ユキアンのネタ倉庫
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ありふれた職業で世界堪能
「うむ、勝手は違うが、便利ではある」
友に作ってもらった鍬を振る際にイメージと良く分からない力のようなものを込めて振り下ろす。すると不思議なことに目の前に広がる1aが耕され、イメージ通りの畝が出来上がる。どの作業でもイメージと良く分からない力のようなものを込めれば込めた力の分だけ広範囲に広がる。
邪道ではあるが、腹を空かせている奴らが、それによって命が脅かされるというのなら多少のプライドは捨てよう。程々に加減した力を地面に流し込めば生育が早まる。わずか一週間で最初に植えた蕎麦は収穫が出来る程に成長している。土壌改良もこの力を使えば出来るだろうが、どんな副作用があるかわからない。
スラムに居た餓鬼共に蕎麦を収穫させる。それを纏めさせて、くすねている分を見逃してやる。衣食足りて礼節を知ると言うからな。それまでは見逃してやる。農具と同じで友が作ってくれた石臼で蕎麦を引き、水と塩を加えて生地を作り熱した鉄板でガレットもどきを作って餓鬼共に食わせる。何人かにはやり方を教えているから料理も任せられる。蕎麦を育てていた場所に金になる大豆を植えておいた。戦国時代では馬の飼料ということで戦略物資であった大豆だ。
こいつを収穫すればいよいよ野菜などを作付出来る土壌が完成する。それからは好きな物を作る畑を作ろう。こっちでしか見たことのない野菜は是非とも育ててみたい。そう思っていたのだが、友が行方知れずになったと、生存は絶望的だと完全に別行動をしていたクラスメイト達に告げられた。
「なるほど。それで逃げ帰ってきたと」
天職が勇者で率先してクラスメイト達に戦うことを強要した天乃川の説明を受けて率直な感想を告げる。
「仕方なかった。あの時はそれしか皆が生き延びる方法がなかった」
自分は間違っていないと思いこむように天乃川は何度もそう言い張る。これ以上は無駄だな。
「そうか。では、そこまでの道を教えてくれ」
「何を言っているんだ?」
「助けに行くと言っているんだ」
「冗談は止めるんだ!!命がかかっているんだぞ!!」
冗談?こいつは馬鹿か。
「その命がかかっている場に覚悟も持たずに言ったのは誰だ!!何も考えずに場の雰囲気に流され、肩書に酔って命のやり取りを甘く見たのは誰だ!!ハジメには借りがある、恩義もある。だがそれ以上に心から尊敬が出来る友だ!!その友の為に命をかけられないで何が友だ!!」
ハジメが作ってくれた農具の全てを担ぎ、掘っ立て小屋の倉庫から複数の種をポケットに入れる。
「邪魔をするなら貴様から畑の肥やしにするぞ、天乃川光輝」
未だにオレを止めようとする気に食わない身勝手な男に鍬を向ける。
「南雲のことは諦めるんだ。これ以上、クラスメイトに犠牲を出すわけには行かないんだ」
「南雲を見捨てるしか無かった雑魚はすっこんでいろ。貴様の言う言葉はすべてが薄っぺらいんだよ。子供の正義ごっこは見ていて腹が立っていたんだ!!」
「正義ごっこだって!!」
「ならばここで貴様の幼稚さを証明しよう。流れ弾を売った奴が誰か、それを調べても居ないのだろう。悪意なき誤射なのか、悪意ある誤射なのか、それも調べていないのだろう!!」
「クラスメイトを疑うというのか!!」
「貴様の大好きな爺さんもその商売敵もまずは私情を抜きにして事実を調べる。それすらもしないお前を正義ごっこだと言って何が悪い。貴様の爺さんは私情で動くような男だったか?もしそうなら儂は軽蔑する。平等に扱わずに差別をする人間なのだとな!!そして、アレン、こっちにこい!!」
オレの声にスラムの餓鬼の一人が側にやってくる。
「こいつは儂が城から出た初日にスリを働いた子だ。飢えで死にそうだった上に病気の妹まで居る孤児だ。生きるために悪事を行ったこいつを貴様の薄っぺらい正義で誰をどう裁く?スリを働いたアレンか?アレンの負担になっている妹?孤児にした親?それとも孤児を保護しない政治?いやいや、困っている孤児を見つけることさえ出来なかったお前か?」
