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ある晴れた日に

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428部分:夏のそよ風吹く上をその十一


夏のそよ風吹く上をその十一

 後ろから千佳もフォローでついて行く。これで女組はスーパー銭湯でとりあえず酒を抜くことになった。残る男組もここで言い合うのだった。
「じゃあ俺達もな」
「そうだな」
「帰るか」
 彼等はすんなりとそれぞれの帰路につこうとする。最後にこう言って。
「またな」
「ああ、またな」
 最後の別れの挨拶をして別れる。正道もまたそのギターを手に帰り道に着く。だがその中で一人思うのだった。
「あいつも寂しいだろうな」
 こう思うとその考えがすぐに深くなっていった。
「それなら」
 そしてあることを決意したのだった。
 次の日正道はある場所に向かった。彼の母親は息子が家を出るところで尋ねた。
「ちょっと正道」
「何だ」
「今日部活だったの?」
 こう息子に尋ねるのだった。見れば長い黒髪を後ろで上にあげて束ねたエプロンの女性である。歳は三十代後半といったところか。まだ若さの残っている整った顔をしている。
「そんなこと聞いてないけれど」
「いや、違う」
 親に対してもぶっきらぼうな彼だった。
「それでもな」
「また駅前に行くの?」
 部活ではないと聞いてそれではと思った母親だった。
「それじゃあ」
「行くがそれだけじゃない」
 こう返す正道だった。
「それだけじゃな」
「それだけじゃないって」
 今の息子の言葉には首を傾げてしまうのだった。
「じゃあCDショップにでも寄るの?」
「それもある」
 やはりそれだけではないというのだった。
「だが。今は」
「何かよくわからないけれど行くのね」
「そうだ」
 簡単に言えばそうなのだった。
「行って来る。じゃあな」
「まあしっかり歌うのよ」
 母親が言うのはストリートミュージックのことだった。それはするというのでこのことに対して言うことにしたのである。
「間違えないようにね」
「間違えてもどうということはない」
 またしてもぶっきらぼうな調子であった。
「悔しいことは悔しいがな」
「悔しい思いはしないに越したことはないわよ」
 だが母はここでこう言うのだった。ブーツを履いて今立ち上がって玄関から出ようとする息子に対して。後ろから告げたのである。
「それはね」
「しないに越したことはないか」
「ええ。けれどね」
 しかしこうも言ってきたのだった。
「したらしたで」
「したで」
「それもいい経験になるわよ」
 ここで言うのはこのことだった。
「それもね」
「悔しいことも経験のうちか」
「そういうこと」
 正道は母親の方を振り向いた。エプロンの下はジーンズというラフな格好の彼女は優しい笑みで我が子を見て。そのうえで告げたのである。
「それもいい経験になるわよ」
「そういうものか」
 彼は今はこう返しただけだった。
「それもか」
「今まで悔しい思いをしなかったわけじゃないでしょう?」
「十五年生きてきた」
 今の母の言葉にはこう返すのだった。
「それだけ生きていれば」
「何度も。経験するわね」
「悔しいことも苦しいこともあった」
 それが人生なのだ。生きていれば。正道も母の今の言葉はわかったのだ。それは他ならない自分自身の経験からである。
「数多くな」
「そういうことよ。じゃあね」
「悔しい思いをしてもか」
「頑張りなさい」
 また息子に告げたのだった。
「月並みな言葉だけれどね」
「それでも覚えておくことにする」
 無愛想な言葉だがこう述べたのだった。
 
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