魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第5話 出張任務 前編
――side震離――
「ほなら、みんな準備できたか?」
はやてさんが、資料を片手に、両隊長に話を聞く。うん、すっごく元気そう。
なぁんか裏がありそうな気もしなくもないけど。
「スターズ分隊、準備完了!」
「ライトニング分隊も、大丈夫だよ」
「ほな、異世界出張任務。出発!」
なんかいつもより(昨日からの付き合いだけど)元気に見えるのは、やっぱり気のせいじゃない。
まぁ、隊長陣は地元に、仕事だけど帰れるって、テンション上がるしねぇ。気持ちは分からないでもないけど。
あと響? 立ったまま、資料見る体制のまま寝るのはどうかと思うよ?
「まぁ、いっか」
私が起こす必要なんてないし、ていうか奏が起こしたし。
まぁ、どうでもいいけど、早くヘリに乗りたい、ローターの風が強すぎて……資料ってかパンフが飛びそうだし。
……何度見てもパンフなんだよねこれ。
異世界出張任務(by機動六課)
目的地: 第97管理外世界 現地惑星名称「地球」
目的: 現地にて存在が確認されたロスト・ロギアの確保、及び封印
持ち物:所有するデバイス
現地活動可能な私服数着
お菓子や飲み物 (ただし300円まで。果物はお菓子に含まない)
お小遣い (ただし5000円まで。それ以上を求める場合は部隊長室まで)
現地協力者の援助により、生活場所は確保済み
どこからどう見てもパンフで、そして分かりやすい資料。
多分はやてさんの仕業だと思う、というか絶対にそうだよ。なのはさん、フェイトさんがそういうお茶目をするとは考えにくいし、副隊長の二人も同じくだ。
強いて言えば、昨日あったシャマル先生なら雰囲気的にやりそうだけど……まぁわからないや。
「叶望さん? 乗らないんですか?」
「へっ、あ?」
流に声を掛けられて、周囲を見渡すと既にティアナ達はヘリに乗り込んでて、外にいるのは私と流だけ。慌てて流と一緒にヘリへと乗り込む。
「え、あ、ごめんなさい!」
「いやいや、全然大丈夫や」
笑顔で大丈夫って言うけれど、私の方はそうじゃなくて、ごめんなさい、と心のなかで何度呟いたんだろう……本当に。
――side響――
まぁ、うんとりあえず呟かせて……呟いたらアウトか、ヘリの中だし。とりあえず思わせてくれ。
昨日ちょっと外出した後、気になることを調べたり情報交換したりしてたら気がつきゃ朝よ。時間はいくらあっても足りないこの頃。
「響さん? なんか疲れてるみたいですけど?」
「ん、あぁ、大丈夫だよ、ありがとエリオ」
「そうなんだ、そういえば響さん達の故郷もなのはさん達と同じ地球なんですよね?」
「あぁ、地球だよ。ちなみに最近ってか、今朝方知ったことだけど、なのはさん達の故郷を山挟んで隣」
「えぇ!?」
俺がそう言うと、なのはさん、フェイトさん、はやてさんの三隊長が凄く驚いた。まぁ、普通そうだよな。
ただ、少し嘘を、今朝方知ったという嘘を混ぜたけど。はやてさんの表情が一瞬変わったようなそうでもないような……考えすぎかな?
