ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第128話:Ruin Reverse
何もない空間で女神は眉間に皺を寄せて唸っていた。
ライト博士は新たなアルティメットアーマーの研究、ワイリーに至ってはテレビを観ながら煎餅を囓っていた。
「うーむ、このままでは不味いね。このままではルイン・シャドウの暴走で滅茶苦茶にされちゃうよ」
『そうですな』
『…む、この煎餅…中々いけるのう。おい、メットール、羊羮持ってこい』
「メット!!」
『あ、すまん。わしの分の茶と羊羮も頼む』
「メット!メット!!」
メットールにお茶菓子とお茶を要求するライト博士とワイリーに女神のこめかみに青筋が浮かぶ。
「…………君達さ、私がこんなに悩んでるのに何呑気にお茶して羊羮食べてるの!!?しかもその羊羮は私の楽しみにしていた長い時間並んでゲットした神娯楽町(かみごらくちょう)の芋羊羮ーーーっ!!!」
ライト博士とワイリーが食べている羊羮は期間限定の芋羊羮でそれを見た女神は泣き崩れた。
『ふん、わしは自由を奪われて退屈なんじゃ。女神の癖に芋羊羮如きでごちゃごちゃ抜かすでないわ駄女神めが』
『女神殿、神様たる者、物欲を抑えることも大切ではありませんかな?』
「芋羊羮バクバク食いながら言われても何も響かないっつーの!!と言うか、そろそろルインちゃん復活させないとね…」
ツッコむ気力も失せた女神はルインの元に向かう。
残されたライト博士とワイリーは…。
『ふん、消えたか…おい、メットール。駄女神が棚に隠していた豆大福も持ってこい』
『わしは饅頭を貰えるかな?確か女神殿が壺に隠していたはずじゃ』
『『後、茶のお代わりを』』
「メット!!メット!!」
メットールに指示を出して女神の楽しみを尽く食い潰しており、今は亡きナンバーズが見たら嘆くこと確実の姿である。
一方で灼熱の溶岩が渦巻いているコンビナートで、ルナは走っていた。
「それにしても暑いな~おい、まあ…コンビナートだから仕方ないんだけどな」
メットールをショットで撃ち抜きながらルナがぼやいた。
アクセルもエックスもゼロもダメージが残っていたので、まともに動けるルナがコンビナートに単独で向かうことになったのである。
「なあ、アクセル。ここのボスについて何か知らないか?」
司令室に残してきたアクセルに通信を繋いで、このコンビナートを占拠したボスの情報を尋ねる。
『えっと…多分ハイエナードだと思う。炎の攻撃が得意だからコンビナートみたいな場所はハイエナードの能力を存分に活かせるからね、後、ハイエナードは分身も使えるんだ』
「分身?」
『うん…。本物と全く同じ戦闘能力を持っていて、全然見分けがつかないんだ。おまけに自分の分身だからコンビネーションが抜群で少しでも気を抜いたら炎や体当たりでリンチにされるよ』
「…何か、本物と分身を区別する方法はねえのかよ?」
ハイエナードの能力を聞かされたルナは頭を抱えそうになるが、何とか耐えてアクセルに本物と分身の区別する方法はないのかと尋ねる。
そして尋ねられたアクセルは首を捻る。
『本体が大きなダメージを受けたら、分身もほんの少しだけ動きが止まるけど……区別はちょっと…』
「そっか…」
取り敢えず、目の前のメカニロイドの排除に集中することにした。
一方、コンビナートの最奥で肉食獣のハイエナを模した1体のレプリロイドが喘いでいる。
「ウゥ…ウゥ……くっ、苦しい……」
苦しんで喘いでいる彼こそがルナとアクセルが話していたハイエナードなのだ。
しかしその姿はとてもではないが、アクセルの言うような実力者には見えない。
そこに、1つの影が近付き、物音に気付いたハイエナードが振り返る。
目は麻薬中毒者のように血走り、呼吸には気管が詰まったような音が聞こえたが、しかしハイエナードが纏うオーラは得体が知れず不気味である。
「蒼…紅…エックス…ゼロ…ドコダ…」
しかし、ハイエナードと相対するルイン・シャドウはそのハイエナードを遥かに凌駕する得体の知れない存在であった。
もしハイエナードが正常の状態ならばルイン・シャドウの異常さに気付いただろう。
純粋な殺意・純粋な破壊衝動のみで動いている怪物の恐ろしさに。
