ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第151話:Booster Forest
エックスとエイリアのチームはロケット集積施設であるブースターズ・フォレストに訪れていた。
「ゼロとアイリスがイレギュラー化した反重力研究所の主任のアントニオンを倒したようだわ」
ハンターベースから送られてきた情報によって残るイレギュラーはこのロケット集積施設にいる者のみとなっている。
「つまり、このロケット集積施設が最後と言うわけか…」
「でも、ヤコブの管理官を拐ってから大分時間が経ったのに、まだ奴らの目的である軌道エレベーター本体に異常がないと言うのが逆に不気味だわ。こう言うのもあれだけど、シグマがしたことと言えばルナをイレギュラー化させただけだし…」
「今は考えていても仕方がない。奴らが何をしようとしているのかまでは分からないが、目の前のイレギュラーを放置する訳にもいかない」
「そうねエックス…まずは目の前のことに集中しましょう」
腕をバスターに変形させたエックスとエイリアは同時にダッシュで駆け抜けた。
エックスがチャージショットの連発で目の前のメカニロイドやコピーロイドを殲滅し、真上の敵はエイリアが特殊武器で対応する。
「サンダーダンサー!!」
彼女のバスターの銃口から放たれた電撃が真上にいた複数のマメQを連鎖を起こして破壊していく。
「エイリア、確かこの施設は…」
「ええ、ヤコブ計画が始まる前まで宇宙開発を行っていた場所よ。もしかしたら大規模施設の電子災害用のライドアーマーがあるかもしれないわ…エックス、あれよ…電子災害用ライドアーマー・サイクロプスだわ」
電子災害用に造り変えられているために装甲は厚く、多少の攻撃ではびくともしない。
その上、高い馬力を持つアームや暴走した電子設備を停止させる電子ナパーム砲を装備しているために攻防に優れた機体だ。
「よし、エイリアがサイクロプスに乗ってくれ。俺が先に進めるようにしておくから」
サイクロプスは1機しかないために、強化アーマーがないので防御力がエックスより劣るエイリアが乗るべきだと判断した。
それに仕掛けを作動させないとサイクロプスでは先に進めない場所もあるので強化アーマーがある分、動きやすい自分がやるべきだ。
「…良いの?本当に?」
「エイリアには強化アーマーがないからこれが妥当だ。今のニュートラルアーマーの装備ならライドアーマー相手でも真っ向から戦える」
アームパーツIとヘッドパーツHの恩恵により、エックスは殆どチャージを必要とせずにチャージショットを放てるようになったからライドアーマーが相手でも遅れは取らない。
「そう…ありがとうエックス」
エックスの気遣いに感謝しながらエイリアはサイクロプスに乗り込んだ。
メカニロイドの攻撃に対してかなりの防御力を発揮するサイクロプス。
途中の仕掛けで降りることはあったが、エックスが先んじて敵を掃討してくれたために危険は余りなかった。
途中の部屋にサイクロプスの電磁ナパーム砲を省いた量産型ライドアーマー・ゴーレムが襲い掛かってきたが、エイリアがナパーム砲から超電磁ナパームを発射して最初の1機の動きを止めた後にエックスがバスターを構えた。
エックス「レーザーチャージショット!!」
貫通力に優れたアームパーツIのレーザーチャージショットを発射し、例え一撃で倒せなくとも再び2発目のレーザーチャージショットを放ってゴーレムを殲滅した。
「凄いわねエックス」
「エイリアがサポートしてくれたからだよ。さあ、先を急ごう」
何とか仕掛けを動かし、攻略していくエックスとエイリアだが、この先にあるエレベーターは足場になりそうなコンテナが破壊されており、サイクロプスでは進めそうにない。
仕方ないのでエイリアに降りてもらい、壁蹴りで扉の前に辿り着くとエレベーターに乗り込み、ロケット集積施設の屋上に辿り着いた。
バイオロイドの巨木が枝を茂らせ、深緑の葉を広げており、科学力を結集させた様々なヤコブ関連の施設の中で唯一、生命の営みを感じさせる場所であった。
