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ある晴れた日に

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208部分:思いも寄らぬこの喜びその八


思いも寄らぬこの喜びその八

「咲だって鷹食べないし」
「そんなの普通食わねえだろうが」
「その論理だと広島ファンは鯉食べられないよ」
 二人は咲の鷹は食べないという言葉に速攻で突っ込みを入れたのだった。
「星食っても別にいいんじゃねえのか?」
「鯉食べたら力がつくしね」
「そういうものかしら」
 だが咲はそう言われても今一つ納得していないようだった。腕を組んで考える顔になって首を捻る動作からそういったものが窺える。
「まあ二人がリラックスしたのならそれでいいけれど」
「そうだな」
「それでね」
 二人もそれには同意だった。
「さて、と。肝心の主役二人もリラックスしたし」
 正道はそれを見届けてから自分の席に座ったまま身体を大きく伸ばした。
「俺達も気持ちがほぐれたし」
「そうだね」
「三日後だな」
 その本番の日である。
「三日後。頑張るか」
「咲も出るしね」
 彼女もまた遊女の役である。
「花魁の服着るわよ」
「あれかなり重いんだよな」
「しかも凄く暑いのよ」
 困った顔で述べるのだった。
「もうサウナみたいよ」
「そんなにかよ」
「ええ。まあ痩せていいかしら」
 実は先程の正道の言葉を根に持っているのだった。
「サウナにいるって思えば」
「そう思ってるのならいいんだろうな」
 そして正道も正道でしれっと返す。
「とにかく。肝心の二人がリラックスできて何よりだな」
「そうだね」
 桐生も二人を見ながら言う。
「それじゃあ。三日後ね」
「ああ。楽しくやるか」
 こうして本番前の張り詰めた気持ちをリラックスさせることができた。そして本番になった。いよいよ開幕という時に音楽担当ということもあり音楽室でスタンバイしていた正道のところに来客であった。
「んっ、誰だ?」
「いいかしら」
 来たのは未晴だった。もう衣装に身を包んでいる、メイクも終えて今にも舞台に出ようとしている。
「ちょっと」
「ああ、俺はな」
 その未晴に顔を向けて述べる。
「別にいいけれどな」
「そう。それじゃあ」
「それよりそっちはいいのかよ」
 彼は未晴に言葉を返した。
「本番なんだろ?もうすぐ」
「私の出番はまだ先だから」
 言いながら席を一つ出して彼の横についた。そのうえで話を続ける。
「だからね」
「いいのか」
「うん。本当にもうすぐね」
「あと十分か」
 左手の腕時計を見ての言葉だ。
「本当にもうすぐだな」
「今まで色々とやってきたけれど遂にね」
「そうだな。しかしその服」
 正道は今度は未晴の衣装を見た。助六とその兄の母の衣装であり花魁のそれとは違いあのようなみらびやかさはない。しかし落ち着いた美がそこにある。
「この服?」
「いいな」
 彼は一言で述べた。
「落ち着いた雰囲気でな。いいな」
「そう。いいのね」
「化粧もしっかりしてるな」
 次にメイクを見る。
「それ誰がやったんだ?」
「茜ちゃん達よ」
 未晴は微笑んで彼に答える。
「歌舞伎のそれにちゃんとなってるかしら」
「白いな」
 その顔はおろか首にまで塗られた白粉を見て言う。白粉の香りもかなり立ち込めて部屋の匂いがそれで完全に支配されてしまった。
 
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