お茶の精
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第四章
「別にな」
「そっちもですか」
「この歳で欲しいものか」
そうした欲もないというのだ。
「一度癌になってから特にな」
「ああ、癌にですか」
「六十五の時になってな」
そしてというのだ。
「それから余計にじゃ」
「女の子はですか」
「興味がなくなった、若い頃は違ったが」
やはりその頃は女性に興味があったというのだ。
「だからな」
「何か私一切ですね」
「何もせんでいい」
家にいてもというのだ。
「それでいい」
「じゃあお茶を煎れることは」
「それ位ならいいがのう」
「じゃあそうしていきますね」
「ではな」
こうしたことを話してだ、そしてだった。
お茶の精は鷲塚の家にいて彼と共に暮らす様になった、すると鷲塚自身が言う通り彼は家事は何でも自分でしてだった。
特に掃除は毎日家の隅から隅までしていた、毎朝そうして身体を動かしてから朝食を食べるという生活だが。
その生活を見てだ、お茶の精名前をお静という彼女はこう言った。
「あのですね」
「何じゃ」
朝食のお粥を食べつつだ、鷲塚はお静に返した。
「言いたいことがあるか」
「はい、お爺さんいつも規則正しい生活してますね」
「だからそうせんとな」
「ぼけますか」
「だからじゃ」
それでというのだ。
「こうしておる」
「後は死ぬだけでもですね」
「本当にぼけることはな」
このことはというのだ。
「嫌だからな」
「そうしてですか」
「毎日な」
「家事、特にお掃除をして」
「そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「一日をはじめておる」
「それでお昼はお散歩をして」
「そうしてな」
そちらも忘れないでというのだ。
「暮らしておるのじゃ」
「後はお亡くなりになるまででも」
「そうじゃ、悪いか」
「それで将棋や囲碁もして」
「土方とな」
「何か充実してますね」
彼のその生活はというのだ。
「どうも」
「そうか」
「はい、私が思いますに」
「そうかのう」
鷲塚はお静のその言葉に首を傾げさせて返した。
「わしは本当にな」
「もう、ですか」
「死ぬだけだが」
「いえ、それでもですよ」
高齢であることは事実でもというのだ。
「規則正しい生活で健康的で」
「それでか」
「充実していて」
それでというのだ。
「凄くいいと思いますよ」
「そう言われるとは思っていなかった」
それも全く、であった。鷲塚にとっては。
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