英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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第23話
~メンフィル帝国大使館・応接室~
「リィンがトールズに来る前はメンフィル帝国軍の”訓練兵”としてリィンと同じ訓練兵達と共にメンフィル軍の関係者から教えを受けていた話は聞いてはいたが…………」
「それがまさかセシリア将軍閣下がその一人で、しかもリィンの”担当教官”だったなんて…………!?」
「やれやれ…………まさかトールズに来る前のリィン君はそんなとんでもない大物から教えを受けていたとはね…………」
「しかも、メンフィル側の”総参謀”として今回の戦争に参加するって事は今後のメンフィル・クロスベル連合の動きや配置を決める人物でもあるんだ。」
セシリアが改めて自己紹介をするとガイウスは複雑そうな表情で、アリサは信じられない表情でそれぞれセシリアを見つめ、アンゼリカは疲れた表情で溜息を吐き、フィーは真剣な表情でセシリアを見つめた。
「…………何故、セシリア将軍閣下は”かつての教え子であるリィンの友”だからという理由の為だけに今回の会談が行えるように取り計らったのでしょうか?」
「―――内戦時の貴方達”Ⅶ組”を含めた”紅き翼”が取った行動等は我が軍の諜報部隊が集めた情報から貴方達の性格や行動原理等を分析した結果、今回の戦争に”メンフィル側として参戦したリィン達を取り戻す”という”無謀かつ無意味”な事をする事は簡単に想像できましたからね。そんな貴方達を自分の目で見て、実際どのような人物達であるかを確かめたかったのですよ。報告だけではわからない事もありますもの。」
「リ、”リィン達を取り戻す事が無謀かつ無意味な行動”ってどういう事ですか!?」
ラウラの質問に答えたセシリアの答えを聞いて仲間達と共に血相を変えたマキアスは真剣な表情で訊ねた。
「今回の戦争は内戦の時と違い、戦争の裏に隠された『真実』とやらは『貴族連合軍―――即ちエレボニア帝国による2度に渡るユミル襲撃』ですし、戦争を終わらせる方法は『エレボニアかメンフィル・クロスベル連合のどちらかが敗北する』か、『エレボニアがメンフィルの要求を受け入れる』の二つの内のどちらかなのですから、貴族派と革新派に分かれていたエレボニアに巻き起こす為に結成された”新たな風”である貴方達が今回の戦争を双方納得できる”結果”にする事等普通に考えてありえませんし、リィン達は『メンフィル側と戦争に参加して手柄を挙げて”上”を目指す事でエレボニアの滅亡を防ぐという目的』の為に今回の戦争に参加しているのですから、ただの士官学生である貴方達にリィン達のその考えを変える事ができる”代案”を思いつき、リィン達を説得する等普通に考えて”無謀かつ無意味な理想”ですわ。リィン達の方がよほど”現実”を見ています。―――その証拠にリィン達はクロスベルでの迎撃戦の戦功を評価されてエリス嬢とセレーネ嬢は”少尉”に、リィンは”少佐”にそれぞれ昇進した上今回の戦争に参加したもう一つの目的である『アルフィン殿の処罰内容を軽くする事』もできたのですから。」
「それは……………………」
セシリアの指摘に反論できないユーシスは複雑そうな表情を浮かべた。
「そしてリィン達は元々メンフィル帝国に所属―――それも”貴族”なのですから、”本来の立ち位置に戻っただけ”の話です。まさかとは思いますが貴方達はトールズ士官学院卒業後、”メンフィル帝国人のリィン達”がエレボニアで何らかの職に就いて貴方達と共にエレボニアを支えるといった夢まで見ていたのですか?」
「そ、そんな先の事まで考えていません。でも…………」
「…………心のどこかではリィンさん達は私達の”仲間”として、エレボニアにもし”何か”あればそれらを協力して解決するような事は考えていたかもしれません…………」
「……………………」
