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ある晴れた日に

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380部分:目を閉じてその七


目を閉じてその七

「曲は何だ?」
「さくらんぼな」
 にこりと笑って左手の人差し指を出しての言葉であった。
「それ歌いたいんだけれどよ」
「さくらんぼか」
 大塚愛の代表曲と言っていい。
「それ歌うのか」
「何か思い切り文句あるみたいだな」
 春華は正道の様子からそれを悟っていた。悟ってはいるがそれでも納得はしていなかった。むしろ彼女にとっては絶対に納得できないものであった。
「うちがさくらんぼ歌うのがよ」
「ハードロックとかそういうのじゃないのか」
「歌うのは大塚愛かモーニング娘。なんだよ」
 しかもモーニング娘。まで出してきた。
「こんこんとか大好きなんだよ」
「全然イメージじゃないぞ」
 正道は真顔でその春華に返した。
「大塚愛にしろ紺野あさ美にしろな」
「悪いかよ。これでもマジで大好きなんだぜ」
 春華はいい加減ムキになってきていた。
「愛さんもこんこんもな」
「だからこんこんって似合わないから止めろよ」
「全然モー娘。じゃねえしよ」
 男組もその彼女に突っ込みを入れた。
「っていうか御前可愛い曲が好きだったのかよ」
「如何にもヘビメタとかって感じなのによ」
「ああ、ロックもヘビメタも好きだぜ」
 春華はその彼等にこうも返した。
「他にも色々聴くけれどな」
「春華は音楽が趣味なのよ」
 ここで未晴が微笑んで皆に話したのだった。
「音楽を聴いたり歌を歌ったりするのが」
「ふうん、そうだったのか」
「だからカラオケ大好きだったんだ」
「最近飲むのばっかりだったけれどな」
 春華は照れ臭そうに皆に返した。
「けれど歌うのは大好きなんだよ。実際に」
「それじゃあさくらんぼか」
 正道はここまで聞いてそれで納得して述べた。リモコンは未晴の手にある。
「じゃあそれな」
「はい、さくらんぼ」
 未晴はリモコンでの入力をはじめた。スイッチを入れるとそれでもう画面に曲が入れられた。マイクはその未晴から春華に手渡されていた。
「これもね」
「ああ、悪いな」
 春華は笑顔で未晴に応える。
「じゃあ早速歌うか」
「よし、俺は嵐だ」
 次に名乗りをあげたのは野本だった。
「いっちょ派手に歌うか」
「ブレイクダンスしながらか?」
「いや、したいんだけれどな」
 皆の問いに残念そうな苦笑いで返した。
「それは。ここじゃ無理だろ」
「場所ないからなあ」
「席もテーブルも埋まってるし」
 席は皆が座っていてテーブルの上は酒と食べ物で一杯である。既に空になった皿やコップもテーブルの上のあちこちに散在している。
「床もそこまでのスペースないし」
「そうよね」
 そうした部屋ではなかった。広いことは広いのだが床はそんなにない部屋だった。席も壁にソファーがつけられている形になっている。
「じゃあダンスはできないな」
「諦めるのね」
「残念だけれどよ」
 野本の不機嫌な言葉が続けられる。
「DA PUMP歌ったぜ、できたらな」
「あんたの頭の中沖縄だしね」
 奈々瀬が少し聞いただけではわからないようなことを言ってきた。
「それもいつも」
「そりゃ一体どういう意味だ?」
「だから。いつもお日様が照っていてパッパラパー」
 こういうことだった。
 
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