ロックマンX~Vermilion Warrior~
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ロックマンX6
第120話:Zombie Σ
スペースコロニー・ユーラシア落下事件…正確には破片落下事件とシグマウィルスによるイレギュラー化騒動から数ヶ月が過ぎた。
イレギュラーハンター総監・シグナスの部下にしてイレギュラーハンターが誇る特A級ハンター…エックス、ゼロ、ルインを筆頭とするイレギュラーハンター達とイレギュラーハンターの中で最も優秀なオペレート能力を持つエイリアとアイリスを筆頭としたオペレーター達。
そして天才科学者ゲイトを筆頭にしたハンターベースの技術者達と作戦に必要な技術、パーツ提供をしてくれたルナなどの協力者達の活躍により、エニグマによる狙撃作戦は失敗に終わったものの、次の作戦…ルインが搭乗するスペースシャトルによる特攻作戦によってコロニーの激突は阻止され、地球は何とか滅亡を回避することが出来た。
しかし、コロニーの破片の落下地点、特にそれなりの規模の大きさの部位の破片が落下した地点は被害が大きく、かつてとはあらぬ姿へと一変する。
そして地上とコロニーの大量のシグマウィルスの吸収によってシグマを遥かに凌駕する最強のイレギュラー・ルインが誕生した。
エックスとゼロはルインの救出を兼ねて異空間へと向かったが、シグマを一蹴し、エックスと同等の未知数の成長力とゼロと同等の無限の自己進化能力を併せ持ったイレギュラー化したルインの力は凄まじく、何度も危機に陥るが、様々な奇跡もあってルインのイレギュラーの撃破に成功。
正気を取り戻したルインによって異空間から脱出させられたエックス達はようやく取り戻した平和を失わないために、癒えない傷を抱えながらも必死に地球復興に尽力した。
この事件によって発生したシグマウィルスによるイレギュラー化でレプリロイドの被害は相当な物であったが、天才科学者レプリロイド、ゲイトやドップラーが作成したシグマウィルスのワクチンプログラムと抗体ウィルスによってイレギュラー化したレプリロイド達も復帰し、シグマウィルスの残滓もデリートし、生き残ったレプリロイド達は地球を元の姿に戻そうと懸命に復興作業を行っていた。
余談だが、スペースシャトル特攻作戦の際に作ったシグマウィルスのプロテクトプログラムを発展させ、シグマウィルスのイレギュラー化のパターンを解析し、ルナのDNAデータの構造を作り変えると言う能力を参考にしたプログラム構造を自動で書き変えることが出来るプロテクトプログラムを発明することに成功したゲイトは世間から今までにない評価を得た。
ゲイトの能力がようやく認められた瞬間ではあったが、同時にどれだけ優秀でも正しく使わなければ正当な評価はされないことが分かる瞬間でもあったろう。
コロニーの破片落下によって荒れた地球に対して人類は無力でレプリロイドも大分復帰したとは言え多いとは言えない。
しかしエックス達は、何時かルインが帰ってくることを信じて復興作業を進めていた。
3週間前にゼロとアイリスの形だけとは言え結婚式が行われ、少しだけハンターベースに活気が戻っている。
[ねえ、エイリアお母さん]
「何?」
司令室で作業をしているエイリアの隣で作業を静かに見守っていたソニアがタイミングを見計らってエイリアに尋ねた。
アイリスはまだ完全ではないボディの調整に出ていてここにはいない。
そしてエイリアもまたアイリスに倣ってアーマーを新調しており、この腕はエックスのバスターであるXバスターを参考にしたエイリアバスターに変形するようになっていた。
容姿に関してもオフ以外の時は今まで上げていた髪を下ろして、全体的なシルエットも彼女のスタイルを崩さないようにスッキリとしたデザインに変わっている。
ゲイトがいることでこういう改造も効率的に出来るようになったが、エイリアが戦闘能力を得ることにエックスは心配そうだった。
[えっと…その…]
「どうしたの?何か聞きたいことがあるんでしょう?」
エイリアが優しく微笑んでソニアに尋ねる。
以前は優しいお姉さんのような存在だったが、ルインが行方不明となった今ではソニアにとってエイリアはもう1人の母親である。
[ルインお母さん、何時になったら長期任務から帰ってくるのかな?]
