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ロックマンX~Vermilion Warrior~

作者:setuna
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第136話:Red

ウェントスの撃破によってシグマに仕える四天王が全滅したために、アクセル達はハンターベースでレッドアラートの動きかエイリア達がレッドアラートのアジトを発見するまで休息を取っていたが、突如通信音が鳴った。

『みんな、お待たせ。レッドアラートのアジトの場所が特定出来たわ。司令室に来て』

「エイリア……分かった」

短く返事をし、アクセルは回線を閉じる。

手にしていたバレットの調整を終え、安全装置がかかっていることを確認する。

「……行くか?…アクセル……」

四天王への変身の慣熟訓練を終えたばかりのルナがアクセルに問い掛ける。

「勿論。」

彼女には随分と世話になった。

彼女のおかげで前とは比較にならない力を手に入れることが出来たから。

新世代型のプロトタイプである2人は部屋を出て指令室に向かう。

アクセルとルナが司令室に入った時点で既にイレギュラーハンターの主要人物が勢揃いしていた。

「遅いぞ」

「ごめんごめん」

遅刻を軽く咎めるゼロにアクセルは苦笑して謝罪する。
それを見たエイリアが口を開いて説明する。

「ポイントRD18-66。そこがレッドアラートのアジトよ。…でもこれまで反応すらなかったのに急に見つかるなんて…まるで私達を誘っているみたいね」

自分の考えを率直に述べるエイリアに続き、シグナスも告げる。

「確かに何かあるかもしれないな。充分に気をつけてくれ…エックス、ゼロ、ルイン、ルナ。アクセルを頼んだぞ」

厳かなシグナスの声に、エックスは力強く頷くと共に向かう仲間達を見渡した。

「分かってるシグナス…さあ、みんな行こう。こんな争いは、早く終わらせてしまわなければ…」

「勿論だよエックス。特にシグマが黒幕である以上、確実にあいつは倒さないと」

「シグマか…あいつあれだけやられた癖にまだ復活するのかよ。ゴキブリの方がまだ潔いぜ」

呆れたように言うルナに隣にいたゼロは思わず同意してしまった。

「全くだな…ルインにシグマウィルスの大半をデリートされて更に不完全な状態の奴を全力で破壊したのにまた復活するとは……正直ゴキブリ以上の生命力だな」

「………ゴキブリと同列に扱われるなんて最強最悪のイレギュラーも堕ちたもんだね」

「そのままゴキブリ以下に成り下がっちまえばいいのにな」

「全くだよね、絶対にシグマは僕が仕留めてやる。ゴキブリ並みにしぶとくても絶対に」

「みんな、止めて」

「そうだ、いくら何でも酷すぎるぞ」

流石に聞き逃せなくなったのかエックスとアイリスが止め、それをルイン達は意外そうに見つめる。

「いくら害虫でも大昔から生きていたゴキブリとシグマを同列に扱うなんて失礼だわ」

「全くだ。いくら害虫とは言え大昔から地球に存在するゴキブリに失礼過ぎるぞ」

【………そっちか…】

もうエックス達からすればしつこすぎるシグマはゴキブリ以下の扱いのようだ。

そしてハンターベースから転送され、着いた先が本拠地に通じるハイウェイ、“パレスロード”。

大型機雷、高速移動メカニロイド、クラッシュローダーが進路を妨げて、序盤から激しい戦いとなる。