「え、あ、ちなみになんていう場所なの?」
「あぁ、桜庭って所です、ただ海鳴から桜庭まで山ん中を走って1時間くらいなんで、あまり行かない場所ですね。俺らも海鳴の人も」
話しながら最近帰れてない故郷を想う。俺らの住んでた場所は海鳴に比べるとちょっと田舎だ。だけど困る程でもないし、普通に通販も来たし、行きたいと思えば海鳴よりも近い場所に行けばそれなりにあるし、別に用がない限りは海鳴に行くことはない。
「でも、なんでそんな世界からなのはさんや、八神部隊長みたいな、オーバーSランク魔導師が……」
「突然変異というか、たまたまぁ~な感じかな?」
ティアナの言葉にはやてさんが振り返り答える。
「へっ? っあ! す、すいません……」
「別にええよ? 私もなのはちゃんも、魔法と出会ったのは偶然やしね」
なのはさんと、はやてさんの話を聞きながら、そうなんだと考える反面。そうすると俺たちの場合はなんというか微妙な所だったんだなと。
まぁ、それは別に良いか。そんなの人それぞれだし。
「はい。リィンちゃんのお洋服。」
「わー! シャマルありがとですーっ!」
隣でリインさんとシャマルさんの会話が耳に入って、皆の顔がそっちに向く。
だけど、その状況を見て思わず目が点になった。だって、リインさんのサイズの割に服大きすぎるだろうに。それを見てたキャロやティアナが思わず聴きにいった。
「あの、リィンさん。その服って……」
「はやてちゃんの、ちっちゃい頃のおさがりですっ。」
「あ、いえ。そうではなく……」
ふと、エリオが驚いて無いのが気になるけど……あ、そういう事か。
「可愛らしいですね!」
「震離ありがとうですっ!」
「待って震離、リインさん、それ普通の人のサイズですよね……」
正しくその通りなんだけど、震離は分かってて言ってるんだなと思う。まぁ、リインさん本人が説明するんだろうから言わないんだろうが……。
「う~ん……あはっ! そう言えば、フォワードのみんなには見せたこと無かったですね」
「へっ?」
「システムスイッチ。アウトフレーム・フルサイズッ!」
「おぉっ!」
リインさんがそう言うと、FW組が口をそろえた。
だけど、ごめん少し間違えてたわ、幻術とか変身魔法とかを使うもんだと思ってたけど、そういえばリインさんってデバイスでしたね。うん、忘れてた。
「っと。一応、このくらいのサイズにもなれるですよっ?」
「デカッ!」
「いや、それでもまだちっちゃいけど~」
本当にこの部隊って緩いよな。侮辱されたって激昂する上官とかまま居るのに。穏やかな機動六課だからなんだろうけどね。
「リインさん、普通の女の子のサイズですね」
「向こうの世界には、リインサイズの人間も、フワフワ飛んでる人間もいねぇからなぁ」
ケラケラと笑いながらヴィータさんが言うけど……まぁ地球には居ないよなぁ。
「あの……一応ミッドにもいないとは思います」
「……はい」
「スバルにティアナ、多分どころか、普通に居ないよ、新しい世界が見つかる以外は」
思わず奏が突っ込んだ。だって居ないだろうしそんな人は。
けど、リインさんくらい小さいと飯代浮くんだろうな……。
「ふ~ん。だいたい、エリオやキャロと同じくらいですかね?」
「ですね」
「リィンさん、かわいいです」
「えへへ」
うん、どこからどう見ても子どもに見えますよー。ん、そういや、俺の隣りに座ってる流は……あ、死んでる。多分起きてるんだろうけど、静かに目を閉じてるだけかも知れないが。
「リィン曹長。そのサイズでいた方が、便利じゃないんですか?」
「こっちの姿は、燃費と魔力効率があんまり良くないんですよ~っ。コンパクトサイズで飛んでいる方が楽チンなんですっ!」
「なるほど~」
リインさんの話を聞いて、また納得する。というか本当にデバイスっぽくないよなー。
ま、確かにサイズが小さければ小さいほど消費魔力は小さいだろう。だから常時飛んでいられるんだろうしな。
……考えすぎかな? スパイをしろって言われたから、少し思い込んでいたのかもしれんな俺は。
も少し、気楽に行くかね。
―――
皆で集団転送ポートの乗り、目的地へと転送される。
ちなみに、はやてさんとリインさんと、六課で留守番しているザフィーラさんを除いたヴォルケンズは途中で降りた、別枠の協力者の元へ挨拶に行くんだと。
で、久しぶりに帰ってきた地球なんだけど。
「……本当に地球か?」
なんか、なんか、なんか知らんけど俺の第六感がスゲェ警告音鳴らしてるんだけど、なんというか間違いなく強い何かがいらっしゃる。
「響さん? どうしたの?」
いや、エリオよ、なんか感じ無いか? 何か行ったら死ぬ気がするって?
はやてさんは……っく、先に降りたんだった。フェイトさんは……駄目だ。もしかすると変に取られるから駄目だ。じゃあなのはさん!