しかし、レッドアラートのメンバーの中で最もDNAデータによる強化の副作用が深刻なハイエナードは気付くことが出来ず、それが彼の運命を決定付けた。
「お前…」
血走った目でルイン・シャドウを睨むハイエナードに対してルイン・シャドウは凶悪な笑みを浮かべる。
「……お前か?お前が俺を苦しめているのか?…分かったぞ!お前を八つ裂きにすれば苦しくなくなるっ!そうだ!そうだろ!?そうに違いない!!」
イレギュラーというのはそもそも思考回路やプログラムなどに異常をきたした者達のことだ。
そうでなくとも、人間に害を為す者は基本的にイレギュラーとみなされるが、今のハイエナードは前者なのは言うまでもないだろう。
まともに思考することも出来ずに紛い物の力のために人格すら狂わされた本物の…哀れなイレギュラーだ。
圧倒的な力の差に気付くことも出来ずに無謀にもルイン・シャドウに分身と共に飛び掛かるハイエナードであった。
数十分後に、転送装置によって足を踏み入れたルナは目の前の阿鼻叫喚の光景に目を見開く。
「お、お前…!!」
「…………」
ルイン・シャドウの周りには見慣れないレプリロイドの無数の残骸が転がっている。
恐らくハイエナードの残骸かもしれないが、まさかここまで徹底的に破壊するとは。
「エックス…ゼロ…ドコニイル…?」
ルナを睨み据えるルイン・シャドウだが、ルナも鋭く睨み返して口を開いた。
「知らねえな。例え知っていてもてめえなんかに教えねえよ!!これ以上ルインの顔で悪さなんかさせねえぞ、ここで倒してやるぜ!!」
「フフフ…死ヌノハオ前ダ」
ルイン・シャドウはバスターショットとアルティメットセイバーを抜き、ルインが得意とする連続攻撃を繰り出す。
「っ!?」
「ダブルチャージウェーブ」
チャージショット2発とセイバーからの衝撃波の連続攻撃をルナはスライディングでかわしながらチャージを終えたバレットからリフレクトレーザーを発射した。
「ヌルイ」
セイバーでリフレクトレーザーを両断し、一気に跳躍すると回転斬りを繰り出す。
アークブレード…回転と同時に幾つもの衝撃波を放つ技だが、本物のルインが放つものよりも衝撃波の数が明らかに少ない。
しかしそれでも広範囲に広がる技なので厄介なのは変わらない。
「危ねえ…」
「逃ゲルナヨ」
かわそうとするが、それを見越していたルイン・シャドウが僅かな溜めを置いてチャージセイバーをルナを叩き込んで吹き飛ばす。
「がはっ……!?」
チャージセイバーをまともに受けたルナは勢い良く床に背中を打ち付ける。
「死ネ、ココマデダ」
倒れているルナにアースクラッシュを繰り出すルイン・シャドウ。
「や、やべえ…動けねえ…」
それはダメージでまともに動けないルナに直撃するかと思ったが。
「行っけーーー!!!」
真横から放たれたチャージショットの光弾がアースクラッシュの衝撃波を相殺して守るようにルナの前に立つ1つの影。
「オ前ハ…!!」
「人がいない間に随分と好き勝手してくれたもんだね偽者さん!!」
「ルイン!?お前、本物か!?」
目の前に立つルインは自身がよく知るZXアーマー姿のルインであり、振り返ったルインも懐かしそうに笑みを浮かべた。
「正真正銘、本物のルインだよ。それともルナには私があんな奴に見えるの?」
からかうように言うルインにルナは思わず吹き出してしまう。
「オ前ハ…オ前ハ何故ココニイル!?オ前達全員…消エロ!!」
セイバーを構えて突撃するRシャドウに対してルインもOXアーマーに換装するとセイバーで容易く受け止める。
「私の偽者にしては少し力任せな乱暴な戦い方だね。本物の戦い方を見せてあげるよ」
「黙レ!!滅閃光!!」
「アークブレード!!」
跳躍して滅閃光のエネルギー弾の隙間に入ると至近距離でのアークブレードを叩き込む。
「グッ!?」
「乱舞!!!」
氷属性の衝撃波による凍結で体の動きを封じられたルイン・シャドウはルインの連続攻撃をまともに受けてしまう。
「ウワアアアア!!!」
セイバーによる一撃一撃を受ける度にルイン・シャドウは大ダメージを負う。
どうやらアルティメットセイバーがルイン・シャドウの弱点のようだ。
何とか乱舞から逃れられたルイン・シャドウは拳にエネルギーを纏わせて床を殴り付けた。