「容赦ないなあ、レッドは。」

「ああ、それより…」

「何だ?」

ルナの呟きにゼロが振り返る。

因みに前衛はゼロとルイン、中衛はルナとエックス、後衛がアクセルとなっている。

因みにここではエイリア達のナビゲートも受けることは出来ない。

理由は強いジャミングの影響で、通信機が使えなくなっているからだ。

だが、そんなことで任務を止めるような彼らではない。

「いや…アクセルが仲間になってから、全員で出撃したの初めてじゃね?」

「あ…言われてみればそうだね」

今までは2人1組となって戦っていたのだから、確かにこうやって全員揃って出撃するのは初めてだ。

「…そうだな、ルインも帰ってきてようやく全員が揃ったと言う感じがしたからな」

「まあ、アクセルが仲間になってルインが帰ってきたことで喧しくなるのは避けられないだろうがな」

「「何それ!どういう意味!?」」

ゼロの発言にアクセルとルインが噛み付いた。

「アクセル!!ルイン!!喧嘩は後回しだ!!後ろから敵だぜ!!」

ルナは咄嗟に機動力に優れたウェントスに変身し巨大メカニロイド、モルボーラからの攻撃を上方向へのエアダッシュでかわす。

エックスはグライド飛行、ゼロは空円舞、アクセルはホバー、ルインはHXアーマーのエアダッシュなどを駆使して攻撃をかわしながら前進する。

「あのメカニロイド…軍事用メカニロイドと比べても遜色はないね」

ルインはダブルセイバーを構えながらモルボーラを睨んだ。

「来るぞ!!」

モルボーラが凄まじい勢いで突っ込んでくる。

狙いはアクセルだが、エックスが間に入る。

「やらせない!!チャージショット!!」

エックスのチャージショットでモルボーラの突進速度を落とすことで回避が容易な速度となる。

「私もエックスに続けていくよ!!ダブルプラズマサイクロン!!」

「スプラッシュレーザー!!」

ダブルプラズマサイクロンでモルボーラの動きを止めながらダメージを与え、そこをチャージスプラッシュレーザーで追撃を仕掛ける。

「エックス!!」

HXアーマーからXアーマーに換装したルインはエックスに目配せし、彼女の意図を察したエックスはバスターを同時に構えた。

「ああ、やるぞ!!クロスチャージショット!!」

エックスのフルチャージショットとルインのダブルチャージショットが合体して1つの強大な一撃となってモルボーラに炸裂した。

「凄い……2人共、言葉さえ交わさないで互いのことを理解してる」

「そりゃあ、エックスもルインも一緒に戦うようになって長いからな。言葉なんて交わさなくても相手のやりたいことくらいは分かるようになるさ」

アクセルとルナが話しているうちにゼロもエックスとルインの攻撃に加わり、ゼロがエックス達の攻撃で動けないモルボーラに対してセイバーによる強烈な斬撃を浴びせる。

「波断撃!!」

セイバーを勢い良く振り下ろして強烈な衝撃波をモルボーラに叩き込んでモルボーラの巨体を幾らか後退させた。

「ボルトルネード!!」

「ゼロ!!」

「分かっている!!」

エックスが仕掛けたのと同時に距離を詰めてセイバーを振るうゼロとルイン。

最初のシグマの反乱の時からこの世界を守り続けてきた希望である彼等の背中はとても頼もしく感じるのと同時に遠く見えた。

まだまだ彼等とは大きな隔たりがある。

その壁を越え、彼等と肩を並べられる日はいつになるだろうか…?