「なのはさん、ここってなんかいます? 退職したSSSくらいの魔導師の方とか」
「ううん、いないよ」
「……じゃあ、魔力以外の人で何かまぁ、境地に達してる人とかは?」
なんか後ろでFWメンバー(震離も奏も含む)視線が痛い。それこそ何聞いてんの? っていう生暖かーい視線が。俺だって聞きたく無いけど、なんか警告音が凄いんだよ。
「……いないよ」
ちょっと隊長? 目を合わせて喋ってくださいよ、いないんですよね?
縮地みたいなもの使って移動してくる人とか、目を見て、いないって言ってくださいよ。そしていたらどこにいるか教えて下さい!
しかも何か、向こう側からエンジン音が聞こえてきて、俺らの少し離れた所で止まって、中から女性の方が降りてきたし。
「自動車? こっちの世界にもあるんだ」
「ティアナ、それ酷い」
「え?」
うん、震離の突っ込みは間違ってない。そんな俺たちを他所に、車の持ち主の方は降りてからまっすぐなのはさんの元へ向かっている所から察するに、知り合いだな。
「なのはっ! フェイトッ!」
「アリサちゃんっ!」
「アリサッ!」
うん、やっぱり知り合いだったか。そして多分あの反応からだと幼なじみかなんかか。そして、アリサさんという方は、金髪ショートに雰囲気から察するに、スゲェ活発そう。表裏もなさそうだし。
「なによも~ご無沙汰だったじゃない?」
「にゃははっ。ごめんごめん」
「いろいろ忙しくって」
「アタシだって忙しいわよ? 大学生なんだから」
ご無沙汰って言ってたから本当に久しぶりに再開されたんだろうな。年相応に話ししてる。後ろでスバルとティアナの目が点になってるのは流すけどね。
「アリサさ~んっ。こんにちわですっ!」
「リィン! 久しぶりっ!」
「は~いですぅ~っ」
うん、和やかーな雰囲気で会話が弾んでるところ申し訳ないですけども、説明をしてください……俺ら八人蚊帳の外状態って。特にティアナ達は、どうしていいのかわからないみたいで、なんか困ってるし……。うん、まだ掛かりそうだな、今のうちに……。
「桜庭の方角はっと」
太陽の位置からだいたい場所を割って、桜庭があるんだろうなと思う位置に向いて。誰にも気付かれないように……手を合わせて黙祷。二年近く帰って来なかったからな。これくらいしておきたい。多分仕事してたら忘れるだろうから、覚えてるうちに。
「響」
「……あぁ、終わった」
不意に奏が声を掛けてくる。内容が分かってるだけ、説明も楽だ。聞かれないところを見ると、誰にも見られてないな。
そう考えてるうちに、俺らを放置していた事に気がついたフェイトさんが、アリサさんと呼ばれる人物の紹介を行なう。
「紹介するね。私となのは、はやての友達で、幼なじみ」
「アリサ・バニングスです。よろしくね」
「よろしくお願いしますっ!」
バニングスって名前どっかで聞いたことあるなーとか思いながら、頭を上げたときになんか、俺と目が合った。はて?
「……どこかで会ったこと無い?」
「……すいません、具体的な場所を言って下されば……」
「えと、八年くらい前に有栖着物店って名前のお店で……」
八年前優夜の家、はてなんか……あっ。
「多分人違いですよ」
「そう? ならごめんなさい、昔そっくりな人とあった事あるなと思っただけだから」
「いえ、気にしないで下さい」
できるだけ顔に出さないで、平静を保って……ふと、視線を隣にやると、ジト目の奏と目があって
―――本当は?
―――時間があったら話す、ただ、色々あるから、うん。
一秒たらずで目で会話する。うん、後で説明するから、だからジト目で見るなよ!?
本当、何で俺ばっかりこんな目に合うんだろうか?
