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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第204話「苦戦の中の幸運」

 
前書き
とりあえず他四組の決着を。
長引かせるつもりはないので比較的あっさり終わらせます。
 

 








「ふっ……!」

「はぁっ!」

 優輝と緋雪が同時に仕掛ける。
 しかし、その力は減衰させられ、避けられた。

「ははっ!」

「「っ……!」」

 直後、何かに引っ張られるように、二人の体が飛ぶ。
 神界において、本来は壁や地面の概念がない。
 そのため、無意識に地面だと思っている場所に、地面の感触が出来る。
 裏を返せば、意識すれば壁などを出現させる事も出来る。

「ぐっ……!」

「あうっ!?」

 そして、その壁に二人は叩きつけられた。
 まるで重力操作のように、あっさりと体を飛ばされたのだ。

「うぅ……全然倒せない……!」

「………」

 攻撃が当たらない訳ではない。
 威力が減衰しても、当てる事は出来ていた。
 しかし、それだけで倒せはしない。
 敵が……カエノスが敗北を認めない限り、倒れはしない。

「ははは、無駄無駄。これで俺様を……神界の神を倒せると?」

 へらへらと、二人を嘲るようにカエノスは嗤う。

「ッ……!」

 歯嚙みする緋雪だが、その通りだった。
 このままでは、いつまで経っても倒せない。

「……なるほど」

 だが、こうも考えられた。
 このままでダメなら、変えればいいと。

「―――()()()()

 さも当然かのように、優輝はそう言って一歩踏み出す。
 そして……瞬時に転移魔法で肉薄した。

「へ……?」

「ふっ!」

 間の抜けた声を上げるカエノス。
 そこへ、優輝の容赦のない貫手が、目を潰す。

「はっ!」

 そのままもう片方の手による貫手が首を貫き、そのまま引き寄せる。
 膝蹴りが顎に決まり、カエノスの体が浮く。

「……!」

 転移し、踵落としを叩き込もうとして……倦怠感が襲った。

「無駄だ」

「がっ……!」

 だが、それがどうしたと言わんばかりにそのまま優輝は踵落としを叩き込む。

「この……!」

「遅い」

 創造魔法による剣がカエノスに殺到する。
 剣の勢いがカエノスの性質によって衰えるが、その内一本に優輝の蹴りが叩き込まれた。
 加速した剣はカエノスを貫き、吹き飛ばす。

「“青の性質”。大体理解した。青色をイメージするものを扱えるために、イメージカラーが青である倦怠感なども操れる。……確かに厄介だろう」

 一度間合いが離れたため、優輝が言葉を挟む。
 その様子を、緋雪は驚いたまま見ているしかなかった。

「だが、その性質はお前自身にも作用している。……何度も動きの出が鈍かったな?」

「っ……ひ、ひひ。見破られたか……だが、だからと言って……!」

「倒せる訳ではない、か?」

「なっ……!?」

 刹那、転移魔法で肉薄した優輝が、カエノスに拳を叩き込む。
 一撃一撃が早く、鋭くカエノスの急所を打ち抜いた。
 ……性質の効果で、倦怠感が優輝を襲っているのにも関わらず。

「その性質による倦怠感は、なんの前触れもなく、防ぐのは困難を極めるだろう。しかし、その後は別だ。……僕が“大した事ない”と断じれば、この程度話にならん」

「ッ………」

 要は、優輝は倦怠感を食らった上で、カエノスを打ちのめしているのだ。

「残念だったな?僕に感情があれば、ここまでとはいかなかったぞ?」

「かはっ!?」

 目や鼻、喉だけでなく、関節も打ち抜き、バランスを崩させる。
 よろめいた所をすかさず蹴り上げた。

「神界において、相手を倒すには“意志”を挫く必要がある。……覚悟しろよ?」

「お兄ちゃん、何を……?」

 それは、もはや暴力や蹂躙ではなく、解体だった。
 一撃一撃がカエノスの急所を捉え、容赦なく致命傷を与えていく。
 さらに、その攻撃一つ一つに打ちのめす“思念”が込められていた。
 アリシア達が放った一心閃と似たようなもので、確かにダメージを与えていた。

「(あー、私の出番終わったかも)」

 まさに残虐ファイトと言わんばかりの優輝の猛攻に、緋雪は悟る。
 感情消失による合理的判断と、敵の直接戦闘力が優輝より低い事実。
 その二つにより、もう自身が手を出す必要はないとわかってしまったのだ。

