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色を無くしたこの世界で

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ハジマリ編
  第31話 再戦VSザ・デッド――不穏な空気

 試合再開のホイッスルが鳴り響くのと同時に、剣城は後続の天馬にバックパスを送りザ・デッド陣内へと攻め上がる。
 腰を落とし、ボール目掛け突進してくるグリードを視界に捉えると天馬は踵を返し、走りこんで来ていた神童へとパスを繰り出した。

「行くぞ! 神のタクト・ファイアイリュージョン!!」

 高々と声をあげる神童。まるで指揮者の如く動かされた腕から放出される赤い炎は、ボールの軌道を描く様に伸び、パスが繋がる最善のコースへと味方を導いていく。
 今までの壮絶な戦いから会得した《神のタクト》の強化版。《神のタクト・ファイアイリュージョン》の発動だ。
 神童の蹴り上げたボールは赤い炎と共に錦の元に渡ると、次々と選手の間を渡り、ザ・デッドイレブンを翻弄した。

『神童選手の代名詞《神のタクト》の進化版。《神のタクト・ファイアイリュージョン》の発動で、雷門、次から次へとパスが繋がって行きます!』
「アステリ!」

 霧野から繰り出されたパスを胸トラップするアステリの前に立ち塞がったのは、壁の様に巨大な体を持つDFズローだ。

「裏切り者が……ここは通さんッ!」

 荒々しく声を上げたズローは、両足にと力を込めるとまるで獰猛な野獣の様な凄まじい勢いで突き進み始める。

「雷門の皆が繋いだこのボールだけは…………絶対に、渡さないッ!」

 睨み付ける程真剣な目付きでアステリは叫ぶと、ボールと共に高く跳躍し、その体を巨大な翼を携えた白鳥へと変身させた。

「アステリもソウルを使えるのか!」

 純白の羽根を舞い散らせながら、ズローの頭上高く飛行するアステリを見詰め、神童が驚いた様に呟く。
 雷門ベンチでもアステリと言う、正体不明の少年の突然のソウル発動に、皆が驚きの声を上げていた。

「やるじゃねーか! あのアステリって奴!」

 ザ・デッドDF陣の頭上を飛行するアステリに向かい力強い声を上げた水鳥。その隣で、茜は忙しそうにカメラのシャッターを切りまくっている。

「アステリ、剣城にパスだ!」
「はいっ!」

 ソウルを解除したアステリは神童に指示されるがまま。ゴール前まで上がってきていた剣城へとパスを繰り出した。

「はあああああああッ!! 剣聖ランスロット!」

 ゴール前。アステリからのボールを受けた剣城は全身に力を込め、溢れんばかりの気を解放した。
 彼の全身から放たれたオーラが、剣を、盾を、鎧を結晶させていく。兄・優一への強い思いが築き上げた、鋼の騎士ランスロット。

「アームドッ!!」

 握り絞めた拳を突き上げ、吼える剣城の思いに呼応するかの様にランスロットは六つのオーラの塊へと分散し、発動者の体に鎧として纏いつく。

「決めるッ!」

 ゴールキーパー、アグリィの姿を見据えると剣城はボールを踵側に回し上空へと蹴りあげた。飛ばされたボールに追随して、自らも天高くへと跳躍する。
 赤色のマントをはためかせ宙を舞う剣城。そして、黒いエネルギーを纏った強力なシュートを蹴り落とした!

「デス……ドロップッ!!」

 化身の力が加わった強烈なシュートがザ・デッドゴールに襲い掛かる。
 以前より格段に威力の増した剣城の必殺技に、天馬達はそのシュートから目を離さずにいた。

『剣城選手の放った強烈なシュートがゴールキーパー、アグリィ選手に襲い掛かる!! チーム雷門、同点なるか!!』
「化身…………ならば……!」

 剣城のアームド姿を見ると、アグリィは魚の様に前方へと伸びた顔を歪ませ、全身から黒色のオーラを立ち昇らせる。
 オーラは一つの塊となり、中から赤色の胴体に四本の腕を生やした魚人の化身が姿を現した。

「猛蛇ヴァリトラ……ァ!!」

 アグリィの発動した化身、《猛蛇ヴァリトラ》は剣城の放った必殺シュートを視界に捉えると凄まじい勢いで回転する水の束を口から放出し、強力なエネルギーを纏ったシュート目掛けぶつけた。
 ボールは超高速で回転する水流に飲みこまれると、あっという間にそれまでの勢いを失い。アグリィの手中で停止してしまった。