屋上にはこの施設のボス…ロケット集積施設の管理人であるバンブー・パンデモニウムがエックスとエイリアに背を向ける形となって佇んでいた。
そしてゆっくりとエックス達に振り返って語りかける。
「君達は知ってるかな?ロケットの始まりは、戦争に使われるミサイルだったんだよ…」
「「…………」」
「世界は、破壊に使われるものばかりを造り出してきた…ミサイルとか…僕達、レプリロイド…そうやって破壊に繋がる危険なものを産み出しながら世界はここまで来たんだ…君達も考えた事があるんじゃないかい…?この世界が滅びたがっているって…」
「滅びたがっているか…パンデモニウム。俺達レプリロイドには心があるために確かにお前の言う通りに争いが起きることもある。だが、誰かを滅ぼすと言う考えだけは絶対に間違っている!!お前達の主張のせいでどれだけの人間やレプリロイドが無意味な犠牲に苦しめられたのか分かっているのか!?」
パンデモニウムの言葉に一定の理解を示しながらもエックスはこの戦いによって罪のない人々が犠牲になったことに対して怒りを露にしながら叫んだ。
バスターを向けられてもパンデモニウムは一切の動揺も見せなかった。
「それで君達は僕達を殺すんだね」
エイリアはパンデモニウムの言葉に思わず息を飲み、エックスは顔を顰めた。
パンデモニウムの言葉は“正義”を司る者として、尤も向き合うことが苦しい矛盾であった。
「それって、君達も僕達も同じじゃないのかい?」
「………」
その言葉にエイリアは俯いた。
どれだけの正義感を持ったハンターがその矛盾に苦しんだのだろう。
隣のエックスやここにいないゼロやルインもアイリスだってそうだった。
「分かってる。それがこの世界の欺瞞なんだよ。だからこそ僕達は戦い、この世界は滅びなきゃならないんだ…始めよう。君達は旧き世界を守るため、僕は新しい世界の創造のための戦いを………ブラストランチャー!!」
今までの物静かな雰囲気から一変し、全身から闘気を解放しながら背中の大砲から爆弾が発射された。
爆弾は一定時間後に頭上に降り注ぎ、爆発した。
「エイリア!!」
「っ!!」
爆発に巻き込まれる前にエイリアを抱き抱えてフットパーツHの能力であるインビジブルダッシュで回避する。
「やるね、白黒つけるよ!連葉断!!」
覚悟の台詞を放ちながら巨体からは想像出来ない程のラッシュ攻撃を繰り出してくるパンデモニウム。
一撃受ければ直後に追撃のラッシュが叩き込まれるのは容易に想像出来る。
「喰らえ、レーザーチャージショット!!」
ダッシュで距離を保ちながらレーザーチャージショットをパンデモニウムに直撃させた。
「ぐう…」
咄嗟に防御したことでダメージを最小限に抑えたが、パンデモニウムは思わず呻いた。
「効いてるわ!!」
「まだ終わらないよ…バンブースピア!!」
拳を床に叩き付けると竹が凄まじい勢いで生えていき、エックスとエイリアの動きを制限するだけでなく、視界を塞いだ。
「くっ!!」
咄嗟に竹にショットを連射するが、どれだけ撃ち込んでも竹の破壊は出来ない。
「なら、これならどう!?メルトクリーパー!!」
破壊出来ないなら燃やすしかないと判断したエイリアはコケコッカーの特殊武器であるメルトクリーパーを繰り出す。
地面を走る炎が竹を次々と燃やしていく。
「燃えていく…ならパンデモニウムも炎が弱点のはずだ。メルトクリーパー!!」
それを見たエックスが特殊武器のチャージを開始、即座にチャージメルトクリーパーを放つ。
エイリアの放ったメルトクリーパーの炎を飲み込んで更に強力になったチャージメルトクリーパーの炎がパンデモニウムに直撃した。
「うわああああ!!?」
チャージ攻撃故に通常のメルトクリーパーよりも威力が高いチャージメルトクリーパーに通常のメルトクリーパーの威力が加わったのだ。
それを弱点とする者が受ければただでは済まない。
パンデモニウム程の巨体が燃え盛る様は見ていて圧巻だった。
