魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第211話「吠えよ叛逆の力」
前書き
前回ラストに引き続き、神夜回。
若干光の奴隷っぽくなっていますが、神界なら何もおかしくないです。
「……ん?」
ソレに気付いたのは、包囲する神々の端にいた神だった。
包囲網の半分程の神は、まるで嬲るように優輝達の戦力を追い詰めていた。
戦闘に入っていないために、ソレにすぐ気づいたのだ。
「あれは……」
「………」
そこにいるのは、神夜。
未だ洗脳に抵抗しているだけの、矮小な人間。
それが神々に大体共通している認識だ。
「―――」
だが、その認識は覆される。
フェイトとアルフが、神々の一人に翻弄されていた。
その神に、神夜は一気に肉薄する。
「っつ……!?」
フェイトに対し振るわれようとした攻撃を、肉薄した勢いを乗せて弾き飛ばす。
仰け反った神の頭を掴み、そのまま膝蹴りを見舞う。
「潰れろ」
―――“射殺す百頭”
間髪入れずに、剣が振るわれた。
瞬時に九連撃を放ち、神は挽肉のようにひしゃげ、切り刻まれた。
「はぁっ!」
反撃どころか再生の暇も与えない。
そうと言わんばかりに、魔力弾が四方八方から神を襲う。
そして、正面から神夜は掌に魔力を集め、砲撃魔法でその神を消し飛ばした。
「―――まだだ!」
だが、それだけでは神は倒せない。倒せるはずがない。
それを理解しているために、追撃の手を緩めない。
「フェイト!アルフ!合間の援護を頼む!」
「っ、うん……!」
「わかったよ!」
消し飛ばしたはずの神は、五体満足となってそこにあった。
神界において、既に何度も見た展開だ。
物理的なダメージでは、神を倒しきれない。
そのため、間髪入れずに次の攻撃に移った。
「このっ……!」
「ふんっ!!」
気合一閃。神の反撃を、真正面から神夜は弾き飛ばす。
その威力は神夜の身体能力を以てしても本来は逸らす事すら難しいものだ。
だが、“意志”で左右できる神界且つ、覚悟の決まった神夜なら弾き飛ばせる。
「なっ……ッ!?」
「歯を食いしばれ……!」
―――“射殺す百頭”
弾かれた事に僅かに動揺する神。その隙をフェイトは見逃さなかった。
移動魔法と併用して魔力弾を先行、命中させる。
直後に直接切りかかり、最後に魔力を使って目晦ましを食らわせる。
同時にアルフがチェーンバインドで拘束し、神夜が再び九連撃を放った。
「まだまだ!!」
魔力弾で怯ませ、バインドで拘束。連撃を叩き込む。
怯ませ、拘束し、叩き潰す。ただ攻撃し、切り刻み、叩き潰す。
斬って、斬って、斬って、斬って斬って斬って斬る斬る斬る斬る斬る斬る……!
