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色を無くしたこの世界で

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第二章 十三年の孤独
  第37話 おかしな皆

 アステリに連れられ天馬がやって来たのは一つの病室だった。

「アステリ、ここは?」
「三国さんや他のメンバーの病室だよ」

 尋ねた天馬にそう返し、アステリが扉に手をかける。
 すると突然ガラッと扉が開きだし、中から三国達雷門イレブンが出てきた。

「三国さん! 皆も!」

 病室から出てきた三国達の姿を見て天馬は喜ぶ。
――良かった……皆、怪我も大した事ないみたいだ
 ホッと胸を撫で下ろし、三国達に言葉をかけようとする。
 が……

「邪魔だ」
「……!?」

 ドンッと言う音が響き、天馬の体が後方に倒れる。
 不意の事で受け身もとれず、地面に強く打ち付けた体が痛む。
 突然倒れた天馬を心配するアステリを横目に俯いた顔を上げると、病室を出ていく三国の姿が見えた。
 他のメンバーも同様に天馬を無視しその場を去ろうとしている。

「っ……皆さん、どこに行くんですか!」

 そう声を張り上げ通り過ぎていくメンバーを呼び止める。
 が、誰一人としてその言葉に反応する者はおらず、天馬はたまらず目の前を通る倉間の腕を掴んだ。

「ちょっと待ってください! 倉間先輩……一体どうして……」

 困惑した様子で尋ねた天馬。
 自身の腕を掴むその腕を一瞥すると勢いよく振り払い、倉間が口を開く。





「――――お前、誰」
「………………ぇ」

 天馬は自分の耳を疑った。
 何かの冗談だと思いたかった。
 だが去り行くメンバーの様子や目の前の倉間の表情から、それが冗談や嘘なんかではないのだと理解した。
 何も言えず、呆然と去っていくメンバーを見詰めていると、三国達が出てきた病室から自身を呼ぶ声が聞こえた。

 部屋の中を見るとユニフォーム姿の神童が立っていた。
 他にも剣城、狩屋、霧野、錦……それに監督とマネージャー二人も部屋にいる。
 彼等も先程の天馬と三国達の光景を見ていたのだろう。
 皆一様に辛く悲しそうな表情を浮かばせていた。

「神童先輩、三国さん達が……!!」

 訳も分からず尋ねた言葉に神童は静かに頷くと、低く、暗い声で言葉を返す。

「ああ、分かってる。…………俺達も同じ事を言われたからな……」
「え……」

 神童は言う。
 目が覚めたら三国達の様子がおかしかった事。
 自分達の事を「知らない」と言い、サッカーの事ですら「そんな事はしない」等と言っていた事。
 神童の口から告げられる言葉に、天馬の中に溢れていた困惑の思いが強くなる。
 「なんで」「どうして」……
 悲しみと混乱が入り雑じった感情の中、天馬の口から零れたのはそんな言葉だった。

「天馬!」
「! フェイ、ワンダバ……それに葵に信助も…………」

 声のした方向に視線を動かすと、フェイ、ワンダバ、葵、信助の四人が歩いてくるのが見えた。
 天馬達の元へ辿り着いたフェイは周囲の様子を確認すると、複雑そうな表情で天馬に尋ねる。

「天馬……三国さん達は…………」
「いなくなっちゃった…………俺等の事やサッカーを知らないって言って……」

 恐らく、フェイは知っていたのだろう。悲しそうに目を伏せ、「そうか」と呟く。
 隣を見ると、葵や信助までもが同様に苦しそうな顔で俯いている。
 その様子に、天馬は先程病室でメンバーの事を尋ねた時、葵と信助が暗い顔をしていたのもこの事が原因なのだろうと酷く納得した。

 重たい沈黙が部屋に流れる。
 もう対して痛く無いはずの体――特に胸あたりが酷く痛む気がして、天馬は顔を歪ませた。
 辛そうに沈む天馬達の様子に耐え切れなくなったのか、アステリが口を開く。

「……あのね、天馬。さっきの三国さん達の事なんだけど……」
「え……アステリ、何か知ってるの?」

 アステリの一言に一同は俯かせていた顔を上げ、一斉に彼の方を見る。

「うん。……さっきね、三国さん達がここから去る時に……"影"が無かったんだ」
「影……?」

 予想だにしなかったアステリの言葉にその場の全員が訝し気な表情を浮かばせる。
 三国達がおかしくなった理由……それとアステリが言う『影』に、一体どんな関係があると言うのだろうか?