「ひ、は、この……!」

 カエノスもただやられているだけではない。
 神界であれば、多少手も足も出ない状態でも無理矢理反撃できる。
 ……しかし、それこそ優輝が狙っていた行動だった。

「っ、ぉ……?」

 反撃が逸らされ、掌底が頭を打ち抜いた。
 導王流はカウンターが主な技だ。普通に攻撃するよりも、そちらの方が威力が出る。

「ぉ、ぁっ!」

 カウンターを打たれてなお、カエノスは攻撃をやめない。
 どの道、攻撃の嵐から抜けるには、流れを一瞬でも止めなければならなかったからだ。
 ただの物理攻撃だけでなく、性質を利用した攻撃も行う。

「甘い」

 だが、悉くカウンターが決まった。
 普通の攻撃は逸らされ、より強い一撃が。
 水の刃は躱され、ほぼ同時に躱す体捌きを利用した蹴りが。
 重力操作は、体が飛ぶ際にカエノスの体に手足を引っ掛ける事で引き裂くような一撃が。
 力の減衰は動きに緩急が付く結果となり、知覚外からの一撃が返ってきた。

「運がなかったな。僕を相手にした事。それがお前の敗因だ」

「が……ぐ……!?」

 全ての反撃が、一連の流れのようにカウンターで返される。
 その一撃一撃にも“意志”を挫く“意志”が込められており、カエノスは満身創痍だ。
 そして、トドメの一撃が叩き込まれ、決着が付く。

「なるほどな。理解出来れば何てことはない」

「それ、お兄ちゃんだけだと思うよ」

 気絶したカエノスを見下ろし、優輝は確かめるように呟く。
 なお、緋雪の突っ込みにより、その呟きは否定された。

「一番早く終わったのは……皆がいる所か」

「神界についてある程度知っている人がいるからね」

 戦闘が終わったため、優輝達の視界にソレラ達が映る。
 分断している間は知覚すら出来なかったが、やはり神界。普通の法則ではない。

「……とこよさん達は大丈夫かな?」

「大丈夫だろう」

 ふと、まだ戦っている他のグループが心配になる緋雪。
 しかし、心配ないと優輝は即答した。

「緋雪も一緒に修行していたならわかるだろう?」

「……そうだね。心配、ないね」

 神界での戦いに備え、全員が鍛えられるだけ鍛えてきた。
 故に、信頼していた。皆は、勝ってくるだろうと。













「くっ……!」

 一番最初に膝をついたのは、鈴だった。
 いくら鍛え直したとはいえ、その強さは紫陽やとこよに遠く及ばない。
 そのため、分裂するキクリエの対処に追いつけなくなったのだ。

「鈴さん!」

「とこよ!後ろよ!」

「ッ!」

 一瞬、鈴の事を気に掛けたとこよの背後にキクリエの分身の一人が迫る。
 鈴が咄嗟に警告したため、振り返りざまにその分身を掌底で吹き飛ばす。

「(っ……やっぱり、人体破壊が出来ないのが苦しいわね……)」

 何度か分身されたため、分身に関するメカニズムや条件が少しばかり判明していた。
 主に切り裂かれたり、潰されたりなど、人体が別たれるような傷を負えば、そこから分身していた。……まるで、細胞分裂のように。
 そして、その事に三人共気づいていた。
 鈴は現代に生まれ変わって学校で学習しており、とこよや紫陽はそういった事に詳しい式姫から話を聞いていたため、その事に気づけたのだ。

「(埒が、明かない……!)」

 鈴はすぐさま立ち上がり、襲い来るキクリエ達を霊術で吹き飛ばす。
 幸いにも、ここは神界。疲労もその気になればなかった事に出来る。
 精神性が強いとこよ達であれば、疲労程度などすぐに無視出来た。

「(千日手。何か、打開策を……!)」

 だが、敵を打倒できないのも事実。
 そのために、攻撃を凌ぎつつ打開策を考えていた。

「とこよ」

 そして、その時は訪れた。
 紫陽が、満を持したかのように、とこよに声を掛ける。

「準備はいいかい?」

「……いつでも!」

 とこよも待っていたかのように答える。

「何を……」

「鈴さん、ちょっとだけ退けて!」

「っ、分かったわ!」

   ―――“霊撃”

