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人徳?いいえモフ徳です。

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四十七匹目

「お婆様、家畜の餌用の乾燥トウモロコシが欲しいです」

「何に使うんじゃ?」

「乾燥トウモロコシを加工したお菓子を作ります」

「ふむ……よかろ。清潔なものを用意させよう。暫く待て」

「あ、皮の分厚い種類でお願いします」

というのが去年の秋ごろの話。

正直僕もお婆様も忘れていた。

が、シュリッセルが支援している商人はきちんとモノを揃えて来てくれた。

今はもう4月も後半。

学校にはそれなりに慣れてきた頃だ。

帰宅するとお婆様にパントリーに案内され、木箱の中身を見せられた。

今日届いたらしい。

「ふーむ…本当にこんな物で菓子なんぞ作れるのか?」

一辺一メートルの木箱にギッチリ詰まった乾燥トウモロコシの種。

ちゃんと芯から外されている。

一辺一メートルなので一立方メートル、かなり重い。

で、僕の一言でこんなに大量のトウモロコシの実が届くのは、安いからだ。

この分量でしか取引されない。

何故かと言えば、トウモロコシは基本的に飼料用だからだ。

箱から一粒取り出す。

「お、ちゃんと爆裂種だ」

「爆裂…? 物騒じゃのう」

「僕の時代ではかなりポピュラーなお菓子の材料なんですよ」

「ふーん……それは皇紀何年の事じゃ?」

「皇紀? すいません…その数えは習ってないんです。
お婆様がこっちに来たのがえーと……江戸の終わりごろでしたよね?」

「うむ。殺生石の封印を破る時にちと力を込めすぎての」

「えーと…お婆様が転移してからだいたい…………150年くらいあとですね」

「さよけ。まぁ、よいわ。取り敢えず作ってみせよ」

「はい」

アイテムボックスから瓶と漏斗を取り出して種を詰める。

「最初はこれだけあればいいでしょう」

その瓶を持って厨房へ。

「おやタマモ様、シラヌイ様、どうされましたか?」

「あれ? 今日はこっちなんだねエリザ」

厨房にはコックを兼任するメイドが五人とエリザが居た。

「はい。今日は色々面倒……失礼、手間のかかる食材がありますので」

「そうなの?」

「あー、面倒かけるなエリザ」

「いえいえ」

お婆様が例の商人に何か頼んでたのだろうか?

