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ある晴れた日に

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218部分:オレンジは花の香りその一


オレンジは花の香りその一

                 オレンジは花の香り 
 芝居が終わって暫くすると梅雨に入った。皆その雨の多さにいささか辟易する日々だった。
「今日も雨ね」
「明日の天気予報もそうだったわよ」
 自分の席で右肘をつき手に顎を乗せて憮然とした顔になっている明日夢にすぐ隣で立っている恵美が答えた。
「明日もね」
「雨だとお店の掃除が大変なのよね」
 恵美の言葉を聞いてまた言うのだった。
「どうしてもね。濡れるから」
「そうなのよね。こっちもよ」
 それは恵美も同じだった。
「傘入れのところが特にね」
「横浜も試合ないし」
 ベイスターズの本拠地はドームではない横浜スタジアムなのでそうなってしまう。今は彼女達のいる神戸だけでなく日本全体が梅雨前線に覆われていた。
「何か面白くないのよね」
「それはいいことじゃねえのか?」
「ベイスターズ負けなくてよ」
 皆明日夢の言葉にすぐに突っ込みを入れた。今も窓の外は雨である。
「雨が降っていたらやっぱりな」
「試合ねえからな」
「雨野投手って凄いよな」
 その雨のことをこう呼んでいた。
「まあ、阪神は京セラドーム借りられるしな」
「おかげでびっくりメニューまともだしな」
 皆はそれも有り難かった。とにかく今は雨なので皆少し暗い気持ちになっていた。教室にいても窓の外は雨なのでそれを見てもやはり暗い気持ちになるのだった。
「ねえ。今日どうする?」
「何処に行くかってことね」
「そう、それよ」
 未晴達も未晴の机の周りで集まっていつものように話をしているがどうも浮かない顔になっている。奈々瀬と静華もいつもの明るさはない。
「何処行く?今日は」
「スタープラチナにする?今日も」
 静華は特に考えることなく奈々瀬に言った。
「オーソドックスに」
「何か少年機嫌悪いぞ」
 春華はあからさまに不機嫌な明日夢を見てから他の五人に告げた。
「ベイスターズの試合ねえとな。機嫌悪いぜ」
「じゃあ今日止めとく?」
「猛虎堂にしとく?」
 今度は佐々の店が候補に挙げられた。提案者は凛だった。
「今日は」
「ああ、今日はやばいぞ」
 だがその佐々が六人に言ってきたのだった。
「今日うちの学校の先生達が宴会に使うんだよ」
「えっ、それじゃあ私達行けないじゃない」
「飲めないじゃない」
「そうだよ。だから止めておいた方がいいぞ」
 こう彼女達に忠告するのだった。
「今日はな」
「ちぇっ、じゃあそっちも駄目ね」
「恵美のところは」
 今度は恵美の店に行こうかと考えるのだった。
「どう?ライオンズブルー」
 恵美の店の名前である。言うまでもなく埼玉西武ライオンズからだ。
「今日はあそこにしとく?」
「いいけれどうちお酒ないわよ」 
 恵美は浮かない顔をして話を続ける六人に顔を向けて言ってきた。
「悪いけれどね」
「それだと意味ないじゃない」
 咲は恵美の言葉にさらに浮かない顔になった。
「この鬱陶しい気持ち何とかしたくて遊ぶのに」
「そんなのじゃね」
「何かねえ」
「ちっ、こんな時に限っていいニュースないぜ」
 野本は携帯のスイッチを切って不機嫌な顔をした。
「巨人は勝つし北朝鮮は相変わらず寝言ほざいてやがるししかも何か女の子が行方不明だってよ」
「最後のそれ何なんだよ」
 坂上がその最後の行方不明に顔を顰めさせた。
「何処の話だよ、それ」
「神戸だよ」
 野本はその不機嫌な顔で佐々に答えた。
「この神戸でな。出て来たんだってよ」
「よりによってここでかよ」
 野茂はそれを聞いて余計に機嫌が悪くなったようだった。
 
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