蘇った女
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第二章
それで役鬼についていくことにした、そもそも嫌だと言ってもどうしようもないことだとわかっていた。
それで役鬼についていくと答えたが。
ここでだ、役鬼は先程馳走を食べたことを思いだした。
「わしは門の馳走を全て食べてしまった」
「そうなのですか」
「あれは病が治ることを願うまじないだからな」
それ故にとだ、役鬼は娘に話した。
「あれを食べるとまじないを聞いたことになるからな」
「私は、ですか」
「わしが迎えることは出来なくなった」
まじないを聞き入れる形になったからにはというのだ。
「そうなった、しかしな」
「私は死ぬことはですね」
「閻魔様が言われたこと、どうしたものか」
役鬼は今になって困った、それでだった。
娘に対してだ、暫し考え込んでから尋ねた。
「お主名は何という」
「はい、私はです」
女は自分の名を名乗った。役鬼はその名を聞いてから閻魔帳の本朝の讃岐のところを開いてだった。娘に言った。
「ふむ、鵜足の方に同じ名前の老婆がおるの」
「そうなのですか」
「そうじゃ、齢七十でじゃ」
古稀に達しているというのだ。
「間もなく死ぬと書いてあるわ」
「そうした方がおられるとは」
「好都合じゃ、間もなく死ぬのならな」
それならとだ、役鬼は自分で納得してそのうえで娘に述べた。
「問題はない」
「ないですか」
「何もな。お主はまだ若い」
娘に今度はこのことを話した。
「若い者より充分長生きした者が死ぬ方がよい」
「そうしたものですか」
「人はどうせ死ぬのじゃ」
それならというのだ。
「長生きした者の方がよいわ、若い者よりな」
「それでなのですか」
「鵜足の老婆を連れて行こう」
こう言ってだった。役鬼は山田から娘を連れて行かずすぐに鵜足の方に行ってだった。
そこで家族と飯を食ってから畑仕事に精を出している腰が曲がり髪の毛はすっかり白くなっている老婆に語りかけてだった。
この老婆の魂を閻魔の前に連れて行った、だが相手は閻魔である。嘘やごまかしなぞ鏡ですぐにわかる。
それでだ、役鬼がル場を連れてきたところですぐに言った。
「わしがわからぬと思うか」
「では」
「その老婆を連れて来いとは言っておらぬ」
このことをはっきりとだ、役鬼に告げた。沙汰をする場で言っているのでさながら役鬼は裁かれている様だった。
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