「ぉおおおおおおっ!!!」
反撃の暇は与えない。ただ斬り、潰し、殺す。
神の“意志”が挫けるまで、神夜は“意志”を込めて斬り続ける。
「これでっ!!」
一際強く上から攻撃を叩き込む。
攻撃を食らった神は地面へと叩きつけられ、また直後にバインドで拘束される。
「フェイト!」
「“プラズマスマッシャー”!!」
神夜がフェイトへと呼びかけ、同時にフェイトが砲撃魔法を放つ。
カートリッジ3発を乗せた強力な一撃が直撃する。
「終わりだ!!」
爆風が晴れぬ間に、神夜は魔力を掌に集め、その中を突っ切る。
そして、その魔力を直接ぶつけ―――
「させないよ」
「ガッ!?」
―――ようとした瞬間に、横合いから蹴り飛ばされた。
「……ちぃっ……!」
「ふーん、ただの道化、道端の石程度に捉えていたけど……躓くくらい、か」
蹴り飛ばしたのは、包囲していた神の一人。
神夜の動きに最初に気付いた神だ。
「念のため潰しておこう。可能性は少しでも減らした方が、イリス様のため―――」
「ごちゃごちゃうるさい」
「っ……!」
「潰れろ、そして倒れてろ……!」
口上を述べている間に、吹き飛んだはずの神夜が肉薄していた。
そのスピードは、一瞬意識が逸れていたとはいえフェイトが見逃す程だった。
「“凍れ”」
「ぉおっ!!」
神の“性質”により、一瞬で神夜は氷の彫像となる。
そして、一瞬でその氷が砕けた。
「俺の“意志”の邪魔をするな!」
「化けた、だと……?こいつはまた―――」
「ぉおおおおおおおおっ!!!」
バインドで固定し、切り刻む。
一撃一撃が確固たる“意志”の籠ったもので、確実に神の“意志”を削る。
「調子に、乗るな……!」
「こっちのセリフだ!!」
攻撃を食らいながらも神は反撃を繰り出す。
だが、神夜はそれをクロスカウンターの要領で逆に攻撃を決める。
「こいつならどうだ!」
―――“縛鎖潰撃・過重射殺”
魔力が剣に圧縮され、その状態で九連撃を叩き込んだ。
直後、斬られた部分から魔力が炸裂。神を粉微塵に吹き飛ばした。
「が……ぐ……!?」
魔力の爆風が晴れると、そこには満身創痍の神がいた。
物理的ダメージが存在しない神界において、満身創痍になっていたのだ。
「……あれだけ攻撃しても倒せなかったのに……」
「終わりだ」
フェイトの呟きも余所に、神夜がトドメの一撃を決める。
脳天からかち割られるように攻撃を食らった神は、その場に沈んだ。
「……ふっ!」
それを見届けた神夜は、少し周囲を見渡し……砲撃魔法を放った。
「ぐっ……!」
「沈め!」
魔法を放った先には、横槍でトドメが刺せなかった先程の神。
フェイト達も遅れて反応し、バインドで拘束して動きを止める。
その間に神夜は肉薄して頭を掴み、地面に叩きつけた。
それだけじゃなく、その上から斬撃と魔力弾。さらには砲撃魔法を叩き込む。
一つ一つの攻撃に“意志”が籠っていたため、間もなくその神は気絶した。
「……凄い……」
戦闘に一段落着き、フェイトが呆然とした様子で呟く。
「……まだ戦えるか?」
「……もちろん」
肩で息をしながらも、神夜はフェイトに尋ねる。
その問いに、フェイトははっきりと答える。
「よし、行くぞ」
「さっきの……今までよりも遥かに速く動けていたけど……」
「……さっき、何人かが一斉に洗脳されただろ?」
さっきの強さが気になったフェイトが移動しながら尋ねる。
先行して背中越しに神夜は語りだす。
「俺も、その影響を受けた。元々、あの魅了の力があの神の仕業だったんだろう。だから、そこから俺も洗脳される所だった」
「……“だった”?」
神夜の様子からして、正気なままなのはフェイトにも分かっていた。
そのため、すぐに聞き返す。
「ああ。……“意志”で抵抗出来た。洗脳される時、俺の中の思考も、感情も、何もかもが弄られるような感覚……あれが嫌だった」
「それは……」
神夜の言いたい事は分かる。
何せ、魅了が解けた後のフェイト達も同じような思いをしたからだ。
「……あぁ、本当に嫌だった。今でさえ、怒りで狂いたくなる。……あんな事を、俺に無自覚にさせていた事含めて……ふざけるなと……!人の思いを、なんだと……!!」
「っ……!」
「神、夜……」
握り拳から血が流れる程に、神夜は怒りと悔しさから拳を握っていた。
