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ある晴れた日に

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250部分:そよ吹く風その七


そよ吹く風その七

「中森もな」
「奈々瀬は?」
「橋口な。あの中じゃ一番静かじゃないのか?」
「内気なところあるの」
 未晴はやはり彼女のことを最もよくわかっていた。
「気が弱くて」
「そうだよな。あまりこれといって前に出たりしないしな」
「昔いじめられそうになって春華や静華がその相手ともめたこともあったし」
「そうしたこともあったんだな」
「その時も大変だったの」
 こう正道に語った。
「相手も間違い認めなくて」
「それでどうなったんだ?」
「私達が相手と何度も直接話し合って」
 そういうこともしたのだった。
「それで時間かけてゆっくりとね」
「そういうことがあったんだな」
「ええ」
 静かに正道の言葉に頷いた。
「中学の時だったわ。一年の時ね」
「けれどいじめられなくて済んだんだな」
「奈々瀬。何か言われるとすぐ落ち込んで」
 彼女のことを話しながら顔を俯けさせた。
「それで。そこから中々立ち直れないから」
「本当に気が弱いんだな」
「少しずつ強くなっていってるけれど」
 心配する顔になっていた。正道はその横顔を見ている。
「それでもね」
「あいつも色々とあったんだな」
「皆色々あったの」
 春華や奈々瀬だけではないというのだった。
「これ。音橋君もじゃないの?」
「俺か?」
「ええ。音橋君も」
 また彼に言ってきた。顔も彼に向けて。
「そうじゃないの?やっぱり」
「まあそうかもな」
 自分でもそのことは隠さなかった。
「昔な」
「昔?」
「ちょっとあったんだよ。俺が悪いことをしてな」
「やっぱりあったの」
「俺がただいらいらしていたからな」
 彼は話をはじめた。その昔のことを。
「それで言っちまったんだよ。そいつの一番気にしてることをな」
「そういうことがあったの」
「言った俺は何でもなかった」
 彼は言った。
「ただいらいらしていてそこに声かけられてな。つい八つ当たりしてな」
「何を言ったの?」
「そいつの足のことな。そいつ足を引き摺っていたんだよ」
 このことも話した。しかし話すその口は実に苦いものになっていた。
「足をな。それを言ったらな」
「酷いことになったのね」
「女の子だったんだよ。その場で大泣きしてな。向こうは親切で俺に声をかけてきてくれて俺もそれがわかっていたっていうのにな」
 だからこそ苦いのだった。
「もう暫く学校に来なかった。それを知った担任が俺を思いきりひっぱたいた。けれど俺は別に痛いとは思わなかった」
「痛くなかったの」
「頬はな。痛くなかった」
 身体は、ということだった。
「けれどな。そいつがどれだけ傷ついたのかってことに気付いてな」
「それが痛かったのね」
「今までで一番痛かった」
 俯いて言った。
「それからもな。あんなに痛いことはあのことだけだった」
「だから覚えているのね」
「後で謝りに行ったさ」
 また話したのだった。
「あいつの家までな。あいつは泣きながらも許してくれた」
「よかったわね。許してもらえて」
「優しい奴だったんだよ」
 その足の悪かった女の子のことも話した。
 
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