人類種の天敵が一年戦争に介入しました
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第19話
前書き
まにあったぞー!
この話は実験的に今までの話とは書き方を変えています。多分、次の話も同じ書き方をすると思います。次の話でもキリが良いとこまで行かなければ、その次もそうなるかもです。まだ書いてないからわからないですけど。
ふふっ、連邦軍人がなぜ? って顔をしていますね。この状況なら誰でもそう思うでしょうけど。まぁ、銃を抜く前に聞いてください。当時の私達の任務は、地球で『活動』している人間の調査でした。要するにスパイみたいなものですけど、チーム全員が情報部員というわけではなくて、色々な部署から人が集められていたの。私も、出向していた一人だった。
あの頃はまだ戦争が起きると決まっていたわけではなくて、ほら、もともとザビ家のデギンはサイド3の、ジオンの中では穏健派でしょう? タフネゴシエーターで有名だったけど、急進的な活動家だったダイクンと違って話は通じる。ルナリアンとも繋がりがある人でしたし、ダイクンが生きていた頃より双方の民意は悪化したけれど、デギンに代わったことで対話のチャンネル、首脳部どうしの相互理解と状況の共有という意味では良化した。だから戦争になる前に話を付けることができると、連邦の人間は皆、同じように考えていんです。私もそうでした。デギンの強気はサイド3の市民感情に迎合した擬態、内心では外交でカタがつくことを望んでいる、戦争になる筈がない……だって戦力差がとんでもないですもの、戦争にならないと普通は思いますよ。
それでも敵性勢力である以上、関連する調査は当然ですよね? 私達は加盟国のことだって調べてるんですから。
その日、私達は中東で確認された不審者の洗い出しを命じられたわ。アナトリア半島からアラビア半島にかけて、ちらちらと気になる影が現れ始めていたの。断片的な情報をまとめると、年齢も人種もバラバラで、未登録車両に乗っている、周囲を異様に警戒している集団。怪しいでしょう? その集団が反地球連邦を掲げるゲリラ達だったら、もっと上手くやっている筈。簡単に尻尾を掴まされるようなミスはしません。地球にいる親ジオン派工作か、そのものずばりジオンのスパイか……この可能性が高かったから調査の必要があったの。
彼らを追いかけてから、私達の運命は急変したわ。急降下というよりフリーフォールよね。調査命令は地獄行きの片道切符だったってわけ。
そうとも知らずに現地入りした私達だけど、この辺りは宗教やら部族やらでややこしくて、連邦政府の支配力も強くない……いいえ、言葉を飾っても仕方ありませんよね。この地で連邦政府は支持されていないんです。だから情報収集には苦労するかと思われていたんですけど、それでも彼らの情報は集まったから、追うことはあまり難しくなかったわね。拍子抜けするくらい。この時点で反地球連邦ゲリラの線は無いと判断していたわ。地元民から通報されるゲリラなんて、あり得ないものね。
順調に痕跡を追った私達は、地中海沿岸のコンテナ港で、彼らの影を踏めるくらいまで追い付いた。そこに拠点があるのか、逃げるためか、そこまでは分からなかったけど……気付いたときには遅すぎた。全部罠だったの。分りやすい不審者を演じて、哀れな獲物が寄ってくるのを待ってたってわけ。情報を得る為に拐かすなら一般人より官憲の方が望ましかったから、こんな面倒なことをしていたのね。現場にいた全チームが囲まれて、後は武装解除、拘束、拉致。そして全員がここに連れ込まれて、尋問が始まったわ。質問の内容はほとんど3つ。
「パックスは何をしたのか?」
「クレイドルはどうなった?」
「コジマ汚染はどこに消えた?」
……彼らが何を言っているのか全くわからなかった。今もわかるとは言えないわ。軍の機密に関わる何かとも考えたけれど、チームの責任者、情報部の中佐ですら答えられなかったわ。ジオン出身のあなただって答えられる筈が無い。絶対に無理ね。
呆気にとられる私達を無視して、彼らは勝手に焦って、怒って、錯乱していったわ。初めて耳にする言葉を並べ立て、彼らの求める何かを、それはもう懇願するようにして聞き出そうとしていた。私達を拷問しながら、それはそれは必死にお願いするの。五十を過ぎたムッキムキのおじさんが、本当の事を話してくれって、涙と鼻水を全開にして泣きながら私の腕を捻ってくるのよ? 今思い返してみても異様な光景だったわ。おじさんの泣き顔も拷問も御免だったし、彼らの求める答えは軍の機密でもないようだったから、答えられるものなら答えたかったけど、私達の内、誰一人として彼らを満足させられなかった。誰も彼らの求める何かを知らなかったから。数日の無意味なやり取りの末に、彼らは質問の仕方を変えたわ。
彼らの求める答えについては一度脇に置いて、知っていることは何でも喋らされたの。軍の機密も私の家族関係も一般常識も関係なく、何もかも、何でもかんでも一切合切全部!