「今日はどのようなご用で?」

「シラヌイが菓子を作りたいそうじゃ」

「深めの鍋と蓋、あと油ちょうだい」

「畏まりました」

エリザが鍋を魔力コンロにセットした。

それなりに大きい鍋だ。

「私がやります、ご指示を」

「いいよ、僕がやる」

「いえ…危ないので…」

「よいよい、やらせてみよ。それに危ないと言うのなら魔法の練習の方がよっぽどじゃ」

「ですがシラヌイ様の身長では……」

「大丈夫」

踏み台を出す。

空の木箱だ。

そこに乗る。

「油」

「えーと……」

「その瓶のままでいいよ」

エリザが持ってるのはビール瓶くらいの物だ。

中身は油。

それを受け取って鍋の底一面に垂らす。

「こんな物かな…」

エリザに油の瓶を返す。

で、アイテムボックスから種の瓶を出して、中身をザラザラと鍋の中へ。

「シラヌイ様。それは家畜の餌では…?」

「普通そう思うよねー。これ考えたメキシコ人頭どうかしてるよ」

まぁトウモロコシが家畜の飼料なのは主にヨーロッパだったけどね。

「めき…?」

鍋の底一面にばらまく。

油の量もちょうどいい。

蓋をして、魔力コンロを着火する。

「あとは待つだけだよー」

「えーと……シラヌイ様?」

「なに?」

「魔法の実験ですか?」

「いや、お菓子だよ。ポップコーンっていうの」

「ポップコーン……ですか?」

「皮の分厚いトウモロコシを熱したら爆発するんだけど、それを使ったお菓子」

「はぁ…、お菓子……ですか」

エリザはまったく信じてないな。

「ふっふっふ……ジャンクフードの定番だよー。売り出せばバカ売れ間違いなしさ。材料費も安いしね」

この世界にポップコーンがないのは調査済みだ。

と、話している合間に鍋から音がし始めた。

「お、鳴ってる鳴ってる。成功だね」

ポンポン音がしなくなった所で蓋を開けると、白い見慣れた物。

「どうだいこの食欲をそそる香ばしい匂い!」

エリザが持ってきたボウルにお玉で掬ってうつす。

結構な量だ。ボウル約二杯分。

「これに塩をかければ完成だよ」

メイドに塩を持ってこさせ、ポップコーンに振る。

「ん」

お婆様とエリザに差し出す。

二人がサクサクとポップコーンを食べる。

「ふむ。面白い食感じゃのう。この香りもクセになる」

「かける物で味を変えられそうですね」

「鋭いねエリザ。ポップコーンは元の味がほとんど無いからいくらでも味をつけられるんだ。
甘い、辛い、しょっぱい、なんでもね」

「しかし喉が渇きそうな食べ物じゃな」

「果実水とかビールとか合うよ」

アイテムボックスから果実水の濃縮液を出す。

「そこの! これ人数分五倍に薄めて!」

メイドを呼びつけて果実水の瓶を渡す。

「いいのですか?」

「君らも気になるでしょ?」

そのメイドは八個のコップに果実水を入れて、水魔法で薄めて持ってきた。

「えっと…」

「食べていーよ。っていうか食べろ」

遠慮してる風だったメイド達にポップコーンを食べさせる。

サクサクサクサクサクサクサクサク……。

「ふむ…果実水と別で売り出せば…」

「そうそう、そう言うこと」

「これトウモロコシなら原材料費はタダも同然ですよ」

「そういえばお婆様、あの木箱いっぱいで幾らしたの?」

「そうじゃのー……だいたい700フルくらいかのー」

日本円換算で7000円? あれだけあって?

たぶん小分けしたらあの木箱でかなりの数に……。

「でものー。これを商売にした所でのー…」

「そうかな? 僕は成功すると思うよ?」

「成功はするじゃろうな。じゃがシュリッセルはそういった方面をやっておらん故、売る人手がないんじゃよ。
シュリッセルの名前があるゆえの弊害というか…」

「それなりの人間を雇う必要があるということですねお婆様」

「うむ…」

「んー…。ではタマモ様、このポップコーンは当面身内で楽しむ訳ですね?」

「なんじゃ。エリザお主気に入ったのか?」

「ええ、はい」

取り敢えず身内にファンげっと。

「ま、よかろ。追加発注はしておこう」

お婆様は果実水を煽って出ていく。

「エリザ、パントリーにあるのはシラヌイの持ち物じゃからなー」

と言って出ていった。

「エリザ、食べたかったら好きなだけ作っていいよ。ぼくだけじゃ食べきれないし」

「いいのですか?」

「エリザも見た通り、ポップコーンは膨らむんだ。
パントリーの木箱の種全部をポップコーンにしたらパントリーが埋まるくらいの量にはなるよ」

「な、なるほど」

「だから好きにしていいよ。作ったら少し僕の所に持ってきてくれればいいから」

僕も果実水を飲んで部屋にもど…。

「あ、いい忘れてたけどさ。いくら食感が軽いからって食べ過ぎたら太るから気をつけてね?」









その日の晩酌。

サクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサク……。

なんか喋りなよ。

「貴方、食べ過ぎじゃない?」

お父様がポップコーンを食べてはビールを飲んでのエンドレス。

「お父様、食べ過ぎたら喉渇くよ?」

「う、うむ、そうだな。ところでシラヌイ。これの原材料は?」

「トウモロコシ。家畜の餌」

「え……」

お父様の手からポップコーンが落ちる。

まぁ、あとでティアが処理……ああ…もうやってるね。

ん? あれ? ティア後ろに…。

あ、分裂しても遠隔操作できるのね。

「………………………」

「どうしたのお父様?」

「これ……姉上に送りつけてからネタバラシしたらどうなるかな」

お父様がボソリと呟いた。

「やめい。下らんことで戦争にする気かたわけ者」

姉上? お父様の姉上って僕の叔母さん?

ん?お父様ってエイルヴァイオンの……。

いや、考えるのはよそう。

「これ……家畜の餌かぁ……」

「売ればかなりの儲け出ますよね?」

「貴族が買ったら怒るぞ?」

「庶民にしか売り出すつもりはありませんし、言い訳は考えてますよ」

考えてない訳がない。

貴族っていうのは面倒だからな。

「『例え家畜と同じものを食べようとも味わえるように手を加える。これこそが我々知性ある者の特権である。
それこそが、我々と家畜との差なのである』。
それでも嫌ならば食べなければ良いのです」

ガバガバだけどね。

「この匂いを目の前にしてそれを言われれば、まぁ、黙るだろうな」

「そも食物とは巡るもの。それが家畜を巡ろうと、我々を巡ろうと、全ては土へ還るのです。
その巡りを妨げる事は、女神サークリオンへの反抗です」

サークリオンを信奉するこの国でならば、通用しよう。

「まぁ、どのみち売り出す事は無いでしょうけど」





あーあ、どっかに人件費安くて勤勉に働いてくれる奴いねーかなー。

まぁ、そんな奴居るわけないけどな。 
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