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色を無くしたこの世界で

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ハジマリ編
  第34話 再戦VSザ・デッド――圧倒的な力の差

「……な………………ッ」

 フェイの放った渾身のシュートはゴールへ向かい真っすぐに突き進むと、キーパーアグリィの手中に吸い込まれる様におさまり、その動きを停止させた。
 残る力を全て注ぎ放ったシュートを技も使わず……しかも片手だけで止められ、フェイは愕然とその光景を見詰める。

「なんだァ、今のシュート」

 シュートを止めたアグリィは、その魚の様な顔を不気味に歪ませると唖然とした表情で立ち尽くす雷門イレブンに向かい、言葉を吐く。

「……化身アームド状態の必殺シュートまで効かないなんて……ッ」

 雷門陣営から信助が愕然と声を漏らす。
 その瞳は揺れており、不安から、自然とキャプテンである天馬の方に視線を映してしまう程だ。
 苦痛に顔を歪ませ、荒く息をつくフェイは立っているのもやっとなのか、地面に膝を付き悔しそうに顔を上げる事しか出来ない。

「今のが全力…………なら。もう、終わらせるか」

 DFオスクロが静かに呟く。刹那、空気をつんざく発射音にも似た衝撃がザ・デッドゴールエリアから炸裂した。
 シュートを止められた……それはつまり、ザ・デッドの手中にボールが渡ってしまったと言う事。
 それはフィールドに立つ雷門イレブン達に、あの猛攻が再び開始されると言う事を意味していた。
 アグリィの蹴り込んだボールは弾丸の様に真っすぐに飛来すると、ゴール前で膝をつくフェイの横を掠め、背後の剣城と天馬を直撃し吹き飛ばした。

「天馬、剣城ッ!」
「ッ……来るぜよ!!」

 吹き飛ばされた二人の身を案じる神童は、叫ぶ錦の声に我に返る。
 目の前では天馬と剣城の体に衝突し、跳ね返ったボールを胸トラップしたスキアが立っていた。
 スキアは受け取ったボールを右足で軽く踏み付けると、身構える神童達にジロリと視線を移す。

「……もう、結構です。そう言うありきたりの反応は……」

 ボールを右足で弄びながら、抑揚の無い声で囁くスキア。
 自分達を見据える感情の無い冷たいその目に、神童は何とも言えない恐怖を感じ得た。
 途端、スキアの周囲が光り輝きだし、雷門イレブンはたまらず目を瞑る。
 黒い光は勢いよく弾けると、中から、燃えるような赤い瞳を持つ巨大な"黒色の獣"を出現させた。

「!?」

 突如現れたその黒い獣の姿に、雷門イレブンは目を丸くし驚く。

「何だよあれ……」
「黒い、犬……?」

 ベンチエリアで水鳥と葵が震える声で言葉を発する。
 獣は低い唸り声を上げると、真っ赤なその瞳に雷門イレブンを捕らえ、進撃を開始した。
 地面を踏みしめるたびに散る火花は燃え盛る炎へと変わると、進撃を阻止しようと動く雷門イレブンに襲い掛かり、軽々とその防壁を破壊、突破して行く。

「うわあああっ!!」

 何度目かの悲痛の叫びがメンバー達から発せられる。

『ソウル《ブラックドッグ》を発動したスキア選手!! 圧倒的な力で、雷門イレブンの防御を突破していきます!!』

 ボールを持った獣《ブラックドッグ》は、ゴール前までたどり着くと突如進行方向を変え、倒れる雷門イレブン目掛け再度進撃を開始した。
 まるでブレーキを失った暴走車の如く、雷門イレブンを容赦無く叩き伏せるスキア。
 ゴールを狙う事はせず、後半戦開始直後の様にただただ天馬達を痛めつける事を目的とした行為は、ピッチに立つ雷門イレブンがいなくなるまで続けられた。
 ピッチ上の選手達の苦しむ姿を見る事しか出来ない雷門ベンチの空気は重く、皆一様に苦しそうに顔をしかめ拳を強く握っていた。

 何も出来ない自分が悔しく、嫌になる。ベンチで痛む体をおさえながらその光景を見る三国達の心には、どす黒い自己嫌悪の様な物がぐるぐると巡り始めていた。

「あーあ……無様だなぁ……」

 ブラックドッグの爆走により立ちのぼった土煙が晴れていく様を見詰めながらマッドネスは呟く。
 フィールドに流れる不快な風に眉をひそめ、ソウルを解くスキア。その周りには全身傷だらけで倒れる雷門イレブンの姿があった。

『な…………なんて事でしょう!! スキア選手の発動したソウルに全く歯が立たない雷門! 倒れたまま動きません!! 大丈夫でしょうか!?』
「天馬ッ!」

 その場の光景に目を見張り驚愕するアルの言葉に、葵……それにゴールキーパーの信助も悲痛の声を上げた。
 右足でボールを踏み付けながら、スキアは退屈そうに伏せる視線をぐるりと一周すると、動かない雷門イレブンに向かい話し始めた。

「悲しいですね……こんな物なんですか。雷門のサッカーと言う物は……」

 問うスキアの言葉に、天馬は「違う」と否定の言葉を吐きたかった。
 だがダメージが大きすぎるのか、声をあげる事はおろか、息をするので精一杯な彼等は、見下すスキアに対し悔しそうに顔を歪める事しか出来ない。
 返ってくる事の無い答えを待つスキアに痺れを切らしたのか、マッドネスが声をかける。

「スキア、いつまでそうやってんだ。もう勝負はついた…………さっさと、終わらせようぜ」
「…………えぇ。そうですね――――全部、終わりにしましょう」

 瞬間、スキアの周りに黒い波紋の様なモノが発動する。
 波紋はフィールドに倒れる天馬達を初め、ベンチで待機する他の雷門メンバーの体を通り抜けると、影の世界全体に広がっていく。
 目視出来る程色濃く出たソレを目で追いながら、何が始まったのかと困惑する一同。
 すると突如、視界がガクンと激しく揺れ、巨大な重りがのしかかる様な圧迫感と目を開けている事すらままならない程の脱力感が天馬達を襲った。

――なんだ……これ…………ッ

 天馬はどうにか立ち上がろうと全身に力を入れる……が、体はびくとも動いてくれない。
 唯一動く目を動かし周りを見ると、近くで同じ様に倒れていた剣城や神童までもが同様に困惑の表情を顔に浮かべている事に気が付いた。
 そんな天馬をしり目にスキアは呟く。

「必殺タクティクス《影縫い》――――」 
 

 
後書き
《ソウル:ブラックドッグ》
スキアのソウル。
大きく黒い体と燃えるように赤い瞳を持った犬へと変身する。 
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