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第二章
「あの十番さっきも打ったな」
「加藤さんね」
「ああ、そんな名前だな」
背番号の上にあるアルファベットを読むとそう書かれていた。
「確かにな」
「加藤秀治さんよ」
「四番ファーストか」
スターティングメンバーにはこう書かれていた、一番センター福本から数えそして今日はそこに位置しているのだ。
「堂々なスラッガーか」
「ホームランも打つけれどヒットも打って」
「さっきもいいヒットだったしな」
「物凄く勝負強いのよ」
「それはいいバッターだな、そんな選手がもっと阪神にいたらな」
ここで自分達のチームのことを思う健作だった。
「いいのにな」
「阪神には田淵さんがいるでしょ」
「それでも打てる人は一人でも多い方がいいしな」
それでと言うのだった、そうして健作は加藤を観ていたがこの試合彼は大当たりでチームを勝利に導いた。
それでこの日からパリーグには殆ど興味がなくても加藤はチェックしていたが。
よく打つ彼についてだ、健作はよく妻に言う様になった。
「加藤昨日も打ったな」
「よく打つバッターでしょ」
「お前の言う通りホームランを打つけれどな」
出勤前に新聞を読みつつ言うのだった、食事のトーストも前にある。
「それだけじゃないな」
「そうでしょ、ヒットもしっかり打って」
「打点もいいな」
「そんなバッターなのよ」
「今年三冠王いけないか?」
加藤の成績を見てだ、健作はこうも言った。
「ひょっとして」
「いけたらいいわね」
「ああ、こんな凄いバッターが阪神にいたらな」
また言うのだった、この言葉を。
「いいのにな」
「だから阪急の人だから」
「仕方ないな」
「そういうことでね」
夫婦で加藤についてこうしたことを話すことが多くなっていた、だがそんな中で健作は八十二年のシーズンオフのスポーツ欄を見て妻に言った。
「おい、加藤広島に行くぞ」
「今年調子が悪かったから?」
「そうじゃないか?広島か」
「阪急からなのね」
「まさか阪急を出されるとかな」
「私もその話聞いて驚いたわ」
自分で紙面を確認してからだ、友奈は夫に答えた。
「本当なのね」
「ああ、広島か」
「阪急出るけれど広島でも活躍して欲しいな」
「そうね」
夫婦でこんなことを話した、だが。
加藤は広島では肺炎にかかってしまったこともありあまり出場機会はなく一年で近鉄に移籍することになった、ここで友奈は祈る様に言った。
「本当に近鉄ではね」
「活躍して欲しいんだな」
「絶対にね」
それこそと言うのだった。
「そうして欲しいわ」
「切実だな」
「阪急の選手じゃなくなったけれど」
「それでも好きな選手だからか」
「活躍して欲しいわ」
「俺もだよ、しかしパリーグに戻って次は近鉄か」
健作は新聞を読みつつ少しどうかという顔になって述べた。
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