NARUTO日向ネジ短篇
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前書き
性格が反転しているような映画があったと思いますが自分は観ていないので想像上です。二次創作の方とアニオリでなら少し観たことはあります。主に性格の異なる方のネジとヒナタの口調などが多少おかしくとも大目に見て下さると幸いです。二部ネジヒナ。
誕生日にそれらしい話は出せなかったけれど、おめでとうございましたネジさん。2019/7/3
──⋯騒々しい足音と、ふすまを勢いよく開け放ったような音がする。
もう、起きる必要はないはずなのに、誰かに掛け布団を強引に引き剥がされた気がした。
「おいこらネジ兄、いつまで寝てんだよさっさと起きろ!!」
その荒々しい大きな声に、ネジは驚いて目を覚ます。……声のした方に顔を向けると、両手を腰に当て仁王立ちして怒った様子でこちらを見下ろす髪の長い女……が居たのだが、その出で立ちは露出が多く唇には紅を塗っているようで妙に際立っている。
「ほら修行始めんぞ、とっとと支度しろ!」
「………?? 誰なんだ、お前は」
「はぁ? よくそんな口が聞けたもんだな、寝ぼけてんだろネジ兄。── 一発お見舞いしてやるよ!」
素早い掌底が顔面に向けられたものの、ネジが瞬時に避けて立ち上がったのを見て、女の方は不敵な笑みを浮かべる。
「へぇ…? ネジ兄にしてはいい動きしてんな」
「……お前は何者だと聴いている」
油断なく相手を見据えるネジ。
「はん、いいぜ、わざわざ名乗ってやる。……日向宗家次期当主のヒナタ様だ」
「お前が、次期当主の……ヒナタ様、だと…?」
自信満々に答える女に、ネジは呆気にとられる。
「そーだよ、思い出したか寝ぼけヤロー!」
「──お前のような不良娘がヒナタのわけがないだろう」
きっぱりと言い切るネジに、自分はヒナタ様だと名乗る女はキレ気味に反論する。
「あぁン? 言ってくれんじゃねーかネジ兄!? そっちこそネジ兄にしては随分上から目線じゃねーか、いつもなら真っ先にアタシに擦り寄るクセによ!」
「それは俺ではないだろう、どこのどいつの事を言ってるんだ」
「だ・か・ら、アンタだよ目の前のネジ兄……てか何だそのデコ、卍みてーなの……昨日までそんなもん付けてなかったろ」
ネジの知っているヒナタではないヒナタが、先程までの荒ぶった態度はどこへやら、神妙な顔つきで一心に見つめてくる。
「……お前は自ら日向宗家と名乗っていながら、呪印を知らないのか。呪印制度によって分家の額に刻まれるこの印を」
「呪印制度なんてもんは無いぞ、宗家分家には分かれてるけどな」
ネジはその言葉に一層違和感を覚えた。
「呪印制度が無い、だと? 俺の、父は──」
「ネジ兄の親父さんは、任務中に亡くなっちまったんだろ。ネジ兄が小さい頃に」
「違う、俺の父は任務中に亡くなったのでは……」
言い掛けて、ネジはやめた。相手は自分の知っているヒナタでもなければ、呪印制度の存在しない日向家、という事になっているらしいからだ。
「⋯⋯──」
「おい何やってんだよネジ兄、寝ぼけんのもいい加減にしろよ」
ネジは試しに自分の頬を片手で強くつねってみたが、夢から目覚めるような気配はなかった。
「ほれほれどうしたよネジ兄……、いつもなら真っ先にアタシの胸に目が行くくせに」
大きな胸元を見せるような低い姿勢で上目遣いをしてくる別人のヒナタに対し、ネジは顰め面で顔を逸らす。
「んだよつまんねーなぁ、アタシの知ってるネジ兄はアタシの事がだぁい好きなのによ。アタシっつーか胸か? ま、どっちでもいーけど」