「さて。じゃあ改めて、今回の任務を簡単に説明するよ」
「はいっ!」
コテージの中に入って、海鳴の地図を開いて簡単な作戦会議を開く。
「捜索地域は……ここ。海鳴市の市内全域。反応があったのは、こことここと、ここ。」
「移動してますね?」
なのはさんが表示するモニターを見て、ティアナが声を出す。やけにバラバラに移動してるけど……これは独立して動いてるっぽいな。
「そう。誰かが持って移動しているか、独立して動いているのかは判らないけど。対象ロスト・ロギアの危険性は、今のところ確認されてない。仮にレリックだったとしても、この世界には魔力保有者が滅多にいないから。暴走の危険はかなり薄いね」
「けど、動いてるところを見ると、誰かが所持ってるか、最悪魔導師の人かもしれないし、万が一に備えて動いたほうがいいですね」
「そうだね。レリックでもそうでなくても、やっぱり相手はロストロギア。何が起こるか判らないし、場所も市街地。油断せずに、しっかり捜索していこう」
「はいっ!」
流石と言うか、ティアナは凄いな-。きちんと要点纏めて予想してるし。
さて、俺らはどの班で移動するのかねー、人数的には七人、八人か、多いな。楽なのは流を入れた俺と奏、震離の4人組だが……そう上手くはいかんよなぁ。
「そうだ、響?」
「はい、なんでしょう?」
「さすがに市街地を大人数で動くのは大変だから、響が奏と、震離、そして流の四人を連れて、サーチャーの設置をしてくれないかな?」
「……はい。わかりました、けどいいんでしょうか?」
あれま。希望が通ったが。良いのかね。俺らだけで動いていいとか。
「大丈夫だよ、これはやてちゃんからの指示だし」
「あ、なるほど了解です」
まぁ、捜索指定範囲が結構広いから分散してやろうってことだな。だけど、遊びそうな奴が一人いるんだよなー。とりあえず、聞いておくか。
「なのはさん、早く終わったらどうしたら?」
「ん、観光してもいいよ?」
「……えっ」
落ち着け俺、今なんてなのはさん言ったよ? 艦攻って言ったか? でも船なんてないし、間違っても観光って事はない、一応仕事なんだし……ボケかまさないで確認取るか。
「……本当にいいんですか?」
「うん、大体はやてちゃんから詳細聞いてるからね。そして今日はスバル達の……」
「あ、なるほど、了解です」
そこまで聞いて納得、たしかに回収任務でレリックかも知んないよってぼかしてるけども、実際はどんなんか聞いてるのか、それは納得。そして、スバル達に経験を積ませようって事か。
……昨日の今日だから俺たちは泳がしてる? いや、それなら置いていけばいいだけの筈。でもそれをしないって事は疑ってない、マジで考え過ぎ?
あ、駄目だ。思考が回り始めた。
とりあえず。
「へーい、震離に奏に、流ー俺らはとりあえず別行動だー」
「はーい」「うん、わかった」「了解です」
各々返事してとりあえず辺りを見渡す。うん初めての出張任務だからか、皆楽しそうだ。特にエリオとキャロはフェイトさんと行動できるから嬉しそうだけど。フェイトさんの顔を見ると本気で嬉しいのかなんか後ろから光が見えるんだけど……まぁ、いいか。
「では、副隊長達には後で合流してもらうので、先行して出発しちゃおう。あ、一応私服でね? 市街地を捜索するから」
「はい!」
さて、優夜が買ってくれた服でも纏ってさっさと行くかね。せっかくいろいろ自由が効くらしいから、楽しむことを優先するか。
相変わらず、俺の本能は逃げろって言ってるけどね。
――――
「で、アリサさんとはどんな関係なの?」
「……あー」
街に繰り出してからはや小一時間、皆でサーチャーを設置しながら、奏がさっきの事を聞いてくる。
ちくしょう、適当に観光も織りまぜながら進んできたから、もう忘れたもんだと思ってた。くそぅ、まだ覚えてたか。とりあえず確認をとろう。
「ちなみにどんな関係だと思う」
「え……あー、うん、昔の幼なじみとか?」
