魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第一部
第50話 抗え、超えろ、助けろ。
『ステップ2。地下牢獄内ノ魔力ヲ全テ消去シマシタ。取リ残サレタ構成員ハ、ステップ3開始前二体内魔力デ転移シテください』
目を開けた其処は、見慣れた私の執務室だった。
「……え?」
私は部屋を飛び出し、階段を駆け下りる。
『ステップ3。地下牢獄内ノ生物ノ体内魔力ヲ全テ消去シマシタ。構成員ハ地下牢獄二近付カナイデクダサイ』
なんで、なんでなんでなんで。
私は転移魔法を発動していない。
なのに、なんで私は転移していたの?
『ステップ4。地下牢獄ト地上ヲ分離シマシタ。地下牢獄二近付カナイデクダサイ』
もし、レンさんが私の肩を触った時に何かをしたとしたら、考えられるのは一つ。
魔法の強制発動。
でもそれは世界の魔法師でも、まだ誰も成功させた事のない、“難題魔法”の一つ。
有り得ない。
『ステップ5。地下牢獄ハ崩壊シマシタ。繰リ返シマス。地下牢獄ハ崩壊シマシタ』
そのタイミングで一階に到着した。
間に合わない事は分かっていた。
だけど———
「———ぁぁぁぁあああああああああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎」
痛い、痛い痛い‼︎
なんでなんでなんで‼︎
みんな私の周りから居なくなる‼︎
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁあああああ‼︎‼︎」
なにがこんなに痛いの?
今までだって部下が死ぬ事なんて、いっぱいあったのに。
「なんでこんなに悲しいの⁉︎」
なんでなんでなんで‼︎
嫌だ嫌だ助けて助けて助けて‼︎
……でも、あの六人の方が、もっと痛いよね?
「———来い、絶刃」
刀で、床をくり抜き、地下牢獄へ降りる。
前の地下牢獄は崩壊し、そして此の世界と隔離されている為、また新しく出来た、綺麗な地下牢獄が広がっている。
「記憶を喰らえ、絶刃。理を断ち切れ。彼等の元へ繋げろ」
一閃。
視界が歪み、そして綺麗な地下牢獄から、瓦礫だらけの崩壊した地下牢獄に変わる。
地下牢獄に居る被験体の移動が全て終わるのが崩壊から一分。終わり次第、此の空間は完全に消える。
残り一分で全員助ける。
「誰かぁぁあああああ‼︎‼︎ 居るなら返事してくださぁあああああい‼︎」
勿論、返答は無い。
「生きてるなら反応してくださぁぁあああああい‼︎‼︎」
反応も無い。
もう此の空間では魔法は使えない。だから、体温を見つける事や、透視は不可能。
頼れるのは、自分の勘だけ。
絶刃を瓦礫に突き立て、半径三メートル以内、深さは最大までの瓦礫を最大限まで細かくして、粉の様にする。範囲内に人が居たら肉片や血が混ざっている筈だが、其れ等は見当たらない。此処には居なかった様だ。
「誰かぁぁあああああああ‼︎」
ガラッ。
右側の瓦礫から、小さく音がした。
出っ張っている部分に足を掛けて、音がした高さまで登る。そして絶刃を使いながら瓦礫を掻き分けて行くと、赤く染まっている瓦礫を見つける。
此の奥に居る。
瓦礫を退かして、見えてきた体を引っ張り出す。足が潰れていて、息が浅い。だが、体が見つかりさえすれば治療出来る。
残りの五人も、早く見つけないと。
瓦礫を粉々にして、只管叫ぶ。音が聞こえたら、その辺りを探す。
だが、六人見つかった時には、残り時間五秒。
「間に合え……ッ‼︎」
六人を抱えたり、引き摺り乍ら、絶刃でまた空間を断絶。何時もの空間に繋げて、直ぐに出る。
重すぎる荷物を何時もの空間に置いて、直ぐに空間の裂け目を繋ぐ。そうしないと、恐らくだが此の空間も消去されてしまう。
イチ。
ゼロ。
「……すみませんが……私、もう……限界……後で、治療しま、す……」
急に眠気が襲ってきて、絶刃を手放しながら、私は倒れた。
間に合ったぁ。
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