「アクセル!!先に行くんだ!!」

モルボーラにエクスプロージョンを喰らわせながらエックスが叫んだ。

今度はエクスプロージョンの調整が完璧なのか反動で吹き飛んだり、よろめいたりはしなかった。

「で、でも…」

いくらエックス達でもモルボーラと無数のメカニロイドの軍勢を任せて進んでも良いのだろうかと躊躇う。

「ここは私達が食い止めるから早く!!ルナ、アクセルをお願いね!私達もこいつらを片付けたらすぐに向かうから!!」

「早く行け、お前はお前の決着をつけろ。どんな過去があろうと、どんな未来が待ち受けようとお前自身が乗り越えるんだ」

「行くんだアクセル。お前の信念に従って突き進むんだ!!」

ゼロとエックスの言葉にアクセルはハッとなり、ルナと目配せすると2人はハイウェイを駆け抜けた。

「(待っててね、レッド……絶対に僕が止めてあげるから…)」

この場から離脱して先に進んだアクセルとルナを見届けるとルインはモルボーラにエディットバスターのショットを連射しながら口を開いた。

「それにしても意外だね」

「何がだ?」

ルインの呟きにエックスは首を傾げる。

しかしゼロはルインの言いたいことが分かるのか、ルインの言葉の意味を説明した。

「ルナと一緒とはいえ、レッドアラートのリーダーの元にアクセルを先に行かせたことだ」

ゼロの言葉にエックスは思わず苦笑した。

「心外だな、俺だって信頼してるんだよ。アクセルのことは」

「ふふ…だろうね、アクセルは昔のエックスにそっくりだもん」

「ああ、無茶をするところは特にな」

「「それはゼロには言われたくない」」

見事に言い返されたゼロは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、エックス達にモルボーラが突っ込んできた。

「かわせ!!」

「ああ!!」

「エックス、ゼロ。一気に決めるよ!!」

突進をかわしながらルインが不敵な笑みを浮かべながらZXアーマーに戻すとZXセイバーの光刃を通常の数倍の大きさに巨大化させる。

それを見たゼロも心得たと言わんばかりに笑みを浮かべてセイバーの光刃を巨大化させた。

「これで終わりだ…!!」

こちらに迫ってくるモルボーラやその他のメカニロイド達にエックスはバスターのエネルギーを限界を超えてチャージする。

あまりのチャージ量に一時的にグライドアーマーに回すエネルギーが無くなったのか、アームパーツを除いた強化アーマーが消えてしまう。

「「「ファイナルストラーーーイクッッッ!!!!」」」

エックスの限界突破チャージショットと極限まで出力を高めたセイバーによるゼロとルインの連撃の前に、目の前のモルボーラとメカニロイドを軍勢は為す術なく殲滅された。

「他に敵はいないと…エックス、ゼロ。私も急ごう」

念のために索敵能力が高いPXアーマーに換装して辺り一帯を見回し、そしてグライドアーマーを纏った状態に戻ったエックスもゼロも周囲を見渡したが、ファイナルストライクによって全ての敵が殲滅されたようだ。

「ああ」

「出来るだけ急ぐぞ」

エックス達も先に進んだアクセル達と合流するために急いでハイウェイを駆け抜けていくのだった。

そして先に進んだアクセル達はクリムゾンパレスと呼ばれる宮殿に突入し、迫るメカニロイドやトラップを潜り抜けながら突き進む。

幸いトラップや敵の配置はレッドアラートの旧アジトに似ていたために攻略にはそう手間取らなかった。

そしてクリムゾンパレスの転送装置に乗り込むとある場所に転送された。

地の底には白い瘴気が漂って見えず、その場の不気味さを煽っている場所にレッドがおり、縦、横には3つの足場のみでそれ以外は奈落の底への入口。

「……どうした、遅かったな、待ちくたびれたぞ」

背を向けたまま、レッドは口を開いた。

足場の丁度対岸のような位置に、レッドとアクセルとルナは立っている。

「やあ、レッド。元気そうで何よりだよ」

アクセルは無邪気さと畏怖を感じさせる声で言いながらレッドを見つめ、レッドは鋭い眼光で巨大な鎌を携え、荒々しいオーラを纏っていた。

アクセルは気付いた。

以前よりもレッドの力が増していることに。

「“センセイ”のおかげでな。力が漲っているよ。…フッ、だけど、この有様だがな…」

レッドは天を仰ぐ。

仲間のため、心ならずもイレギュラーハンターと戦い、結果として多くの仲間を失ってしまった。

過去を思い出せば、あいつが全ての元凶であった。

「…なるほどね…“センセイ”か……今日は一緒じゃないんだね」

若干声を低くするアクセル。

センセイの正体を知ったからこそ奴の横槍に気を付けなければならないからだ。

アクセルは記憶がないことを除いてもこの世界の戦いの歴史をあまり知らないが、それでも奴のしぶとさや悪辣さは歴史を知らないアクセルでもエックス達の会話で察することが出来た。