「消エ去レ!!」
裂光覇を繰り出すが、対するルインもまた拳にエネルギーを纏わせて床を殴り付けた。
「裂光覇!!」
光の柱が同時に激突するが、ルイン・シャドウの光の柱が力負けし、そのまま直撃してしまう。
「グワアアアアアッ!!!」
光の柱に飲まれたルイン・シャドウは本物の力の前に呆気なく消滅した。
ルイン・シャドウを本物の力を以て粉砕した本物のルインの戦いを久しぶりに見たルナはゆっくりと立ち上がった。
「(あの戦い方…やっぱりルイン本人のようだな。俺が相手にならなかった奴をあっさりと…やっぱりルインは凄く強え)」
敵がいないことを確認したルインは元の姿に戻るとルナに歩み寄る。
「久しぶりだね、ルナ。元気そうで良かったよ」
「ルイン…生きていたんだな?」
「もう、だから私は正真正銘の本物のルインだよ。それともあんな偽者だと思うの?」
「いや、思わねえけど…それよりお前、今まで何処にいたんだよ!?みんな…みんな必死になってお前を捜してたんだぞ!?エックス達だけじゃねえ!!ハンターベースのみんなだ!あの空間のあった場所を捜して捜して捜しまくって…お前のデータ反応どころかパーツすらなかったから…」
それを言われたルインは申し訳なさそうに俯いた。
「ごめん、心配かけちゃって…正直、私もまさかここまで時間が掛かるとは思わなかったの…」
「………なあ、ルイン。ハンターベースに帰ってきてくれるんだよな?」
「うん……勿論だよ、私は…イレギュラーハンターだからね」
ルナとルインは共に転送でハンターベースに帰還した。
当然、ルインの帰還にはハンターベースのルインを知る者達が歓喜し、一部の男性ハンターが女性ハンターにぶっ飛ばされていたが気にしない方向で。
司令室にルインが少し居心地悪そうに入ってきた。
「…………」
中に入ろうとした時、エックスとルインは鉢合わせするが、エックスは無言で通り過ぎてしまった。
「……………」
悲しげにエックスの後ろ姿を見つめるルインだが、まずは司令室のメンバーに振り返る。
「お帰りなさいルイン。夢みたいだわ…またあなたと話せるなんて」
「みんなあなたのことを本当に心配していたのよ」
「うん…ごめんね。みんな、帰るの…こんなに遅くなっちゃって…」
数年と言う決して短くない時間を待たせてしまったことにルインは頭を下げて謝罪した。
「……前にも似たような状態になったことがあるからな。お前の目覚めが遅いことなど分かっている」
「取り敢えず、これだけは言わせて欲しい。お帰り」
ゼロとゲイトはルインにそう言うが、ダグラスは傷一つないルインのボディを見る。
「しっかし、全然無傷だよな。エックス達から聞いた話でもう死んじまったんじゃないかと思ってたんだぜ?お前って確か人間素体型レプリロイドだからパーツも特別製だろ?誰かに修理してもらったのか?」
「へ?あ、いや…その…あれだよ。自己修復機能が働いたんだよ。私は人間素体型レプリロイドだから回復が早い…多分それだようん…」
「うーん、お前の自己修復が他より早いのは知ってるけどここまで完璧になあ」
「それは……」
困ったような表情を浮かべるルインは本当に自分が無傷の理由がさっぱり分からないのだ。
気付いていたらコンビナートの近くで倒れていてライト博士から事情を聞いて自分の偽者と戦ったのだから。
「あ、あのさ…詳しいことは分かんないけど困ってるじゃん。本人も分からないんだし無理に聞くのも可哀想…じゃない…かなあ?」
ルイン本人にも分からないことを聞かれてもルインを困らせるだけだろうし、話が全く進まないことをアクセルが言うとダグラスは渋々と頷いた。
「ルイン、良く帰ってきてくれた。」
「総監………」
「ん?どうした?」
俯いて黙りこんでしまったルインにシグナスは疑問符を浮かばせる。
「あの時、独断行動を取ってしまったから…みんなや総監に怒られるのを覚悟してたんです。総監やみんなには、迷惑をかけちゃったから…」
「………同時にお前のおかげで救われたものも沢山ある…。それを知るからこそ、私はお前のあの行為を否定することは出来ない。」
「…………」
「それよりも私より謝らなければならない相手がいるだろう?」
「エックス………許してくれるんでしょうか…?」
