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戦国異伝供書

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第四十七話 義に従いその六

「そうしてもな」
「守りに徹して」
「ここは戦わぬ」
「それでは」
「出陣じゃ」
 晴信は景虎とは戦わないことを念頭に出陣した、そして実際に彼はすぐに大軍を信濃の北にまで進ませてだった。
 川中島に布陣させた、その向かい側にいるのは長尾家の黒い軍勢だった。
 その彼等を見てだ、晴信は本陣で言った。
「よいか、間違ってもじゃ」
「攻めてはなりませぬな」
「こちらからは」
「そして攻めて来られてもですな」
「それでもですな」
「そうじゃ、守りに徹してじゃ」
 そしてというのだ。
「無駄に命を失うではない」
「わかり申した」
「それではです」
「我等はこの度はです」
「攻めませぬ」
「守りに徹します」
「若し命に従えばな」
 晴信は諸将に釘を刺しもした。
「その時はわしも容赦せぬぞ」
「承知しております」
「お館様のご命に逆らいはしませぬ」
「それは間違ってもしませぬ」
「何があろうとも」
「そうせよ、ここは守れ」
 こう言ってだった、晴信は軍勢を動かさなかった。そしてだった。
 両軍は対峙に入った。その状況は景虎も見ていた、だが彼も晴信率いる武田家の布陣ぞ見てだった。
 諸将にだ、こう言った。
「これではです」
「攻められませぬか」
「殿も」
「左様ですか」
「はい」
 こう言うのだった。
「あれだけ見事な布陣ですと」
「それではですか」
「ここは攻めてはならない」
「迂闊には」
「だからですか」
「この度は」
「はい、攻めず」
 そしてというのだ。
「そのうえで、です」
「機を待ちますか」
「今は」
「そうされますか」
「そうしましょう」
 こう言って攻めなかった、それで両軍対峙したまま歳月が過ぎていったがそこでもだった。景虎はふとだった。
 周りの者達にだ、近くに社があると聞いて言った。
「ここはです」
「何かありますか」
「一体」
「何かおありですか」
「社があるので」
 それでと言うのだった。
「お参りをしようと」
「あの、それは」
「流石にです」
「ここは敵の国です」
「ですから迂闊にお参りは」
「どうにも」
「それならです」
 そう言われてだ、景虎は。
 傍らにいる忍達それに長身で若々しく端整な顔立ちの若武者、直江兼続を見てそのうえでこう諸将に言った。 
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