「相変わらず、何処に居るのかは分からんな…。案外近くに居るんじゃないか?」

「そっか…じゃあ気をつけないとね…」

空気が、肌で感じられるほどピリピリと張り詰めていくのを感じ、レッドはアクセルに振り返った。

「…さて、長話してる場合じゃなかったな?そろそろ始めるとするか!!」

「そうだね…」

「アクセル」

「うん、ルナは下がってて…これは僕の戦いだから」

「分かった。勝てよ」

ルナは最初の足場に戻り、アクセルとレッドの戦士の誇りを懸けた戦いが始まる。

最初に仕掛けたのはアクセルだった。

「喰らえレイガン!!」

アクセルの特殊武器の中で最も貫通性能の高いレイガンの光線が放たれた。

攻撃範囲を極限まで絞って放たれた光線は凄まじい速度でレッドの肩のアーマーを貫く。

「ふん、ちっとはやるようになったな。今度はこちらから行くぜ!!」

レッドが鎌を振るおうとする。

アクセルがレッドアラートに所属していた頃から見ていたレッドが好んで扱う衝撃波を放つつもりだろう。

「そう易々と当たらないよレッド!!」

衝撃波を跳躍してかわすとアクセルは即座にホバーを使い、安全に次の足場へと移ると再びレイガンをレッドに向けたが、レッドの姿は既にない。

「いない…?」

「よくかわしたな」

「!?」

声に反応して振り返ると半透明のレッドがいた。

どうやら空間移動で姿を消すのと同時に作り出した半実体の分身のようだ。

本体にダメージを与えることは出来ず、こちらはしっかりと攻撃を喰らう。

分身は刃を振り回し、アクセルを斬りつけた。

「痛っ…!!」

思わず激痛に呻く。

急所でなかったのが幸いだが、長期戦になれば間違いなく影響する傷だった。

直ぐさま、変身能力の応用で自己修復し、それによって傷は何とか塞がるが受けたダメージは消えない。

「どうした?そんなもんじゃないんだろう?」

「っ…当たり前じゃない。僕の新しい力はこんなもんじゃないんだ。飛べ、ウィンドブーメラン!!」

レイガンからウィンドブーメランに持ち替えて風属性のブーメランが勢い良く発射されてレッドに直撃した。

ブーメランがレッドのボディに裂傷を刻み、彼の低い呻きが聞こえたが、レッドとて歴戦の戦士であり、すぐに持ち直して大鎌を大上段に構えて高速回転させることで斬撃の嵐を繰り出す。

アクセルはホバーで射程外へと逃れ、ガイアボムのバズーカを構えた。

超硬度岩石の弾ならレッドに着弾するまで弾の耐久力が保つと踏んだからだ。

「喰らえ!ガイアボム!!」

「チッ」

舌打ちしながら再び空間移動で回避するレッド。
即座に周囲に注意を向けるアクセル。

「(これがアクセル達の言葉なんだよな…)」

アクセルとレッドの戦いを見遣りながらルナは胸中で呟いた。

「(あいつらは戦いの中でしか互いの気持ちを伝えられないんだな。エックスなら力だけではいけないと言うかもしれねえ、でも力でないと伝えられないこともあるのもまた事実。全く不器用な連中共だよ……)」