「何を弱気になってんだよ。ユーラシアに特攻した時の気持ちでエックスのとこに行ってこい!!当たって砕けろだ!!」
「当たって砕けちゃ駄目なような気がするんだけど…」
ルナの発言にパレットはこめかみに汗を流しながら呟いた。
「行ってこいルイン。お前に誰よりも会いたがっていたのはあいつだ。多分、屋上にいるはずだ。」
「う、うん…」
ゼロに促されたルインはエックスがいる屋上に向かうと、ゼロの親友としての勘は見事に当たっており、エックスは屋上で佇んでいた。
「あ、あの…エックス………」
「………」
無言のエックスにルインは悲しげに微笑む。
やはり数年の時の別れは繋がりを失うのに充分な時間だったらしい。
「…ごめん、今更……だよね……あんな酷いことしたのに今更…帰ってきても私は…」
「……………違うんだ」
「…………え?」
俯いていたルインはエックスの言葉に顔を上げた。
「君と再会したら言いたいことは沢山あったんだ。“無事だったなら何で連絡してくれなかったんだ”って怒るか、“心配した”って悲しもうかって…でも、君が帰ってくると分かった時、頭が真っ白になって何て言えばいいのか分からなくなってしまったんだ。もしかしたら君を傷付けるようなことばかり言ってしまうんじゃないかと思って…逃げるようにここに来てしまったんだ。不安にさせたなら…ごめん」
「何だ…そうだったの…別にいいのに…私、エックスに愛想尽かされても仕方ないことをしたのに…私の方こそごめんなさい。こんな言葉で許されるなんて欠片も思ってないけど…」
苦笑しながら言うルイン。
正直、あの事件のことは下手したらエックスに愛想を尽かされても仕方がなかったかもしれないくらい酷いことをしたと思う。
「……君に愛想を尽かすなんて…そんなことあるわけないだろう?ずっと君が帰ってくるのを待っていたんだ。地球復興だってそう。君が帰ってきた時、君が胸を張って帰れるように…」
これが自分が救った地球なんだとルインに胸を張って笑って欲しかった。
その一心でエックスは戦って地球復興に尽力をしてきたのだから…今ではレッドアラートとの戦いがあるせいでこの様だが。
「そっか…」
「ルイン…君のおかげで地上のシグマウィルスの除去も容易になって、地上はここまで復興出来たんだ。」
「うん」
「もう、ハンターの部隊制も無くなったから隊長だとか副隊長だとか言う理由であの時のような無茶はさせないからな。君に…またもしものことが起きたら…俺が嫌なんだ」
「…………うん、分かった…ごめんなさい。心配ばかりかけて…もう、あんな無茶はしないよ」
「約束だぞ?もう一度あんなことをしたらケイン博士達の青汁ドリンクを毎日3回飲んでもらうからな」
それを聞いたルインの表情が青ざめる。
「ひいいいい!?それを飲むくらいならもう一度スペースコロニーに突っ込んだ方がマシだよ!!」
あの不味い青汁ドリンクを飲むくらいなら死んだ方がマシと同義の言葉を言いながらルインはエックスに歩み寄る。
「と、とにかく…ただいま…エックス」
「お帰り、ルイン」
その言葉を聞いたルインは数年ぶりにエックスの胸に飛び込んで、エックスもまた数年ぶりに彼女の細身を抱き締めた。
こうして久しぶりにイレギュラーハンターが誇る最強のハンターが全員集結したのであった。
[おがーざーん!!]
「ふみゅ!!?」
エックスと共に司令室に戻る途中にソニアが号泣しながらルインの顔面に張り付いた。
[おがーざん!!おがーざーん!!お帰りーーー!!!心配したんだよー!!!]
「ソニア?」
自分の顔面に張り付きながら号泣するソニアに申し訳ない気持ちが沸き上がるが、言わなければならないことがある。
「み、見えないんだけど…」
「ソニア、ルインの顔から離れるんだ。ルインが前を見れないだろう?」
ソニアをエックスが引き剥がすとハンカチでソニアの顔を拭いてやる。
[ううー、グス…とにかく長期任務お疲れ様お母さん…]
「長期任務?………あ、うん。ありがとうソニア」
恐らく詳しい事情はソニアには伝えられていないのだと分かったルインはエックス達に視線を遣った後に娘の小さな体を抱き上げたのだった。
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