ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第124話:RUIN SHADOW
即座にチームを組むアクセルとルナはライドチェイサーで夜の街を疾走し、高速のチェイサーは真夜中の静かな空気を行く手を阻む壁となる。
その時、ルナの通信機に通信が来ると2人は一時ライドチェイサーを停めた。
「こちらルナ」
『はい、こちらパレットです。ルナ、えっと…アクセル…は近くにいる?』
「僕のこと?」
「おっと」
アクセルは身を乗り出し、ルナの腕の通信機にぐっと顔を近づけるとルナが少しよろめくが、ルナもパレットからの通信に耳を傾ける。
『アクセルには通信機は内蔵されてますか?』
「え?勿論されてるよ」
『じゃあこれからの任務のために、私達との周波数を合わせて欲しいんです。連絡が取れないと困りますから』
「周波数か、分かったよ」
『周波数はですね…』
頷いたアクセルは、パレットの指示通りに周波数を合わせ、アクセルが通信機を起動させると、すぐにパレットの音声が入る。
『……よし、大丈夫そうですね。私も初めての指令室でのオペレート、頑張ります!!アクセルもハンターになるための初任務、頑張って下さい!!』
「うん、ありがとうパレット。」
応援してもらって嬉しいのかアクセルは破顔した。
微笑ましいやり取りを見ていたアイリスは隣で微笑んでいたが、アクセルにある質問をするためにアイリスは仕事仕様の真剣な表情と声音に切り替えた。
『ところでアクセル。あなたに聞きたいことがあるの』
「うん、何?」
『さっきのレッドアラートからの通信をいくら解析しても、発信源が割り出せなかったの。多分、特殊なステルスを使ってるのね……そこで、各地のイレギュラーを捕まえながら同時進行でアジトを探ろうと思うんだけど……アクセル、 大まかでいいから場所の説明を出来ないかしら?』
アイリスの問いにアクセルは、肩を落とした。
「実は、僕が抜け出してきたのは旧アジトなんだ。昨日、レッドから“明日、新しいアジトに移る”って言われて、慌てて抜け出したんだよ。新しいアジトは空中要塞らしくて、 みんなは隠してたみたいだけど、薄々気付いてたから…」
アイリスやパレットも傍で聞いていたルナも、一瞬息を飲んだ。
『空中要塞……!?バウンティハンター達がそんなものを……』
「多分、僕が逃げ出したからさっさと引っ越しちゃったんだね」
アクセルはあっけらかんとしていたが、ルナはその言葉の中に含みを感じた。
まるで、レッドアラートはアクセルが抜け出すことを予想し、そしてそれを阻止しようとしていたかのような言い回しだ。
「ごめんね、役に立てなくて……」
『……そういうことなら仕方ないわ。引き止めてごめんなさい。気をつけて2人共』
『私は2人のオペレートを主にしますから覚えていて下さいね!!』
「了解」
「了解!!」
2人はライドチェイサーに再び跨がり、セントラルサーキットに向かう。
「ところでアクセル」
「ん?何」
「お前、レッドアラートのメンバーだろ?向こうの主力メンバーでここをバトルエリアにするような奴ってどんな奴なんだよ?」
「こんなところをバトルエリアにするようなのはイノブスキーに決まってる」
「イノブスキー……って、確かエックスに突っ掛かろうとした猪野郎だよな?」
「そう、レッドアラート一の熱血漢。体をバイクみたいな形に変えられて、もの凄いスピードを出すよ。攻撃はホイールとかも使うけど…基本突進」
「成程、猪突猛進の馬鹿か…にしてもセントラルサーキットに爆弾仕掛けるなんてイカれた野郎だ」
「何か問題があるの?」