「あ、はい! 私的に昔に告白したとか?」
「うん、大体わかった、先に言っとく、そんな関係じゃない」
それぞれ奏と震離予想を言うけど、そんなんじゃない。
とりあえず大事なことだから先に言っとく。
「……昔さ、優夜ん家の着物店にあの人とそのメイドさん、そしてその父親みたいな人が来たんだよ。アリサさん用の着物を買いに」
「へぇ」「そこから告白」
「ねぇって。それで来たのはいいんだけど、問題が一つあってな」
「うん」
……さて、ここまでは話した。ただこっから先言いたくないんだよなーもう。いいやもう言おう。言ってさっさと観光しよう。
「ただ、そん時優夜ん家には、サンプルってか、カタログ替わりの着物を着る女の子が居なかった、まぁ今もだけど」
「うん、それで?」
ここまで言って、奏の顔が微妙な表情に変わり始めた。うん、早く気づいてね。
「で、だ。そん時どういうわけだか知らんけども、俺に白羽の矢が立ったんよ」
ここまで言ったらさすがに奏は気づいたか。でも。
「まだわからんか?」
「いや、大体予想は付いたけど、それなら私に白羽の矢が立たないのが不思議で」
首を傾げながら震離が呟くけど。お前あの時いろいろひどかったからな。まぁ簡単に言っとくか。
「……いやお前、あの頃の震離はどうでしたか? 覚えてない?」
「……ん、ぁ~うん、それは響に矢が立つわけだ。ごめん」
うん、あの時のお前ひどかったからな……まぁ、そん時のお前に言っても絶対にやらなかっただろうし。俺も女装というか、それをしないといけなかったら忘れたいし。
「あ、じゃあ優夜の家にある、あの綺麗な着物の女の子って響だったんだ」
「いちいち言うな」
「だけど、可愛かったなぁ、大和撫子って言うのは、こういうモノなんだって思ったし」
このやろう……ただ、悪気がないのも分かるから、なんか怒りにくいし……奏に見せたこと無いからか、スゲェ興味持ってるし……くそぅ、必死に誤魔化したのに。
「それで? その時アリサさんと何話したの?」
「……そん時は全部優夜に任せて、俺は黙ってた。だって着物重いし、精神的にいろいろ来てたしね」
「フフフ、わかった。なんか、ごめんね。疑っちゃって」
うん、そうして。俺の心がガリガリ削れていってるから。
さて、残りのサーチャーの設置箇所は……何だほぼ終わってんじゃん。体を影にしてから、海鳴の地図を表示する。なのはさん組と、フェイトさん組、俺らの三組でサーチャーの設置にあたっているからか、予定よりも早く終わりそうだ。しかも俺らの担当分既に終わってたし。
「ねぇ、これだったら少し余裕あるんじゃない?」
「あぁ、あるけど落ち着け」
震離が隣で俺の手元のマップを見て、時間に余裕があることを喜ぶ。でもなぁ観光つっても、それほど目ぼしいもんなんて無いと思うんだけどな。確か遊園地のオールストン・シーとか有るけど、昔皆で行ったしなぁ。
ん? なんか隣にいる震離の目がなんか輝いてきた。
―――その数分後。
――side震離――
「うん、美味しい」
「……昨日も食べて……今日も食べて……ちょっとカロリーが」
「……」
うん、やっぱり美味しい。さすが管理局の観光マップ。スイーツ系なら「翠屋」ってお店がいいって書いてあったし。
たくさん来るだけの事はある。テラスもあってなかなかお洒落なお店で私的には凄く好きなお店だ。うん、凄くいいんだけど。私の前で紅茶を飲んでる流を除いた二人がなんかテンション低いんだけど、どうしたんだろう?
「どうした奏?」
「……うん、美味しくてねー」
「だけどあんまり食べてないじゃん」
「……夜中に食べてカロリーが……今日あんまり動きそうにないし」
「……分かった」
うん、分かった言いたいことは分かったけど、美味しい物は食べたほうがいいのにね。
我慢は体のなんとやら。私は気にしないからいいか。最悪奏が食べなかったら私が食べればいいんだし。それで響も何でテンション低いんだろう?