「やったか…?」
「チャージメルトクリーパーと通常のメルトクリーパーの合体攻撃よ…流石に…」
「うん…僕の弱点は炎だから…凄く効いたよ」
苦笑したらしいが、炎を纏っての笑みは壮絶以外の何物でもなく、パンデモニウムの低い声が更に不気味さを引き立たせた。
「決着をつけよう…」
突如、パンデモニウムが全身から全てのエネルギーを解放するのと同時に構えた。
パンデモニウムのスペシャルアタックである葉断突は渾身の力を込めた一撃である。
衝撃波が渦を巻いて爪を包み込み、光が舞う瞬間に突風が吹いた。
「(速い…!!)」
葉断突の波動に巻き込まれぬように射程範囲外に逃げようとするエックスとエイリアだが、輝く爪が視界を席巻する。
「(一か八かだ!!)エイリア、下がるんだ!!」
「エックス!?」
エックスは覚悟を決めた表情でパンデモニウムの爪に突っ込んでいく。
自殺行為とも言える行動にエイリアは目を見開くが。
「ギガクラッシュ!!」
アーマーパーツをIシリーズに統一し、ニュートラルアーマーをイカロスアーマーに変化させ、スペシャルアタックを発動しているパンデモニウムに対抗するようにイカロスアーマーの必殺技であるギガクラッシュを発動した。
葉断突とギガクラッシュのエネルギーが激突し、その余波でロケット集積施設を吹き飛ばしてしまう。
「っ…痛…」
余波で吹き飛ばされてしまったエイリアは痛みに顔を顰めながら起き上がり、周囲を見渡すとボロボロでありながらも何とか瓦礫の上に立っているエックスと、倒れ伏しているパンデモニウムの姿があった。
どうやらイカロスアーマーの防御力で葉断突の威力が半減されたから耐えられたようだ。
しかし、逆に防御力を高めているのにも関わらず、エックスが立っているのがやっとということはあれをノーマル状態で受けていれば死んでいたことをエイリアに容易に想像させた。
「エックス!!」
「っ…すまない」
倒れそうになったところをエイリアに支えられたエックスはゆっくりとパンデモニウムに歩み寄る。
敵はとても穏やかな表情を浮かべていた。
潔い態度だとエックスとエイリアは思う。
「世界は…君、達…を選ん…だ。君達が…正しか…ったんだ。」
「いや、それは違うと思う」
途切れ途切れのパンデモニウムの言葉をエックスは間髪入れずに否定した。
「たった一度の戦いだけで、自分の正義…正しさを証明するなんて出来ない。お前が指摘した欺瞞も、多分その通りなんだと思う。」
エックスの言葉にパンデモニウムは驚いていたが、エックスは構わずに更に言葉を続けた。
「俺達も迷いながら戦っている。時に間違えたり、道を踏み外してしまうかもしれない。だが、それでも過ちから学ぶことだって出来るんだ。迷い…学びながら、少しずつ、前に進む。仲間や支えてくれる人と互いに助け合いながら。それが俺達が造られた理由なんだと思う…」
「…………」
命の灯火が消えていく。
反乱を起こした最後のイレギュラーは、エックスの言葉を胸に刻みながら果てた。
パンデモニウムの死顔は至極穏やかだった。
傷の痛みも、戦いの苦しみも、全て解き放たれたような表情であった。
エックスはパンデモニウムに黙祷を捧げるとDNAデータを回収するのであった。
そしてエイリアに支えられたエックスは痛みに顔を顰めながら、転送可能な場所まで移動する。
一度転送しようとしたものの、パンデモニウムの葉断突とエックスのギガクラッシュの激突の余波により、ロケット集積施設跡では転送が不可能な状態となってしまったのだ。
それで何とか転送可能な場所まで移動している。
「全く!本当にあなたは無茶ばかりするんだから!!」
「すまない…でもパンデモニウムに勝つにはこの方法しかなかった……君が無事で良かったよ」
「っ…ああもう!あなたって人は!!」
こういうことを素で言うから困る。
取り敢えず、エイリアはエックスを休ませようと人目に付かない場所に移動するが、そこには見慣れたカプセルがあった。
『エックス、エイリア』
「あ…」
「ライト博士!!」