「ああ、セントラルサーキットっていうのはな、シティ・アーベルにある一番大きな高速道路でな。避難や物資の流通にも使われてるんだ。破壊されたら民間人の避難も物資の補給もままならないし莫大な被害が出るんだよ」
「ええ!?それって…」
「ああ、だからかなりやばい…アクセル、お前ライドチェイサーの経験はあるのか?」
「えっと…ライドチェイサーってあんまり乗ったこと無いんだ。仕事でもたまにしか乗らないから」
「分かった。じゃあ爆弾は俺が回収すっから、お前は敵の撃破を任せた」
「OK」
流石にライドチェイサーの操縦経験の少ないアクセルに敵を撃破しつつ爆弾回収の作業をやらせるわけにはいかずライドチェイサーの扱いに慣れたルナが爆弾を回収し、アクセルが敵撃破の作業を担当する。
すると後方から何かが近付いてくる音がして振り返れば、猪を模した姿のレプリロイドが走ってくる。
「イノブスキー!!」
「え?」
バイクのような姿に変形して隣に来たイノブスキーに、アクセルは笑いかけた。
「やあ、“総長”!!元気そうだね。あんたを狩りに来たよ!!」
「て、てめぇ!!レッドに拾われたくせにいぃ!!恩を仇で返そうってかあぁ!?それでも漢かっ?ああ!?」
「うるせえな、おい」
『近所迷惑クラスの声音よね』
大音量の怒鳴り声に、ルナとオペレート中のパレットは顔を顰める。
アクセルは相変わらずのイノブスキーに肩を竦めた。
「そんなに鼻息荒くしなくても……それに、これはある意味、レッドへの恩返しだと思ってるしね」
「ブヒイィィ!!何だとぉ!!?」
「うるせえな…お前が“ヘッド”か?」
「へ、ヘッド~!?そんな恥ずかしい名前で呼びやがって、総長と呼べ!!」
質問の答えになっていない。
「いや、どっちでも同じだろうがよ。生憎イレギュラーハンターとして暴走族を認めるわけにゃあいかんのでねえ!!」
「ぼ、暴走族ぅ!?てめぇ…」
「なあ、アクセル…こいつひょっとしてロードアタッカーズの残党か?」
怒り狂うイノブスキーを無視してルナがアクセルに問う。
「てっ、てめぇ!!あんな雑魚と俺のチームを一緒にしやがる気か!?許せねぇ!!」
『ロードライダーズの方じゃないの?』
「えーっと、覚えてないや。チーム名とかどうでも良かったし」
「ブヒイィィ!!てめぇら…重ね重ねっ!!」
『あ、あの爆弾と敵で最後です』
「「了解」」
アクセル達はイノブスキーの怒声に対して無視を決め込み、黙々と回収を続行する。
「回収完了だぜ!!」
「敵撃破完了!!」
「…上等だオラァ!!」
突然イノブスキーがスピードを上げて2人の遥か先へ行き、それを追いかけるように進めば、道路が分かれ、中心に向かって少し窪んだ円形のフィールドが出来上がっていた。
『うわあ、勝手に改造されてる…』
「これって最終的に修繕費いくらになんのかな?」
「さあ、少なくても僕達ではどうしようもないのは確かだね」
その中心にいるイノブスキーは、ライドチェイサーを降りてフィールドの端に立った2人を指差す。
「タイマンでぶちのめしてやるぜぇ!!まずはどいつだ!!?」
「よし、ここは俺が…」
「いや、僕が相手だ!!」
ルナを制してアクセルが飛び出す。
アクセルの事情もあるとは言えルナはアクセルから見て固有の能力に乏しいレプリロイドのためにホバーやエアダッシュを備えている自分の方がイノブスキーと戦えると言う判断だ。
「上等だアクセル!!」
神速で走り抜けるイノブスキー。
アクセルが感知した時にはイノブスキーは既にアクセルの目の前にいて元々厳つい彼の顔が一層強面になっている。
並の戦士なら硬直して動けないだろうがアクセルは並の戦士ではない。
「速いけど、避けられないわけじゃない!!」
跳躍、そしてホバーで回避はしたがあまりの速さに反撃は出来ない。
「遅えよ!!」