「……それは、スリは悪で、だが、でも」
「その上で聞くが仲間を見捨てて逃げるのはどうなんだ?儂から見ればそれは裏切りだ。期待に答えられなかったという努力の怠慢だな。貴様は知らない間に最低の行いをしている。法律上は問題ないのかもしれないが、人としては付き合いたくないな。騎士団長、貴方も儂を止めますか」
天乃川が悩んでいる間に今回の件の責任者である騎士団長に確認を取る。
「……いや、手切れ金として王都周辺を耕す権利を得ている以上業務に関わらないことで動きを制限することは出来ない」
「ふむ、つまり軍事行動であった道順を教えることも出来ないと」
「そうだ。だが、協力はしたいと思っている。私ができるのはこれだけだ」
地図らしき羊皮紙や水薬の入った瓶をを地面に置いて宣言する。
「撤退の際に一部物資を破棄した。私に出来るのはこれだけだ」
「いや、十分だ。感謝する。この恩はいずれ必ず返す」
騎士団長が破棄した物資を背嚢に詰める。
「アレン、ここの畑は好きにしろ。収穫物もだ。食うも売るも育てるも好きにしろ。ここの畑は税がかからん。育てた分は全部育てた奴の取り分だ。大人が適当なことを言い出したらこの薄っぺらい表面上しかない正義の味方に訴えろ。表面上の問題は解決してくれるだろうさ」
準備を整えた所でいざハジメの救出に
「待って!!」
行こうとした所で呼び止められる。見覚えがある女子が友人に支えられて前に出てくる。
「白崎か。何のようだ」
「私も一緒に行きたいの」
「香織、何を言っているんだ!?」
「光輝君は黙っていて」
「いいや、香織は幼馴染なんだ。そんな危険なことを「貴様は黙っていろ自慰野郎!!」がはっ!?」
天乃川の鳩尾を強打して気絶させて地面に適当に転がしてこの場にいる全員に言って聞かせる。
「人の話を聞かない、自分の正義を押し付け、それに酔う。承認欲求の塊、それでいて農家である儂に負ける程度の弱さ。それがこの勇者様の正体だ。クラスメイトのよしみに言っておいてやる。儂はこいつに命を預けるなんてことは出来ん。これは忠告だ。もう一度身の振り方をよく考えておけ。それから白崎、付いて来るなとは言わん。だが、命がけなのは分かっているはずだ。現場に居たのだからな。それでも行くのならその思いを聞かせろ!!」
覚悟がない奴を連れて行く気にはなれない。だが、共に立って同じ道を歩く程度ならしてやれる。少しだけ目をつぶって考えていた白崎は目を開けると同時に叫ぶ。
「色々理由はあるけど、一番の理由はハジメ君のことが好きだから!!」
白崎の告白にクラスメイトが驚いているが、そこはどうでもいい。白崎の言葉に、目に、気迫に覚悟が宿っている。
「それで良い。奴に再び会うまでそれを折るな。余っている物資を分けてもらえ。すぐに出るぞ!!」
「うん!!」
白崎に準備の時間を与えるのと同時に騎士団長がこっそりと質問をしてくる。
「先程の一撃、私でも追えなかった。君はいつの間にそんな力を?」
「解釈の違いです。育って当然の場所で作物を向上心もなしに作る。それは意味もなく素振りをする子供と変わらない。全身全霊を持って開拓し開梱し作物を作り上げる。大地や自然、それが農家にとっての敵であり、味方。スキルも解釈によって幾らでも拡大適応が出来る。自分を型にはめた結果、それ以上になることが出来ない」
「努力が足りないと?」
「頭が硬いと言っている。天職なんて形で枠にはめられてるクラスメイト達もそうだ。儂はどんな天職だったとしても農家として生きる。そういう覚悟を持って儂は生きている」
ステータスを騎士団長に見せておく。少しは信憑性があるだろう。
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七夜徹 17歳 男 レベル:78
天職:農家
筋力:830
体力:970
耐性:570
敏捷:500
魔力:680
魔耐:320
技能:開梱[+土壌分析][+地質調査][+水脈調査][+広域化]・品種改造・飢餓耐性・言語理解