ライト博士のホログラムが現れ、エックスとエイリアは目を見開いた。
エックスの状態を見たライト博士は酷いダメージに顔を顰めた。
『エックス、また随分と無理をしたようじゃな』
「すみませんライト博士」
「あの、ライト博士。エックスの修理をお願い出来ませんか?このままでは…」
『うむ、ではエイリア。エックスをカプセルに…後、君も入りなさい。君もエックス程ではないがダメージを受けている。』
「え?は、はい」
エックスを支えながらカプセルに入ると、カプセルがエックスとエイリアの修理を同時に行う。
エックスの修理はライト博士自身が造ったロボットなので容易いことなのだろうが、女性型故に男性型であるエックスとは造りが違うはずの自分の修理も同時に行えるとはやはりライト博士は凄いとエイリアは再認識した。
『これでよし、エックス、エイリア。もう大丈夫じゃ』
修理を短時間で終えたライト博士は安堵の息を吐いた。
「凄いです。エックスだけじゃなく私の修理まで並行してやってしまうなんて…私は女だから大変だったんじゃ…」
『いや…わしにはロックやブルース…カットマン達、息子だけではなく少数だが娘もいた。ロールとスプラッシュウーマンがな…皆、優しい…良い子達じゃったが…いなくなってしまった…』
遠い目をするライト博士。
自身が造り上げた子供達はもうエックスを除いて何処にもいないことを思い出してか、悲しげに天を見上げた。
「…兄さんと姉さんか…ライト博士、いつか俺に兄さん達と姉さん達の話を聞かせてもらえませんか?」
「あ、私も聞きたいです。エックスの兄弟の話を…いつかルインと一緒に…」
『……ああ、いつか必ず…さて、エックスよイカロスアーマーとヘルメスアーマーの使い方には大分慣れたようじゃな。』
「はい、今までのアーマーの中でも一番使いやすいかもしれません。」
『それは何よりじゃ、今まではエックスに能力を付加させることに目を向けすぎておったからのう。今回のアーマーは原点に戻ってエックスの持つ能力を高めるという方向性にしたのじゃよ』
「エアダッシュ機能はエックスがノーマル状態でも使えるようになったから不要になりましたからね」
『うむ、それで今回わしはイカロスアーマーとヘルメスアーマーの長所を合わせて調整した新しいアルティメットアーマーのプログラムを授けよう。』
そう言うとライト博士は新しいアルティメットアーマーのホログラムを出した。
見た目的には紫基調のニュートラルアーマーだが。
『今までのアルティメットアーマーではもうこれからの戦いにはついていけんと判断してな。最新型のアーマーをベースにした物を造ったんじゃ。まずはヘッドパーツには生前にわしが会得した技である昇竜拳のデータをインプット………そう不安そうにするでないエックス。今回は流石に自重しておるよ。』
不安そうにライト博士を見つめるエックスに苦笑しながらライト博士は説明を続ける。
『そしてボディパーツの性能はイカロスアーマーの物と同一じゃ。フットパーツはイカロス、ヘルメス両アーマーのフットパーツの特質を持ち、ハイジャンプとインビジブルダッシュが出来る。そしてアームパーツは以前のアルティメットアーマー同様にプラズマチャージショットが放てるだけでなく、エアダッシュ機能に回すエネルギーが無くなったことで特殊武器の使用の際に生じるエネルギー消費を通常・チャージ共に皆無にまで抑える事が出来るようになった。つまり、敵の特殊武器を殆ど無尽蔵に使う事が出来るのじゃ』
「そ、そうですか…(普通、格闘技の技ではなく特殊武器関連の能力をヘッドパーツにインプットするべきじゃないかな…?)」
「凄いです!流石ライト博士!!」
正に究極の強化アーマーの名に恥じぬ性能にエイリアは尊敬を込めた視線をライト博士に向けた。
「(ヘッドパーツの能力が格闘技なのはツッコまないのか…)」
『因みにノヴァストライクも威力も強化しておるが以前と違って連発は出来んから気を付けて欲しい。ではエックス、カプセルに入りなさい。このアルティメットアーマーをどのタイミングで使うかはお主に任せる』