「どうしたの?」
「……持ち帰りで外で食べない?」
「……何で? その場で、お店の中で食べるから美味しいんでしょう?」
「うん、分かる。分かるんだけどさ。俺ここあまり居たくない」
……はて、何でこんなにネガティブなんだろう? 何時もなら響もそれなり楽しむはずなのに。……えっと、お昼時で平日だからか、今はまだそれほど人は居ない。店内にいるのはメガネを掛けた女の人と、そのお姉さんみたいな人。そして、このお店のマスターっぽい男の人の計三人。外には何人かお客さんがいるけども。
「……なんか不安要素でもあるの?」
「……ひと通りみて、なにも感じないならいいよもう」
なんか失礼なこと言ってコーヒーを飲みだした。まぁいいや。さてケーキは一つ残しておいて……。ちょっと立ち上がって、目立つようにしてからの。
「すいません、シュークリーム3つ下さーい」
「はい、これから作りますので、少々お待ち下さいね?」
「はいっ♪」
わーい、焼き立てが食べれると思って思わずガッツポーズ。正直シュークリームの出来立って凄く美味しいよね!
「……震離~まだ頼むの~?」
「うん、美味しそうだし」
「……そう」
なんか、奏が葛藤してるなー、まぁケーキ一つだけ食べてるのに対して、私ケーキ3つに、これからシュークリームを食べるから。さすがに葛藤もするか。
さて、いい加減座ろうかな。
って、思った瞬間。
「お母さ~ん。ただいま~」
「なのは~っ。お帰り~っ!」
「え゛っ!?」「え、なのはさん?」「何!?」「……?」
ちなみに、発言順は私、奏、響、流の順。
で突然のことで驚いて体制を崩して……手元に置いといたケーキのお皿の縁に手を突き、ケーキを宙を舞う。慌ててキャッチしようとしたら手元の紅茶を流側に向かってこぼして。で。
「……ぅぇ」
「あれ、そこに居るのは……って、何があったの?」
「い……いろいろすいませんでした」
簡単な説明を……懺悔をさせて下さい。
まず、私の席は窓側で流も向かい側の窓側、響と奏は通路側だったんだけど。今の一瞬で、私がケーキとお皿を吹き飛ばして、しかも紅茶を流側にこぼして。その上ケーキのお皿が床に落ちそうになった所を、響がキャッチして、割らなくてすんで……で、問題のケーキが。
「流……あの……本当にごめんね」
「……いえ」
ケーキが流の頭にあたって、顔の方に零れて、流が飲んでた自分の紅茶をその時の反動で零して、更には、私がこぼした紅茶が流の足に思いっきりかかって……早い話が。
「……大惨事じゃねぇかよ」
「……本っ当にごめん」
「……いえ、問題ないです」
あぁ……昨日優夜が買った流の黒い服がケーキのクリームその他もろもろでなんか、なんか、なんか、もう。本当にごめんなさい。
もうやだ、私昨日からずっと地雷踏んでばっかりじゃん……さすがに心が砕けそう……
そして。少し経った後。
「……震離、もう気にするなよ」
「……」
本当昨日から私いいところ無しじゃん、ほぼ確実に流私のこと嫌いになったでしょう。同じ小隊なのに絶望的よ。もう絶対そうだよ……。
「すみません、なのはさん、士郎さん」
「ううん、気にしないで」
「あぁ、大丈夫だよ」
ううぅううう、今ん所私机の上で突っ伏してる状態なんだけど、正直泣きそう。
ちなみに響がそこに座ってて、奏はフェイトさんに迎えを頼んでて、スバルとティアナはなんか念話で話してる。そしてリインさんはなんか食べてるけど。ちなみに、流は桃子さんと美由希さんに着替えをさせるって連れてかれた。
だけど……はぁ。
「もう消えて無くなりたい、分子結合崩壊しないかな……」
「……もう好きにしろよ……」
うん、そうする。そういえば物の数分前に遡るけど。まぁ、片付けしながら各々挨拶して言ったんだ。それでメガネの方……もとい、美由希さんのお姉さんみたいな人がなのはさんのお母さんだとは思わなかった。普通に女子大生くらいだと思ったもん。
「……流が戻ってきたらもう一回謝ろう」
「……あぁ、そうしろそうしろ」
うん、そうする。だけどこの最中で視線をなのはさん達に向けると、なのはさんと士郎さんがものすごく微妙な顔してるんだけど、どういう事なんだろう?
あ、響もその事に気づいたみたいで、少し首を傾げて……なんか顔青くなったけど何?
