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ある晴れた日に

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519部分:空に星は輝いているがその六


空に星は輝いているがその六

「慣れているからだ」
「慣れているって?」
「どういうことなんだよ」
「何でもない」
 しかし正道はここで話を終えるのだった。彼の方から話を切ったのである。
「ここには昔通っていたことがあるからだ」
「昔ねえ」
「何かしら」
 話を聞いても訳のわからない彼等だった。つい首を傾げてしまう。
「あんた何かおかしいけれど」
「本当に昔か?」
「そうだ。昔だ」
 あくまで昔からだというのだった。
「それだけだ」
「まあいいわ。とにかく部屋には着いたし」
「開けようぜ」
「ええ、それじゃあ」 
 こうして皆でその扉を開ける。すると白とクリーム色の病室の中にベッドが六つ並んでいる。そのうちの一番手前のベッドに田淵先生が寝ていた。
「あれ、皆」
「あっ、先生」
「元気そうですね」
 皆田淵先生が明るい顔を向けたのを見て笑顔になった。
「どうなったかって思ったけれど」
「元気なんですね」
「ちょっとね。左足首捻挫しただけだし」
 先生は自分のベッドの前に来た皆に対して言ってきた。見ればベッドの中に寝てはいるがその左足以外はこれといって怪我はなかった。
「三日間は安静にしてそれだけでいいってことよ」
「三日ですか」
「それだけですか」
「そうよ。三日よ」
 また話す先生だった。
「その間入院してだけれどね」
「とりあえず何ともないんですね」
「左足以外は」
「そうよ、後遺症もなしよ」
 それもないというのである。皆それを聞いて心から安心するのだった。
「全然ね」
「よくトラックに撥ねられたのにそれだけで済みましたね」
「運がよかったですね」
「ええ、本当にね」
 その幸運に感謝していたのは先生だけではなかった。皆がであった。
「奇跡ね。本当に」
「それでその奇跡のお祝いと早いうちの回復願いですけれど」
「これ」
「貰って下さい」
 咲が持っているその包装してある箱を先生に差し出すのだった。それは。
「水羊羹です」
「あっ、有り難う」
 水羊羹と聞いてさらに笑顔になる先生だった。
「先生水羊羹大好きなのよ。有り難うね」
「やっぱりね」
「そうね」
 皆先生の今の言葉を聞いて笑顔を向け合った。
「先生水羊羹大好きだったのね」
「ドンピシャってわけだな」
「よくわかったわね」
 その包装してある箱をにこにことした顔で見ながらの言葉だった。
「そんなことまで」
「まあそれはですね」
「勘っていいますか」
「そうそう」
「それなんですよ」
 皆ここではこういうことにするのだった。勘でわかってということにだ。
「何かね。そうじゃないかなって思ってなんですよ」
「それでだったんですよ」
「そうだったの」
 そして先生もその言葉を信じた。まさか自分が職員室で食べているのを見られてそこから察せられたとは考えなかったのである。だから信じたのである。
 
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