セシリアが口にした未来を言い当てられたエリオットは不安そうな表情で、エマは複雑そうな表情でそれぞれ答え、セリーヌは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「まあ、エレボニアとメンフィルの間で”戦争”が起こらなければそのような事もありえたかもしれませんね。―――ですが戦争は始まり、メンフィルはエレボニアを”明確な敵”として認めました。一応聞いておきますが、リィン達がメンフィルにとっての”敵国であるエレボニアの為にエレボニア側として行動すればメンフィルにとっては祖国を裏切った裏切り者”として扱われる事も考えた上で、リィン達を取り戻す―――エレボニア側である自分達の仲間に戻ってもらう事を考えたのですか?戦後のリィン達のメンフィル帝国内での扱いも考えた上で。」
「そ、それは……………………」
「……………………」
セシリアの痛烈な指摘に何も反論できないトワは辛そうな表情で答えを濁し、アンゼリカは重々しい様子を纏って黙り込んでいた。
「そのご様子ですと”何も考えてなく、リィン達を取り戻してから一緒に考える”といった所ですか。―――大方私が予想した通りだったようですね。―――まあ、恥じる必要はありません。貴女達はまだ”学生”なのですから。それよりも”教官”であるサラ・バレスタインさんに問わせて頂きたいのですが…………貴女、”士官学院の教官”―――それも国家間交渉の仲介役を担う役割も有する遊撃士の中でも真っ先にその役割が求められる”A級遊撃士”の資格がありながら今回の戦争での”リィン達の立ち位置がエレボニア側だった場合でのリィン達にとっての祖国であるメンフィル帝国でのリィン達の扱い”について何も考えず、内戦の時のように教え子達の方針に委ねて自分はただ教え子達を支えるつもりだったのですか?」
「…………っ!」
セシリアの正論かつ痛烈な指摘に対して反論する事ができないサラは悔しそうな表情で唇を噛み締めて身体を震わせていた。
「どうやら図星のご様子ですわね…………―――遊撃士稼業を休職しているとはいえ、正直”期待外れ”でしたわ。2年前に起こった”リベールの異変”でのリウイ陛下達による詳細な経緯が書かれた報告書で私が知る事ができたメンフィルと縁があるA級やS級遊撃士達―――ファラ・サウリン卿にルーハンス卿、”剣聖”カシウス・ブライト中将に”漆黒の牙”、そして”不動”と”重剣”。更にA級ではありませんがペテレーネ神官長唯一の弟子である”嵐の銀閃”とリィンが修めている剣術―――”八葉一刀流”の”開祖”である”剣仙”の孫娘と、正遊撃士は世界規模で考えれば数は少ないにも関わらず一人一人が無視できない存在である事からまさに”少数精鋭”であることを思わせるような方々でしたが…………貴女といい、”零駆動”のトヴァル・ランドナーといい、ファラ・サウリン卿達と同じ”正遊撃士”とは思えない浅はかな方々ですわね。」
「「「………………………………」」」
セシリアが挙げた人物達をそれぞれ思い浮かべたクローディア王太女とオリヴァルト皇子、ユリア准佐はそれぞれ複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「リィン達の件はメンフィル帝国軍の関係者としてだけでなく、リィンの担当教官として…………そして私個人としても『正しい選択をした事』に安心しましたわ。」
「ふざけんじゃないわよっ!?あたしやトヴァルに関してはアンタの言う通り、あたし達にも”落ち度”があった事は認めざるを得ないから、それについては反論はないわよ!だけどリィン達の今の状況になると話は変わるわ!アンタはリィン達がメンフィル側として今回の戦争に参加した事を安心したって言っているけど、アンタ、それでもリィンの担当教官!?自分の教え子が戦争で留学先で作った仲間達と戦うどころか、その関係者や軍人達と戦って自分の手で命を奪うかもしれない事に何も思わないの!?」
セシリアが自身の感想を口にするとサラが立ち上がって怒りの表情でセシリアに問いかけた。
