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戦国異伝供書

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第四十四話 上田原の戦いその十四

「白い塊で」
「それも喰らっておるか」
「しかも好んで、麦から作った餅の様なものも食っていますし」
「随分変わったものばかり食っておるな」
「それが南蛮の者達です」
「そうした者達との交易もか」
「どちらの家も行っています」
 明とだけでなくというのだ。
「そちらでも大きく利を得ていますが」
「それでもじゃな」
「どちらの家も」
「天下を手に入れられぬか」
「そもそもそうした考えがあるか」
 大内家、三好家にというのだ。
「そしてどう治めるか」
「天下を」
「あると思うか」
「ないですな」
 山本は隻眼の光を鋭くさせて晴信に答えた。
「全く」
「そうであるな」
「はい、領地を治め交易に精を出しても」
「それでもじゃな」
「自分達の権勢も高めたいが」
「そこまででな」
「それ以上は。公方様を擁しても」
 もう何の力もない幕府だが神輿にはなっている、それは山本が見てもそう言えることであるのだ。それで今も言うのだ。
「それでも」
「天下を見るなぞ」
「全くです」
「しておらぬのでな」
「大内家も三好家も」
 この二つの家はというのだ。
「ただ富を手に入れて今の権勢を誇るだけで」
「何もないな」
「はい、ですから」
「天下もな」
「治めるなぞ」
 とてもというのだ。
「出来ませぬ」
「そうじゃな、しかしな」
「お館様は違いますな」
「そうじゃ。わしはな」
「富や牽制ではなく」
「天下を見ておる」
「そしてその天下を手中に収めれば」
 山本は晴信に問うた。
「しかとですな」
「天下を治める」
「そこまでお考えですな」
「だからじゃ、先の二つの家なぞな」
 三好家も大内家もというのだ。
「わしはあまり考えておらぬ」
「敵とは」
「そうじゃ、例え三好家が上洛を阻み」 
 そしてというのだ。
「西に進んで大内家が立ちはだかってもな」
「敵ではない」
「小さい者達じゃ、しかしだ」
「織田殿と長尾殿は違う」
「必ず雌雄を決し」
 二人とは、というのだ。
「そしてじゃ」
「それからもですな」
「天下の為にな」
 まさにというのだ。
「二人に働いてもらう」
「ですな、では」
「その為にもな」
「信濃の北に」
「兵を進める」
 こう言ってだ、そしてだった。
 晴信は自ら軍勢を率いてそうして再び戦に向かった、その顔には必勝の笑みがあった。


第四十四話   完


                  2019・4・1 
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