洗脳に関して“お前が言うな”と言おうとしたアルフも、その様を見て息を呑んだ。
「俺がこう思う資格なんて、皆を魅了していたんだからないとは思う。……でも、許せない。許せないんだよ。だから、さっきは……」
今まで無自覚とはやってきた事だからこそ、許せない。
その想いが、神夜の背中からありありと感じ取れた。
「……大丈夫」
「え……?」
「神夜がそう思うのはおかしくないよ」
だからこそ、フェイトは神夜を“肯定”する。
この場において、神夜も被害者だ。
いつまでも蟠りを持っていても仕方がない。
「(……やっぱり、神夜は神夜だ。あの時から、ずっと変わってない)」
そして、同時に安心していた。
あの時、自分の心を助けてくれた神夜は、間違いなく本心からの行動だったのだと。
魅了の力も関係なく、その行動が嬉しかったのだと、確信出来た事に。
「……行こう。皆を助けに」
「……ああ」
それならば、何も文句はないと、フェイトは次を促す。
神夜もその意を汲み、次の神へと狙いを定める。
「っづ……ぁあっ!?」
……直後、そこへアリシアが飛んできた。
「アリシア……!?」
「お姉ちゃん……!?」
「っ、神夜にフェイト、アルフも……!」
吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた所でアリシアは体勢を立て直す。
同時に三人に気付き、気にしてる暇はないと正面に注意を戻す。
「ッ……!!」
―――“弓奥義・朱雀落”
刹那、アリシア達に向けて赤い極光が迫りくる。
対し、アリシアが強力な矢の一撃を放つが……
「(穿つ事も、できない……!)」
穴は開いた。しかし、それだけでは結局四人とも極光に呑まれてしまう。
「ぉおおおっ!!」
そこへ、神夜が割り込んだ。
魔力を伴った攻撃を何度も叩き込み、それでも凌ぎきれない威力をその身で耐えた。
「し、神夜!?」
「はぁっ!!」
気合一閃。かなりのダメージを受けたが、これで敵の攻撃を凌ぎ切った。
突然の割り込みと、攻撃を凌いだ事にアリシアは驚愕する。
「ぐ、っ、まだまだ……!」
酷いダメージ。そう思えるのは一瞬だった。
神夜がそう言って立ち上がった時には、既にダメージは消えていた。
実際は、まだ体にダメージは残っているが、少なくとも目に見えるダメージはなかった。
「ッ……!(凄い気迫……一体、何があったの……?)」
立ち上がった神夜を見て、アリシアは慄く。
その背から、強烈な“意志”を感じたからだ。
「ぁ、避けて!!」
フェイトが何かに気づき、慌てて警告する。
直後、アリシア、フェイト、アルフの三人はその場から逃げるように飛び退いた。
「ちょ、神夜!?」
だが、神夜のみ、その場に残っていた。
そして、フェイトが警告した理由……神からの攻撃が寸前までいた場所に着弾した。
その攻撃は、先程アリシアが相殺できず、神夜が耐え凌いだもの。
それも、威力は先程よりも大きいものだった。
「―――ぉ」
それを。
「―――ぉおおお……!」
神夜は。
「―――ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
貫くように、突き抜けた。
「ッッ!?」
その様に、アリシアだけでなく、フェイトやアルフ、攻撃を放った神も言葉を失う。
「っっらぁああああああああああああ!!」
そして、極光を突っ切った神夜は、その勢いのまま、神を殴りつけた。
「ご、ぉ……っ……!?」
「っ、ぁあっ!!」
殴りつけ、頭を掴み、真下へ投げつける。
直後、魔力弾を先行させ、さらに砲撃魔法で追撃する。
「追撃ぃ!!」
「っ、了解!」
「ッ……!」
「あいよぉっ!」
叫ぶような神夜の指示に、アリシア達もすぐに反応する。
神が叩きつけられた場所へ、フェイトの魔力弾とアリシアの霊術を先行させる。
ほぼ同時に、アルフがバインドを放ち、拘束を試みた。
「合わせろ!」
「オーケー……!」
「わかった……!」
間髪入れず、アルフ以外の三人で肉薄。
アルフに拘束を任せ、三人で近接戦を仕掛ける。
アリシアは武器を斧に変え、フェイトもザンバーフォームに変え、攻撃重視にする。
そして……
「ぉおおおおおおおっ!!」
「やぁあああああ!!」
「はぁああああっ……!」
斬る、斬る、斬る……!!
