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戦国異伝供書

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第四十五話 影武者その五

「この戦に勝てなば」
「砥石城ですな」
 飯富が目の光を強くさせて言ってきた。
「次は」
「うむ、あの城を攻め落としな」
「次にですな」
「葛尾城じゃ」
 村上家の本城であるこの城をというのだ。
「いよいよあの城となる」
「ですな、あの城さえ攻め落とせば」
「信濃の北は我等のものになったも同然じゃ」
「左様ですな」
「だからじゃ」
「これからですな」
「この戦を決するぞ」 
 こう言ってだ、晴信は自分が戦の場に三人出たと思い戸惑っている敵軍に対して飯富と山縣が率いる騎馬隊を突っ込ませた、騎馬隊は晴信の期待通りにだった。
 敵陣を横から突き崩した、確かに守りは堅固であったがその布陣も戸惑っていては意味がなかった。
 それでだ、敵軍は瞬く間に武田の騎馬隊の前に総崩れとなった。それを見て信繁と信廉もであった。
 それぞれの軍勢を前に出して弓矢や槍で攻めた、この事態を見て村上は小笠原に苦い顔でこう言った。
「またしてもじゃな」
「無念じゃがな」
「負けてしまったわ」
「武田殿は何故三人おられる」
 小笠原もこのことについて言及した。
「一体」
「そのことだな」
「そうじゃ、何故じゃ」
「それはわからぬ、しかしな」
「しかし、どういうことじゃ」
「今は退くしかない」  
 村上が言うことはこのことだった。
「ここまで総崩れになってはな」
「そうじゃな、これではな」
「これ以上戦ってもじゃ」
 それでもというのだ。
「兵を無駄に失うだけじゃ」
「全くじゃな、ではな」
「うむ、兵を退けるぞ」
「それしかないな」
 二人で話してだ、そしてだった。
 村上と小笠原は兵を率いてだ、何とか戦の場を離脱した。彼等の兵は多く討たれたが何とかだった。
 砥石城に逃れることが出来た、だが勝敗は明らかで勝った晴信はまずは自分の兵達に勝鬨をあげさせた。そのうえで本陣で諸将に言った。
「見事な勝ちであったな」
「はい、この勝ちによってです」
 穴山が晴信に応えて述べた。
「我等は砥石城に至ることが出来ます」
「そうなったな」
「よいことです、しかし」
「どうしたのじゃ」
「まさか影武者にああした使い方があるとは」
 穴山が今言うのはこのことだった。
「思いませんでした」
「影武者が二人出てじゃな」
「はい、お二方が」
 穴山は信繁と信廉を見て述べた。
「共にお館様の影武者になられて」
「それぞれ戦の場に出てな」
「それで敵を戸惑わせるとは」
「それじゃ、わしはまだ戦の場に出られぬ」
「そうした状況でした」
「しかし実は出られた」
 温泉で傷を癒してだ。
「そこからじゃ」
「はじまっていますな」
「そして二郎達が影武者となる」
「お二方がまずお姿を見せる」
 敵に対してだ。 
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