 鈴のみ、何をするのかわかっていなかった。
 しかし、それでも何か策があると見て、とこよの指示通りに周りにいたキクリエの大群を霊力で吹き飛ばした。

「一体何を……」

 動きを変えてきた事に、キクリエも気づく。
 しかし、一手遅い。余裕を持っていたために、慢心していた。

「分身して殲滅しきれないなら」

「中心から侵していけばいい!」

   ―――呪刻“瘴紋印”

 鈴も見た事がない術式が、とこよと紫陽の体に刻まれる。
 似たような術式……刻剣であれば見た事はあった。
 だが、それは剣に刻む術式であり、瘴気ではなく呪属性でしかない。

「(まさか、瘴気を……!?)」

 鈴の予測は当たっていた。
 とこよは近くにいたキクリエの一体を一刀両断する。
 当然のように分裂するキクリエだが……

「っ、が……!?何を、した……!?」

「攻撃一つ一つじゃダメでも、分裂前の個体が蝕まれてたら分裂してもそのままでしょ?」

 瘴気に蝕まれた体で分裂しようと、瘴気はそのままだ。
 これ以上増えたとしても、それは変わらない。

「毒でもよかったんだけどねぇ。そっちだと体内を浄化してしまえば解除されてしまう。だったら、その魂、存在そのものを蝕む瘴気であれば……って算段さ」

「くそ……!」

 瘴気を纏った風の刃が、次々とキクリエの大群を切り刻む。
 その度に分裂しようとするが……分裂して二体に増えても、その二体とも瘴気に蝕まれており、完全に無意味だった。
 そのため、分裂は止まり、普通に再生させていた。

「毒にしなかった理由はもう一つ。……その分裂、所謂“細胞分裂”に近いよね?名前に込められた言霊も、細胞に関しているみたいだし……だったら、癌のように蝕む瘴気の方がいいって判断したんだよ」

「(なるほど……幽世の存在で、瘴気を扱えるからこその、策……!)」

 二人の考えに、鈴はただただ感心した。
 名前にも意味は込められており、それを言霊として二人は情報を読み取った。
 理力を感知できる今だからこそ、神界の神であろうとそれは可能であり、そこから細胞に関する事と細胞分裂を繋げ、瘴気を“癌”としてキクリエを蝕んだのだ。

「なぁああ……!?馬鹿な……!こんな、こんな……!?」

 そして、その策は二人が考える遥か上を行く程に、効果的だった。
 神界の神は概念そのものを形にしたようなもの。
 とこよ達の予想通り、細胞に関連するキクリエには、この上なく効いたのだ。

「予想以上に効いているねぇ。だが、トドメとまではいかないみたいだ」

「さすがに神だから、規格外だもんね。でも、“意志”を挫けばいいのなら……」

「あたし達ならそう難しくない。こいつの耐久力次第さね」

 既に全てのキクリエに瘴気は行き渡っていた。
 予想以上に効果的だったため、ここまで簡単に浸食できたのだ。
 他の神であれば、“意志”を以って瘴気を浄化されていただろう。

「鈴さん。もう瘴気で蝕んでいるから、浄化系じゃなければ攻撃しても大丈夫だよ」

「そう?じゃあ、私も攻撃に参戦させてもらうわ」

 鈴もトドメに参戦するため、霊力を再び刀に込める。

「さぁ……覚悟しな!」

 そして、敗北を刻み付けるための蹂躙が始まった。



「……私、途中いる意味あったかしら?」

「三人だからこそ余裕を持ってあの策を考えられたから、意味はあったよ」

「こればかりは相性の問題さね。そんな気にする事ないよ」

 時間にして十数分後、戦闘は終了した。
 分裂していたキクリエは消え去り、本体であろう一体が三人の足元で気絶していた。

「幸運だったよ。私達以外だと、もっと苦戦していたかもね」

「優輝や緋雪……後、司だったかい?三人の内誰かさえいれば、何とかなっただろう」

「帝って子も手段ならあったと思うよ?」

 優輝は創造魔法などから、緋雪は同じく幽世にいたため。
 司も祈祷顕現を応用して、帝も王の財宝から、対処できただろうと二人は言う。
 だが、結局の所この三人で当たれたのは幸運でしかなかった。
 いくら一体一体が弱かったとはいえ、際限なく増えるのは対処しにくい。
 今回のような手段でなかった場合、“意志”を挫くような一撃で、毎回分裂した個体全てを殲滅しなければならなかっただろう。