神夜の剣が、アリシアの斧が、フェイトの大剣が。
神の再生を許さないように、体を切り刻む。
それだけじゃない。三人の気合を込めた一撃一撃が、神の“意志”を削っていく。
力量で勝っていてもそれで戦闘に勝てる訳ではないと、知らしめるように。
「ぉおおお、ぉおおおおおおお……!」
「「っっ……!」」
爆ぜる。理力が衝撃波となり、三人を吹き飛ばす。
同時にアルフのバインドも解けてしまう。
一手。たった一手で状況が覆されてしまう。
「―――弾けろ、赤雷!」
「ッ、まずっ……!」
「バルディッシュ!」
―――“扇技・神速”
―――“Blitz Rush”
咄嗟にアリシアとフェイトは速度強化の霊術及び魔法を使う。
直後、その速度すら上回る勢いで、敵の神が動いた。
「ぐっ……!」
「ぁあっ……!」
「(速すぎて、バインドで捉えられない……!)」
辛うじて、最低限の防御は間に合うが、アリシアとフェイトは吹き飛ばされる。
アルフがバインドで阻止しようとしたが、そのスピードは捉えられなかった。
「神夜……!」
間髪入れずに、神は次の相手を狙う。
その対象は、当然ながら神夜だ。
刹那の間、フェイトは神夜を案じて名を呼び……
「ッッ!!」
……そして、神夜の拳が神を捉えた。
「……速いからなんだ?強いからなんだ?……それがどうした?」
憤怒を抱えた瞳で、殴り飛ばした神を見下ろす。
「それで俺の怒りが収まるとでも?」
「こいつ……!」
神夜が優勢になっているのは、偏に“怒り”が強いからだ。
“意志”が左右する神界において、神界以外の存在は弱い訳ではない。
戦闘が“戦闘”として成り立つように、少なからず神界も他世界の影響を受けている。
つまり、状況によっては他世界の存在が神界での事象を塗り潰す事も可能なのだ。
「(……何か、きっかけがあったんだね)」
知ってか知らずか、神夜はそれを実行していた。
魅了や洗脳に対する“怒り”が、神の圧倒的強さを“些事”と捉え、無視していた。
その結果が、神の攻撃を悉く凌ぎ、圧倒している事だった。
「(いいね。その“感情”。私もあやかろうかな)」
体勢を立て直したアリシアは、神夜のその様子を見て一つの霊術を用意する。
それは神界の戦いに備え、とこよと紫陽が編んだ特殊な霊術。
“意志”を通して効果を発揮する、この状況に打ってつけの霊術だ。
「……示す意志は“怒り”」
術式起動のための言葉を紡ぐ。
“意志”を汲み取るため、まずはその対象を指定する。
「術式、起動。“意志鏡映力成”」
鏡のような霊力が神夜を包む。
「その“意志”、借りるよ!」
「アリシア……?」
訝しむ神夜だが、それより先にアリシアが術を発動させる。
「吠えよ叛逆の力!!」
アリシアの眼前に術式が浮かび上がる。
神夜の“意志”を汲み取り、その力が剣となり、矢となる。
「神を穿て、“Rebellion Mistilteinn”!!」
怒りを表す赤を纏った極光が、放たれた。
「ッッッ………!!?」
その威力に、極光を放った本人であるアリシアすら仰け反った。
「この程度!」
「(まずい……!)」
同時に、アリシアは“これではダメだ”と思った。
今相手にしている神は、先程赤い極光を放っていた。
他にも、炎の霊術など“赤”に関するものは当然のように無効化していた。
中にはそのまま投げ返してくる事さえあった程だ。
その上、先程は赤い雷を纏い、襲い掛かって来た。
「(少なくとも、“赤”が関係していると効かない……!)」
そこから推測するに、相手の神は赤に関する“性質”があるのだと考えられる。
そして、今放ったのは赤を纏った極光だ。
アリシアの推測が正しければ、それも無効化されてしまう。
「な、に―――!?」
果たして、その推測は半分当たり、半分外れていた。
威力が段違いだったのか、込められた“意志”が強かったのか、神は戸惑った。
それだけでなく、受け止めた状態で押されていたのだ。
「馬鹿な、これほどの“意志”を……!?」
