いらんハーレム

「おかしいだろ」
「お前は世の中のことを知らんのか」
「いや、俺まだ大学生だけれどな」
　それでもとだ、健は祖父に言い返した。
「それなりに人生経験積んで社会を知ってるつもりだぜ」
「ならわかろう、本朝の歴史を」
「日本のかよ」
「織田信長さんはどうであった」
「織田信長さん？」
「武田信玄さんや上杉謙信さんはどうだった」
「どの人も戦国大名だよな」
　健も彼等のことは知っていてすぐに答えた。
「名将で」
「その名将の傍に小姓がおったな」
「森蘭丸さんとかな、って」
「そうじゃ、わかったな」
　森蘭丸でとだ、祖父も言った。
「本朝ではおのこ同士もまたよしであったのじゃ」
「じゃあ祖父ちゃんのハーレムっていうのは」
「うむ、おのこじゃ」
　性別はそちらだというのだ。
「そのハーレムなのじゃ」
「祖父ちゃんホモだったのかよ」
「ホモではない」
　祖父はそこは否定した。
「そちらも嗜んでおるのじゃ」
「それをホモっていうんだろ」
「両方じゃ、おなごもおのこもじゃ」
「男だけじゃないからホモじゃないっていうんだな」
「そうじゃ、それでお前にじゃ」
　あらためてだ、健一郎は健に言った。
「そのハーレムを渡したいが」
「俺女もまだなんだけれどな」
　実は童貞であることをだ、健は何気なく白状した。
「それで男がかよ」
「駄目か」
「俺そっちの趣味もな」
「ないか」
「ないよ、ただな」
　それでもとだ、健は趣味はなくとも一体どんなものかと好奇心をもたげさせてだった。祖父に対して言った。
「そのハーレム何処にあるんだよ」
「うむ、わしが呼べばな」
「相手の男の人達をか」
「来る、何なら全員と会うか」
「この目で見てみないとわからないしな」
　それでとだ、健は祖父に答えた。
「それじゃあな」
「うむ、ではな」
「これからか」
「呼ぶ、今夜を楽しみにしておれ」
「一応観させてもらうな」
　こう答えてだ、そしてだった。
　祖父は早速相手の男達に召集をかけた、健はこの時何でも見てやるという気持ちであった。その夜だった。
　彼は祖父に県でも有数のホテル、彼の家が経営しているそれのロイヤルスイートに祖父に連れられて入った。するとだった。
　祖父は彼にだ、堂々たる声で語った。
「ではこれよりな」
「俺に譲るハーレムをか」
「見せようぞ」
「期待しないで見させてもらうな」
　これが孫の返事だった。
「そのハーレムを」
「見ればわかるかも知れん」
　祖父は悠然と立ったままで言った、紋付羽織袴姿が実によく似合っている。
「お前もな」
「わからなかったらどうするんだよ」
「それまでのこと。ハーレムはなくなる」
　そうなると言うのだった。
「わしの代でな」
「わしの代って祖父ちゃんの前にもあったのかよ」
「いや、わしがもうけたものだ」
　祖父はこう孫に答えた。