のがどうかしてるよな。
 ゴメンな。当たり前の事を忘れてた」
 
 そうだよな。ティアナとスバルからすれば、同じコール名の奴に何かあったと思えば、それは焦るよな。
 ……やべ、考え方がまだあっち側だった。
 
「……そう言えばお兄ちゃん?」

「ん? どうしたキャロ?」

「怪我は大丈夫なの?」

「……あー」
 
 また答えづらい所を。実際問題怪我してねぇからな、何ていうかな。
 や、正直に言うか。

「……その件なー。全く以て預かり知らぬ事というか、なんで地下駐車場に俺の血落ちてんの? いろいろ無いこと無いこと言われるから困るんだよね……」

 思わず溜息が漏れる向こうで、エリオとキャロが不思議そうに顔を見合わせてる。
 スッとキャロが手を上げて。

「最初に行った時怪我したとか?」

「そしたら俺間抜けな人になっちゃうなー。」

 続いてエリオが手を上げて。
 
「……襲撃があった時地下駐車場に居たとか?」

「奏と一緒にいたし、オークション会場前だったからそれはないなぁ。
 冷静に考えなくても怖ぇよ。なんで地下に俺の血が……」
 
 やばい。嫌な冷や汗が止まらない。何だよ。ホラーか何かかよ……恐かねぇよ。怖くねぇよ。

 ま、それは置いといてだ。
 
「さ、さっさと仕事終わらせて。流の見舞いに行かねぇと。もうひと踏ん張りするぞー」

「……うん!」

「頑張ります!」

 もう一度二人の頭を撫でてながら、その場を離れてもう一組を探しに出る。
 
 でも、六課に帰るその時まで会うことは出来ずじまいだった。

―――

 機動六課に帰還後、シャーリーさんに連絡を入れて、震離と流のデバイスよりマスクマンとローブの映像を頂く。理由を聞かれたときには次に戦闘になっても良いように研究したいと伝えた。実際はそれだけじゃないんだけどな。

 エリオとキャロにはスバル達の側に居るように伝える。今はなるべく側においておこう、今日の反省とか色々あるかもしれないし。奏は震離の側に。ある程度落ち着いたみたいだけど、まだ不安定だ。あいつ、血を見るのは慣れてるけど、近しい人の血を見るのは昔から変わらない。気に掛けてる子なら尚の事。そうでなくても、目の前で斬られたんだ。冷静でいられないわな。
 皆の報告書を纏めながらメールの受信に気づく。二通入っていた。一つは前の部隊長――ティレットさんからの連絡、内容は近状に関して。向こうは俺達3人が抜けて大変だとの事。煌達4人が元気かの確認。
 そして、もう一つを見て。心底嫌になった――

 六課の状態を報告されたし

 たった一言。だけど、すぐに返信用のメッセージを作成する。万が一六課の人間にバレても問題ないよう細工を仕込んで。

 機動六課に上層部から情報操作あり。引き続き調査を続ける。

 下手に隠しても仕方ない、おそらくこれくらいの事アイツも気づいてるだろう。メールをそれぞれ出し終えて、どっちのメールも削除する。

 大きくため息を吐く。そして、思い返すはこの前の事。フェイトさんの告白について。おそらく内容について――人造魔導師の事については本当の事だろう。あんなになってまで、重いことを教えてくれたんだ。嘘だと断じる事は出来ない。それに仕事モードならともかく、素の状態で言ってくれたんだ。疑いたくないのが本音だ。

 だからこそ、何故あのタイミングでそれを教えてくれたのかがわからない。人造魔導師の事だって言っちゃなんだが、告白しなくても良いはずだ。

 詰まる所、何がいいたいかというと。どうしてフェイトさんはあのタイミングでその手札を切ったか? 何故切らなきゃいけなかったのか?

 考えすぎ、かも知れない。疑われてる、かも知れない。だけど、おそらく後者の方だろう。だけど、何故疑われてるのか、それがわからん。だからこそフェイトさんとはやてさんで俺と一緒に仕事をするように手を回したのか?
 
