『賢者の孫』の二次創作 カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み
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奮起
前書き
ぶっ飛ばせ常識を~♪
禍々しく輝く魔方陣からは絶えず高濃度の魔力が放たれ、重いガスのように拡散することなく沈殿し、瘴気の層を形成していた。
「ひー、ひー、ひー!」
こうなると見えない篝火が燃え盛っているかのようで、離れていても身体が焙られている錯覚を覚える。物理的被害はないとはいえ人体が受ける霊的損傷、心的影響力は侮れない。
カートはともすれば卒倒しそうになりつつ、必死で操作盤と格闘する。
「ハァハァ、ひっ、ふひー!」
「なぁ、カート。必死になるのはいいが、イボイノシシにキンタマを舐められているような声をあげるのはやめてくれないか」
「どんな状況なんだよ、それは!? もう少しなんだから気を散らせるなッ! そっちこそこの瘴気をなんとかしろ!」
「御幣立つるここも高天の原なれば、集まりたまえや助けたまえや四方の神々――神火清明、神水清明、神風清明。祓いたまえ浄めたまえ」
祝詞を唱えて神道式の九字を切り、刀印が走るたびに浄化の光が瘴気をかき消し、異形の魔物を祓う。
異形の魔物――それらはどれひとつとしておなじ姿をしたものはいなかった。
ねじくれた角を生やしたもの。
蝙蝠と白鳥の羽をともに持ったもの。
百の目ですべての方向を睨んでいるもの。
獅子のたてがみと蛇の鱗を持つもの。
漆黒の影のような塊。
足のかわりに五本の尾を持つもの。
蛇の牙から炎をあげる毒液を滴らせたもの。
最初に現れたフォービから数えて何体の魔物を修祓してきたことか。
「よし、閉じるぞ!」
ようやく魔方陣がその機能を停止し、門を閉ざした。
「や、やった……」
安堵の表情を浮かべるカートだが、すぐにその必死に引き締めた。鉄扉の外から異音が、複数の獣のうなり声が聞こえてくるからだ。
「まさか、他の部屋の魔方陣からも!?」
「らしいな。係員とやらも助けに来ないし、ここは俺たちだけで切り抜けるしかない」
「まさか、みんな……。俺のせいだ……。俺が遊び半分で魔方陣をいじったから……」
「まだみんなやられたと決まったわけじゃない。こういう場所だ、緊急避難場所や外部に救援を求める手段くらいはあるはずだろう。だが今の俺たちを救えるのは俺たちだけだ。死んじまったら後悔もできないぞ」
「……ここで、この部屋に閉じこもっているだけじゃ他の部屋の魔方陣から溢れ出る魔力や魔物を止めることはできない」
「そういうことだ。研究所から出て近隣の街に被害がおよぶ前にどうにかしないとな」
「キイチ=ホーゲン」
「ん?」
「すまない、悪かった。俺のせいであんたはもといた世界からこちらの世界に一方的に召喚された」
「ああ、そうだな。おまえが悪い」
「こんなことを言えた義理じゃないが、力を貸してくれ」
「いいだろう、力を貸してやる。ただし高くつくぞ。なにせ俺は第一四代目鬼一法眼。その霊力は安倍晴明、その法力は弘法大師、その験力は役小角の再来とも称される当代随一の陰陽師で、ギャラは一時間ひゃくじゅ――て、おい! 勝手に出るな! あぶないだろう!」
研究所内は大小無数の魔物がひしめいていた。
だがカートがいた部屋。一三号室に出現したものほど強力な魔物ではなかった。
「ええい、めんどうだ。一掃するぞ。東海の神、名は阿明。西海の神、名は祝良。南海の神、名は巨乗。北海の神、名は禺強。四海の大神、百鬼を避け、凶災を蕩う。急々如律令!」
これは百鬼夜行を避ける、魔物の接近を防ぐ呪術だが、その構造は霊的存在に対する積極的な防壁。結界だ。
「バン・ウン・タラク・キリク・アク。五行連環、急々如律令! 東海の神、名は阿明。西海の神、名は祝良。南海の神、名は巨乗。北海の神、名は禺強。四海の大神、百鬼を避け、凶災を蕩う。急々如律令! 」
爆発するような速さで防御結界を連続展開させ、逃げる間をあたえず、押し潰してゆく――。
後書き
未知の世界へ行こう~♪
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