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ハジメよりは1割ほど高いステータスと技能は開梱と言語理解しかなかったそれとは大幅に変化している。今も緩やかに成長しているが、初日は中々面白い上がり方をしていた。騎士団長はその数値に目を丸くしている。
「お待たせ。何か有ったの?」
白崎が不思議そうにしているが放置でいいだろう。急いでハジメを助けに行かなくては。
「なんでもない。急ぐぞ」
「うん!!」
出来るだけ急いでハジメが落ちた場所まで最低限の休息だけで迷宮を駆け抜ける。白崎の荷物も担ぎ、害獣共はショベルで叩いて突いて野ざらしにしてきた。
「ここが現場か」
「うん、ハジメ君はここで、皆を逃がすために」
地形が変形している部分に橋がかかっていたのだろう。ここから落ちれば死は免れないだろう。それでも骨ぐらいは拾ってやろうと思った所で真下に水脈があることに気がつく。地面にうつ伏せになり、体全体で周辺の大地を感じ取る。
「真下に激流だが水が流れている。即死を免れた可能性があるが、大分流されただろうな」
「本当!?」
「白崎、泳ぎは得意か?」
「えっ、普通のプールとかならそこそこだけど」
「なら少し待て」
背嚢からこの世界特有の大豆に近い豆を取り出す。それを握りしめ集中して力を込める。身体の中からごっそりと力が無くなったあとに握っていた豆を地面に埋めて、今度は地面に力を流し込む。そうすると地面に埋めた豆が急速に成長し、鬼灯に似た植物が生える。それを収穫し、つるも使って背嚢に括り付ける。
「白崎、お前も身体に括り付けろ。浮袋だ」
「えっと、何がなんだか追いつけないんだけど、とりあえずどんな結び方が良いの?緩いとまずいんだよね?」
「基本中の基本もやい結びだ。やり方を見せるから真似をしろ」
儂自身を教材として結び方を説明する。最後にお互いを繋ぐ。
「いいか、溺れないこと浮かぶことだけに集中しろ。調整は全部儂がやる。儂を信じろ。絶対にハジメの元まで辿り着いてみせる」
「うん、七夜君を信じるよ」
背嚢を背負い直し、二人揃って崖から飛び降りる。
酷い嘔吐感に襲われて咳き込み目が覚める。
「ゲホッゲホッ」
うつ伏せになって水を吐き出していると背中を擦られる。
「よしよし、なんとか息を吹き返したか」
背中を擦ってくれているのは七夜君のようだけど、何があったのか良く分からない。
「飛び降りた先が鉄砲水でな。分岐も多かった。白崎は途中で頭をぶつけたのか溺れた。その直後に登れそうな場所を見つけて手当をしたところだ」
私が落ち着くまでの間に七夜君が簡単に説明してくれる。
「さて、問題はハジメが此処に、流れ着いていたみたいだな」
「えっ?」
もしかしてハジメ君が!?
「手掘りの、錬成陣だったか?最近掘られた物だな。ハジメ以外にそんな奇特な奴が居るわけもなし。少し休憩して服を乾かしたら追うぞ」
「早くハジメ君を探さないと!!」
「見つけて一緒に共倒れでもするのか?死にかけたことでアドレナリンが出まくってるから大丈夫に思いこんでるだけだ。あと、思っている以上に体温を持っていかれた。半日持てば良いほうだ」
「でも」
「良いから休むぞ。やばい気配が下から感じる。即時に使える種を量産する必要もある。ハジメを信じろ。人間、追い詰められれば真価を発揮する。奴なら生き残れる」
七夜君はそう言いながら、色々と豆や種を植えては成長させて加工していく。呼吸を整えて落ち着き、頭痛がしてきた頃には立派なテントが2つと竈が出来上がっていた。
「テントの中でも火を使えるようにしておいた。次は何時休憩できるか分からんからな」
再び色々な植物を育て始める七夜君の言うことに従ってテントの中で服を脱いで乾かしていく。薪なども最初から用意してあってベッドまで作られている。布団代わりの大きな葉っぱを巻きつける。下着も気持ち悪いから脱いで乾かしておく。意外とこの大きな葉っぱが暖かくて柔らかいからそのまま地面に座っても問題ない。