「まあ、あの子のお人好しな性格を考えれば、外面は平然を保つ事はできても、内心は傷ついてはいるかもしれませんが…………―――彼は将来はメンフィル帝国軍のいずれかの部署に配属される事が決まっている”メンフィル帝国軍の訓練兵”として私達から教えを受け、同期達と共に切磋琢磨をし、訓練兵を卒業している時点で彼も新人とはいえ”メンフィル帝国の軍人”。メンフィルの為にその身を持ってメンフィルに仇名す者達と戦い、祖国であるメンフィルと皇族であるシルヴァン皇帝陛下達を護る重要な役割を果たす事が求められているのですから、幾ら親しくなろうとも祖国と陛下達の為には親しくなった者達が”メンフィルの敵”になるのであれば、己の心を殺して躊躇うことなくその刃を振るうのが彼に求められている”義務”。また、リィンもそうですがセレーネ嬢やエリス嬢もメンフィル帝国貴族の一員なのですから、祖国であるメンフィル帝国の為に例え”敵が親しくなった相手であろうとその相手に刃を振るう事”も”メンフィル帝国貴族としての義務”です。」
「っ!!」
「”メンフィル帝国軍人としての義務”と”メンフィル帝国貴族としての義務”か…………」
「…………確かにセシリア将軍閣下の仰る通り、国に限らず”軍人”や”貴族”には相応の”義務”が求められるね…………」
「はい…………」
「……………………」
セシリアの指摘を聞いたサラは悔しそうな表情で唇を噛み締め、ガイウスは複雑そうな表情で呟き、重々しい様子を纏って呟いたアンゼリカの言葉にラウラは複雑そうな表情で頷き、ユーシスは辛そうな表情で黙り込んでいた。
「とはいっても、私とてかつてのリィンの”担当教官”として今回の戦争の件で傷ついているであろうリィンの精神面について何も考えていない訳ではありません。―――その証拠にリィンの部隊には訓練兵時代のリィンと一番親しい関係であった”先輩”と”同期”が配属されるように、彼の上官であるゼルギウス将軍達にその二人の事を教え、その二人をリィン達と同じ部隊に配属させた方が”昔から親しい関係である仲間がいる事”でリィン達の生存率が格段に上げる事ができる為、その二人もリィン達と同じ部隊に配属させるように進言しておきましたわ。」
「く、”訓練兵時代のリィンと一番親しい関係であった先輩と同期”の人達がリィン達と同じ部隊って………」
「……………なるほどね。その二人がいれば、今回の戦争で内心傷ついているであろうリィン達の精神面もある程度緩和されると考えたのね。―――要するにその二人はエマ達”Ⅶ組”の”代役”ね?」
セシリアの説明を聞いたエリオットは不安そうな表情をし、ある事に気づいたセリーヌは目を細めてセシリアに問いかけた。
「あの二人を誰かの”代役”としての役割も兼ねさせるようなあの二人にとって、そしてリィン達にとっても失礼になる事までは一切考えておりません。―――が、その内の”先輩”に関しては、偶然にも貴方達”Ⅶ組のある人物”と性格がある程度一致している事は否めませんわ。」
「訓練兵時代のリィンさんの”先輩”の方が私達の中で性格がある程度一致している人、ですか………?」
「一体誰なの、そのある程度性格が似ているっていうⅦ組の代わりの”先輩”とやらは。」
セシリアの話が気になったエマは不安そうな表情を浮かべ、フィーは真剣な表情で訊ねた。
「―――フォルデ・ヴィント。怠け癖があり、周囲の者達を明るくさせるお調子者で、”娼館”に通う頻度は他の軍人達よりもやや多い女好きで、同僚や後輩達にも”娼館”に誘う事もする”先輩”というよりもいわゆる”悪友”タイプの自由奔放な人物ですが、後輩や仲間達を大切にする心は人一倍です。」
「ちょ、ちょっと!?その性格と一致するⅦ組の中にいる人物って………!」
「……………………クロウ君……………………」
「しかもリィン君にとっての”先輩”でもあるとはね。やれやれ…………そんな人物をリィン君達と同じ部隊にするように働きかけるなんて、随分と”いい性格”をしていますね、セシリア将軍閣下は。」