「お前の知っている俺ではないなら、警戒すべきだろう。……その不良じみた態度といい、宗家としての自覚が無いのか」
「んなもんどーだっていいって。次期当主だってアタシがなる必要はないけど、うちのネジ兄は柔拳の覚えが悪いしアタシの妹は病弱だし……、完璧な回天を使うアタシを上回る奴が一族の中で出て来ないんだからアタシがなるしかないじゃん。それまでは勝手にやらしてもらうし」
ネジからそっぽを向き、両の手を頭に後ろ手に組んで片足をプラプラさせる別人ヒナタ。
「ハナビが……病弱?」
「あぁ、生まれつきな。親父は心配性だから妹の方に付きっきりなんだ。……アンタんとこのハナビはどうなんだよ」
「……病弱ではないのは確かだ」
「ふーん、ならいいけどな。……つかさぁ、アンタの知ってるヒナタってのがアタシのよーな不良娘じゃないなら、どんなヤツなワケよ?」
別人のヒナタは振り向き、片方の口角を上げて意地悪そうにネジに聞いてくる。
「お前は……、完璧な回天が使えると言ったな」
「まぁな。……“お前は”っつーことは、アンタの方のヒナタは使えねーの?」
ネジは答えなかった。
「なんだ、使えねーのか。才能ねーなぁそっちのアタシは。そんなんじゃアタシの正反対でウジウジもじもじしてそーじゃん」
なかなか察しのいい別人ヒナタのようで、ネジは答える必要がなかった。
「んで、アンタは? ……うちのネジ兄は回天使えねーってか使わないから、アンタは使えるんじゃねーの?」
「あぁ、無論使える」
「へぇ、やっぱそーなのか。……うちのネジ兄、才能無いわけじゃねーのに出し惜しみしてんだよな。けしかけても使おうとしないし……。ネジ兄がアタシの胸に気を取られず真面目にしてたら、ネジ兄の方が次期当主に相応しいのによ。ったく変な気使うなっての」
ヒナタは遠くを見るような表情でそう述べた。
「あーぁ、うちのネジ兄はどこ行きやがったんだか。代わりに理想的なネジ兄が目の前に居るってのに……。そーだアンタ、アタシと手合わせしてくれよ本気で」
「本気で……か?」
「あぁ、うちのネジ兄じゃ相手になんねんだよ。……けどアンタと本気で手合わせしてたら、そのうち戻ってくんじゃねーかなって」
「根拠の無い話だな。まぁ、俺も何故性格の異なるヒナタの元に来てしまったかは知らんが……いいだろう、相手になってやる。こちらとしても、元のヒナタの所へ還らねばならんからな」
二人は外の開けた場所へ出て、目元の血管を浮き上がらせ白眼を発動し柔拳の構えを───
「ねっ、ね…ネジ兄さん、どうしたんですか……?! しっかりして下さい…!!」
ネジと修行の約束をしていたヒナタは日向本家の修行場所で待っていたが、離れに住んでいる従兄がなかなか姿を現さない為に、心配になって様子を見に来た所、内側の玄関前でうつ伏せに長い髪を乱して倒れているのを発見し、ヒナタは血の気が引く思いでネジに呼び掛けた。
普段の任務服姿でぐったりとした身体を仰向けにさせて顔色を見ると、真っ先に目が向いたのは鉢金のされていない額だった。
……普段、額当てや包帯の下に隠れていた“それ”が無かった。
籠の中の鳥を意味する日向の呪印が消えている……という事は───
ヒナタは気が遠のき掛けたが、よく見ると胸部はゆっくりと上下しており呼吸をしているのが分かる。
苦しんでいるわけではなく、乱れた前髪から覗く端正な顔立ちはただ穏やかに瞳を閉ざし口元は微かに開いたまま眠っているように見える。
しかし何故呼び掛けても触れても起きてくれないのか分からず、ヒナタは不安でネジの胸部に片耳を当てその鼓動を確かめる。