ソニアの問いにエイリアはキーを叩いていた指を少しの間だけ止めてしまった。
あの事件でルインの身に起きたことはソニアには一切伝えられていない。
母親がイレギュラー化した挙げ句に行方不明になってしまったなどと幼い子供に言えるわけがなかった。
「………そうね、何時になるのかしらね。私も会いたいけれど仕事だもの。ソニアも分かるわよね?」
[………うん、ルインお母さんは我が儘言ってみんなを困らせたら怒るもん]
「なら、ソニア。ルインが帰ってくるまで良い子にしてるのよ?出来るわよね?」
[うん!エイリアお母さんもいるから我慢出来るよ]
無邪気な笑顔にエイリアは少しだけ心癒され、小さな体を優しく抱き締めてやった。
「(ルイン、早く帰ってきて…ソニアはあなたの帰りを待ってるのよ。私もエックスも…)」
[ねえ、お腹空いたよ]
「あら?確かに丁度良い時間だわ。おやつの時間にしましょうか」
[はーい!!]
おやつの時間にはしゃぐソニアの微笑ましい姿にエイリアは部屋に連れて行こうとした時である。
モニターにある反応が映ったのは。
「え…何……こ、この反応は…!!」
モニターに映る反応が信じられず、エイリアは思わず目を見開いた。
この反応はシグマウィルスの反応である。
「まさか…そんな…嘘…でしょう?」
[お母さん?ねえ、お母さん?どうしたの?]
顔色が真っ青なエイリアにソニアが不安そうに見上げる。
それを見たエイリアは何とか笑みを浮かべようとしたが出来なかった。
「ソニア…エックスとゼロを呼んで来てもらえるかしら…?お仕事なの」
[う、うん…]
ソニアは心配そうにエイリアを何度か振り返りながら、エックスとゼロを呼びに行った。
しばらくしてエックスとゼロが司令室に入り、モニターに映るシグマウィルスの反応に目を見開く。
「シグマウィルスの反応!?」
「馬鹿な、シグマウィルスはルインが吸収し、シグマ本体のウィルスもデリートされたはずだ。」
「恐らく、地上に残った残滓が集まったんだと思うわ…塵も積もれば山となると言うけどね…」
「シグマが復活しようとしているのか…?そうはさせない!!」
「待つんだエックス。いくら死に損ないの残滓の寄せ集めとは言え相手はシグマだ。このエイリアが復元したファルコンアーマーを持っていくんだ。」
「復元出来たのか?」
「勿論よ、バックアップデータはあったし…でもまだ未完成でフリームーブ機能の再現が出来なかったから申し訳程度のエアダッシュ。そしてアームパーツのビームスピアが使えなくなってチャージショットの貫通性能が低下した代わりにチャージショットの威力が少し上がってるわ」
後は一応特殊武器チャージが使えるようになったのだが、あまり関係ない機能だ。
「………分かった、ありがとう」
ゲイトからエイリアが復元したファルコンアーマーのプログラムを受け取ると、プログラムをインストールすると、ファルコンアーマーが装着された。
そしてエックスはバスタープラス、ハイパーチャージと言ったバスター強化系のパーツとハイジャンプとハイパーダッシュと言った機動力強化系のパーツを装備する。
ゼロはセイバー強化系のセイバープラスとセイバーエクステンドを装備すると、ダブルバリア、ショックアブソーバーと言った防御力強化系のパーツを装備する。
装備を整えたエックスとゼロはシグマウィルスの反応があった異空間跡地に向かう。
最新型のライドチェイサーに乗り込んで最高速度で向かうと、確かに感じ慣れた気配を感じた。
「この気配…弱々しいが確かにシグマだ。」
「くそ、どこまでもしぶとい奴だ…!!」
異空間跡地に到着するとエックスとゼロは周囲を見渡しながらバスターとセイバーを構えながらシグマを捜す。
シグマがいる場所の目星はついている。
場所はファイナルシグマWの残骸がある場所だ。
残骸のあまりの巨大さに撤去が後回しになってしまったが、これが失敗だったかもしれない。
何せシグマの本体はシグマウィルスであり、ファイナルシグマWも通常のシグマのボディも言ってみればシグマウィルスの器だ。
器となる物があればそこに集まるのは当然と言えるだろう。
「俺達の判断の甘さが招いた結果か。」
ルインが破壊したから大丈夫と言う安易な思い込みがシグマ復活に繋がってしまったのだとしたらとんでもない大失態だ。
「だが、シグマには以前程の力はないはずだ。何せルインに殆どのシグマウィルスをデリートされたからな………いたぞ!!」
ゼロが指差した先には確かにシグマがいた。
時間の経過と雨水によって錆び付いたファイナルシグマWの残骸に着いた左手を唯一の支えに、ゾンビを思わせる姿のシグマが立っている。
「(あれが本当にシグマ…なのか?)」