セシリアが口にしたフォルデの性格を知ってすぐにクロウとフォルデが似ている事に気づいた仲間達がそれぞれ血相を変えている中アリサは信じられない表情で声を上げ、トワは辛そうな表情を浮かべ、アンゼリカは溜息を吐いた後真剣な表情でセシリアを見つめ
「フフ、勘違いしないでください。”リィンが先に出会っているのはクロウ・アームブラストではなく、フォルデ・ヴィント”なのですから、別に私はフォルデを”クロウ・アームブラストの代役”としてリィン達の部隊に配属させるように働きかけた訳ではありませんわよ?」
セシリアは苦笑しながら答えた。
(あの…………Ⅶ組の皆さんの様子からしてそのクロウさんという人物の話が出た途端雰囲気が変わったように見えたのですが…………そのクロウさんという人物とⅦ組の皆さんと一体何があったのですか?少なくてもⅦ組の皆さんの中にそのクロウさんという人物はいないようですが…………)
(…………クロウ君もかつてはⅦ組の一員だったんだが…………その正体は”帝国解放戦線”のリーダーで、内戦時は貴族連合軍側について、リィン君達と何度も戦ったのだが…………最後の戦いで和解はできたのだが、カイエン公の悪あがきによってカイエン公に拉致されたセドリックが窮地に陥って、クロウ君は窮地に陥ったセドリックをリィン君達と共に助ける最中に心臓が貫かれてセドリックを助けた後はリィン君達に見守られながら逝ったとの事なんだ…………)
(そ、そのような事が…………)
(だから、彼らはクロウという人物の話が出た途端あのように雰囲気が変わったのですか………)
「……………………」
小声でクロウの事について訊ねたクローディア王太女はオリヴァルト皇子の説明を聞くと悲しそうな表情を浮かべ、ユリア准佐は複雑そうな表情をし、アルゼイド子爵は目を伏せて黙り込んでいた。
「それとフォルデは先祖に”ロラン・ヴァンダールの妹”がいますから、オリヴァルト殿下を含めたエレボニアの皆さんにとっても僅かながら関係がある人物です。」
「な――――――――」
「ええっ!?ヴァ、”ヴァンダール”という事はその方はミュラーさんにとっては…………!」
「相当な遠縁とはいえ、親類にあたる人物という事になりますね…………」
「ドライケルス大帝の友にして家臣だったあの”ロラン”の妹が先祖だって!?」
「ロラン様が”ヴァンダール”の先祖である事は知っていたが、まさかその妹君を先祖に持つとは…………という事はそのフォルデという人物は”ヴァンダール流”の使い手なのですか?」
セシリアが口にした新たな驚愕の事実にオリヴァルト皇子は絶句し、クローディア王太女とユリア准佐、マキアスはそれぞれ驚き、信じられない表情で呟いたラウラはセシリアに訊ねた。
「ええ、フォルデは普段はいい加減な様子を見せていますが、亡くなった父から教わった”ヴァンダール流槍術”の”皆伝者”でもありますから、戦闘になれば中々の戦力になります。」
「”ヴァンダール流槍術”だと…………?」
「確か”ヴァンダール流”は”剛剣術”と”双剣術”の二つがあって、槍を使った武術は存在しないはずだが…………」
セシリアの説明を聞いて気になる事があったユーシスは眉を顰め、アンゼリカは真剣な表情で考え込んでいた。
「いや…………マテウス殿やゼクス殿から聞いた話によると、”ヴァンダール流”にはかつて”槍術”が存在していたらしいが、元々伝承できる程の使い手の数が少なかったのかロラン卿の戦死を境に”ヴァンダール流槍術”は廃れたとの事だ。」
「なっ!?という事はそのフォルデという人物は、廃れたはずの”ヴァンダール流”の槍術の唯一の伝承者でもあるのですか…………!?」
「まさか”ヴァンダール”の系譜の者まで、メンフィル側にいるとはね。」
アルゼイド子爵の説明を聞いたラウラは驚き、セリーヌは複雑そうな表情で呟いた。