以前の何倍もの速度で走り抜けながら怒鳴る。
「速いな…」
厳ついイノブスキーの見た目に似合わぬあまりの速度にルナは感嘆の声を上げた。
「やっぱり前より速い…!!」
バレットを構えてショットを連射するが、それはイノブスキーに掠りもしない。
「その程度で俺を倒せると思ってんのかアクセル!?」
車輪が地を刔るように走るムービンホイール。
ばら撒かれた武器破壊は手間がかかる。
「ふん、それでも止めて見せるさ。僕の信念の名の下にね」
「信念だとお!?ガキがいっちょ前な口叩くんじゃねえ!!」
憤ったイノブスキーが猛スピードでアクセルに突進する。
「(速い!!)」
ホバーどころかジャンプも間に合わず、アクセルの体は電磁壁に押し付けられる。
背中の衝撃がアクセルの脳天から爪先まで貫いて目の前に火花を散らした。
「うわあっ!!」
「アクセル!!」
「これでも減らず口が叩けるか!!」
「っ…何度でも言ってやるよ!!僕はレッドを止めてみせる!!レッドが何を考えているのかは知らないけど、僕には今のレッドのやっていることを認められない!!だからまずはあんたを倒すよ!!」
「行くぜオラァァ!!」
イノブスキーが再び猛スピードでアクセルに体当たりを喰らわせようとする。
「アクセル、カウンターだ!!」
「っ!!」
ルナに言われ、イノブスキーの体当たりが当たる寸前でバレットの弾丸がイノブスキーの急所を突いた。
「ブヒィィ!!」
「やった…!!」
「あんなスピードじゃあ、急な方向転換は出来ないと思ったけどまさかのドンピシャか」
『確信なかったんだ…』
だが、致命傷を受けたはずのイノブスキーは止まらなかった。
過度な改造のせいで走り続けなければならない体になっており、狂った方向感覚は的外れな方向に電磁ロープを破壊して直進した。
「イノブスキー!?」
「何だあいつ!?力どころか体のコントロールが出来ないのか!?」
『大変です!もしイノブスキーが都市部に出たら大変なことになっちゃう!!』
2人はライドチェイサーに急いで乗り込むと急いでイノブスキーを追いかけた。
「アクセル!ダブルチャージでイノブスキーのタイヤをぶち抜くぞ!!」
「分かった!!」
2人はライドチェイサーのバスターをチャージし、チャージショットをイノブスキーのタイヤに炸裂させた。
タイヤをぶち抜かれ、イノブスキーは錐揉み回転しながら壁に激突し、しばらくして砂煙が無くなると、何とか生きているイノブスキーの姿が見えた。
「イノブスキー…」
「何とか生きてるか…連行するか。」
「処分しなくていいの?」
「イレギュラーハンターはイレギュラーの処分だけじゃなくて更正もするんだ。」
『実際にイレギュラーから更正したヘチマールさんやマシュラームさんはケイン博士の元で働いてますからね。あの人の場合は改造を受けているような感じがしましたから、まずは修理して事情を…』
「真空刃」
ルナが簡易転送装置を使おうとした瞬間、灰色の電撃を纏った衝撃波がイノブスキーを両断した。
「なっ!?」
「イノブスキー!?」
両断された仲間を見て、目を見開くアクセル。
衝撃波が放たれた方向を見遣るとそこには紫を基調にした…。
「ルイン!?」
「え?あの人が!?」
ルインらしき影はこちらを見てニヤリと笑うと姿を消した。
『あれがルインさん…初めて見ました……思ってたよりずっと美人ですね…』
「おいこら、てめえ何ふざけてやがる?」
パレットの発言に思わずツッコんでしまう。
「やはりルイン・シャドウの仕業か」
声に反応した2人が振り返ると緑色の小型の翼を持つアーマーを身に纏う青年と紫のアーマーを身に纏う青年が立っており、しかもその纏うアーマーはルインの物と酷似していた。