「なのはさん、士郎さん、どうしましたか?」
「え、あぁ、ううん、ちょっと、ね? ちょっと、流が心配で」
「……は?」
「あぁ、あの二人は、かわいいものを見つけたら……その、な……」
なんか二人の顔色がなんか悪いように見える。本当にどうしたんだろうとか考えてると、お店の奥から。
「おまたせ~」
「少し時間が掛かっちゃって」
そう言いながら、美由希さんと桃子さんが出てくる。そして、それにつられてもう一人の……要するに流が出てきた時。正直に言おう。私のテンションゲージが限界を突破して。奏もスバルもティアナも凄く驚いた。
ただ、それ以上に響となのはさんの顔色が悪くなったのは……見なかったことにしよう。
「あっ」
全員の言葉が一致した瞬間だ。なんだって、奥から出てきたのは膝下くらいまでのダークブラウンのブーツ、黒いスパッツの上に赤と黒のチェックのレイヤードスカート。
真っ白いブラウスに赤いネクタイをつけて、髪の毛も洗ったのか普段立てている状態ではなく、完全に髪が寝ていて、清楚っぽい子にみえる。まぁ、要するに。
「……可愛い」
今度は高町さん家を除いた女性陣だけで揃った。
もうここまで言ったら分かると思うけど、流が女の子の格好で出てきたんだ。着替える前が全部黒だったのに対して、今のは白も入ってるし、というか流自身顔を真っ赤にして俯きながらスカートを握って小さく震えてる。だから……その。
「震離、鼻血」
「え、はっ!?」
なんか気がつかないうちに鼻血が出てた。もう本当に気づかなかったけど、ねぇ響、何でそんな憐れそうな瞳で流見てるの?なんか凄く……可哀想に見えるんだけど……というか血が、血が足りない。
「……お母さん?」
「なに、なのは?」
「……これ何?」
「うん、あぁ、流君に合う服がなかったからね、仕方なくね」
そう言いながら笑ってるけど……凄く分かりやすい計画的犯行だ。本当にセンスがいい……本当に、いかん、流が涙目で上目遣いでこっちを見てて、止まりかけてた鼻血がまた吹き出した。
あ、やばい、本当にやばい、若干意識が……いや、まだだ!
「おまたせなのは、今着いた……よ……」
扉を開けて入ってきたのはフェイトさんなんだけど、お店の奥にいる流と目があったらしく。
しかも、涙目+上目遣い+赤面のコンボをフルで貰ったっぽく、そのまま扉を閉めた。
それを見て本気で思う。アレは……アレは本当に危ない。まだ鼻血が止まらないもん。
「流……ゴメンね」
そういうなのはさんも……いや、なんか眉間抑えてるけど。それはなのはさんのせいじゃないし、もう起きてしまった以上仕方ないんじゃないかなーと考えてみたり。
よし、やっと鼻血が止まった、若干ふらつくけど、まだ逝ける。あれ、なんか字が違う気が。
「……えっと、そろそろ時間だから、皆行こっか?」
「はいっ!」
普通に返事したんだけどさ。流はどうするんだろう? なんて考えてたら、真っ赤なままの流がなのはさんの所に行って。
「……自分は、どうしたら良いでしょうか……?」
顔を伏せながら話してるけど、それでも顔が真っ赤なのがよくわかる。だって耳まで赤いもん。そして、落ち着け私、冷静になるんだ。
「あ、えっ……と」
と視線を泳がして、本気で焦ってるなのはさん。くそう普段なら普通に可愛いと思うんだけど、今回最強クラスが現れたから……くっ!
「なのは?」
「えっ、なに、お姉ちゃん?」
「集合場所って言っても、あのコテージでしょ?」
「うん、そうだけど」
「なら、後でエイミィ達と一緒に行くから、服が乾くまで流君ここにおいててもいいよ?」
美由紀さんがそう告げると、なのはさんもそうする気になったらしく。何より流もそうしてほしいらしく。無言で一致した。うん、念話もないけど雰囲気だけで伝わるんだね。
「じゃあ、流またあとでね?」
「……はぃ」
小さく返事するけど、本当いろいろ限界来てるんだろうなぁ。だけど、本当に可愛くて……って、あれ? なんか響が居ないんだけど、どこに……?
「おーぃ、震離ーお前ここ残れ」
扉を開けたと同時に、響がそんな事言う。っていうか、何でそんな事言うの!? 私に出血多量で死ねと!?