エックスがカプセルに入るとイカロスアーマーのパーツとヘルメスアーマーのパーツにアルティメットアーマーのプログラムがインストールされていく。
「………」
目を閉じるとニュートラルアーマーに大きく存在する今までにない強大な力を感じる。
『エックス、わしはお主の幸せを願っておるぞ』
そう言うとライト博士のホログラムは消え、それを見届けたエックスはエイリアに振り返る。
「行こう」
「ええ」
転送可能な場所まで移動するとハンターベースに帰投するエックス達。
一方、メンテナンスを終えたルインとアクセルはハンターベースの屋上にいた。
鳥の囀りがよく聞こえる穏やかな昼下がりで白い雲がゆっくりと流れていく。
「アクセル、大丈夫?」
「ん、大分落ち着いたよ…」
力が入っていない笑みを浮かべるアクセル。
最も親しいルナのイレギュラー化はアクセルの心に深い影を落としていた。
「…ルナは…イレギュラー化しちゃった…イレギュラーハンターはイレギュラーを倒すのが仕事…だから僕は…イレギュラーハンターとしてルナを…殺さないといけないのかな…?」
苦悩したようなアクセルの呟きにルインの目元に皺が刻まれたが、少しの間を置いて口を開く。
「ルナが…あの子があのまま、私達に銃口を向けるのなら…戦うしかないよアクセル……正直、私…少し自己嫌悪してる」
「自己嫌悪?」
「以前のコロニー事件で私は地球に蔓延したシグマウィルスとユーラシアの内部に満たされているシグマウィルスを除去するために…イレギュラー化する方法を選んだんだ」
「は?」
唖然としたような、アクセルの表情にやっぱりそうなるよなと苦笑するルイン。
「あの時、シグマウィルスを除去するにはああするしかなかったの。私はシグマウィルスの過剰吸収でイレギュラー化してエックスとゼロと戦った…その時の2人の立場になって本当の意味で分かったよ。私はエックス達に本当に酷いことしちゃったんだなって」
「………」
当時のことを振り返って自嘲気味に笑うルインにアクセルは何も言えなかった。
「でも、同じイレギュラー化を経験してるからこそ私達がやらないといけないことは誰よりも理解してるつもり。今のルナをあのままにしていたらどれだけの犠牲が生まれるか分からない。私はイレギュラーハンターとして、その現実から目を背けることは出来ない。それに…私達の知るルナなら、イレギュラーでいることを望まないんじゃないかな?そして…」
アクセルを真剣な表情で見遣りながらルインはゆっくりと口を開いた。
「ルナは君に助けて…止めてもらいたがってると思う」
「僕…に…?」
「女の勘だよ…多分ルナは君のこと…」
それだけ言うとルインは口を閉ざした。
彼女の気持ちを自分が教えるわけにはいかないと判断したからだ。
「ルナ………僕は…」
空は徐々に明るさを失い、蒼い色を紅へと変えていく。
紅と紫の混じった夕焼けが凄烈な光を放ち、ルナとの戦いへの感傷を否応なしに高めていく。
「…ルイン」
ゼロが屋上に姿を現す。
自分達に出撃を報せに来てくれたのだ。
「ヤコブの頂上にエネルギー反応を感知した……ルナだ…準備が出来次第、出動だ」
ルインは固く瞼を閉じた後にややあって頷いた。
司令室へと、足を踏み出そうとした時。
「待って」
振り返るとアクセルが強い眼差しを向けていた。
「ヤコブの頂上には僕1人で行くよ…ルナは僕に任せて欲しいんだ」
「…アクセル…まさか…お前…」
「お願い、僕がルナを助けたいんだ。僕のやり方で」
「………任せていいの?」
確認するルインにアクセルは迷うことなく頷いた。
自分のやり方でルナを救いたい。
それが自分が彼女に出来る唯一のことだと信じて。
「…分かったよ…ヤコブ付近の敵は私達に任せて…ルナを任せたよ」
「…うん」
決意に満ちた表情でアクセルは軌道エレベーターのある方角を見つめるのだった。
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