「神夜!!」
「ま、か、せ、ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
無効化ないし跳ね返されないのなら、とすぐにアリシアは神夜を呼ぶ。
アリシアの意図を理解した神夜は跳躍し、自ら極光へと飛び込む。
「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
―――“Rebellion Longinus”
“意志”を込め、拳を振るう。
受け止められていた極光が凹み、槍となって神の体を貫く。
そのまま極光が神の体を呑み込み、炸裂した。
「はぁっ、はぁっ、ふぅ、っ、はぁ~……」
「神夜、大丈夫……?」
神を倒した事を確認し、神夜は荒い息を吐き出す。
フェイトが心配し、支えると、その体に大量の汗を掻いているのが分かった。
「……あれほどの“意志”を維持し続けたんだから、そうなるのも無理はないよ」
「っづ……!?」
「神夜!?」
怒りという強い“意志”を抱き続けた神夜。
その“意志”の強さはかなりのものだったが、反動も大きかった。
神夜は頭を押さえ、その場に膝を付いた。
「……神夜、まさか……」
「っ、ふざ、けるな……洗脳されて……たまるか……!」
「洗脳に抗いながら戦ってたの!?っ、とにかく、術を……!」
疲労した事により、再び洗脳の効果が働き始めた。
未だに抵抗する神夜だが、一度落ち着いてしまったために、抗いきれない。
即座にアリシアが霊術の準備をする。
「フェイト!アルフ!周囲の警戒!」
「うん!」
「あいよ!」
周囲の警戒を二人に任せて、術式を組み立て終わる。
「ッッ……!」
―――“秘術・ 魂魄浄癒”
霊力を流し、光が神夜を包み込んだ。
「っ……ぁ……?」
「どう?」
「……な、なんとかな……」
術は成功し、洗脳の効果を打ち消した神夜。
それを見ていたフェイトとアルフも安堵していた。
―――“戦技・隠れ身”
「……気休めだけど、これで……って、ちょっと待って神夜!」
「他の皆も戦っているっていうのに、じっとしていられるか……!」
「そうだとしてもだよ!一旦落ち着いて!」
霊術で身を隠し、束の間の休息を取るアリシア。
すぐにでも次に行こうとする神夜を、何とかして止める。
「普通に横入りした所で、あまり意味はないよ。……不意打ちとまでは行かなくても、こうして一旦落ち着いてから行った方が上手く行く」
「でも、そんな悠長な事は……」
「してられないね。だけど、それで慌てても結果は同じ。劣勢になってから、何人の神を倒せたと思う?」
その言葉に、フェイトは黙り込む。
全員の討伐数を合計しても、アリシア達全員の数にも満たないのだ。
「優輝のあの身体強化は驚異的だった。でも、それでも“倒せない”んだよ。……神夜のように、驚異的な“意志”をぶつけなくちゃ、本当に倒せない」
「……そう考えると、協力したとはいえ三人も倒せたのかい。神夜は」
「……えっ、そんなに?」
まさか先程の神に加え二人も倒していた事に、アリシアはつい驚く。
「……まぁ、とにかく。神夜もさっきので分かったでしょ?いくらなんでもあの“意志”を保ち続けるには無理があるの。せめて、少しインターバルを置かないとね」
話の腰が折れたが、咳払いをして話を戻すアリシア。
現在の神夜は、先程までの驚異的な力を発揮できないでいる。
反動が来たため、強い“怒り”を保てなくなったのだ。
「それに、洗脳された人を助けないといけないしね」
「助けるって……さっきの霊術?」
「そう。他に使えるのは優輝とアリサ、すずか。それととこよさんと紫陽さん、鈴さんだね。司と奏、緋雪も使えるけどこの場にはいないし」
一応、霊術を扱えるメンバーは全員洗脳解除の霊術を扱える。
得意不得意の差で、発動までのタイムラグはそれぞれ違うが、今は関係ないだろう。