「誰だ!?それにルイン・シャドウって一体…」
「ウェントス…今はそう名乗っている」
「俺の名はテネブラエ。俺達はルインの影を追う者だ。」
ウェントス、テネブラエと名乗った青年はセイバーとクナイを構えた。
「装備もルインと同じかよ…アクセル、あいつらもレッドアラートの仲間なのかよ?」
「知らない…レッドアラートにあんな奴らはいなかったはずだよ」
「我々はある人物からの指示で動いている。突如現れたルインの影を追えとな」
「あの方の目的の障害となるならば排除の命令も受けている。ルインがお前達の仲間である以上、お前達も無関係とは言えんな」
「俺達相手にやるってのか!?簡単にはやられ…」
「遅い」
ルインのHXアーマーでのエアダッシュと同等、それ以上の速さで接近され、セイバーで胸を斬り裂かれて吹き飛ばされるルナ。
「がはっ!?」
「ルナ!?」
あっさりと一蹴されてしまったルナにアクセルは目を見開き、駆け寄ろうとするが。
「甘いな、敵から目を放すなど」
「なっ!?」
背後からテネブラエから首にクナイを突き付けられたアクセルは驚愕する。
いつの間に背後を取られたのだろうか?
「ア、クセル…」
「ふん、イレギュラーハンター…こんなものか…やはり永きに渡る戦いでまともな戦士がいないのか…この程度の動きにも対応出来んとはな」
「ルインの影は俺達が追跡し、始末する。貴様らは手出しをしないことだ。少しでも長生きしたければな」
「その通りだ。お前達などいつでも始末出来る。その命預けておこう。次に会う時まで、精々腕を磨くがいい」
それだけ言うとあの2人は転送の光に包まれてこの場から去っていった。
「くそ、あの野郎…」
「背後に回られたことさえ気付けなかった。」
自身の力に自信を持つ2人からすればこれ程の屈辱はない。
「取り敢えず、ハンターベースに帰ろうか…あのルイン・シャドウとか言うのも伝えないと」
ルインの影、ルイン・シャドウとそれを追うルインに似た2体のレプリロイド。
彼らは何者なのか、レッドアラートの急変と言い、様々な疑問が尽きない。
そしてハンターベースに帰還したルナとアクセルは司令室に戻ってセントラルサーキットでの出来事を報告していた。
「ルイン・シャドウと言うルインそっくりのレプリロイドにウェントスと名乗った緑の翼を持ったアーマーのレプリロイド?」
多忙なシグナスに代わり、ルナからセントラルサーキットでの出来事の報告を受けたエイリアが目を見開いた。
「ああ、それから紫のアーマーで仮面みたいなメットとマフラーみてえなもん着けてるテネブラエって奴もいやがった。2人共ルインみたいなジャケットタイプのアーマーで武器も同じだった」
「…ルナ、アクセル。念のために見せるけどその2人はこういう姿に近いもので間違いないのね?パレット、少しいいかしら?」
「はい、分かりました」
エイリアはデータディスクを挿入するとルインが扱う特殊アーマーが映し出された。
右からHXアーマー、FXアーマー、PXアーマー、LXアーマー、OXアーマー、Xアーマーを装着したルインが映し出された。
「あ、これあいつらにそっくり…」
HXアーマーとPXアーマーを指差すアクセルにエイリアは少し顔を顰めた。
「やっぱりね…前にあったレプリフォース大戦の時にルインの特殊アーマーのデータがDrの研究所から盗まれてしまったんだけど…多分その時のデータを使われている可能性が高いわね」
「レッドアラートの仲間じゃなさそうだし…一体何者だろうな?」
「分からないわ…でもこれだけは言えるかもね。敵はレッドアラートだけじゃなくて恐らく別の勢力がいるんだわ…ルインを基にして造られた彼らは、彼らを造った人物は何が目的なのか…」