「何処がありふれた天職なのかな?完全に別種のような気がするよ」
迷宮の魔物もショベルで叩いて簡単に倒してるし、便利な植物をいっぱい作ってるし、普通にこんなテントとかも立てちゃうし、万能すぎる気がする。
召喚されたあの日、ステータスプレートに表示された低いステータスと農家という天職にクラスメイトの殆どが笑っていた。だからどうしたと手切れ金に農具と種、最低限の食費と耕した場所で取れたものの3年の無税をもぎ取ってお城から居なくなった。
次に会ったのは迷宮に向かう途中だった。ありえない広さを耕し、既に実をつけている蕎麦を見て異世界の物だからと疑問に思わなかった。メルド団長が後でありえないと言っていたから七夜君の力なんだろう。そもそも耕している範囲が広すぎた。それに誰も気づかなかったのが今でも不思議だ。ハジメ君だけは七夜君の使っていた農具がぼろぼろなのを見て錬成で修理して使いやすいように調整をしてお礼を言われてたのを覚えている。その時だけが錬成士というありふれた天職だと皆に笑われてから初めてみるハジメ君の笑顔だった。
そう言えば、学校では基本的に農業雑誌や農業新聞を読んでいた七夜君が何故ハジメ君を友と呼ぶのかすら知らない。そんな事を考えていたらそのまま横になって眠ってしまっていた。
豆と種の準備が終わった所で、ハジメが向かったと思われる通路を見る。足跡から見て怪我などはしていないようだが、食料もなしの状態で害獣に囲まれている環境。ストレスから発狂していなければ良いのだが。ハジメが一人になってから4日目、早く助けに行きたいが、余裕はあまりなさそうだ。6時間の睡眠と1時間の食事、その後は丸2日の捜索。その捜索で見つけられなければまともな姿で見つけられる保証がない。テントに戻り、食事に使う豆を水につけ、装備の最終確認をしてから服を脱いで乾かしながらベッドに潜り込む。
きっかり6時間で目を覚まし、服を着込んで背嚢から鍋を取り出し、寝る前に水に浸けておいた豆を潰し、繋ぎに小麦を加えて、品種改造でちょちょいと作った醤油味の豆の粉末をふりかけてなんちゃって大豆ハンバーグを用意する。
「白崎、飯ができたぞ」
声をかけてしばらく待ってから、テントから出てきた白崎と飯を食い、最後の準備を整えて予定を確認する。
「これから2日、最低限の休息だけで捜索を行う。もしはぐれた場合、この拠点にまで戻ること。ハジメを見つけた場合も此処に戻る。ここまではいいな?」
「うん。大丈夫」
「次に捜索の方針だが、出来るだけ隠れながら捜索するか、派手に探すかだ。メリット・デメリットは、分かるな?」
「どれだけ邪魔をされるか。そしてハジメ君に気づいて貰えるか。私は中間が良いと思う」
「ふむ、具体的には」
「定期的に大声で叫ぶ。移動はこっそりと。ハジメ君にも危険がある以上は早く見つけてあげたいから」
「なら、その方針で行く。ただし、無理だけはしないぞ」
「共倒れになったら意味がない、だね」
「そうだ。絶対に全員で生き残る。行くぞ!!」
「うん!!」
右手にシャベルを握り、左手に豆と種を握っておく。白崎と二人で拠点から奥へと進む。今までの迷宮と異なり、普通の洞窟のような道を進んでいく。天井が広いということは上から見れば本当に迷路のような形をしているのかもしれに。しばらく歩いた所で分岐路と、固まっている血溜まりが見つかる。
「中々の量の出血だな。中型サイズなら致命傷だな」
「えっと、そんなのも分かるの?」
「広がっている範囲と地質を考えればな。中型犬程度なら助からん。大型犬でも治療しなければ死ぬな。ハジメの物じゃないと祈るしかないな。とりあえず、ここで一度大声を出す。害獣が寄ってくる可能性があるから構えておけ」
「うん」
白崎が杖を構えた所で大声でハジメの名前を叫ぶ。反響が殆ど無い。大分広い空間だな。それとどうやら招かれざる客が来たようだ。中型犬サイズの後ろ足が異様に発達した兎。白崎を獲物と見て飛びかかった来たそれの眼前にショベルを差し入れて打ち落とす。強くなっているはずなのに右手が痺れた。兎が起き上がる前に首を踏みつけて骨を砕く。