 いかん。頭が茹だって考えがまとまらん。今日は色々ありすぎたとは言え、ダメだネガティブな事しか考えつかん。だめだこりゃ。

 報告書を纏め終えて、ため息が漏れた。さて、ちょっと流の様子を見に行くかね。


 ―――――――――
 
 医務室の前まで来て、少し悩む。というか、向かい出した半ば辺りになんか気まずくなってきた。流に合うのは全然かまわないんだけど、医務室の主であるシャマル先生。
 正直あの人は苦手な部類。おっとりとした人というか、完全に毒が無いっていうのか、そういう人は苦手。まぁ、俺自身真っ黒だから、苦手意識を持ってるんだろう多分。
 コホン、と咳払いを一つ。いざ。

「失礼します」

 ブザーを鳴らして応答を待つ……が、返事がない。もう一度鳴らしてみるが、返事がない。出直そうかな……とか思いつつ、扉の操作パネルを触る。開いた……。という事はシャマル先生はいらっしゃらない? 
 とりあえず、空いたわけだし、医務室の中へ入ると、シャマル先生の作業スペースは電気が消えてる。代わりにベッドの一つがカーテンで閉められている。
 
「あー……流? 入っても……いいか?」
 
「……」

 返事はない。だけど人の気配はある。ちょっと失礼してカーテンを開けて中に入ると、そこには静かに眠る流がいた。
 輸血パック、点滴の管が繋がれ一定間隔で落ちているのが分かる。
 布団で見えない部分は、多分きっとあの中包帯でぐるぐるなんだろうな。突き刺されて内部から爆発。普通は死んでてもおかしくはない……けど。
 
「……ゴメンな」

 眠る流の頭を撫でながら、ポツリと漏れる。
 
 後悔はある。でも……俺では時間稼ぎが関の山だった。まだちゃんと見てないけれど、震離の攻撃をあんなに……魔力刃と、実体剣を叩き込んでいたのに特に反応もないまま冷静に迎撃された。
 多分非殺傷とは思うが、それでもだ。がむしゃらな猛撃を涼しい顔で耐えられたのは、怖かっただろうなぁ……。
 流だってそうだ。震離が剣を持ってたということは、多分……銃だけで戦っていたんだろう。それでも通らなくて……。

 あーため息しか出ねぇ。
 結果的に流はまだ生きてるとはいえ、だ。
 
 流も含めてこの隊は小さいのが3人もいるから、負傷には注意しないと。同じ小さい人……こと、ヴィータさん。いや。ヴォルケンの皆さんに対しては割と心配はしてない。もちろん怪我したらとか思う所は色々あるけれど。昔聞いたことを思い出してからは、そんなもんなんだと思って流してる。
 
 守護騎士システム。元々は夜天の魔導書の担い手と、管制プログラムを守る守護プログラム。その体はプラグラムで構成されており、人格は基本的には無く、そして不老。その気になれば即時回復を行なって再度戦闘可能。
 