エックスとゼロから見ても最初はシグマなのかと疑うような状態である。
幾度となく世界に破壊と恐怖をもたらした最強のイレギュラーであるシグマが体を震わせながら僅かだけしか前進出来ていない。
「ハァッ、は……グ、ガア……」
呼吸する度にシグマは嘔吐感が込み上げ、それに促されるままに口から疑似血液を吐き出す。
全身を襲う激痛も一向に和らぐ気配を見せず、ノイズが電子頭脳に響く。
シグマが一歩を踏み出すごとに全ての力を奪われる錯覚すら覚えた。
「どうやら立っているのがやっとのようだな。俺達がこれだけ近くにいても気付く様子がない…それ以前に理性があるかどうかもあの状態では怪しいがな」
正直今のシグマは普通のレプリロイドなら即死してもおかしくない状態で、そんな状態で稼働状態を維持出来るのだから凄まじい生命力だ。
「死なん……」
実際にシグマはスペースコロニー・ユーラシアの破片落下事件の際にイレギュラー化したルインに地上、コロニーのシグマウィルスの殆どを吸収され、本体のウィルスさえデリートされた。
そして最終的にオメガの前座としてルインによって僅かなウィルスで復活させられたシグマはエックスとゼロに完全敗北し、完全な死を迎えていた。
その為、あの反乱から始まった悪魔の凶行はエックス達の手で完全に終止符が打たれたはずだった。
故に今回の復活は紛れもない奇跡で、あろうことか世界が悪魔に微笑んだのだ。
「……私は…死なん……ぞ……や、つらに…復…讐…を…」
復活したシグマが望むことは以前と全く変わらないが、しかし今は死にかけの体を回復させないことには話にならない。
目的の最大の障害であり、復讐の対象であるエックス達はこんな状態で相手に出来る相手ではないのだから。
行く当てすら定めないまま生還を図るシグマだが、やはりダメージは深刻でエックスとゼロの接近に気付かなかった。
「久しぶりだなシグマ。相変わらずゴキブリ並みにしぶとい奴だな…」
「シグマ、例え何度復活しようとお前は俺が倒してみせる!!」
「ゲホッ…エッ、エックスか?ゼロか?邪魔だ…失せろっ!!」
「そうはいかんな、またとない機会だ。今度こそ貴様を処分してやる!!行くぞエックス!!」
「ああ!!」
万全の状態で挑むエックスはバスターを、ゼロはセイバーを構えた。
「…ほ、ほざくな…お前達などこの体で…充分だ……。ゴホッ」
対するシグマは圧倒的不利を自覚しつつ、復讐対象の3人のうちの2人を殺めるべく思考を巡らせる。
この状況でエックスとゼロに先手を許せば最後、回避もままならずバスターとセイバーの餌食となるだろう。
防御に徹しようにも向こうは万全、こちら最悪の状態でエネルギーの差で押しきられる。
ならば、こちらから仕掛けるより他はない。
戦略を組み立てるのと同時にシグマはエックス達が攻撃を繰り出すよりも早く左腕から衝撃波を放つ。
前回の戦いでは威力と規模は凄まじかったが、瀕死の身体で繰り出す一撃はかつてのものより一回り小さい。
しかし、ルインによって本体であり仮宿と呼べるボディのエネルギー源でもあるシグマウィルスを殆ど奪われた形となったシグマにはこれが精一杯なのだ。
「「遅い!!」」
しかし、エックスとゼロからすれば余裕で回避出来る攻撃だった。
「スピアチャージショット!!」
「ぐおおおおお!!!?」
反撃のスピアチャージショットがシグマに炸裂した。
このファルコンアーマーのレプリカアーマーはオリジナルのファルコンアーマーのチャージショットと違って貫通力は無いに等しいが、機動力に割いていたエネルギーをバスターに回すことに成功したため、威力自体はオリジナルを上回る。
貫通力の低下に関しても相手が単体であり、ここまで弱っていれば問題もない。
そして追撃のセミチャージショットが連続で放たれ、シグマに絶え間ない苦痛を与える。
セミチャージショットは以前のシグマなら耐えられたかもしれないが、今のシグマの瀕死の体にはセミチャージショットの威力でさえ想像絶する苦痛だ。
「うおおおおおっ!!」
そしてゼロもエックスのセミチャージショットで動きを阻害されているシグマにZセイバーによる高速の乱れ斬りを叩き込む。
ゼロのZバスターはルインとの戦いで完全に使用不能となり、ルナが造ったバスターショットもそう簡単に造れる物ではないらしいので、ゼロはセイバーのみで挑んでいた。
しかし本当にセイバーだけなのかと言えば厳密にはそうではない。
「リコイルロッド!!」
セイバーの柄にあるスイッチを押すとセイバーの柄が2つに分割され、小型の柄となるとトンファー状の光刃を発現させた。
チェーンロッドの反省点…小回りの利かなさを克服させた武装でセイバーと同等の出力でありながら徒手空拳の要領で戦えるのはかなりありがたい。
