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ある晴れた日に

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389部分:目を閉じてその十六


目を閉じてその十六

「じゃあよ、竹山」
「あの曲にする?」
「あの曲って」
 竹山はまだマイクを持ったままで曲を入れてはいなかった。それで皆彼に対して言うのであった。
「何の曲入れるの?」
「みつばちハッチの曲がいいな」
「それかハチが飛ぶのあの唄」
「っておい」
 すぐに抗議する野本だった。
「俺に対するアテツケかよ、そりゃ」
「そうじゃなきゃ何なんだ?」
「だよな」
「ちっ、何て奴等だ」
 ここでもまた歯噛みしてからかいに対することになる野本だった。
「人の不幸がそんなに面白いのかよ」
「面白いっていうかね」
「何ていうか」
 この辺りは少し口篭る一同ではあった。
「よくそこまで刺されて生きていたものだって」
「かなり感心」
「感心するなら金をくれよ」
 野本はこれまた調子に乗って言うのだった。
「ったくよお」
「幸福で我慢しとけよ」
「なあ」
 しかし皆も皆で負けてはいなかった。
「そんなのよ。金なんてよ」
「そんなのはよ」
「幸福かよ」
「そうだよ」
 そしてこう野本に言い続ける。
「それなら幸福よりずっといいだろ?違うか?」
「なあ」
「具体的に幸福って何だよ」
 野本も少し気になって皆に問い返す。
「それで幸せってよ。いろいろあるけれどよ」
「ほら、これよ」
「まずは飲めよ」
 皆が出してきたのは一杯の酒だった。それはウォッカだった。しかもストレートのウォッカをそのまま彼に出してきたのである。
「これをよ。一杯よ」
「幸福になれるぜ」
「酒かよ」
 野本はそのウォッカを見て話すのだった。
「それもウォッカかよ。ストレートの」
「効くぜ、これは」
「アルコール度九十六パーセントな」
 ほぼアルコールそのものである。こうした強烈な酒が実際に飲まれているのがロシアである。こうしたものを飲まないととても耐えられないのがロシアの寒さであるのだ。
「これ飲んで一気にあったまれよ」
「ついでに幸せにな」
「これ飲んで幸せになれるのかよ」
 アルコールそのものと言ってもいいウォッカはそのまま野本の前に置かれた。
「しかも夏にあったまれっていうのもよ」
「大丈夫大丈夫」
 静華はそのウォッカをスクリュードライバーにしてあおっていた。
「こうやって普通に飲めるしね」
「御前酒強いんだな」
「そうかな?」
 しかし静華にはその自覚はないようだった。
「少年だってベイスターズ負けてるといつもウォッカ飲んでるわよ」
「あいつもかよ」
「嫌なことは全部忘れられる幸せのお酒だって」
 それだけ強いものでなければとても忘れられないということである。思えばベイスターズファンというのも修羅の道である。それもかなり過酷な。
 
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