「話を続けますが…………フォルデに加えて皆さんもご存知のようにリィンの部隊にはリィンにとって大切な”身内”であり将来を共にする事を約束しているセレーネ嬢、エリス嬢、メサイア皇女殿下、そしてエリゼも配属され、更にはアルフィン殿も配属されました。正直な話、アルフィン殿の件はこちらにとっても完全に想定外の出来事ではありましたが、リィンもそうですがセレーネ嬢やエリス嬢の精神面を支える意味でもアルフィン殿の申し出は非常にありがたかったですわ。」
「……………………」
セシリアの説明を聞いたオリヴァルト皇子やアリサ達はそれぞれ複雑そうな表情で黙り込み
「リィンのトールズ士官学院への留学は正直どうなるか心配していましたが…………セレーネ嬢との出会い、”灰の騎神”の入手、そしてリィン自身が長年悩んでいた自身に秘められる”力”を最大限に生かす事―――”鬼の力”を制御できるようになったのですから、そういう意味では貴方達”Ⅶ組”に感謝していますわよ。―――貴方達との出会いが切っ掛けとしてそれらを手に入れたお陰でリィンは”戦争”になれば、間違いなく有効活用できる”力”をエレボニアの留学で手に入れる事ができたのですから。」
「っ…………!」
「エマ…………」
セシリアの指摘の中に”騎神”がある事を聞いて辛そうな表情で唇を噛み締めているエマをセリーヌは心配そうな表情で見つめ
「―――セシリア、なぶるのはそのくらいにしておけ。この場にはクローディア王太女殿下もいらっしゃるのだぞ?」
パントは苦笑しながらセシリアに指摘した。
「申し訳ございません、パント様。王太女殿下もみっともない姿をお見せしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。」
「いえ…………セシリア将軍閣下も”担当教官”としてリィンさんを大切に想っていたからこそ、先程のような言葉が出てしまったのだと思っていますから、気にしないでください。」
パントに指摘されたセシリアはパントとクローディア王太女にそれぞれ謝罪し、謝罪されたクローディア王太女は静かな表情で答え
「ふふ、リィンさんを含めた当時のセシリアさんの教え子である訓練兵の方々は皆さん、”佐官”クラスに昇進しているか、親衛隊に配属されているかのどちらかで、リィンさんもトールズ士官学院への留学の件がなければ、リフィア殿下かシルヴァン陛下の親衛隊員になる事が内定していたとの事ですから、セシリアさんが滅多に見せない”怒り”を見せるのも仕方ないかもしれませんね。」
「ハハ…………つまり、私がⅦ組メンバーにリィン君を希望しなければ、リィン君は今頃メンフィル帝国軍で頭角を現して、エリゼ君のように10代とは思えないくらい出世して、リウイ陛下達からも信頼を寄せられていた可能性もありえたのか…………」
「殿下…………」
(リィンがトールズに来なかったらリフィア殿下かシルヴァン陛下の親衛隊員になる事が内定していたなんて…………)
(もし、リィンがトールズの件がなかったら出世街道まっしぐらだったのか…………)
(みんな…………)
ルイーズの話を聞いたオリヴァルト皇子が疲れた表情で呟いている様子をアルゼイド子爵は心配そうな表情で見つめ、複雑そうな表情を浮かべているエリオットやマキアスを始めとしたⅦ組の面々の様子をトワは辛そうな表情で見つめた。するとその時内線が鳴った。
「―――失礼。よほどのことがない限り、会談中はこちらにかけてくるなと伝えておいたのですが…………―――こちら、応接室。何があった?」
オリヴァルト皇子達に一言断ったパントは内線を取って通信を始めた。
「…………わかった。繋げてくれ。―――リウイ陛下、どうなされたのでしょうか?…………ええ、ええ…………そうですか…………”彼女達”の活躍があったとはいえやはり、”襲撃がされた時点”でエレボニアはその件を”大義名分”にするつもりだったようですね。それで?エレボニアが冤罪を押し付ける相手はやはりメンフィル(われわれ)ですか?それともクロスベルですか?…………え?…………わかりました。ちょうど王太女殿下が目の前にいらっしゃるので、その件について説明しておきます。―――失礼します。」
「あの…………リウイ陛下との通信で、私が話の中に出てきたようですが…………一体どのような通信だったのでしょうか?」