「初戦からこれほど……あの二人が危惧するだけあるわね」

〈神に作られたボクもさすがに想像以上だよ……〉

 とにかく能力が厄介で、倒すのに苦労する。
 それが初戦を経た鈴の感想だった。
 同意見なようで、神界謹製のマーリンも同意していた。

「他の皆も終わったかな?」

「どうでしょうね」

 “負けた”という想像はあまりしていない。
 それだけ、とこよ達も他の皆を信頼しているのだ。









「は、ぁっ!!」

 サーラ達の戦いは、苛烈を極めていた。
 瞬きをする間に、二人の攻撃と女神ルーフォスの攻撃がぶつかり合う。

「……!」

 ユーリが魔力弾を大量に展開し、ルーフォスへと差し向ける。
 嵐の如き弾幕だが、ルーフォスは悉く回避する。
 だが、それはユーリの狙い通りだ。目的は、サーラに対する行動を誘導する事にある。

「ふっ!」

「くっ……!」

 本来なら速さで圧倒できるはず。
 しかし、ルーフォスはサーラを押し切れずにいた。
 間違いなく、ユーリの弾幕が影響している。

「厄介ですね……」

「っ……!『ユーリ!』」

「『わかってます!』」

 故に、ルーフォスはユーリへと狙いを定める。
 馬鹿正直にサーラ(前衛)から倒す必要などないからだ。
 そして、ユーリもそれは予期していた。

「ッ……!」

「今や魄翼は変幻自在……!貴女の光を、闇で包みましょう……!」

   ―――“Dunkel Belagerung(ドゥンケル・ベラーゲルング)

 肉薄してきた所で、ユーリは自分ごとルーフォスを魄翼で包み込む。
 隙間なく魄翼が囲い、外から見れば一種の球体となる。
 その時点でルーフォスの攻撃がユーリに届くが、既に防御魔法で身を固めていた。

「判断を間違えましたね」

「ッ、この程度……!」

 いくら光の速さで動こうと、逃げ場がなければ意味がない。
 ユーリは自分自身を囮にし、逃げ場を塞いだのだ。

「サーラの言う通りでしたね。特殊且つ強力な能力があれば、その分戦闘技術が低い相手もいるだろう……と」

 戦闘中、サーラはルーフォスの様子を見てユーリに念話でそう伝えていた。
 その推測の通り、ルーフォスは然程戦闘技術が高くない。

「低い、という程ではありませんが、策には嵌ってくれました」

 包み込む魄翼が棘状となり、ルーフォスへと襲い掛かる。
 それだけじゃなく、内部で展開した魔力弾と砲撃魔法も殺到する。

「ぅぁああああっ!?」

「貴女が光の性質を持つというのなら、私の闇も弱点となりうるでしょう?」

 ユーリは制御できるようになったとはいえ、“砕け得ぬ闇”を持つ。
 対し、ルーフォスは“光の性質”を持つ。
 規模などが違うとはいえ、それらは対極に位置する。
 既に邪神イリスによって闇に堕とされているが、それは変わらない。
 故に、弱点足りうる。

「ッッ……!」

「くぅ……っ!」

 しかし、ルーフォスもただではやられない。
 防御魔法を貫き、光の刃がユーリを切り裂く。

「っ……サーラ!」

「―――はぁっ!」

 その時、サーラが魄翼の包囲内に現れる。
 転移魔法により、内側に飛んできたのだ。

「ッ……!?」

「逃げられませんよ!」

 振るわれるアロンダイトを、ルーフォスは間一髪避ける。
 しかし、魄翼の包囲の中では避けられる範囲がほとんどない。
 おまけに、完全包囲されているため、中は暗闇だ。
 ……“光の性質”を持つ、ルーフォス以外は。

「幸運ですね。貴女の性質が、私達にとって有利に働いている!」

「くっ……ならば、照らしてしまえば……!」

 暗闇の中で、性質の影響からルーフォスの体は淡く光る。
 そのためにどこにいるのか完全に分かってしまう。
 ルーフォスは咄嗟に、魄翼内を照らす事で暗闇を脱しようとするが……

「隙だらけです」

「はぁっ!」

 照らす動作。その僅かな隙をユーリとサーラが狙い撃ちする。
 速度の速い魔力弾が牽制し、サーラがアロンダイトを振るう。
 直後に威力の高い魔力弾で撃ち抜き、魄翼で貫いた。

「黒き翼よ、塗り潰せ……!」

   ―――“Schwarzer Flügel(シュバルツェア・フリューゲル)