……トクン、トクンと緩やかで規則正しい鼓動はヒナタを少し安心させはしたが、このままだと埒が明かないと思い病院へ連れて行こうと自分の身体を起こし掛ける。
「んー⋯⋯──あれ、ヒナタ……様? 何で俺の上で寝てるんです……??」
「えっ……?」
そのぼんやりした口調にヒナタがふと顔を向けると、間近に寝ぼけ眼のネジのきょとんとした顔があって、見る見るうちに恥ずかしくなって頬を染めたヒナタは仰向けのネジに覆い被さるような姿勢から勢いよく起き上がる。
「わぁっ、ごご、ごめんなさいネジ兄さん……!?」
「ごめんな、さい……? 兄さんって……君、ヒナタ様じゃないのか……??」
ネジはまだ眠たそうに目をこすりながらおもむろに立ち上がる。
「え、あの、私……ヒナタ、です……けど」
「んん…? 確かに似てなくもない、けどな……何か雰囲気全然違う。ガサツで強気でケバい感じがしない……。清楚系でかわいくなった……?」
「ねね、ネジ兄さん近いです……っ」
怪訝そうに顔を近づけられ、恥ずかしさのあまりヒナタは目をぎゅっとつむる。
「……ヒナタ様、俺を罵って蹴飛ばしてくれません?」
「ふぇ?! そそんな事、絶対出来ません…!!」
いきなり何を言うのかと困惑し、頭を思い切りぶんぶん振って拒否するヒナタ。
「出来ないのか……、じゃあやっぱり俺の知ってるヒナタ様じゃないな……」
「あ、あなたも私の知ってるネジ兄さんじゃない、です……。まるで、別人みたいで……どうしちゃったんですか…??」
「それはこっちの台詞だけどな……。もっとこう、ヒナタ様の服装はオープンに──いや、清楚系にそれを求めてもしょうがないか」
小さく呟いて残念そうに溜め息をつく別人らしきネジ。
「あの、ひとつ……聞いていい、ですか?」
「ん、構わないけど何だ? (大人しそうで控え目なヒナタ様もいいもんだな……。いや、けどやっぱり気の強いヒナタ様に足蹴にされたい)」
「ど、どうしてにやけてるんですか……?」
ヒナタは少し気味悪がって、別人らしきネジから一歩身を引く。
「(ま、まずい、引かれてる……。こっちの控え目なヒナタ様が知ってる別人の俺というのは、色目でヒナタ様を見てないって事か……生真面目な奴だなぁ)」
「えっと、聞きたいのは……あなたの知っているヒナタって、どんな人ですか?」
「どんなって……まぁ君とは性格は正反対な感じかなぁ。あっちは露出も気性も激し目だし」
「(そ、そんな私なんて……全然想像出来ない……)」
「才能も一族の中で誰よりもあって、日向の次期当主でもあるし……俺は回天うまく使えないけどヒナタ様はほぼ完璧に使いこなせてるしな」
「⋯⋯──」
ヒナタはそれを聴いて言葉を失った。……まさに、自分とは正反対だ。ヒナタ自身が欲したとしても決して得られなかったものを、もう一人の自分はほぼ全て持っている。
「あの、もう一つ……分家の方達が額に刻まれる、呪印制度は──」
「呪印制度? 何だいそれは。俺は分家だけど、そんなもの刻まれた事ないな」
何も刻まれていないすっきりとした額に片手を当て、首を傾げる別人側のネジ。
(このネジ……さんは、呪印が消えたんじゃなくて、始めから刻まれてないんだ。宗家の白眼を守る為の呪印制度なんて、無くたっていい。……私が願った所で、ネジ兄さんの呪印は消えてくれるわけじゃない。ネジ兄さんの呪印が消えたら、それは死を意味してしまう。日向の呪印なんてネジ兄さんの額から消えてほしいのに、死してしまう意味なら消えてほしくない、なんて──)
自分の矛盾した思いに嫌悪して俯くヒナタ。