アクセルはレッドの衝撃波をかわしながらエアダッシュでレッドとの距離を詰めた。

今度はバーストランチャーのバズーカを構えていた。

「(僕は迷わない。レッドを止める。それがレッドのために僕が出来ることだから!!)バーストランチャーーーーッッッ!!!」

アクセルの特殊武器の中で射程は短いが、単発の破壊力が最高のバーストランチャーのエネルギー波がレッドに炸裂した。

エネルギー波をまともに受けたレッドのボディが黒煙を上げる。

「くっ…調子に乗るなよ!!」

何とかエネルギー波の直撃に耐えきったレッドが勢いよく鎌をアクセルに振り下ろした。

間髪入れない攻撃ではあったがアクセルは辛うじてかわすことに成功した。

「ふっ…死神の鎌か…それでどれだけのイレギュラーを倒したんだっけ?」

「ふ…伊達に死神の二つ名は貰ってねえよ」

「だろうね。いつだってあんたは勝ち進んできた。」

戦いの中で、敵対しながらもアクセルとレッドは互いに認めていた。

互いを強く勇敢な戦士として。

「誰もあんたが負けたところなんて見たことないよね。これが始めてになるのかな?」

「ふん…」

彼は鼻を鳴らすと次の瞬間に紫の嵐を巻き起こした。

レッドが消えた瞬間、アクセルを竜巻が襲い、凄まじい風に煽られてアクセルの両足が宙に浮いた。

「うあっ…」

ブワッとアクセルが吹き飛ばされた先は底無しの穴であり、落ちたら死ぬ。

何とか石柱にアクセルは爪を立てて踏ん張る。

「アクセル!!」

「来ないで!!」

「っ!!」

駆け寄ろうとするルナを声高に止め、ホバーを使って勢い良く高く飛び上がる。

「負けるもんか……僕は負けない、レッド…あんたのためにも!!」

アクセルは最後の一撃を放つためにバーストランチャーを構えて突撃し、レッドもまた大鎌を構えて突撃した。

「やあああああ!!」

「うおおおおおお!!」

「アクセルーーーーッ!!!」

一閃---戦士の光が交錯し、そして…勝敗は決した。

膝をついているのはレッド、両足でしっかりと立ち、愛用のバレットを向けているのはアクセルであった。

レッドは致命傷はないようだが、動くことは出来そうにない。

そんな彼に銃口を向けるアクセルを、レッドは静かに隻眼で見据え、笑みを零した。

「…ハハッ……腕を上げたな……アクセル」

満足そうに呟いた時、モルボーラとメカニロイド軍勢を殲滅したエックス、ルイン、ゼロの3人が入って来た。

「遅くなってごめん…アクセル、大丈夫!?」

「大丈夫だよ。ルイン達はまだ来ないで!!」

「?」

「前に僕に教えてくれたよねレッド?残心を忘れるなってさ。」

その言葉にレッドは薄く笑った。

まだ幼く、今以上に戦士として未熟だった頃のアクセルに何度も言った言葉である。

未だにバレットを下ろさずに、油断なくレッドを見据えていたが、突如宮殿全体が揺れて、ガラガラと天井の破片が降り始めた。

「え?」

「な、何だ?」

突然のことにアクセル達が戸惑う中でレッドはゆっくりと言葉を紡いでいく。

「…あれが聞こえるだろう…ここは…長くは保たない……。俺に…万が一のことがあった時は……ここから下は……一緒に消えて…なくなるように……セットしておいたからな……」

