戦国異伝供書

「馬を並べてな」
「武田家の為に戦いたいですな」
「その時は」
「まさに」
「そう思っておる、しかし」
　幸村は星を観続けていた、そのうえでの言葉だった。
「どうもな」
「どうも？」
「どうもといいますと」
「お二方が生き延びることはわかるが」
　幸村の星見ではそうだった。
「しかしじゃ」
「それでもですか」
「どう進まれるかはですか」
「わかりませぬか」
「わしの星見はまだまだ未熟じゃ」
　このことに歯噛みしている言葉だった。
「それでじゃ」
「完全にはわからぬ」
「左様ですか」
「そうだというのですか」
「うむ、お二方の詳しい運命まではな」
　そこまではというのだ。
「わからぬ」
「左様ですか」
「ではですな」
「お二方が武田家に入られるかは」
「そこまではですか」
「はっきり言えぬ」
　星に見えないからだ、幸村はこのことを残念に思った。だが彼の前向きな気質から十勇士達に対してあらためて述べた。
「しかしな」
「はい、どうあろうとですな」
「お二方がどうなられようとも」
「殿はですな」
「わしの道は決まっておるからな」
　こう述べるのだった。
「お主達と共におってじゃ」
「お館様にお仕えし」
「そして武士の道を歩んでいく」
「それが殿の道ですな」
「そうじゃ、日々鍛錬と学問に励んでな」
　そうしてと言ってだった、幸村は今は十勇士達と共に酒を飲んだ。しかし星のことは忘れていなかった。
　その星は山本も見ていた、しかも星見について彼は幸村より遥かに上であった。それが為に晴信が寝る前にこっそりと囁いた。
「信濃の北は我等のものになる様ですが」
「それでもか」
「はい、村上殿と小笠原殿はです」
　彼等はというのだ。
「生き延びられます」
「討ち取ることは出来ぬか」
「はい、そしてお館様にとって残念ですが」
「わしとしてはな」
　晴信は山本の話を受けてこう答えた。
「出来ればじゃが」
「お二方はですな」
「家臣にしてじゃ」
　そしてというのだった。
「当家の下で働いてもらいたいが」
「それはです」
「出来ぬか」
「どうやら」
「そうか、残念じゃな」
　晴信は山本の話を聞いて苦い顔で述べた。
「それは」
「はい、しかもです」
「まさかと思うが」
「お館様の星とは別の星の方にです」
「流れていっておるか」
「はい」
　そうなっているというのだ。