戦国異伝供書
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第四十三話 関東のことその十一
「この布陣でも油断出来ぬぞ」
「そうか、確かに」
村上は小笠原の必死の言葉を否定しなかった、それで言うのだった。
「武田家のこれまでの戦を聞くと」
「お主もわかるであろう」
「うむ」
「ではな」
「ここは用心してか」
「敵の動きを見て」
そしてというのだ。
「動いていこう」
「ではな」
村上家と小笠原家、そして信濃の北の国人達の軍勢は武田軍の動きを注視することになった。それを見てだった。
晴信は諸将に言った。
「優れた者達こそじゃ」
「考えるものでありますな」
山本がすぐに応えた。
「そして動くもの」
「そうじゃ、だからな」
「我等はですな」
「あえて動かさせてな」
その優れた者達をというのだ。
「そうしてじゃ」
「我等も動く」
「そうじゃ、川を渡る時を待とうぞ」
今はと言ってだ、そうしてだった。
晴信は敵が動くのを待つことにした、その為にだった。
騎馬隊を夜に対岸に動かさせた、それも音を立てて。すると小笠原は怪訝な顔になってまた村上に言った。
「村上殿、聞こえるな」
「馬の蹄の音がな」
「しきりにしておる」
「ここは渡るか」
「よく目を凝らすとな」
小笠原はさらに言った。
「敵が随分とじゃ」
「動いておるな」
「やはり川を渡るのではないか」
「では渡る方にか」
「うむ、軍勢を集めてな」
そのうえでというのだ。
「迎え撃つか」
「それがよいか」
「殿、どうもです」
ここで村上に家臣の一人が言ってきた。
「既にです」
「川を渡った軍勢がおるか」
「そしてです」
「こちらを攻めんとしておるか」
「はい、西の方にです」
彼等が布陣しているところのというのだ。
「おる様で法螺貝の音も聞こえております」
「法螺貝のか」
「どうされますか」
「敵の数はわからぬが既に渡っている軍勢がおるなら」
それならとだ、村上はすぐに断を下した。それでだった。
向こう側にいる敵の蹄がする方に軍勢を集めそのうえで西の方にも軍勢を向けた、そこで八千の兵をまんべんなく布陣させていた川の守りに大きな穴が出来た。
それは朝だった、晴信は朝日にその穴を見て全軍に命じた。
「ではじゃ」
「これよりですな」
「川を渡る」
「そうしますな」
「そうじゃ、しかし川を渡るだけじゃ」
今はというのだ。
「敵が我等が川を渡ってそこに攻めて来るなら迎え撃つが」
「しかしですな」
「退くならば追わぬ」
「そうするのですな」
「軍勢が川を渡ることに専念してじゃ」
それでというのだ。
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