「なっ……」
『あぁーと!! アグリィ選手、化身必殺技で剣城選手の強力シュートを見事にキャッチ!! 雷門、得点ならず!!』
「そんな……剣城の必殺シュートが、あんな簡単に……」

 ザ・デッドゴールキーパー、アグリィの力に天馬は唖然として呟いた。他の雷門イレブンも、自軍のエースである剣城の化身アームドからの必殺シュートをいとも簡単に止めたアグリィに対し、驚きを隠せずにいる。
 そんな彼等の顔をぐるりと見渡すと、アグリィは顔を歪ませて愉快そうに言葉を発した。

「いいねぇ、その顔。さては『自分達は強い』だなんて、思い違ってた口だな?」
「なんだと……ッ!」

 眉間にシワを寄せ、剣城が噛み締める様に呟く。煽る様に囁かされた言葉。それが雷門イレブンの感情を乱した。
 アグリィは睨み付ける雷門イレブンに向かい、不敵に顔を歪ませ笑うとフィールドに向けボールを高く蹴りあげた。

『さぁ、試合続行です! 前半時間も残り僅か。雷門、追いつけるのか!』

 グラウンドに響くアルの言葉を聞きながら、天馬は考えていた。

――前半戦は残り僅か……
――このままザ・デッドに先制されたままでは、ただでさえ不安で下がっているチームの士気がまた下がってしまう……

「なんとか一点……とり返さなくちゃ……!!」

 ボールはアグリィからオスクロ、シャッテン、チェーニと次々に繋がって行く。
 右サイドからドリブルで攻め上がるチェーニ。それを止めようと走り込む速水をチェーニは一瞥すると、突如、ボールを踵側に回しバックパスを放った。
 そのボールの先には同じくMFのシャッテンがまるで待ち構えていたかの様に、走り込んで来ていた。

「行くわよ、チェーニ」
「えぇ、シャッテン」

 互いにそう言葉を交わすと、シャッテンは持っていたボールを両足で踏み付け、三つの分身を生み出した。

「ジャッジスルー3!!」

 息を合わせ互いに声を上げた瞬間、チェーニは自身の元へと旋回してきた三つのボールを、速水目掛け力の限りシュートした!
 強烈なキックにより飛ばされたボールは速水のその細い体に激突し、無情にもその体を吹き飛ばしてしまった。

『あぁと!! 速水選手! 息の合った合体技に吹き飛ばされたぁーッ!』
「速水!」
「ッ……テメェ……!」

 地面に叩きつけられ、動けなくなった速水の元へ神童が慌てて駆け寄る。同じ様に声を上げた倉間は速水の様子を遠目から確認すると、怒りのこもった目でチェーニとシャッテンを睨み付けた。

「あら嫌だ、怖い顔しちゃって……」
「シュートもまともに決められないクセに……」
「ッんだと……!!」

 クスクスと顔に出さずとも分かる二人の嘲笑に、倉間はついに我慢出来なくなったのか声を荒げ、憤慨した様子でチェーニとシャッテンに向かい駆け出して行った。

「止めろ! 倉間!!」
「倉間先輩!」

 天馬や、速水の傍から倉間の言動を見ていた神童が叫ぶ。
 だが、頭に血が上ってしまった彼には何を言っても無駄であり、倉間は二人の言葉等聞かず、目の前の二人の異形に向け突き進む。

「……あーあ。カッカッしちゃって……」

 ボールを持ったシャッテンに向かい、チャージをかけようとした刹那、顔に風圧を感じ倉間は目を瞬かせた。
 視界に映る白と黒の球体の意味を理解する前に、ドシュッと言う何かが潰れる様な聞き苦しい音が響き、倉間の顔面に激痛が走った。
 あまりの痛みに倒れこむ倉間の視界に映ったのは、血のついたサッカーボール……。

『な……なんと言う事でしょう!! シャッテン選手、ボールを奪わんと攻めてきた倉間選手の顔面に向かい、強烈なシュートを放ったぁーッ!! 速水選手に続き倉間選手までもがその場に蹲り動けない状況ですが、大丈夫でしょうか!?』

 倒れた速水、そして倉間の元へ向かう雷門イレブンの様子を見ながら、アルは叫んだ。
 雷門ベンチからは浜野や信助、一乃や青山といった控えの選手がその光景を愕然と見詰めては、ザ・デッドの選手達に対しての強い憤りを覚えた。

 クスクスと異形の笑い声が響く中、ホイッスルが鳴り、前半戦が終了した。
 
 

 
後書き
ごめんよ、速水と倉間……。
別に君達の事が嫌いな訳じゃないんだ……こういうお話だから……。
本当、上記の二人のファンの方々にも申し訳ないです……。 
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