途切れ途切れに言葉を紡ぐレッドにアクセルは達は目を見開くと、武器をしまってアクセルはレッドに手を差し出す。

ずっと、最初から銃を握ってきた小さな左手を。

「嫌だ!レッドも行こう!!」

駆け寄ろうとして、後ろに引かれる。

振り返れば、ルナがアクセルの右腕と左肩を強く掴んでいた。

「早く!まだ間に合う!!」

「駄目だアクセル、急がねえと俺達も瓦礫に埋まっちまうぞ!!」

「でも、でも…っ」

時間経過と共に落盤の響きと落下してくる破片の大きさを増していく。

正に絶体絶命だ。

「(また…誰かが死ぬ…)」

その光景にエックスが悲しみに顔を顰める中、アクセルは手を伸ばすのを止めなかった。

小さな手で大切なものを掴もうとしている。

「アクセル…ルナの言う通りだ。先に行って待ってる…」

振り返った横顔は死への恐怖はなく、とても穏やかなものであった。

死神と恐れられた闘気も殺気もなく、そこにあるのはアクセルへの深い優しさ。

「いつでも来な…慌てなくてもいい…」

「レッド…」

「ルナ…」

「………レッド…お前って奴は…本当の正真正銘の大馬鹿野郎だ…!!」

レッドの視線がルナに向けられる。

その表情はとても優しく、ルナはアクセルを捕まえながらも唇を噛み締めた。

「ふっ…大馬鹿野郎か…確かにな…ルナ…アクセルを…頼んだ…悪いな、最後の最後でお前に迷惑かけちまってよ」

穏やかな笑みを浮かべながらアクセル達とレッドの間を巨大な破片が隔てた。

もう限界なのを理解したルナはアクセルを無理矢理引っ張って脱出した。

「レッドオォォォォォォ!!!!」

アクセルの絶叫は天井に吸い込まれ、暗闇の中に消えていった。

何とか脱出に成功してアクセルを除いた者達は安堵の息を吐いたが、その後は静寂が訪れ、辺りは無惨な有様であった。

これから瓦礫を掘り起こしても多分、何も出ないだろう。

出るとしたらレッドを思わせる残骸だけで、膝を着くアクセルを悲しげに見つめるルインの肩に手を置き、エックスはゼロに視線を遣る。

視線を向けたゼロもまた、どこか迷っているような顔をしている。

間違いなくこの先に居るであろう…この戦いの元凶となった敵。

別に根拠はないが、長年の奴との戦いの経験と勘がそれを告げていた。

しかし、最も大切な存在を親のように慕っていたレッドを目の前で失った少年の心は、言葉では言い表せないほど深く傷付いているはずだ。

今の彼に、声をかけるということ自体憚られた。

「レッド…」

アクセルは悲しかった。

胸の奥から強い激情が胸を焦がす。

何故こんなことになってしまったのか?

何故死んでしまったのか?