エイリアは正体不明の彼らの正体と創造主の企みは何なのかに頭を悩ませる。
「…考えたってしょうがないよエイリア。あいつらが何者なのか、あいつらを造った奴の目的も分からないけど、今はレッドアラートを止めなきゃいけないんだからさ」
彼らの正体と創造主の企みは確かに分からないが、それでも今やるべきことを見失う訳にはいかないと自身に言い聞かせるように呟くアクセル。
「…そうね、シグナスには私が伝えておくから。次の任務まで休んでいて。それからアクセル、あなたの部屋なんだけど、急なことで部屋を用意出来なかったからルナと同室になっちゃうんだけど…」
「え?」
「えっと、ごめんなさい…女の子だから異性の彼と同室は辛いだろうけど…」
「いや、俺は別に構わねえけどアクセルは?」
「僕も構わないけど…」
異性を意識しない年齢である2人には何故エイリアが申し訳なさそうにしているのか分からないらしい。
「それにしてもルイン・シャドウか…あれがルインの偽者なのかそうでないのかどうかは現時点ではどうにも言えねえな」
「そうね」
「私はルインさん初めて見ましたけど美人さんでしたね~。大人なエイリア先輩や淑やかなアイリス先輩とは違うタイプのクールな美人さんですね!!」
「ル、ルインがクールな美人?」
「クールな美人…あの子がね…」
「あれ?違うんですか?」
「僕も初めて見たけどパレットが言うような感じじゃないの?少し怖い感じがしたけどさ、ゼロみたいにクールで綺麗な人だったよ?」
パレットの発言にルインの日常の姿を良く知るアイリスとエイリアは微妙な表情を浮かべる。
そしてパレット同様にルインを初めて見たアクセルも大体パレットと同じような印象をルインに抱いたような感じだったらしい。
「うーん、俺もルインとはそんなに接点はねえけど。クールな美人ってのはあいつのイメージからかけ離れてるんだよなあ。ルインって結構喜怒哀楽がハッキリしてる奴で決める時は決めるけど、普段はぽややんとしてる奴で、どっちかと言うと……この中ではアクセルに近い性格してる。オンとオフの差が激しいとことかさ」
腕を組みながら呟くルナにエイリアは同意するように頷いた。
「確かにルインはアクセルに近い性格かもね。ルインはゼロとは対照的な性格よ。でも明るくて優しい性格だからみんなはあの子を可愛がったり、慕うんだけどね…」
「ふ、ふーん…じゃあ、あれって偽者?」
「そんなに違うなら絶対偽者さんですよ!!」
「うーん、そればっかりは間近で実物のルイン・シャドウとやらを見ないことにはな」
現時点ではどうしようもないため、取り敢えず今はレッドアラートの暴走に対処することにした。
自室を目指して通路を歩く2人だが、ふとアクセルは伝えていないことがあるのを思い出した。
「そうだ。言ってなかったよね?僕がレッドアラートを抜け出した理由を」
「ん?」
少しだけ視線を送ったルナの目に映ったのは、白い光に包まれるアクセル。
次の瞬間、彼の姿はアクセルではない別のレプリロイドの姿になっていた。
「レプリロイドの姿や能力を、そっくりそのままコピー出来る」
居たのはアクセルとは似ても似つかない緑色のレプリロイド。
機械的な声に混じって少年特有の高い声も聞こえる。
もう一度白い光を放ち、ほぼ一瞬後に元のアクセルの姿に戻った。
「…でも、完璧じゃないんだ。コピーショットを使っても、完全にコピー出来るのは、僕に似た大きさのレプリロイドじゃなきゃ駄目みたいなんだ。それ以上の大きさだと短い時間しかコピー出来ないみたい」
アクセルはルナの反応を見たが、ルナの表情は驚愕というより意外そうな表情である。
「へえ、驚いたぜ。まさかお前、俺と同じコピー能力持ちとはな」
「へ?」