 そして、魄翼が膨張する。
 サーラは転移で離脱し、空間そのものを塗り潰すように、ルーフォスを覆いつくす。

「っ、ぁ……!?」

 魄翼の包囲が炸裂すると同時に、ルーフォスは包囲の外へと弾き出される。
 ダメージは大きかった。散々闇属性に類する魄翼の攻撃を受け、最後は殲滅魔法を包囲された状態でまともに受けたからだ。

「ユーリ、今です!」

 吹き飛び、体勢を立て直す暇も与えない。
 サーラはルーフォスを受け止めるように先回りし、魔法を用いて縫い付ける。
 例え光を操ろうと決して逃げられないように、自分ごと極狭い範囲の結界で包み込み、羽交い絞めする事で拘束する。

「……沈む事なき黒き太陽、影落とす月。―――故に、決して砕かれぬ闇」

 詠唱が入る。
 それは、かつてのユーリとサーラにとって絶望の象徴。
 遥か昔の強き騎士達を全滅させ、サーラの命をも奪った闇。

「……絶望に堕ちよ、塗り潰せ……!」

   ―――“決して砕かれぬ闇(アンブレイカブル・ダーク)

 ユーリを“U-D”足らしめた絶望の魔法が、ルーフォスへと放たれた。

「まさか、自分ごと……!?」

「私がユーリの闇に呑まれるとでも……?倒れるのは、貴女だけですよ……!」

 逃げられないように拘束を続けるサーラ。
 “逃がさない”と言う想いが、枷となってルーフォスをその場に縛り付ける。
 よって、回避される事なく、サーラごとルーフォスは闇色の砲撃魔法に呑まれた。

「かふっ……」

「ッ……倒れましたか……やはり、相性が良かったようです」

「そのようですね」

 絶望を象徴する闇の一撃は、ただその属性のみで敵の意志を折る事が出来る。
 そのため、優輝達のように“意志”を込める必要がなかった。
 同時に、相性が良く弱点を突いていた事もあって、より効果的だった。

「光をも塗り潰す……わかっていましたが、実際洗脳された彼女を見ると、より規格外さが実感できますね」

「はい。……心のどこかで、何とかなるだろうと楽観視していたのかもしれません」

 二人は知らない事だが、ルーフォスは洗脳された時点で弱体化している。
 他の神界の神も洗脳されれば弱体化するが、ルーフォスの場合はそれが顕著だ。
 光が闇によって洗脳されていると言う事は、自身の力が抑制されているも同然。
 そのため、ユーリの攻撃であっさりと倒す事が出来たのだ。

「さて、対峙した時点で他の方と分断されましたが……」

「……どうやら、戦闘時の意識で切り替わるようですね」

 見渡せば、寸前まで見当たらなかった他のメンバーがいた。

「気の持ちようで疲労も消せますし……気は抜けませんね」

「はい」

 そのまま皆の下へと歩みを進めるサーラとユーリ。
 相性が良かったからこそ、こうもあっさり倒せた事を、胸に刻みながら……









「あぐっ……!?」

「くっ……!」

「ぐあっ!?」

 三人が次々と吹き飛ばされる。
 五つのグループの中で最も苦戦していたのは、司達の所だった。
 何せ、いくら強さを上げようとそれを上回ってくるのだ。
 苦戦しないはずがなかった。

「『くそっ、どうやって倒せばいいんだよ!』」

「『どんなに速く動いても、対処される……!』」

 スピードを上げれば、それ以上のスピードを。
 力押しをしようとすれば、それ以上の力で、司達を打ちのめす。
 どうあっても三人は劣勢のままだった。

「『……一つだけ、策があるよ』」

「『……何……?』」

「『司さん、それ、本当?』」

 だが、その戦いの中で司は活路を見出した。

「『奏ちゃんに続いて、私が転移で回り込んだ時に、ちょっとね……』」

「『御託はいい。……その策は?』」

「『二人に任せる事になるけど―――』」

 念話で司は二人に策を伝える。
 その間、ジャントは腕組みしたまま悠然と構えていた。
 理力を用いれば、念話に干渉も出来るが、それもしていなかった。
 “格上の性質”による傲慢さから、完全に余裕を持っているのだ。
 ……だからこそ、格上は格下に負ける事があると、わかっているはずなのに。