パントが通信を終えるとクローディア王太女が困惑の表情でパントに訊ねた。
「―――単刀直入に言いましょう。昨夜に起こった所属不明の武装集団によるエレボニア帝国の辺境が襲撃された事件―――”アルスター襲撃”の”主犯である所属不明の武装集団はリベール王国軍である事”がエレボニア帝国政府の代表者であるオズボーン宰相によって公表されたとの事です。」
「…………え…………」
「「な――――――――」」
「エ、エレボニア帝国の領土をリベール王国軍が襲撃!?ありえません…………!何故、オズボーン宰相は何の証拠もないのに、襲撃が起こった翌日という早さで”アルスター”という領土を襲撃した所属不明の武装集団がリベール王国軍であると断定し、公表したのですか!?」
パントが口にした驚愕の事実にアリサ達がそれぞれ驚いている中クローディア王太女は呆けた声を出し、オリヴァルト皇子とアルゼイド子爵はそれぞれ絶句し、信じられない表情で声を上げたユリア准佐は真剣な表情でパントに訊ねた。
「オズボーン宰相の発表によると、”襲撃者達は王国製の導力銃を携えていた”事が判明したとの事です。」
「ただ、襲撃者が王国製の導力銃を携えていたという理由だけで帝国政府は我が国による仕業だと断定されたのですか!?王国製の導力銃を含めた王国製の武装も他国にも輸出されているのですから、我が国でなくても王国製の武装の購入は容易だというのに!?」
「そ、それよりもその口上はまるで12年前の…………!」
「…………ハハ…………まさか、このタイミングで”第二のハーメルの悲劇”が起こり、しかもそれが”アルスター”で起こったとはね…………状況を考えると、今回の件は間違いなく宰相殿も関わっているだろうね…………」
パントの説明を聞いたユリア准佐は厳しい表情で反論し、ある事に気づいたクローディア王太女は不安そうな表情を浮かべ、疲れた表情で肩を落としたオリヴァルト皇子は気を取り直すと厳しい表情を浮かべた。
「12年前の件を考えると恐らく既にグランセルにあるエレボニアの大使館からアリシア女王陛下に”アルスター襲撃”の件が伝えられ、それに対する賠償、最悪の場合は12年前のように”問答無用の宣戦布告”が伝えられているでしょう。我々との会談はこれ以上の進展は望めませんので、すぐにグランセルに戻られる事をお勧めします。」
「っ…………!わかりました…………大使閣下のお言葉に甘えて、この場は失礼させて頂きます。オリヴァルト殿下達はどうされますか?」
パントの指摘に辛そうな表情で息を呑んだクローディア王太女はすぐに気を取り直した後オリヴァルト皇子に訊ねた。
「…………大使閣下の仰った通り、私では”役者不足”のようだから私達も失礼させてもらうよ。それよりも、私達もアリシア女王陛下から大使館から伝えられているであろう”アルスター襲撃”の件についての説明を受けてもいいだろうか?」
「ええ、構いません。―――ユリアさん、私達が空港に到着次第アルセイユがすぐにロレントから起つ準備を進めておくように伝えておいてください!」
「子爵閣下、トワ君。カレイジャスにもいつでもロレントから起つ準備を進めておく事を伝えておいてくれ。」
クローディア王太女とオリヴァルト皇子は立ち上がってそれぞれユリア准佐とアルゼイド子爵、トワに指示をし
「ハッ!」
「御意…………!」
「はい…………!」
指示をされた3人はそれぞれ敬礼で答えた。
こうして…………会談を切り上げたアリサ達は”アルスター襲撃”の詳細について知る為に、カレイジャスに乗り込み、アルセイユと共にグランセルへと急行した――――――
後書き
今回の話で大使館の話は終わりで、次回はようやく真打ち登場こと、エステル達の活躍の話です!なお、パントが”アルスター襲撃”のことをクローゼ達に教えるあたりからのBGMは空シリーズの”虚ろなる光の封土”だと思ってください♪
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