目を見開くアクセルにルナも白い光に包まれると次の瞬間に現れたのはイノブスキーである。
「え、ええ!?変身出来るの!?」
「驚いたか?コピー能力は俺も持ってるんだよ」
アクセルのコピー能力と同じようにイノブスキーの声にルナの声が混じっている。
次の瞬間、ルナも元に戻る。
「でもな、俺のコピー能力も完璧じゃねえんだわ。コピーする奴の大きさ、時間は問わねえけど、能力はオリジナルよりどこか劣化しちまう。まあ、俺自身もどうしてこんな能力があるのかさっぱりなんだ」
「どうして?」
「エックスにも話したけど俺、誰に造られたのかさっぱり分からないんだ。気づけば何もない荒野で倒れてて、世界を放浪していた時、たまたまジャンク屋を営んでいたじいさんに拾われて、この名前もじいさんがつけてくれたんだ。俺が拾われたのが月夜だったって単純な理由でさ、まあ気に入ってるからいいんだけどさ。だから俺の本当の名前を知る奴はどこにもいない」
「ご、ごめん…」
悪いことを聞いたとアクセルは謝罪する。
「気にしてねえよ。で?お前は?」
「あ、うん。実は僕も、どうしてこんな能力が使えるのか分かんないんだ……」
いきなり沈んだ声音になったことも訝しんだが、話の内容に引っかかりを覚えた。
「分からないって、お前も自分のことが分からないのかよ?」
正面から彼を見て尋ねると、いよいよ暗い表情になって俯いてしまう。
「……昔のことは覚えてないんだ、僕も。…レッドに拾われて、この能力のおかげで強敵を倒して来たんだ……。この名前もレッドがくれたんだ“アクセル”…“突き進む”って意味なんだってさ」
「そっか…お互いコピー能力持ちで記憶喪失か。奇妙な縁だな…よし、奇妙な縁ついでに部屋に着いたら新しい武器造ってやるよ。…と、ここだここ」
ルナがアクセルを部屋に入れるとかなり広いスペースの部屋だ。
この部屋にはルナが拠点で使っていた機材を置いているために、自然と広くなってしまう。
武器開発などに使われるラボラトリーとしての機能を有している。
「ほわちゃあああ!!」
「うわっ!?」
ルナはドライバーなどの道具を持つと凄まじい勢いで組み立てていき、あまりの凄業(すごわざ)にアクセルは恐る恐る話しかける。
「えっと…何の武器を造るの?」
「イノブスキーのムービンホイールだっけ?あれを元にした武器だよ。能力をコピー出来るんだろうけど、お前の場合、銃にした方が良さそうだ。よし出来た」
「早っ!?」
ルナが手渡したのは青を基調とした銃であり、銃口と思われる箇所には輪のような物がついている。
「ちょっとでかいね」
アサルトライフル並の大きさの銃をマジマジと見るアクセルにルナは苦笑した。
「奴の武器のでかさを考えると銃自体もでかくなる。その銃、スピンホイールはバレットと同じ感覚で撃てる。ここでの試射は勘弁な」
「うん。ありがとう」
「ところで持ち運びはどうする?」
「あ、大丈夫。変身の応用で武器を粒子化出来るから」
「お前も出来るのかよ」
こうして同じコピー能力を持つレプリロイドの2人は会話を弾ませていく。
「失礼しまーす!!」
部屋にパレットが勢い良く入ってきた。
「よし、帰れ」
「いきなり何!?私はルナじゃなくてアクセルに用があって来たの!!」
「この部屋はてめえが入ってきて良い場所じゃねえんだよ!!さっさと帰れ!!」
「ふーん!アクセルに用がなかったらこの部屋には来ませんよーだ!!」
「この凸野郎!!上等だ!表に出ろ…」
「待って待って待って!!少し落ち着きなってば2人共、喧嘩してないでさ。それでパレット、僕に何の用事?」
バレットを抜こうとしているルナを制してパレットに向き直るアクセル。
「そうそう、アクセルにプレゼントです。この特殊武器データを使ってください!アクセル用に調整したんですよ!!」
