テレビ世代
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第二章
「うちにテレビが来るなんてな」
「欲しいって思ってたけれど」
「本当に来たのか、じゃあ」
「今から観られるわね」
「そうだよな」
二人はまだ信じられなかった、だがそれでもだった。
真礼も雄馬も自分達の家でテレビを観られる様になった、二人は学校から帰るとすぐにテレビを観る様になった。おかげで母親にテレビばかり観てと怒られたが二人はいつもこう言い返した。
「だって面白いんだもん」
「面白いからいいだろ」
「テレビあるだけで幸せよ」
「こんないいものないからな」
こう言ってそれこそ風呂に入るか漫画を読むか飯を食うか嫌々勉強させられるかでもしない限りテレビを観ていった、チャンネル争いもしょっちゅうになっていてだった。
両親にジャンケンで決めろと言われて雄馬はよく姉に負けて悔しい思いをした。
「また姉ちゃんに負けたよ」
「じゃあ私の番組観るわね」
「勝手にしろよ、俺ちょっと外で遊んで来る」
「そうしなさい」
真礼はふてくされて家を出る弟の方を見向きもせず声だけかけてテレビのスイッチを入れた、真空管なので映像が出るまで時間がかかったがそんなことはどうでもよかった。
二人も両親もテレビが好きでいつも観ていた、それは白黒テレビからカラーテレビになった時もだった。
カラーテレビを観てだ、もう高校生になっていた真礼と雄馬は驚いて言った。
「白黒と全然違うじゃない」
「びっくりする位奇麗だな」
「何か映画みたい」
「滅茶苦茶いいな」
「ああ、もうカラーテレビじゃないと駄目だな」
「そうよね」
両親もこう言うばかりだった。
「こんないいものがあるなんてね」
「夢みたいだな」
「冷蔵庫も洗濯機もあるし」
「うちもよくなったよな」
「けれどもうね」
「カラーテレビ程いいものはないよな」
二人共こう言うばかりだった、黒い詰襟とセーラー服の姿で。
二人は高校を卒業して就職し結婚して家庭も持っていった、二人のそれぞれの家庭も父が定年し隠居となった両親の家もカラーテレビがありいつも観ていた。
それでだ、雄馬は仕事から帰って冷奴でビールを楽しみながら野球中継を観て台所で食器を洗っている妻に言った。
「今日阪神勝ってるな」
「あら、そうなの」
「田淵さんいなくなったけれどな」
それでもとだ、後楽園球場の中継を観て言うのだった。
「それでもな」
「勝ってるのね」
「ああ、ラインバック頑張ってるよ」
「あなた阪神好きよね」
「子供の頃から家族全員阪神ファンなんだよ」
それでとだ、ビールを飲みつつ言うのだった。子供の頃の丸坊主姿ではなく七三分けになっていて腹も少し出て来ている、シャツにトランクスというラフな格好だ。
「だからな」
「今も阪神応援してるのね」
「そうだよ、今年は優勝して欲しいな」
「前優勝したの三十九年よね」
「まだテレビは白黒だったな」
雄馬はその頃のことを思い出した、基準はテレビだった。
「阪神のユニフォームの色なんてな」
「わからなかったわよね」
「ああ、そんなの全然な」
それこそとだ、妻に返した。
「白黒だったからな」
「今も対して変わらないけれどね」
「ビジターだから違うけれどな」
甲子園球場の試合だからだ、画面では小林繁が人類普遍の敵巨人の打線を完璧に抑えている。
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