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ある晴れた日に

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210部分:思いも寄らぬこの喜びその十


思いも寄らぬこの喜びその十

「だからよ。それはね」
「そうかしら」
「よかったわよ。少年だって凄い格好よかったじゃない」
「背は気になったけれどな」
 坂上はそこは突っ込みを入れた。
「中森下駄履いてただろ」
「少年も履いてたわよ」
「花魁下駄っていうかあれか」
 坂上は言いながらすぐに自分の言葉のミスに気付いて訂正した。
「あの履物な。ありゃ下駄か?」
「下駄だよ」
 作品の映像をを持っていたということもあり製作のかなりの部分に携わることになった竹山が彼に答える。
「あれね。三つ歯の下駄だよ」
「随分変わった下駄だな」
「それでも下駄なんだよ。花魁さんの下駄なんだ」
「そうだったのかよ」
「あの下駄も重かったのよ」
 凛は衣装の話になると思いきり困った顔を見せた。
「衣装も鬘も物凄い重かったけれど」
「三十キロあったのよね、確か」
 恵美がここでその衣装の重さについて述べた。
「あんたのは」
「そうなのよ。もう重くて重くて」
 その困った顔をそのままにさせての言葉だった。
「よく動けたわ。暑さも凄かったし」
「そうそう」
「花魁さんの服って凄かったわよね」
「洒落にならなかったわよ」
 後ろとはいえ同じく花魁の服を着た奈々瀬、静華、咲がそれぞれ言う。
「凛の私達のよりまだ重かったし」
「体力いったわよね」
「陸上部でいつも走ってるのがよかったんじゃないの?」
「そうね」
 そのせいで体力があってもったとは自分でも思っている凛だった。
「それはあるわね。普通じゃ絶対にもたなかったわよ」
「だよな。奇麗だったけれどよ」
 春華も着ていたのである。
「もう一回着ろって言われたらあたしはやだな」
「そう思うと俺達楽だったよな」
「そうだな」
 野茂と坪本が言い合う。
「衣装も楽だったしよ」
「裏方メインだったしな」
「俺もまあ楽しくやらせてもらっただけだったな」
 野本にしろ実に気楽なのものであった。それは今の彼の表情にも出ている。
「女組はそうじゃなかったんだな」
「そうだね」
 桐生が彼の言葉に頷く。
「三十キロなんてそんなのちょっと着られないよ」
「少年が羨ましいと思ったりしたわ」
 凛はかなりストレートに言った。
「助六の服揚巻のよりずっと軽かったから」
「そうだよね」
 加山もそれは同意だった。
「本当にね。それでその北乃さんはまだカウンターなんだ」
「ああ、今日お店にずっといるらしいわ」
 凛が加山に返す。
「後で顔見せるらしいけれど」
「そうなんだ」
「仕方ないわね。ここ少年のお家のお店だし」
 そしてこう言って赤ワインが入ったコップを右手に笑った。屈託のない笑顔になっている。
「少年も手が離せないわよ」
「それで御前等よ」
 正道がここでその凛とそのグループに尋ねてきた。
「やっぱり今回もあれか?びっくりメニュー頼んだのかよ」
「当然じゃない」
 静華を何を言っているのかという顔と声で彼に返した。
 
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