本当に、言葉通り『何でも』よ。イスとかテーブルを指して、これはなんだ? って聞いてくるの。イスはイスでしょ? 他に何があるの? 金属と布で作られた、腰掛ける為の家具? 木製もある? 馬鹿でしょ。でもこんなのは序の口よ。こんなことが一ヶ月は続いたかしら。みんな壊れたスピーカーみたいになってたわ。話すのを止めると殴られるしね。それでも彼らはそこで満足しなかった。
ある日、突然、話さなくて良いと言われたわ。身体を休めろと。人をさんざん拷問しておいて勝手なことを言ってくれますけど、まぁ、待遇が良くなるのは良いことですよね。……何頷いているんですか、そんなわけないでしょ。もう私達だってまともじゃいられなかったんだから。結局、多分全員が殴られたり電気を流されたりして物理的に黙らされたわ。そんなことを何度か繰り返して私達が黙ると、本当に待遇が改善していったの。
私達は何人かずつで一部屋に入れられていたんだけど、他の部屋への出入りが許可されて、他の仲間と会えるようになったの。嬉しかった。付随して、収用されている区画なら部屋の外を自由に歩けるようになったわ。尋問が無くなったから暴力を振るわれることもなくなった。定められた場所なら酒や煙草も許されるようにすらなりました。……食事は変わりませんでした。リリアナの構成員も同じものを食べてるから変えようがなかったんですよね。今は多少改善しましたけど。嗜好品の一種ということで新聞や雑誌も与えられたことで『外』のことを考えるようにもなってきて、解放も近いと、そう考える仲間も居ましたっけ。今思うと馬鹿みたいですよね。
……捕虜生活はここからが本番だったわ。彼らは私達に対して新しいアプローチを試みることにしたの。その為に体力や気力を回復させようとしていたのね。
クスリよ。自白剤。それもとびきり強力な奴。一回クスリを打たれたら最後、二度と元には戻らない。
目の前で実演された時はさすがに震えたわ。だって、今まで、彼らは言うことをきかせるために暴力をふるうことはあっても、後戻りできない一線は越さなかったから。でも、アレは違うから。もうそんな気遣いをしないってことだから。私達を殺してでも情報を得るっていうことが明らかだったから。
体力が回復した分、みんな案外頑張ったわ。……いえ、自発的じゃなかったもの、頑張れた、と言うべきなのかしら? 自白剤で自我が殺されたあとは色々弄られて、最期は脳外科手術までされて肉体も殺された。何の意味があるのか知らないけど、生体解剖までしたのよ。……脅しと言えば脅しだけれど、それはおまけみたいだった。使い潰す事になるから今まで出来なかった確認を、使い潰す事が出来るようになったから行っている……という感じだったわ。暗号か専門用語かわからない言葉が飛び交って、大真面目で議論しながら弄くるんだから。見ていて頭がおかしくなりそうだった。
極めつけが『最後まで頑張った』仲間のホルマリンが一つずつ増えていくことね。アレを見せられてからは死刑囚と同じよ。毎日毎日お祈りしたわ。
基準は分からなかったけど、誰かが選ばれる。選ばれた人は拷問から自白剤、実験動物からホルマリンまでのフルコース。みんな必死に祈ったわ。自分は選ばれませんように……って。他の誰かが選ばれますように……って。そして、誰かが選ばれてからもまた必死に祈ったわ。死なないで。お願い、死なないで……って。犠牲の羊が生きている内は、次の羊が選ばれることはないもの。待つ恐怖に耐えられなくて、自殺を図る人も現れたわ。でも、彼らの医療技術や設備は大したもので、普通なら助からない所からでも蘇生させるし、治療しちゃうの。だから自殺が成功することは無かったわ。その医療技術を存分に使って、これ以上は無理ってくらい私達を有効活用しようとするんだから、やられる方は堪ったもんじゃないわよね。
……ああ、自殺の話だったわね。自殺しようという動きはすぐになくなりました。自殺未遂から優先的に『処理対象』になることが分かったから。
結局、私達の待遇っていうのは家畜のそれだったんですよ。いつか来る『処理』を待つところも同じ……。そうして、何人か……何人も、死んでいったわ。そんなある日、とうとう私の番が回ってきた。
後書き
次の更新は7月の二週目……までに出来ればいいなぁ。
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