「ザ・デッドが使った必殺タクティクス…………あれには影を支配する力があるってスキアは言っていたよね」
「うん……」

――そう言えばそんな事を言っていたな……

 アステリは言う。
 先程戦ったスキアの繰り出した必殺タクティクス《影縫い》には生物の影を支配する力がある。
 影とは古くからその生物の魂が少なかれ宿る不思議なモノ。
 そして魂とは生物の気力、精神、素質、記憶を司る……いわば生物の中枢――"脳"と言っても過言では無いモノ。
 三国達は影を通してそんな魂を支配されてしまっている……のだと。

「じゃあ、影を支配されたせいで……皆おかしくなっちゃったの?」
「うん……」
「でも、僕達には影があるよ!」

 自分達も三国達と同じフィールドに立っていた。
 それなのになぜ、自分達は無事なのか。
 声を上げ尋ねた信助にアステリは一瞬言葉を詰まらせるも、すぐさま言葉を返した

「それは……恐らく、色の力のおかげだよ……」
「色……?」
「それってあの変なローブの奴の?」

 アステリの言葉に今まで黙っていた剣城が静かに反応した。
 続いて狩屋がいつもの様なツンとした態度で言葉を発する。

「うん、それも影響しているけど……根本的な影響はもっと別にあるんだ」
「どう言う事だ」

 神童が聞くとアステリはしばらく考え込んだ後、首を横に振り「難しい話になるから、今は止めておく」と唱えた。
 ただでさえ混乱している彼等に説明した所で更なる混乱を生む事になるだけだろう。
 天馬達もそれを理解したのか、それ以上その事を追求する者はいなかった。

「ねぇ、アステリ。どうすれば皆を元に戻せるの……?」
「スキアを倒して、影の支配を解いてもらうしかない。でも、スキアが素直に従うとは思えないな……」
「そんな……」

 アステリの言葉に悲しそうに俯いた天馬に、今まで黙っていた円堂が口を開く。

「天馬、いつまで落ち込んでいるんだ!」
「円堂監督……」
「奪われたなら奪い返せば良い。俺達はそうやっていつも大切な物を守ってきただろ!」
「!」

 円堂の言葉に天馬は目を見開いた。

「そうだよ、天馬」
「こんな所で落ち込んでいるなんて、らしくないぞ」
「『なんとかなる』……だろ」

 信助、神童、剣城がそう言葉を続ける。
 俯かせていた顔を上げ、自身を見詰める皆の顔を見渡す。
 仲間を奪われ、自分達のフィールドであるサッカーでボロボロにされて……心が折れてもおかしく無いこの状況でなお、その瞳からは光が消えておらず、天馬は今まで落ち込んでいた自分が酷く情けなく感じた。
 両の頬を強く叩き、前を見据える。

――そうだ……いつまでもウジウジなんてしてられない……
――決めたんだ、大切なモノを守るって……

「皆を元に戻す為にも、こんな所で落ち込んでなんかいられない!」

 そんな、いつもの前向きな天馬が戻ってきた事に皆は安心したように笑みを浮かべた。

「でもよ、これからどうすんだ? そのスキアとか言う奴がどこにいるかも分からないんだぜ?」
「アステリくんの話からするに…………モノクロ世界にいる……」
「いや、場所は分かってても行く手段が無いだろ?」

 そう言葉を交わす水鳥と茜の会話に、天馬達も頭を悩ます。

「それなら大丈夫だよ」

 静まり返る部屋の中、不意に響いたのはアステリの声だった。

「アステリ、何か良い方法があるの?」
「うん。……今日戦ったスキアに影を操ると言う力があった様に、ボクにもキミ達人間には無い特別な力がある。モノクロ世界とこの世界――色彩の世界を行き来する事くらいならボクにも出来るよ」
「本当?」

 「だったら今すぐに」と声を上げた天馬に覆いかぶさるように霧野が静止の言葉を発する。
 窓際で腕を組み立っていた霧野は困ったように眉を下げると、不服そうに自身を見詰める天馬に向かい言葉を続けた。

「敵の領域に乗り込むんだ、焦る気持ちも分かるがまずは俺達の怪我を治す事が先決だろ」
「そーそー。それにさ、先輩達が抜けたせいでメンバーも足りないし」
「あ、そっか……」

 呆れるように放たれた狩屋の言葉に天馬は我に返る。
 三国達がいなくなった事でメンバーは天馬、フェイ、信助、剣城、狩屋、神童、霧野、錦そしてアステリの九人となった。
 モノクロ世界に行きクロトの野望を止めるとなれば、今回のようにサッカーで勝敗を決める機会があるかも知れない。
 そうなった場合、二人もメンバーが足りない状態で敵の懐に飛び込むのは自殺行為であると、天馬にも容易に理解が出来た。
 「まずはメンバー探しが先かぁ」と呟いた天馬。
 直後、何かを閃いたかのような表情でフェイが口を開く。

「それなら、ボクに良い考えがあるんだけど」
「良い考え?」
 
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