「対応はできそうか?」
「ごめん、ちょっと無理そう」
白崎に戦えるかを問うと無理だと言われる。仕方ない、出来るだけ避けねばならないな。
「移動する。他にも近づいて来ている」
それから移動と迎撃と逃走を繰り返し、一日で拠点に引き返す羽目になった。主と思われる熊によって右腕を大きく裂かれた。幸い、白崎の魔法で傷跡が残る程度にまで治ったのが豆と種もほぼ使い切ってしまった。拠点へ戻り、半日の休息を取って丸一日の捜索に切り替え、1週間の時が流れた。
儂達の間にハジメは死んだという思いを無視するのが限界に近づいた頃、拠点の方から叫び声が聞こえた。急いで戻ったそこには、二股狼の死体の前で苦しんでいるハジメが居た。
「白崎!!安全を確保する!!」
「分かった!!」
倒れているハジメを白崎が担ぎ上げ拠点への道に飛び込む。儂は拠点以外の道に対して豆を投げる。同時に鍬に白崎の言う魔力を込めて地面につきたてる。
「育て、大地の豆!!」
同時に投げた豆が魔力を糧に急成長を起こす。一瞬にして通路を埋め尽くす程の蔓となって害獣を寄せ付けない。まあ、栄養が足りないために1日しか持たない欠点もあるが問題はない。安全を確認してから拠点へと走る。
「白崎、ハジメは!!」
「あっ、七夜君、大丈夫、ハジメ君、生きてる。生きてるよ」
白崎に膝枕をされながら目を瞑って苦しそうにしているが、苦しそうにしているということは生きているということだ。しばらく待った所でハジメが目を開ける。
「……夢か?」
「夢じゃないよ。助けに、来たよ」
「見捨てるぐらいなら、最初から友だとは思わんよ。五体満足とは言えないみたいだが、生きていてくれて良かったよ、ハジメ」
「徹、なのか?どうやって」
「それは落ち着いてからにしようや。正直、儂らも限界だ。お前も休め。こいつを食え」
行軍食として開発した豆をハジメに投げる。
「これは?」
「仙豆(劣)だ」
「仙豆!?仙豆ってあの仙豆!?」
「仙豆(劣)だと言っただろうが。腹が膨れるだけで回復効果はない。まあ、出すものがないから探索には役に立った」
用を足している際に襲われて死亡なんて嫌な死に方だ。
「飯も水も燃料も幾らでもある。丸一日は安全でもある。精神的に休まる暇なんて無かったんだろう。睡眠薬もある。使うか?」
「いい。それよりも、手を握ってくれないか」
食いちぎられたのか、無くなっている左腕を見ないようにして右手を握り、白崎にも一緒に握らせる。
「……温かい。ぐすっ、誰かの手ってこんなに温かかったんだな」
涙を流しながら意識を失う様にハジメが眠りに落ちた。
「さて、自分のベッドに引きずり込むんじゃないぞ、白崎」
「ししし、しないよ、そんなこと!!」
「はいはい、とりあえずオレの方のテントのベッドに放り込め。儂は新しいテントを作ってそっちで寝る。未来のことは明日の儂らに考えてもらう」
正直、儂らも無茶をしすぎた。ハジメを助けると張っていた気持ちが途絶えた分、疲労感が半端でない。ここまでの道を戻ることは出来ない以上、更に先に進んで出口を探すしかない。おそらくだが、ここは完全に別の迷宮だ。もしくは101階層とでも言えばいいか。
どこまで潜る必要があるかは分からないが、最悪100階層潜る必要があるだろう。どれだけ時間がかかるのかさっぱり分からん。何処までやれるか、根本的な強化方法の維新が必要だ。今の儂ではこの階層ですらギリギリだ。
片手を失ったハジメが何処まで出来るか分からん以上、儂がさらに身体を張らねばならない。何処までやれるか分からんが、ご先祖様に恥と思われぬ位には頑張ろう。
後書き
メルヘブンのジャックに盾の勇者の新・七つの大罪の盾の遺伝子改良に近い能力を追加した形になります。
基本的に畑を耕せれば良いと思いながらも、人として間違っていると思ったことには一切の躊躇を持たずに介入して我を通す男です。夢はでっかく農家。
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