「じゃあ、任せるよ」

「ああ」

「ええ」

 説明が終わり、帝と奏の前に司が一歩踏み出す。
 気を落ち着け、祈祷顕現によって転移魔法をストックする。
 そして、二歩目を踏み出すと同時に……

「ッ……!」

 ジャントの背後に転移する。
 直後、二度目の転移が発動。連続転移により、僅かにでもジャントの反応を上回る。

「無駄だ!」
 
 だが、ジャントはさらにそれを“上回って”くる。
 先程までの攻防と同じように、司のスピードを上回る反応をしようとして……

「―――ぁ……?」

 “がくん”と、ジャントは力が抜けた感覚を覚えた。

「ふっ……!」

   ―――“Delay(ディレイ)-Orchestra(オーケストラ)-”

 気づけば、ジャントは死角に回り込まれた奏に首を刎ねられていた。
 だが、その速さをジャントは知覚出来ない。

「(上手く行った……!)」

 首を刎ね、さらに連撃を叩き込む奏はそう思考する。
 彼女の連撃の反対側からは、帝の投影魔術による剣の攻撃が突き刺さる。

「(身体能力は一般人以下にまで落とし、それを“上回らせる”!……そうすりゃ、いくらあいつが相手の強さを上回るチートだとしても、()()()()()()()!)」

 司が伝えた策はこうだった。
 まず、司が前に出て、身体能力を祈祷顕現で一般人以下にしておく。
 そして、転移魔法で高速移動を演出し、その動きを“上回らせる”。
 すると、司の身体能力を“上回った”所で、ジャントは一般人に毛が生えた程度の身体能力しか発揮できなくなる。
 そこへ、帝と奏によってジャントにとって知覚出来ないスピードで攻撃を叩き込む。
 “格上の性質”を逆手に取った作戦だ。
 デメリットとして、司も戦力外になってしまう所があるが……そこまで問題じゃない。

「っ……!」

 ジャントより先に、司が二人の動きを知覚できるようになる。
 シュラインが事前に作戦成功すれば身体強化を施すようにしておいたのだ。

「思考は!」

「させないぜ!」

 さすがに、斬られ続けている事は知覚出来てしまう。
 そのため、能力を使われる前に帝と司で先手を打つ。

   ―――“pensée éteindre(パンセ・エタンドル)

「こいつだ!」

 シュラインの穂先と、帝が放った宝具がジャントに叩き込まれる。
 その瞬間、ジャントが今自分が何を考えていたのか分からなくなる。
 司と帝が放ったのは、思考をリセットする魔法と宝具だ。
 それにより、ジャントに自身の“性質”を使わせる暇を与えない。

「てめぇの……負けだ!」

「はぁあああっ!!」

 一般人程度の身体能力しかないジャントでは、音速以上で動ける司達に敵うはずもなく。
 ただただ嬲られ、その中に込められた打ち負かす思念によって、敗北した。







「か、勝てた……!」

「やっとか……!」

 ぐったりと倒れ、気絶したジャントを見て、ようやく三人は勝利を確信する。

「運が良かったよ……もし、私の策がはまらなかったら……」

「こいつの能力がチート過ぎるぞ……。まぁ、転生者の俺達だってチート能力があるんだし、転生させられる神がそれ以上でもおかしくはないけどよ……」

「機転を利かせなかったら、危なかった……」

 疲れたように、三人は溜息を吐く。
 実際には疲労は気の持ちようでいつでも回復出来る。
 すぐに気を取り直し、三人も皆との合流を果たすのだった。























   ―――神界での戦いは、まだ始まったばかりだ。















 
 

 
後書き
重力操作…Undertaleより。ソウルが青くなるため、青繋がりで使える。しかし、Sansのように連続で使えたりしない。

瘴紋印…瘴気を攻撃に纏わせる。瘴気に慣れ、扱えるようになっていないと使えない呪法。瘴気を纏った攻撃を食らうと、浸食するように体を蝕む。

Dunkel Belagerung(ドゥンケル・ベラーゲルング)…“闇”と“包囲攻撃”のドイツ語。文字通り、魄翼によって包み込むように攻撃する。魄翼は棘状に変形している。

Schwarzer Flügel(シュバルツェア・フリューゲル)…黒き翼。魄翼を広げ、塗り潰すように敵を覆いつくす。殲滅魔法の部類に入り、かなり威力もある。

pensée éteindre(パンセ・エタンドル)…“思考”、“消去”のフランス語。所謂猫騙し的な魔法で、思考を一旦リセットさせる。直接的な攻撃力は微々たるもの。


司の魔法と一緒に放たれた宝具は、名前がありません。効果は司の魔法と同じ感じです。多分、王の財宝の中にはそんな効果の宝具の一つや二つ、あるんじゃないかな? 
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