ある晴れた日に
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459部分:これが無の世界その八
これが無の世界その八
「それで何かあったんだよ」
「別に何も無い」
こう返しながらその席に座るのだった。そして言った言葉は。
「強い酒はないか」
「強いってか」
「強かったら何でもいい」
こう自分の前に来た佐々に言うのだった。
「何でもな。強かったらな」
「御前本当にどうしたんだよ」
佐々はそんな彼の言葉を聞きながら怪訝な表情を見せてきた。
「本当によ。おかしいぜ」
「そう思うのなら思えばいい。とにかくだ」
「強い酒かよ」
「何があるんだ?今は」
「ウォッカがあるぜ」
ここで彼が言った酒はそれであった。
「ウォッカな。それでいいんだったらあるけれどな」
「じゃあそれをくれ」
迷わずこう返した正道だった。背中に背負うギターケースは自分の横に置いた。そのうえでまた彼に対して言うのであった。
「ウォッカな」
「つまみは何にするんだ?」
「適当でいい」
ぶしつけにこう返した。やはり返事はなおざりであった。
「何でもな」
「じゃあよ。ほら」
彼の前にナッツの盛り合わせとウォッカのボトルを一本出してきたのであった。当然グラスも一緒だ。そこに既に氷を入れてある。
「洒落にならない位効くから気をつけろよ」
「そんなに効くのか」
「アルコール度幾らだと思っているんだ?」
こう彼に言ってきたのであった。
「このウォッカってよ」
「さてな」
「九十六だぞ」
ここでこう話す佐々だった。
「殆どアルコールなんだぞ」
「そうか。ならそれでいい」
その圧倒的とさえ言える度数を聞いても驚いた様子もない正道だった。それどころかそれならそれでいいといった態度でさえあった。
「すぐに何もかも忘れられる位酔えるからな」
「酔えるからっておい」
思わず突っ込みを入れてしまった佐々であった。
「御前本当に何があったんだよ。言ってみろよ」
「何もないさ」
言いながらその氷が入ったグラスにウォッカを注いでいく。そうしてまずは一杯飲んだ。
一気に飲んだ。そうしてそのうえで。彼は言った。
「いい酒だな。胃が焼けるみたいだ」
「一杯一気に飲んだのかよ」
それを見てまた呆れてしまった佐々だった。
「何考えてるんだ」
「いいだろ?別に潰れたりしないからな」
「潰れないとかそういう問題じゃねえよ」
こう言って今度は抗議めいた言葉をかける佐々だった。
「御前本当にな」
「だから何もない」
言いながらまた一杯注ぐ。そのうえでまた一気に飲む。顔が危険なまで赤くなっていた。
ここでようやくナッツを食べる。まずは胡桃であった。
「この胡桃美味いな」
「当たり前だ。俺の店の胡桃だぞ」
一応こう言いはするのだった。
「しかしな。御前まだ飲むのか」
「このウォッカ一本飲んだら何でも忘れられるな」
「生きていたらな」
言葉は突き放したものだった。
「生きていたらの話だぞ」
「そこまで凄いのか、このウォッカは」
「だから九十六だぞ。そのまま飲んで喉が焼けた奴もいるんだぞ」
佐々は本気で言っていた。正道を怪訝な目で見ながら。
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