「洗脳を受けたのは、すずか、リイン以外の八神家全員、マテリアル三人とユーリ、それととこよさんと紫陽さんだね。それと神夜……は言わずとも分かるか」
「そんなに……あの一瞬で?」
「そうだよ。内、はやて達とディアーチェ達の洗脳はさっき解いたよ。すずかはアリサが相手しているから、そのまま勝てばアリサが何とかする。とこよさんと紫陽さんは……少し戦闘の様子が見えたけど、上手く式神に意識を逃がしたみたい。あっちも大丈夫かな?」
状況把握と整理を済ませ、次の行動方針を決める。
人員を割いているとはいえ、大体に適材を充てている。
「……ユーリは?」
「サーラさんが相手してるよ。……まぁ、私が介入すべきなのはここだね。戦闘自体はともかく、サーラさんじゃ洗脳は解けないからね」
「じゃあ、そっちに行くのか?」
「方針としてはね」
“でも”と続け、アリシアはどうするのか語る。
「妨害が絶対に入る。今言ったメンバー以外は、皆神や“天使”を相手にしているけど、正直片手間であしらわれているよ。さっきの私みたいにね」
「………」
「相手側には余裕がある。包囲して高みの見物しているのもいるぐらいだし。……だから、絶対にあっさりと私達の動きは阻止される」
それだけ聞けば、どう動いた所で変わらないのかと思われる。
だが、アリシアは一つ当てにできるものがあった。
「ここで、さっきの神夜の“意志”が関わってくる。……正直、さっきの力を出せって言われても無理だと思っちゃうね。……でも、“意志”さえあれば、打倒できると分かった。それだけでも、大きな収穫だよ」
「“倒せない”と思っていたのを、“倒せた”から……?」
「その通り。そういった“意識の変化”も、多分ここでは影響すると思う」
攻撃しても倒れる気配がなかった。
“倒せない”と言う思いが根付き、そのために余計に苦戦していたのだ。
それが、神夜の行動によって払拭された。
突破口が開かれたのだ。
「こんな遠回りな言い方をしたけど……行動方針としては、見敵必殺。妨害を受けるなら、妨害してきた神を倒して進む。これに限るよ」
「なっ……!?」
「元々どう行動しても同じなんだよ。だったら、せめて最短で目的まで辿り着かないとね。どの道、窮地はまだ脱してないのだから」
驚くアルフを他所に、アリシアは“それで構わない?”と目配せする。
神夜は即座に頷き、フェイトも覚悟を決めて頷いた。
アルフも少し遅れながらもフェイトが覚悟を決めたため、追従するように頷いた。
「じゃ、これで作戦決行!この霊術は本当に無意味に近いから、一直線に行くよ!」
「目標はユーリ。援護に入って撃破。後に霊術で洗脳解除」
「立ち塞がる神は倒す」
「つまりゴリ押しって事だね」
会話中にコンディションは回復した。
すぐにでも全力を再び出せる。
視界にユーリとサーラを収め、一歩を踏み出した。
「行くよ!!」
アリシアの合図と共に、四人は一気に駆け出した。
後書き
凍れ…“水色の性質”を持つ神による言霊擬き。文字通り予備動作なしに対象を凍らす。流し目のように放つだけでも絶対零度級なのだが、あっさり砕かれた。
縛鎖潰撃・過重射殺…縛鎖全断・過重湖光と射殺す百頭の合わせ技。実質オーバーロード九発分。
意志鏡映力成…“意志”を鏡のように映し、力と成す。文字通りな霊術。人の意志を通して、その意志に比例する力を引き出す霊術。対神界の神用霊術。
Rebellion Mistilteinn…神夜の“怒り”を汲み取り、“意志の力”として攻撃に変えた結果の技。叛逆を示す剣または矢となり、神を呑み込む。
Rebellion Longinus…リベリオンミスティルテインを神夜の“意志”で後押ししたもの。拳より突き出された“意志”が極光を槍へと変え、神を貫く。
神夜の覚醒は本当に一時的です。また力を引き出せても、今回程の力は出ません。
限定的な力だからこそ、神を三人も倒せたのです。
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