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戦国異伝供書

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第四十二話 信濃の南その七

「信濃の南の政が一段落すれば」
「すぐにな」
「村上家との戦ですな」
「村上殿は強い」
 昌幸は強い声で言い切った。
「だからな」
「戦になれば」
「かなり大きな戦になってじゃ」  
 そしてと言うのだった。
「多くの者が死ぬことになる」
「武田家も」
「そうじゃ、しかしな」
「それをですな」
「わしに考えがある」 
 策、それがというのだ。
「それを以てじゃ」
「強い村上殿もですな」
「倒してな」
 そしてと言うのだった。
「信濃はな」
「多くの犠牲を払わずに」
「手に入れようぞ」
 是非にと言うのだった。
「そうした意味でもじゃ」
「我等が武田家に入ったことは」
「大きい」
 そうだというのだ。
「実にな」
「我等の知略も加わるので」
「それに元々上田からな」
「我等が村上家を牽制している」
「このこともじゃ」
 実にというのだ。
「村上家にとって大きいしな」
「武田家との戦にのみ向かっていられない」
「そのこともあってじゃ」
「武田家は村上家との戦では大きな傷を受けない」
「将も兵もな」
 そのどちらもというのだ。
「大きく失わずな」
「勝てまするか」
「そうなる、しかしな」
「しかしとは」
「信濃を手に入れてもな」
 それでもとだ、昌幸は信之に難しい顔でこうも述べた。
「すんなりと美濃に進めるか」
「そのことですか」
「お館様は戦をされるとな」
「必ずですな」
「手に入れた土地を熱心に治められる」
 戦で勝つよりもだ、晴信が熱心なのはこちらなのだ。その為彼をよく知る者は彼を戦よりも政の人だと言う。
「そしてそれからな」
「美濃となるにしても」
「長尾家が黙っているか」
「そのことですな」
「山本殿も言っておられるが」
 軍師である彼もというのだ。
「海津に城を築いてな」
「それを越後への備えとしても」
「長尾殿が何度も激しく攻めて来るとな」
「こちらとしても」
「どうしてもじゃ」
 相手が来るならというのだ。
「受けて立ってじゃ」
「そのうえで」
「戦わねばならん」
「その都度」
「その頃我等は百二十万石になっておってな」
「三万の兵も擁し」
「相当な勢力になっていてもじゃ」
 それでもというのだ。
「長尾家、越後もな」
「百二十万石、三万の兵を擁しています」
「全くの互角じゃ、しかも長尾殿は強い」
「そうした方が相手なら」
「こちらも四つに組んで戦わねばならずな」
 それでというのだ。 
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