ある晴れた日に
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478部分:夕星の歌その十八
夕星の歌その十八
「何があるかわからないし」
「私達もいるからね」
「安心してよ」
「奈々瀬に何かあったら絶対に許さないからね」
五人の他の面々はすぐにその奈々瀬に言ってきた。
「だから安心しなよ。気をつけるのはいいけれどよ」
「何も起こさせないから」
「私達がいるんだからね」
「そうよね」
その彼女達の言葉を受けてやっと安心した顔になる奈々瀬であった。
「皆がいるから」
「幼稚園の頃からじゃない」
「誰にも何もさせないからね」
彼女達はここぞとばかりに言う。この言葉は本気だった。
そして皆もそうだった。誰もが今は本気の顔で話をしていた。
「まあとにかくな」
「暫く用心が必要よね」
「そういうことね」
皆でこう話していく。
「何が起こってもね」
「油断大敵ってことだな」
「ただしだけれど」
ここでまたしても竹山が口を開いてきたのだった。
「誰がそうしたおかしな事件の犯人なのかは確かめていかないとね」
「犯人っていっても」
千佳は竹山のその言葉に俯いた顔で返すのだった。
「その誘拐と学校の動物やお花の犯人が一緒っていうことはないんじゃないかしら」
「いや、普通に関係ないだろ」
野茂が眉を顰めさせて言った。
「確かにどっちも胸糞悪くなる話だけれどな。同じ犯人っていうとそれも有り得ないだろ」
「確かにな」
それに頷いたのは坪本だった。
「そんなの有り得ないよな。やっぱりな」
「けれどあれだよな」
坂上は口に手を当てて言葉を出した。
「動物と花の話は普通に重なってるって思ってもいいよな」
「それはね。同じじゃないかな」
竹山もその可能性は否定しなかった。むしろそうではないかと考えている程だった。
「けれど誘拐してっていうのはちょっと」
「まあ両方だったら洒落にならないな」
佐々はその場合についてあえて話した。
「化け物みたいな奴になるな」
「化け物かよ」
野本はその単語を聞いて目を顰めさせざるを得なかった。そのことはどうしても否定できない彼自身の感情がそのまま出ているものだった。
「そんな奴世の中にいるのかよ」
「いるよ」
野本のその問いに答えたのは竹山だった。
「実際にはそういう人もね」
「いるんだ。そういうおかしな人も」
「サイコパスっていうかね」
彼は言った。桐生の言葉に対して。
「精神や人格に重大な欠陥があるね。そういう人はいるから」
「そうした人が犯罪を行う」
桐生はそのことについて考えるのだった。考えてみるとこれだけ危ないことはなかった。それはまさに恐怖と言っていいものであった。
「恐ろしいことになるね」
「そうした人を行う犯罪は幾らでもあるんだよ」
竹山は皆に話した。
「前にそんな話をしたことがあると思うけれど」
「そういえばね」
「前にもこんな話をしたことが」
咲と凛がそのことを思い出した。
「そうした連中がいるってことは」
「話したわよね」
「そのデータもあるから」
竹山はそれもあるというのだった。
「よかったらネットから出して来るけれど」
「ああ、それはいいから」
「あまりっていうか全然見たかねえよ」
静華も春華もそれは断った。それは彼女だけでなく皆も同じであった。
「そういうの見ても」
「気分が悪くなるだけだろ」
「確かに見ていて気分のよくなるものじゃないよ」
そのことは竹山も認めた。どうしてもである。
「絶対にね」
「そうだろうね」
桐生は竹山の今の言葉に頷いた。
「サイコパスっていう言葉自体にいい響きがないからね」
「インターネットじゃすぐに調べられるけれどあまりお勧めもしないから」
「そう。だったら僕もね」
桐生も暗く思い詰めた顔で返した。
「止めておくよ」
「それがいいよ。できるだけね」
こう皆に話すのだった。そうして今も彼等はこれからどうしていくのか考えていた。彼等なりにクラスを、そして皆を考えているのだった。
夕星の歌 完
2009・9・21
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