いくつもの“何故”が浮かんでは消え、悲しみで胸が焼けるように熱いのに、声は出せず、叫びたいことが喉に突っ掛かっている。

泣けば楽になれるかもしれないが、しかし戦士のプライドがそれを許さない。

ゼロはゆっくりと口を開いてアクセルに声をかけた。

「アクセル…俺には慰めの言葉すら見つからん…だが、俺達はここで立ち止まるわけにはいかないんだ」

その言葉にルナは激昂してゼロに食いかかる。

「お前…っ、その言い方はないだろうがっ!!アクセルはレッドを…アクセルは目の前で育ての親だった人を失ったんだぞ!!」

次にルナは俯いているエックスとルインを向く。

「今こんな状況で何が出来る!?どう考えたって一時撤退だろうが!!」

「………」

「何とか言えよおい!!」

叫ぶルナにエックスが彼女の肩に手を置いた。

「…ルナ、大切な人を目の前で失うというのは身を斬られる程の苦しみだ…。それくらいは、俺にも分かるよ。」

何度も仲間や大切な人を失う経験をしたエックスの言葉の重さにルナは思わず閉口した。

「確かに今はアクセルを休ませてあげたい。レッドの残骸を回収して弔ってあげたい…でも、それで私達が満足しても意味がないんだよ。」

「レッドアラートのリーダーであるレッドが倒れた今、クリムゾンパレスの頂上に向かうことは容易いだろう。いわばこれは俺達に訪れたチャンスでもある。」

元凶は奴でもレッドアラートのリーダーであるレッドが指揮をしていたのは間違いない。

指揮系統を失ったレッドアラートの生き残り達は混乱しているはずだ。

「だ、だけどよ…」

「行こう」

「え…?」

アクセルの言葉にルナは振り返ると儚い、けれど吹っ切れたような表情を見せていた。

「センセイを…シグマをやっつけなくちゃ…」

「…でも、少し休憩しようか……」

「そう…だな」

気持ちの整理を少しつけさせてからシグマの元に向かうべきだと判断したエックス達。

3人は2人から少し離れた場所で休息を取り、瓦礫の近くにいるのはアクセルと、アクセルとレッドの戦いを最後まで見届けたルナだけだ。

「アクセル…本当にいいのか?せめて…せめてレッドの残骸の回収だけでも…」

「…いいんだ」

「アクセル…本当にいいのかよ…?レッドを…お前の大事な人を…お父さんをほったらかしにしていくんだぞ?」

「いいんだ…行かないと、“そんなことをしている暇があるならセンセイをさっさと倒して来い!!”ってレッドにどやされちゃうよ」

笑いながら言うと、アクセルはルナの身体が小刻みに震えていることに気づいた。

顔を見るとルナが大粒の涙を流して声を殺して泣いていた。

「何でルナが泣くのさ?」

「お前が…泣かないからだろ…!!」

そしてルナは勢いよく自分と大して体格差がないアクセルを抱き締めた。

「お前…馬鹿だ…エックス達もレッドも馬鹿だけど、お前も劣らず馬鹿だ…」

「………」

「分かったよアクセル…そういうことなら、俺も最後までお前に付き合ってやるよ…シグマの糞野郎なんか軽くぶっ潰してさ…」

ゆっくりとアクセルから体を離すとルナは優しい笑みを浮かべながら言うとアクセルも頷いた。

「うん、ありがと」

アクセルが立ち上がろうとした瞬間に瓦礫から微かに紅い光が見え、2人は瓦礫をどかすと、それを手に取る。

「これ…」

「レッドの…」

レッドのDNAデータ。

レプリロイドの精製情報…いや、レッドの心が詰まっているもの。

「…そっか、レッドも一緒に戦ってくれるんだね?レッドの心はいつも僕と一緒なんだ……」

「良かったなアクセル…」

自分のことのように喜んでくれるルナにアクセルも自然に笑みを浮かべた。

そして少し離れた場所で休息を取っていたルインは心配そうにアクセルの方を見つめていた。

「大丈夫かなアクセル……」

アクセルがそんなに弱いとは思ってはいない。

しかし、まだ十代前半の子供が育ての親の喪失に耐えられるかどうかは断じて否である。

「さあ、どうだろうな…」

「なんかエックス冷たいよ?」

不安そうにエックスを見遣るルインだが、エックスは苦笑を浮かべて彼女の疑問に答えた。

「彼ならきっと大丈夫だ。俺達に出来ることは彼を信じることだけだ。」

「そう…だ、ね…」

「みんな!!」

アクセルの声にエックス達が振り返る。

「アクセル?」

エックス達が振り返ったアクセルの顔は決意に満ちていた。

「もういいの?何ならもう少し休んでもいいんだよ?」

「大丈夫だよ、僕には…これがあるからさ」

案じるようなルインの言葉にアクセルはレッドのDNAデータを見せる。

「レッドのDNAデータか…」

ゼロがDNAデータを見つめて呟く。

「これ…近くの瓦礫にあったんだ。レッドがいた場所から位置的にあり得ないのにさ」

「レッドも僕に力を貸そうとしてくれてる。もう大丈夫だよ。」

そう言うとアクセルはレッドのDNAデータを解析し、インストールする。

「さあ、黒幕を倒しに行こうよ!!(今までありがとうレッド…僕は…これからも生き続けるよ。精々待ちくたびれててよね?)」

「さっさと片付けようぜ!!」

アクセルはレッドの魂と共にエックス達と最後の敵が待つ場所に向かうのであった。

立ち向かおう

彼が与えてくれたあらゆる愛と僅かな願いを握り締めて

僕は行くよ、こんな心渇ききった楽園(せかい)の中

“諦め”とか“最後(おわり)”に手を、伸ばしてしまったあなたの前に、せめて優しい光を見せて灯し続けてあげたいから 
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