ある晴れた日に
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399部分:目を閉じてその二十六
目を閉じてその二十六
「見ているとな」
「そうよね。だから使わないけれど好きなの」
微妙な感情も見せる未晴だった。
「この煙突が」
「ええ、好きなの」
実際にその目が微笑んでいる未晴だった。
「ずっとね。お家に帰ってこの煙突を見るのが好きだったわ」
「そして今もなんだな」
「そうよ。今もよ」
また時の話になっていた。
「そしてこれからもね」
「今までも今もこれからも」
「よかったらこの煙突も」
今度は正道に顔を向けてきての言葉だった。
「一緒に見たいけれど」
「頼むな」
自分からこう言った正道だった。
「俺も。この煙突は見ていきたいな」
「そう。よかった」
未晴は正道のその言葉を聞いて微笑んだのだった。
「それじゃあ」
「ああ。けれど今日はな」
「そうね。これでお別れね」
未晴の言葉が変わった。寂しげなものに。
「残念だけれど」
「また今度だな」
「明日は会えないけれど」
明日のことも話された。
「明日は咲達と教会に行くから」
「柳本が信者さんのあの天理教の教会か」
「娘さんが帰ってきててね」
また微笑んだ顔になった未晴だった。
「だから行かないと」
「その教会の娘さんだよな」
正道も聞いたことのあることだった。咲が入り浸っている教会には娘さんがいる。彼もこのことは聞いていて覚えているのである。
「確か」
「三人姉妹の長女さんで」
「そうだったよな」
このこともおぼろげながら覚えているのだった。
「小柄な人だったよな」
「一五〇位なのよ」
「一五〇っていうと」
実際の数値を聞いてさらに考える正道だった。
「北乃よりも小さいんだな」
「少年が大体一五五よね」
「本人は一五七って言ってるけれどな」
誰もが信じていない数字である。明日夢は嘘はつかないが自分の身長に関してだけはサバを読む悪い癖があるのである。
「大体それ位だな」
「だって一五六の咲より小さいから」
一五七が一五六より小さい筈がない。考えなくてもわかることだった。
「そういうの見たらね。やっぱりね」
「一五五位だな」
「実態に身体測定の時に測ったらそれ位しかなかったのよ」
確かな証拠も出ているのだった。
「だからやっぱり」
「その北乃よりも小さいのか」
「そうなの。本当に一五〇位で」
「小さいな」
話を聞いてこう言わざるを得ない正道だった。
「それはな」
「その娘さんだけじゃなくて妹さん達もね」
「小さいんだな」
「三人共一五〇位よ」
未晴はその娘さん達のことも語ったのだった。
「上の妹さんが高校二年で下の妹さんがまだ小学校六年だけれど」
「背は同じ位か」
「そうなの、一五〇位なの」
この一五〇という数字がやたら出て来るのだった。
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