データチップをアクセルに差し出すパレット。
「特殊武器データ?」
「はい!イノブスキーって人の特殊武器を参考にした武器でバレットの銃口からリング型のエネルギーを発射出来るようにしたんですよ!!アクセルのバレットは私のバレットと同じで取り回しと連射性能に優れてるようだからこういう武器にした方がいいかなって」
「へー、僕のバレットに組み込めば良いの?」
「はい、名付けてホイールショットです。上手く使って…」
「待て待て待て待て待てええええい!!」
アクセルのバレットに組み込む方法を教えようとするパレットにルナが割り込む。
「…何?」
「何?じゃねえだろ!!何、アクセルに余計な物渡してんだ!俺が渡した銃があるだろ!!」
「銃?へえー、ルナらしいアクセルの長所を潰すような武器ね」
「何だとてめえ!?てめえだってどうせチマチマチマチマ嫌らしい攻撃しか出来ない武器をアクセルに渡してんだろ!?」
「その言い方はないでしょ!?アクセルは機動力が高いから高い機動力を殺さない取り回しと連射性能に優れた武器を渡すのは当然でしょ!?」
「確かにアクセルは機動力が高いけどな!その分使ってるバレットの火力低いんだよ!!だから他の武器は高威力の武器を持たせるんだよ!!戦い方にだって幅が出来る!!」
2人の言い分はどちらも間違ってない。
パレットの言うように使い手の長所を潰すのは言語道断だし、ルナの言うように様々な銃を持たせることで戦い方に幅を利かせるのも大切だ。
「(え、ええ~?この場合僕はどうすればいいわけ?)」
アクセルは女の子2人の喧嘩に途方に暮れていた。
レッドアラートは殆ど男だけだったのでこういう時の対処方法がさっぱりなのだ。
ルナとパレットは息を切らしながらも睨み合うが、同時にアクセルに振り返って2人同時にアクセルの腕にしがみついた。
「なあ、アクセル!お前はあんな凸の作ったポンコツより俺の武器がいいよな!?」
「違いますよねアクセル!?ルナの武器より私の武器の方がアクセルにピッタリです!!」
「へ?あ、いやちょっと!?痛い痛い痛い痛い痛い!!腕引っ張らないで2人共っ!!!」
「おい凸!アクセルが痛えってよ!とっとと腕から手を放せや!!」
「何それ!?ルナが放せば良いだけでしょ!?アクセルは私の造った武器を使うの!!いいから放して!!」
2人が思いっきりアクセルの腕を引っ張る。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!ちょ、2人共…本当に止め…ぎゃああああああ!!!?」
アクセルの両肩が人間で言う脱臼に近い状態になり、あまりの痛みにアクセルは断末魔の悲鳴を上げたのであった。
そしてある空間で女神によって動きを拘束されたワイリーと監視役のライト博士は自身の大ポカによって悶絶している女神を片方は蔑み、もう片方は憐れむように見つめていた。
「うわあああ…どうしよどうしよ…OXアーマーの調整中にあのプログラムの人格が個体化して脱走しちゃうなんて…」
『やはり駄女神じゃなこやつは』
『女神殿、今は悶えてる暇などありませんぞ?早く手を打たなくては。わしは早くエックスの強化アーマーを造り、新型アルティメットアーマーの製作に取り掛からねばなりませんので。』
「分かってる!分かってるんだけどさ!!」
『ライトよ、女神でも駄目な奴は駄目なようじゃな』
『今更じゃなそれは』
「君達いいいいっ!こういう時だけ仲良いんだから全くもう!!」
ワイリーとライト博士の視線に耐えきれず悶え続ける女神であった。
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