 なかなか凄いよなぁ。シグナムさんと初めて出会った時もかなり悲しそうにしてたし。
 
 ゆっくりと流を撫でていた手を離して、医務室を後に。
 そのまま寮の自分の部屋に戻って少し経った後。

「とりあえず。震離と流のデバイスから引き抜いたローブのアンノウンの映像がこれだ。そして、これが俺が撮ってたマスクマンの。ちなみに隊長たちに渡した奴と同じな」

「はーい」

 とりあえず煌、優夜、時雨の3人を俺の部屋に集める。震離と奏はまた後日で、紗雪は別件で。何はともあれ一通り見せるか。話はそれからだ。

 ―――数分後。

「で、全部見たし皆に聞きたい。何か気づいたことは?」

 部屋に座る皆を見渡しながら質問を投げかける。皆手を上げやがった。

「じゃ、一番端に居る時雨からどうぞ」

「はい、そんな質問をする響はどう思ってるの?」

「え、俺?」

 ……なんか見渡すと皆そんな目で俺見てくるし。んだよ。まぁいいや。

「多分皆思ったんだろうけども。これじゃそれほど情報を得るのは難しい。だけど。この動きに俺は、いや、俺ら(・・)は心あたりがあるはず」

「あぁ、あるな。マスクマンの移動技に、流に接近した術に俺も心あたりがある。ただ、な」

 あぁ、そうだな煌。だけど皆まで言わなくていい。そう目で制す。分かってくれたのか頷いてくれた。本当こういう時は助かる。

「正直こんなことで皆を呼んだのは正直申し訳ないと思ってる。だけど、俺だけじゃ決められない」

「だが響?」

「どうした優夜?」

 優夜の声に皆の視線が集まる。その顔はどこか冷たい。その意味は分かっているけど……。

「……正直可能性としてはかなり低いぜ。それでもか? それでもお前はその可能性を見出したのか?」

「あぁ、それでもだ。ちょうど背格好もアイツと同じくらいだ。それに」

 うん、分かってるもしかするとアイツは全く違う奴かもしれない。背格好が似てるだけの奴かもしれない。

「だから、皆に聞きたい。こいつは「リュウキ・ハザマ」かもしれないと思ってるのは何人くらいいるか」

 これが俺の質問の内容だ。

 ―――――――――

 皆が帰った後、ホテル・アグスタから頂いたホテル側(・・・・)の警備図と、参加者リストと、監視カメラの映像を見合わせて。
 
「……はぁ?」

 変な声が漏れた。
 襲撃前に流がよくわからん第三者と接触、親しそうに会話していた事からおそらく親族になるのか? 会話まで聞こえないからわからん。目が覚めた時にそれとなく聞いてみるかな。
 そして、こっち。その流と老婆の会話を離れた所から見てる震離……なんだけど、何だ? なんか一人で驚いたり、なんか過呼吸になったり……まるで誰かがそこに居るような……駄目だこっちもわからん。
 
 で、地下駐車場の映像を見ると、俺の血が落ちてたという場所はカメラの死角だったらしく見えない。
 しかし、結界が割れたその後に、明らかに居なかったはずの人物が駐車場からホテルへ上がり、そのまま外へ出ていくのが確認された。
 しかもよく見なければ分からない、それもカメラの死角をつくように、なるべく映らないようにしているのは明らかに妙だが。
 体のシルエットから、女性のようにも見える。キャスケット帽を後頭部までしっかり被ってるせいで髪の色は分からないし、色付きのメガネで目の色も分からない。
 シルエットで分かるのは、執事服のような格好をしていたが、それ以上に……なんというか胸が出てて……うん。多分きっと、女性なんだろうな-と。
 
 でも妙だ。いつ其処に降りたのか分からないし、ホテルの方に転移反応とかそういった類の反応は無かったはず。あったとすればなのはさん……いや、フェイトさんが動いたはず。それ以外にも護衛で、かの有名なアコース査察官も居ただろうから……誰か反応しただろう。
 だからこの人は前日にはいた事になるが、その割には挙動不審……と言うより、戸惑ってるようにも見える。
 だけど、地下から真っ直ぐ外へ出ていった辺り……何かを盗んだ? でもそういった報告は受けてないしな……駄目だわからん。
 
 えー……アンノウン二人に対して、アグスタには不明な人が女性と、戦闘中に地下に現れてそのまま出てった女性の計二人。
 
 わー……何だよこれ? 不明な人が二人も中に居たって結構大事なんだけど。考えられることが多すぎて絞れないなー。
 前者はまだ……まだ希望的観測として、流の知り合いかもしれないけど。後者は完全に敵の可能性のほうが高い。
 しかもこの女性が出てきた方面って、俺の血が落ちてたって場所。考えられるのはこの女性が俺の血をぶち撒けた? 何のために? ますます意味が分からん。

 仕方ない。ちょっと調べてもらうかね。そのための書式と、データをチップに移して……後は受け取ってもらえるようにメールとばして、と。
 
 ……やべぇな。なにかした……といえば、したけど。それをする前から疑われるであろうこの状況って何だ?
 
 
――sideフェイト――
 
「どう見るテスタロッサ? 私にはどうにも腑に落ちない」
 
 シグナムから渡されたアグスタの地下監視カメラの映像を目を通して違和感を持つ。
 
「……映像だけではなんとも。目的が読めない」

 映像に映るのは黒いキャスケット帽に、きちっとした黒い執事服を纏う女性。
 しかし、よくよく見れば。何かが濡れたように一部の布が濃くなっている様にも見える。
 
「……怪我を隠してる? この人の血? いや、でも……」

「そう。そうすると、この人物は緋凰になる。だが」 
 
「……あの時、響は外にいて、アンノウンの一人と交戦。その後、震離達の所でも二人目のアンノウンと交戦していた。そんな余裕は無い筈」 
 
 ……なのに、地下に響の血が落ちてた。それも決して少なくない量が。
 
 もしかすると……いや、でも。
 
「……可能性を考慮しても良いと考える。私も緋凰には既視感がある。どう転ぶかわからないが……私は――疑う。場合によっては、実力行使も辞さない」
 
「っ、シグナム! それは……!」
 
「……良い奴なのだろう。だが、事前にこちらの警備図を知り、布陣の穴を知っていた。何より二人のアンノウンと接触したのは前線組の中では緋凰だけだ。何故血をと言われればその狙いは分からない」