「(とにかく俺の方のヒナタ様は強気に見えて寂しがり屋だからなぁ……、俺が居なくて陰で泣いてるんじゃないだろうか、心配だ……)」
「──⋯っ」
「(!? 控え目なヒナタ様の方が、泣いてる……?)」
はらはらと涙を流すヒナタに、別人側のネジはおろおろする。
「私……情けないなぁって、やっぱり……。“私”じゃ、駄目なんだって──」
「う、うまく、言えないけどな……持ってる、持ってないは別にしても君は、君でいいんだと思う。例えばほら、俺なんかしょっちゅうヒナタ様の風呂を覗いてるけど、君の方の兄さんはそんな事しないだろ絶対。って……例えになってないかな」
「ふっ、ふふ……。そうだね、私の方のネジ兄さんなら絶対そんな事しないもの」
泣きながらも笑顔を見せたヒナタを見て別人側のネジは安堵したが、同時に思い出したのは、家柄の事なんかどうだっていい、自由になりたいと泣きながら高笑い、自暴自棄に振舞って散々罵声を浴びせてきた事のある従妹の悲痛な姿だった。
「“俺達”の願いは……違うようで似ていて、繋がっているのかもしれないなぁ」
「え……?」
「大丈夫だ、ヒナタ様。……君の兄さんはもうすぐ、君の元に還って来るから」
ネジは片手を自分の胸部に当て、ヒナタを安心させるように微笑んだ。
……今目の前に居るのは別人の従兄のはずが、この時ばかりは確かに、ヒナタにとっての“ネジ兄さん”に想えた。
「──やるなぁネジ兄、ちっとでも油断するとやべーわ!」
「そちらこそやるじゃないか、次期当主なだけはある」
手合わせを始めて大分経つが、二人の息は大して乱れていない。
「なぁネジ兄、そっちじゃアンタが次期当主に決まってんだろ?」
「いや、俺は──」
「んだよ、呪印を持つ分家だから当主になれないとかナシだぜ!!」
別人側のヒナタの強力な柔拳がネジの頬を掠める。
「 ……まぁ別に、次期当主とか関係ねーよな。アタシ達は自由になる権利がある。──なぁネジ兄! アタシはアンタと一緒に居たい、アンタと生きていたい!! だから───!? おい、ネジ兄!!」
不意に前のめりに倒れだした従兄を、ヒナタは咄嗟に抱き留める。
「ったく何だよ、人が告ってる時に寝落ちするなんざ……。ネジ兄、大丈夫かよ」
すぅーっと大きく息を吸う音が、胸元に抱き留めた従兄から聞こえた。
「──やっぱりヒナタ様は、いい匂いがしますねぇ」
「……おい何だネジ兄、いつの間に元に戻ってやがんだよ。少しはしんぺーしてやってたんだぞこっちは」
ヒナタはネジを離すまいとするように、力を込めてぎゅっと強く抱きしめる。……その声は、微かに震えていた。
「すいません、ヒナタ様……。けどあなたも酷いですよ、もう一人の俺の方に告白するなんて」
「は? んだよ聴いてたのか? いいじゃねーか、どっちも全然違うワケじゃねーんだから。──“アタシ達”の願いは、違うようで似てるんだ。……そうだろ」
「ハハ、そうですね……。控え目なヒナタ様も、良かったなぁ」
「んだとコラ! そこは願ってもなってやんねーからな!!」
ヒナタはネジを突き放すと同時に、げしげしと軽く蹴り倒す。
「あーこれですこれ、やっぱり俺のヒナタ様だ」
「「───⋯⋯」」
暖かな日差しに包まれた縁側で添い寝をしていた二人は、同時におもむろに目を覚まし、互いに顔を見合わせる。
「……お互い、随分長い夢を見ていたようだ」
「ふふ……そうだね。何だかとっても可笑しくて、切なくて、優しい夢。──お帰りなさい、ネジ兄さん」
「あぁ……ただいま、ヒナタ」
《終》
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