「……これから戻って、俺は対策の会議に参加して、奏はキャロに封印作業の最終チェックして、それで、なんだかんだでお前しか開いてねぇからだよ」
「……了解」
なんだ暫定的に私しか居ないのか、それならば仕方ない。甘んじて受けようじゃないか!
ん? なんか響がずっとこっち見てバチッと視線がぶつかると。
―――ミイラ取りがミイラになったとか洒落にならんからするなよ?
―――……了解。
この一瞬のやりとりが終わった瞬間、直ぐに響が視線を外す。正直怖かった。あぁ、響も経験してるから辛いのが分かるんだね。フフフ響私がミイラ化する訳ないじゃない! もう耐性付いたよ!
「震離?」
「あ、はい、なんですかなのはさん?」
「……お母さんとお姉ちゃんが暴走したら……止めてね?」
その一言を聞いて、私の視線が一度美由紀さんと桃子さんの元に行って直ぐになのはさんに視線を合わせて。
「……頑張ります」
「……うん、それじゃあ、また後で」
そう言ってからなのはさんはリインさんとスバルとティアナを連れてお店の外に、そして最後まで残っていた奏は。
「……大変だと思うけど、頑張ってね?」
「……うん」
頭を軽くなでられてから、フェイトさんの運転してきたワゴン系の車に皆乗り込んでく。
それで、皆乗ってから、車は発進していくのを見送って。残ったこっちではというと。
「ねぇ、流君? これも着てくれない?」
そう言いながら、どこからか取り出したのは真っ黒のフリフリのゴスロリ服と、真っ白いワンピース。
「お母さん!」
「どうしたの美由紀?」
先ほどとは考えられないくらい険しくて、凛々しい顔をした美由紀さん、まさか味方が……。
「白黒チェック系の奴もいいと思うよ!」
「あぁ、やっぱり?」
うん、ですよね。なんか目の前で、キャアキャアと本当に女子高生位のノリで話を進める二人だけど、あぁ、あぁ!
「メイド服もいいと思います!」
「そうね!」「そうだね!」
「……五分もたなかったか」
小さく呟きながら士郎さんがお店の奥に退散していって、残された流は。こっそり、そのままの格好で外に逃げようとしてたけど。
美由紀さんが音も無く一気に接近して、肩をつかみ、青ざめた顔で、流がこちらを向く。そして、桃子さんと美由紀さんの一言。
「逃さないよ流君?」
後は予想通りで、本当にいいものを見せてもらった。写真のデータも貰えたし。
これは、これは! 失った物(血)は多いけど! 私だけの秘蔵のお宝だ! 絶対に誰にもあげない。そう心に誓った瞬間で、流は多分二度とここにこないんだろうなと本気で思う。
そして、後日この画像が桃子さん手により、100%ではないが、画像のデータをはやてさんに送って、ちょっとした事件が起こったのはまた別の話。
――sideなのは――
……不味いというか、なんというか。
地上からやってきた流。昨日のアヤさんの連絡以外の……響達とは違う疑いを持つ人……なんだけど。
あれ、不味くない?
はやてちゃん、フェイトちゃんと今朝もう一度話し合って、今回の出張で変わった動きがないか見てみようってなった。
だからこそ、私達のサーチャーに、別行動で空に展開してるヴィータちゃんとシグナムさんのサーチャーはロストロギアを見張るものでも有るけれど、それは響達もというのも有る。
流石に地球で、コチラに対して変わった動きは無いとは思う。
でもそれは。同郷の人だからという私達の手心かも知れない。
はやてちゃんが……夢のためにと言っていた機動六課。私の希望も最大限に応えてくれた。
けどね。無理してまで私やフェイトちゃんに、はやてちゃん達夜天の守護騎士を集めたということは、私達には言えない何かがあるんだと思う。
それはきっと、私の考えすぎかも知れない。
だからこそ、アヤさんは私達に響達という存在への警告を。違う枠から来た、接点の少ない地上からやってきた流に警戒をと決めた矢先の……アレ!!
可愛かったよ。何もなかったら。
表情変わるんだなって、何もなかったら!
だけどなー……あれはなー……。
あぁ駄目だ。頭痛くなってきた……。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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