ある晴れた日に
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233部分:オレンジは花の香りその十六
オレンジは花の香りその十六
「ケーキにもオレンジにもな」
「そういえばこのオレンジな」
「ああ、美味いな」
「美味しいわね」
皆ここで未晴が持って来たそのオレンジを食べてみて言うのだった。オレンジは既にスライスされていて食べやすくなっている。
「甘酸っぱいだけじゃなくてな」
「香りもいいし」
皆その香りも感じてそのうえで味わっているのだった。
「こんな美味しいオレンジよくあったわね」
「何処で売ってたの?」
「何処でって。普通のスーパーだけれど」
未晴は皆の言葉に目を少ししばたかせてから答えた。
「お母さんが買ってきたのを持って来ただけよ」
「それだけ?」
「そうなの、それだけなの」
カウンターで咲の隣にいる未晴はこう皆に述べたのだった。
「普通のオレンジだけれど」
「普通のオレンジかよ、本当に」
「その割にはやけに美味いな」
皆オレンジをさらに食べながら言う。食べれば食べる程美味く感じるオレンジだったのだ。6
だが未晴はあくまでスーパーで買った普通のオレンジだと言う。しかもそれが謙遜でも嘘でもないことがわかるので余計に不思議だったのだ。
「こんな美味しいオレンジが普通にあるなんて」
「何か意外だよな」
「日本のオレンジなのよ」
「あれっ、日本でもオレンジ栽培してたんだ」
「してたか?全部輸入じゃなかったのかよ」
皆日本のオレンジと聞いてさらに首を傾げる。オレンジといえばアメリカのオレンジが有名だからだ。彼等もオレンジを食べるからそれは知っているのだ。
「そんなの売ってるのか」
「しかし。食べてみれば」
「美味しいな」
「ええ」
皆その日本のオレンジの味に満足していた。輸入のオレンジよりも遥かにいいと感じていたのだ。その味と香りのことである。
「何かアメリカのオレンジよりも合うって感じ?」
「何でだろ」
「日本人だからだと思うわ」
未晴はここでまた述べたのだった。
「日本人だからね」
「日本人だからって?」
「それってどういうことだよ」
「だから。アメリカのオレンジは元々アメリカ人が食べるものよね」
未晴は首を傾げる皆に対してアメリカのオレンジの話に変えて説明してきた。
「だったら。アメリカ人の口に合うものになるわよね」
「まあそうだよな」
「アメリカ人が食うものだからな」
皆こう言われれば話がわかってきた。そうして未晴が言いたいこともわかってきたのだった。
「ああ、そういうことね」
「日本人が作ったオレンジだからね」
「だから日本人の口に合う」
「そういうことね」
五人がそれぞれ頷きながら言う。ここでもいつも通り未晴の側に集まっている。丁度凛と明日夢が東組と西組の境であった。恵美は明日夢と茜の前に位置している。
「だからか。それで美味いのか」
「成程」
「アメリカのオレンジも嫌いじゃないけれど」
未晴はアメリカのオレンジについても配慮していた。
「けれど。やっぱり日本のオレンジが一番だから」
「そうだな」
正道はここでもそのオレンジを食べていた。
「だからか。余計に美味いんだな」
「そうだと思うわ。それでこのオレンジだけれど」
「ああ。何だ?」
「まだいるかしら」
こう正道に対して問うてきたのだった。
「このオレンジ。まだあるけれど」
「えっ、まだあるの!?」
「このオレンジ」
正道よりも先に皆が今の未晴の言葉に声をあげた。
「だったら頂戴頂戴」
「ナイフ出してくれ、ナイフ」
もう食べるつもりだった。そうして食べるつもりだったのだ。もう恵はそのナイフを出してまな板まで用意していた。彼女もそのつもりになっていた。
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