 確かに。だけど……でも。
 
「……お前が何を持って緋凰に肩入れしているのかは分からない。しかし、現状最も疑わしいのは……風鈴よりも、緋凰だということを頭に入れておけ」

「……でも」

 シグナムの言う通りだけど……でもそれは。
 
「それは結果論です。その理屈ならば奏と震離、流も警備の穴を教えることは出来る。
 あの局面で、誰かが不利益になる何かをしたとは……私は思わない。
 何より。確定するその時までは……疑わしいだけは、罪ではありません」
 
 これが私の今の答え。
 
 シグナムの表情は真剣そのもの。シグナムの言うこともわかる。
 だけど……少なくとも、あの時点の響にそれはないと断言だけは出来る。それ以前に。
 
「シグナム。一つ言っておきます。響は――()は中立ですよ」
 
「……は?」

 そう。あの日言っていた響の言葉の通りなら……。
 
 
 ―――――――――
 
 ―――アナタの本気に返すには、こう返すしかなかった。安心……はまだ出来ないでしょうけど。

 あの日、響に私とエリオの秘密を告げた時に言われた。
 
「……俺は、まだ……あなた方の味方にはなり得ない」

「……え?」

 今の今まで、気恥ずかしそうに笑みを浮かべていたのに……一転して辛く苦しそうにしている。
 どうして? 何があったの? と声を掛ける前に。
 
「……フェイトさん。俺……も、出来るならそちら側に立ちたいです。だって同郷で、決して知らない人たちじゃないんですから。
 まさか、味方側だから善だと、敵側だから悪だと――分からない貴女じゃあるまいでしょうに」 

 ……意図的に言わないでいる。おそらく、詳細を伝えればきっとこちらに何らかの被害が来ると考えてる。それは響にも言えることだ。
 
 だとすれば。
 
「ねぇ響。もし君を――縛るものを解いたその時は。もう一度。ちゃんと話してくれる?」

「……えぇ。その時は是非。あぁそうだ、今回の事、聞かなかったことにします」

「フフ、そうしてくれると嬉しいな。まだ、あっち側なんだしね」

「ははは、えぇ、えぇ。まだフェイトさん達から見れば、俺は敵ですし」

 くつくつと笑う響を見て、私も笑う。だけどね響?
 
「ううん。敵じゃない。まだ、中立でしょう?」

 一転して目を丸める姿は……うん、しっかり年下だね。
 
 ―――――――――
 
「……お前は。結果的に緋凰が良い奴だったから良かったものの。下手をすれば!」

「わかってる。でもね、その後に、響の……いや、あの子達の名前を出した時真っ先に動いたのは。お兄ちゃん(・・・・・)だったって言ったら、どう取る?」

「……まさか」

 驚くシグナムを尻目に、話を続ける。

「うん。その事を伝えた時、ハッキリ言われたよ。彼ら(・・)は現時点では中立だと。ただ、それはどこからなのかは調べてるけれど、と」

「……だとすると、やはり風鈴が?」

「それはわからない。でもねシグナム。訓練の度に、誰かが上手くできたのを見た時に人知れず嬉しそうに笑って、新しいことが出来るようになったら喜んでる子が……そんな事すると思う?」

 今度こそ、シグナムの目が丸くなって。一拍置いて……呆れたような視線を向けてきたかと思えば。
 
「お前は……全く!」

「ちょ……シグナ……いたたたたたた!」

 ガシガシと両手でワシャワシャと撫でられる……あの、ちょっと痛い……。
 
「……よし決めた。すまないがテスタロッサ?」

「な、なんですシグナム? わーボサボサ……」
 
「私はまだ、緋凰を信じきれん。かつてどこかで会ったかもしれないという可能性があるからな」

「……や、どこかで会ったかもしれないって、それは武装隊で見たかもしれないって自分で……」

「……あぁ。その筈だと思っていた、が。今日のあの打ち込みを見て、確実に言える。私はアレを受けた事がある。二発も」

「……えっ?」

 待って、打ち込みって……多分二人目のアンノウンに対して響が打ったアレのことだよね……? それを二発も受けたのに覚えて無い? 模擬戦で戦ったとかじゃなくて?
 
「……ま、今から確かめに行ってくる。ではな。応じるであろう手札もあるしな」

「え、ちょ、シグナム!? 待っ……あ、早い!?」

 ブリーフィングルームから出たと同時に走っていったけど。珍しい……いや、そうじゃなくて!
 不味い……色んな意味で。探り合いになる以上、シグナムならきっと大丈夫と思っていたのに。裏目に出て……あ、連絡……え、つながらない。なんで?
 
 
 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  
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