リコイルロッドのチャージ攻撃でシグマは勢い良く吹き飛ばされる。
「ごわああああ!!!」
ロッドのチャージ攻撃を受けたシグマは口から大量の疑似血液を吐き出した。
どうやら先の一撃で内部機構が損傷したのだろう。
エックスとゼロは仰向けに倒れたシグマに容赦などせずに攻撃を繰り返す。
「チャージブレード!!」
「空円斬!!」
Xブレードのチャージブレードで上空に打ち上げられたシグマにゼロが回転斬りを繰り出して更にシグマにダメージを与えた。
戦いはほぼ一方的であった。
前回の戦いでも優勢であったが、シグマが万全の状態であったこともあり、凄まじい抵抗があったが、今回は初撃以外はただ攻撃を受けて吹き飛ばされるだけ。
「はあっ!!」
「ゴアアあア…!!」
セイバーで横薙ぎし、シグマの胴体を真っ二つに両断し、エックスが全身にエネルギーを纏ってファルコンアーマーのギガアタックを繰り出す。
「スピアショットウェーブ!!」
「ぐひゃはははは…!!」
スピアショットウェーブの貫通弾をまともに喰らったシグマは既に正気を失っており、笑いながら爆散した。
「やったのか?」
「あまりにも一気呵成に倒したから実感が湧かないけど…」
エックスが呟いた時である。
耳障りなノイズ混じりの声が周囲に響き渡った。
声の出所はファイナルシグマWの残骸からだ。
「しまった、シグマめ…あの残骸と同化するつもりか?」
ボディを失い、シグマウィルスの状態となったシグマは消滅を逃れるためにあの残骸との同化を本能で行ったらしい。
「フハハハ!!まだだ!いげがるのぼごがまでだっ!ごれがるがホンバナだっ!!ジネ!デッグス!ジヌンダッ!デロ!!」
元々瀕死だった状態で度重なるダメージを受けたことで発声機能が死んでいるのか、轟く怒号は既に言葉の形を成していない。
今のシグマウィルスではファイナルシグマWの再生が全く追い付かないためか、巨体の内部機関は剥き出しに露出し、その全貌はルインにあっさりと一蹴されたとは言え、以前見たあの凄まじい力を発していた兵器と同一とは思えない。
まるで出来損ないの人体模型のような姿で、これまでの第2形態とは一線を画したおぞましい異形の姿である。
「く、狂った……こ、こいつ…何を言ってるかも分からない。…意識すらはっきりしてないはずなのに、それでも俺達への執着は…楽にしてやるぞ!シグマ…完全に眠ってくれ!!」
「相当イッてしまってるな…まともに喋れないじゃないか?…せっかくルインが身体を張ってデリートしてくれたシグマウィルスが復活したらシャレにならんからな…シグマウィルスは今ここで完全にデリートしてやる!とどめだ!シグマ!!」
エックスはゼロに目配せすると、ゼロも心得たとばかりにリコイルロッドを構えて頷いた。
「オアイダ!!」
シグマはエックスとゼロを一撃で仕留めようとばかりに口の砲門を開いた。
放たれる前にエックスはブレードを砲門に向けて投擲し、攻撃を阻害する。
「エックス!!受け取れ!!」
「レイジングエクスチャージ!!全エネルギー解放!行くぞ!!」
ロッドのチャージ攻撃を受けたエックスはレイジングエクスチャージでボディパーツの性能を極限まで高めて受けたエネルギーを数百倍にして解放した。
「ウオアアアア!!!」
砲門を塞いでいたブレードを柄ごと粉砕してエックス達に向けて放つが、既にエックスも攻撃を放っていた。
「ハイパースピアショットウェーブッ!!!!」
ファルコンアーマーが粉々になるが、ファルコンアーマーを犠牲にしたギガアタックはシグマの放った渾身の砲撃を粉砕してシグマの全身に風穴を開けた。
「ぐぅぅぅわあああああっ!!!がぁぁぁぁぁわあああっ!!!無駄だぞ!無駄だ!分かるだろう?エックス、ゼロ…死なんっ!このぐらいで…分かるだろ?エックス、ゼロ!!」
「今は何よりも地球復興が最優先だ…俺達にお前の相手をしている暇はない……また俺の目の前に現れたら倒してやる…それだけだ」
「今はとりあえず消えろシグマ…俺はもう昔とは違う。やるべきことや守るべきものが今の俺には沢山ある……いい加減もう復活するな。永久に眠れ!!!」
「…フハハハハッ!!お前達がいる限り必ず復活してやるっ!必ずだ!か な ら…ぅぅぅおおおおわわわっっっ!!!!」
爆発に飲まれるシグマ。
それを見届けるエックスとゼロはしばらくシグマのいた場所を見つめていたが、踵を返してライドチェイサーを停めた場所に向かい、ハンターベースに帰還するのであった。
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